「おや?浅井くん、お久しぶりですね」
よっしゃ!すぐ会えたぜ。一般的な登校時間より遥かに早い時間帯、学生寮と校舎との道にあるベンチに座って端末でテキトーにネットサーフィンしていたら、割とすぐ坂柳がやってきてくれた。
「坂柳!久しぶり!……えっと、彼女は?」
坂柳の少し後ろを従者のように女生徒が居た。なんか目つき悪いし怖いなぁ。でも美少女だからいっか。
「彼女は神室真澄さん、私の手助けをしてくれています」
「……どうも」
可愛いし、運動やってそうなスタイルの良さだが、視線が妙に鋭い。微妙に少し不良っぽい……?もうちょっと頭が悪そうだったらCクラスも夢じゃなかったのに。残念だったな女!Cクラスはもっとアホそうで、もっと不良じゃないとお断りだ!
それにしても、この学校には美少女しか居ないのか?天国じゃないか。
「今日はこんな所でどうしたのですか?」
「坂柳を待ってたんだよ。せっかく少し仲良くなったのに入学してから会えてなかったから。あと連絡先を交換したくて」
「……なるほど、では交換致しましょう。真澄さんともせっかくなので交換して下さいな」
わーい。いや神室とかいう女生徒がどう思うか次第だと思うんだが、……これやっぱり下僕だよね?彼女の意思確認を全くしてない、完全な配下という感じだ。
「あー、じゃあよろしく」
「……。」
少し嫌そうな顔で端末を出してくる。うーん、妙に不機嫌顔が似合うやつだ。
「では、これで3人お友達ですね」
穏やかな微笑みで坂柳がそう言ってくるが、そうなるか?……そうかも。うん、そういうことにしよう。
「よろしく。んで坂柳、入学してから3週間どんな感じだったか少し話そうよ」
「えぇ、いいですよ。……ここではなんですから、教室に向かいましょうか」
「オッケー」
歩き出した坂柳の後を無言で付いていく神室、慌てて坂柳の隣に立つ俺。
「Aクラスはどんな感じ?」
ちょっと抽象的すぎたかな。でも他に聞きようがないし……。
「……みんな良い人ですよ。もしかしたら勉強熱心な方が多いかもしれません」
「へ~」
そういや龍園の話によればAクラスが今年の選抜、暫定最高のクラスのはずだ。そりゃ成績良い生徒を集めたんだろう。
「Cクラスはどうですか?」
「うーん……」
つい言い淀む。『暴漢が他生徒をボコって締め上げてる恐怖政治クラスなんだ!』なんて、この清々しい早朝、美味しい空気を吸いながら話す話題ではない。……かといって他に言うことも無いなぁ。ま、言ってもいいか。
「龍園っていう、ロン毛のわるーいヤツ、不良が居てさ。そいつが暴力でクラスを締め上げてんだよね」
「龍園くん、ですか」
「そう。もう入学初日、施設案内のあとすぐ『俺が上に立つ。文句があるならかかってこい』なんて言って、文句言ったやつを殴る蹴るの暴行。ドン引きだよ。俺みたいな普通の生徒はもう恐怖で震えるだけ、泣きかけてる女の子も居たよ」
改めて言葉にすると頭おかしすぎるな龍園。
「それは驚きですね」
「……ホントなの?」
何故か少し嬉しそうな坂柳と、疑わしい目で見てくる神室。
「そんな嘘つかないでしょ……。そのせいでクラス全体がずっと龍園にビビって、なんとなーく暗い雰囲気なんだよね。私語とかも全然無いし」
「ふふ、大変そうですね浅井くん」
おぉ可愛い。なんで笑ってんのか分からんけど、可愛いからいいや。
「ホント大変だよ。俺もAクラスなら良かったのに」
坂柳と一緒だし。いや、でもまぁ普通にAには入れんわな、勉強してるけど興味ないことまで頑張って記憶出来るほど熱心じゃないし、身体能力も運動部って訳じゃないから言うて平均くらいだろうし。……もしかしたらギリギリDクラスを逃れたくらいだったのかも。
「そうですね。……ところで、そのことを私達に伝えても大丈夫なのですか?」
「……あっ」
口止めされてる立場じゃん、俺。そりゃ龍園をボコしたとはいえ、これが大々的にバレたらアイツも俺を制裁しなくちゃいけなくなる……かも。アイツなら、お返しだみたいな感じでやりたがりそうな気もする。うわっ、しくじった。
「ふふ、黙っておきますね」
「お願いします……」
「真澄さんも言っちゃダメですよ?」
「……分かってるわよ」
はー、ちょっと安心。それにしても、
「神室って友達いんの?」
「は?いきなり喧嘩売ってんの?」
美人だけど攻撃的だし、坂柳の配下っぽいし、逆に友達が居そうな要素あるか?そもそも言う相手が居なさそうだな~と思ってつい聞いてしまった。
「真澄さんと私は友達ですよ?」
坂柳が妙に楽しそうに言う。ホントぉ?
「いやまぁ、そういうことなら、うん。……誰にも言わないでくれると助かる」
「分かったって言ってんでしょ」
「安心して良いですよ浅井くん。真澄さんは信頼の置ける人です」
「ん、了解」
まぁ、ぶっちゃけバレても「俺が言ったんじゃないやい!」とかCクラスで言いまくって逃走すればなんとかなる気もする。けど言わないでくれるなら助かるや。
「じゃあ……、授業について。面白いと思った授業ある?」
「そうですね、坂上先生の数学はかなり分かりやすく、それでいて1回の授業でしっかり進むとても優秀な授業でしたね。ただユニークという点では茶柱先生の日本史でした、テストで点数を取るための徹底したシンプルな年表などを提示したかと思えば、かなりマイナーで興味を引く話題を出してくれたり、生徒の底上げと深い知識も見せようとする手腕は見事でした。他には……」
そんな感じで、やけに早い時間帯で4月なのにまだちょっと肌寒い空気を感じながら、坂柳との雑談を楽しみながら登校した。
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朝ちょっと早起きしたせいで少し眠い午前中の授業を終え、昼休みは少し寝ておこうかなと悩んでいると、いきなり他クラスの生徒が入ってきた。
「こんにちは~!」
やけに明るい金髪のショートカットで笑顔が眩しい……巨乳だ。
「私はDクラスの櫛田桔梗です!はじめまして!」
クラス全員から見られている視線に物怖じもせず、めちゃくちゃに明るく勝手に自己紹介を始めた美少女。誰かのせいで私語も少なめ暗い雰囲気のCクラスには眩しすぎるくらいかもしれない。チラッと隣に座っている暗いクラスの元凶を見てみると、なぜか不機嫌そうな顔で彼女を睨みつけている。お前は闇属性だもんな、そりゃ光属性は苦手だろうね。
「突然すみません!今日はみんなと友達になりたくて来ました!良かったら連絡先を交換して下さい!」
そう言うと彼女は、近くの席に座っていた大人しそうな女の子と連絡先交換を始めた。いきなり来ても嫌悪感を向けられない明るさと行動力、そして笑顔。アイドルにでもなれそうだな。
次々と男女問わずに片っ端から全員と連絡先を交換していく櫛田という彼女は、ついにパンをモサモサ食っていた俺の所まで来た。
「こんにちは!櫛田桔梗です、あなたは?」
「浅井虎徹、です。……よろしく」
あまりの明るさについ敬語になってしまった。他の生徒と同じように流れで連絡先を交換した。うーん今日は美少女と仲良くなりまくった日だぜ。いい日だ。
「よろしくね!そして、キミは……、龍園くんだよね?」
おおっと、このロン毛とも連絡先交換するつもりなのか?勇気あるなぁ……。Cクラス中が注目している、他に誰もしゃべっていない。光と闇の大激突か!?櫛田は無傷で帰れるのか!?
「あぁ」
「……よろしくね!」
「……。」
何の返答も無いことに少し苦笑した櫛田だったが、連絡先の交換には応じる様子の龍園と端末でやり取りした。流石の龍園もいきなり他クラス美少女を殴りつけたりはしないようだ。
「よしっ、Cクラスのみんなありがとう!他に誰か交換してない人が居たら、その子に私の連絡先を伝えちゃっていいよっ!これからよろしくね!」
よろしくー、とそこらへんから声が上がるほど、この数分で彼女はCクラスの心を掴んでいった。お見事。
あそこまで人付き合いに特化した人間は……、あえて言うならキャバクラで見たネーチャン達が一番近いかな……。
龍園への対応などを見るに、多分『誰からも好かれたい』というタイプなのだろう。『友達を作って学校生活を楽しみたい!』なんていうタイプだったら、龍園なんかと連絡先を交換する必要が無いからな。
まさに八方美人という、誰に対しても同じ対応を出来るタイプのようだが……、特定の人に強く好かれるというのは意外と難しいタイプなのかもしれない。誰でも重視するということは、誰も重視しないという事なのだから。
ただ、あの容姿だと、体が目当ての性欲丸出し男をいくらでも手玉に取れるだろう。うん、キャバ嬢やってくれたら猛烈に稼いでくれそうだ……。それこそ、他の嬢に死ぬほど嫌われるくらいに。なんか目に浮かんでしまうな。
女としての肉体まで使って男を籠絡出来るようになったら、ありえないほど金を巻き上げる女帝にでもなりかねないな。流石に高1の段階で体を許して人から好かれようなんてことはしないだろうが、もし出来たならめちゃくちゃ恐ろしいな……。俺としてもつい、金を払って抱けるならバンバン金出しちゃいそうだと思っちゃうもんな。
……まさかもうウリやってたりしないかな?ちょっとチャットで聞いてみようか。
【浅井虎徹】:龍園、今の櫛田について何か知ってる?
真横に居るのだが、当然チャットでのやりとりになる。打ち込むのはめんどくさいけれど、ちょっと悪い内緒話をしてる感が少し楽しい。
【龍園 翔】:Dの女、みんなと友達になりたいなんて言う嘘くさい女だ。目的が何なのか、弱点とかはまだ分かってねえ
いきなり弱点とかバカなんかコイツ。誰もがそんな思考だと思うなよアホめ……。
【浅井虎徹】:誰かと付き合ってるとかは?
【龍園 翔】:知るか
【龍園 翔】:狙ってんのか?
【浅井虎徹】:まだ分からないかな。今日初めて見たし
【浅井虎徹】:女といえば、お前が注目してる子はいんの?
ていうか龍園って性欲あんの?金稼ぎのためにだけ女を抱いてるイメージあるぞ。愛とか知らなそう。可哀想に……。
【龍園 翔】:Dのクズどもはまだそこまで調べてない。堀北とかいう女は面白そうだが
クズはてめーだろ。
【龍園 翔】:Bは一之瀬とかいう女が仕切ってる。仲良しごっこしてるザコだ、敵じゃない。櫛田に似たヤツだが、櫛田よりカリスマ性があるな
は?今の櫛田よりカリスマ性ある女?嘘だろ?……気になる。
【龍園 翔】:Aは坂柳とかいうやつがクラスをまとめあげてるっぽいんだが、まだ正確に掴めてない。情報統制までしてるとしたら、そこそこ厄介なやつだ
坂柳?マジ?Aのリーダーになってたの?
【浅井虎徹】:坂柳って、歩行杖の、少し背の低い子?
【龍園 翔】:そうだ。知ってんのか?
【浅井虎徹】:友達だよ。お前とより仲良し
【龍園 翔】:は?ウソつけ
なんで嘘付くんだよ。てか坂柳に手を出したら許さんぞ。
【浅井虎徹】:もし坂柳に暴力振るったら、お前の手足を猫型ロボットと同じにしてやるからな
ちょっと間が空いて返信がくる。
【龍園 翔】:お前、AとCだったらどっちに付く気だ
【浅井虎徹】:そらCでしょ
【龍園 翔】:坂柳と俺だったらどっちに付くんだ
バカなことを聞くなぁ。
【浅井虎徹】:そりゃ坂柳だよ。当たり前じゃん
……あれ?既読が付いたのに返信が来ない。流石にちょっとは弁解しておくか。
【浅井虎徹】:クラス対抗がどうなるか知らないけど、あまりにも不利益になってCクラスの中で嫌われるような敵対行動になる、とかならやるつもりはないよ。多分。けどお前と坂柳どっちかって聞かれたら、そりゃ坂柳を選ぶだろうよ。なんで美少女とチンピラを比べるんだ?お前はアホなんか?ホモとマゾとヤンキー以外は坂柳を選ぶだろ。あたり前じゃん。バカか?
「フッ……」
横で鼻を鳴らす音がした。龍園の既読スルーで終わり、いつものパターンだな。すげー偉そうだしムカつく気もするけど、龍園に常識ある訳が無いか。期待する方が悪い。
そんな感じでチャットしてたら、もう昼休みがもうほぼ無くなっていた。寝たかったのにな……。
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ウトウトしながら受けてしまった午後の授業が終わり、放課後となった。
龍園潰しのせいで大変だったので忘れていた、担任の坂上先生にSシステムについてとか色々聞いてみる……というやつは、まぁ後回しでいいかな。
メガネの担任教師なんかより気になっているのは、一之瀬とかいうBクラスのリーダーだ。今日のあの櫛田よりカリスマ性がある?なんだそりゃ。どういうことだよ。カリスマ性って、要は人に好かれるか的な意味でしょ?あの櫛田より?ウソつけやマジで。勝手に櫛田を嫌って適当言ってるだろあのロン毛。
それでもやはり気になってしまい、そもそも実在する人間なのか?なんて疑いながらBクラスに来てみたら……、
「じゃあみんな!机を戻そう!」
なんかやけに大人数、クラスの半分くらい?で掃除してる光景が見えた。そんなに人要らないだろ、Cクラスでの掃除当番は5人ずつだが。どゆことだ?
「よーっし、掃除、終わり!みんな、お疲れ様!」
ひと目で分かった、あのクラスの中心となって笑顔を振りまいてる少女が一之瀬なのだろう。みんなが大好きというのを全身で表現しているかのような、明るい少女。周りの生徒も自然と彼女に近付き、笑顔になり、彼女と話したそうにしている。はー、すごいなこりゃ。
「なんだ、お前……1年だよな?どこのクラスだ」
なんとなく廊下から眺めていたら、警戒したように近付いてきたBクラスの男子生徒に声をかけられた。
「あぁごめん、俺はCクラスの浅井。一之瀬とかいう生徒のこと聞いてちょっと見に来たんだけど……、彼女だよね?」
そう言いながら指をさす。
「あぁ、そうだ。……何の用だ?」
そりゃ疑わしく思われちゃうか。なんか考えておけばよかった。
「可愛い子だって聞いたのと、なんかカリスマ性?があるって。全然信じてなかったけど、ありゃすごいね。めちゃくちゃ良い子そうだ、見たことないレベル」
警戒されるのは嬉しくないので、素直に話す。ちょっとだけヨイショしたけど本心だ。どんな幸せな世界で生きてたらあんなに明るい子に育つんだろうか……。
「あぁ。Bは自然と彼女を中心になっていった」
「……好きなの?」
誇らしげに言う男子生徒に、初対面だがつい聞いてしまった。
「いきなり何だ。……このクラスで彼女を嫌いな人間なんて居ないだろう、誰もが同じクラスだったことを嬉しく思う、そんな存在だよ。恋愛対象とかでは……ない」
はぇー。龍園の対極みたいな人間だな。今の所、龍園と一緒で良かったなんて思ってる人間はCクラスに居ないだろう。早く死んでくれ、ぶっ殺してやりたいと思われてるに決まってる。
「良いな~。Cじゃそういうの無いや……」
「……そうか。浅井と言ったか?自己紹介が遅れた、俺は神崎だ。よろしく」
「ん、よろしく。良かったら連絡先交換しよ」
「あぁ、いいぞ」
なんとなく良い奴そうなので連絡先を交換した。……それにしても坂柳に仕える神室といい、一之瀬大好き神崎といい、神の字が入ると誰かをサポートしたくなるんだろうか。もしそういうパターンがあるとしたら、Cには……たしか居ないから、龍園は一生サポーター居ないのかもしれんな。かわいそうなやつだ。
「あれ?神崎くんどうしたの?お友達?」
おおっと、話していた一之瀬が近付いてきた。うっわ可愛い……、乳もでっかいな!この学校の生徒を選抜してるやつ、出願者の多さを利用して最大限美少女を集めてるだろ。それも巨乳好きが。イカれてんな。最高だぜ。うひょ~
「あぁ、一之瀬。Cクラスのヤツだそうだ。……お前の噂を聞いたらしくてな」
「うわさ~?こんにちは、はじめまして、だよね?一之瀬帆波ですっ!」
ぐあー!浄化されるがのことく眩しい笑顔だ。櫛田ですら相当の笑顔だったが、これはヤバいぞ。人間を超えてるんじゃないのか?
「よろしく、一之瀬。俺は、浅井、虎徹、よろしく」
なんかカクカクしたロボットみたいな自己紹介になってしまった。……しゃーない、緊張するし。
「よろしくね!それで、ウワサって何を聞いたの?教えてよ~」
この自然と距離を近付けてくる感じもヤバい。なんかいい匂いするし……。怖くなってくるほど魅力的だな。男に魅了をかける妖怪か何かか?
「なんか、物凄くカリスマ性のある美少女がBクラスでリーダーをやってるらしい、みたいな話。実際に見て納得したよ。めちゃくちゃね」
「そんな、美少女って……。私がリーダー、なのかな?みんな良い人だから私の言うことを聞いてくれてるだけだよ」
本心から申し訳無さそうにしてるように見える、この謙虚さ。こういう所も好かれる理由なのかもしれないな。
「一之瀬、連絡先を交換してやったらどうだ?」
横で見てた神崎から助け舟が入る。やるじゃねぇかイケメン!暫定校内イケメンランキングでナンバーワンだお前は。一応イケメン枠に入ってるだけの有害ロン毛とは次元が違うぜ!
「ん、そうだね。交換しよう浅井くん」
「うん。よろしく」
近くにいる特級美人に内心ビビりながら、連絡先を交換した。
「よしっ、じゃあ私はちょっと用事があるから。またねっ!」
そう言い残し、少し急いだ様子で一之瀬は去っていった。忙しいのに声かけてくれたのか……、なんて良い子だ。流石に分かる、あれは真面目に急いでる感じだった。演技じゃないだろう。
「……俺さ、今日からBクラスに入るよ」
「いや、それは無理だろ……」
アホな呟きに律儀に返してくれた神崎、コイツも結構良い奴だな。
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