ようこそ邪悪な教室へ   作:マトナカ

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忘れ物
干支試験

このタイトルの並びが『干物』に見えて勝手に笑ってました。

『船上試験』っていう呼び方も嫌いではないんですけど、個人的には『干支試験』の呼称の方が好きなので、そちらを採用しています。

干支の読みは"エト"です。


No one knows

こんばんは、21時近くだというのに学校のイベントで寝かせてもらえない可哀想な高校1年生の俺は浅井虎徹です。児童虐待なんじゃないの?

 

20:40って俺達ですら相当に遅い時間だと思うけど、21:40まで呼び出される奴らが居るって、聞く方も話す方も大変だなこれ……。

 

ちなみに説明会の担当は4クラスの担任教師がランダムに割り振られて説明してるらしい。けど18時から4時間かけて12回も説明するってのはやべぇよ。めちゃくちゃ大変だろうし、何度も繰り返しすぎてるうちに先生もなんか言い忘れてそうで怖い。

 

……ビデオでも流せば良いのに。そうじゃなくても、全員集めて説明すりゃいいのにね。

 

なんか無理やり理由を出すとしたら、統率が取れてないクラス、交流が少ないクラスはディスアドバンテージ、不利な状況になるよ!仲良くしようね!っていう試験にしたいのかも。

 

それにしたって、そのためだけに教師陣に負担かけすぎな気もするけど……。でもまぁ、今日はこの4時間だけ仕事ってことなのかもしれない。なら別にいいか。

 

 

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指定された201号室のドアを黙って開けたらBクラス担任の星乃宮先生がもう既に居た。やべぇ、ノックとかした方が良かったかも。

 

「あー、こんちゃっす」

 

誤魔化すように挨拶してみたけど、別に怒ってはなさそう。すぐ後ろから龍園達も入ってくる。

 

「はーい、こんばんは~。おっ!龍園くんと浅井くん。今かなり注目の2人だね!」

 

は?なんで俺もやねん。一緒にすな!

 

「……。」

 

龍園なんか挨拶しないで無視しとるし。こんなヤツと一緒の扱い?嘘でしょ?

 

「私はBクラス担任の星乃宮です。君たちは、Cクラスの『辰グループ』になります。これから試験について詳しく説明するね」

 

もう始めるのか。まぁ20分制限あるらしいしそんなもんか。

 

「さっさと終わらせろ星乃宮」

 

うわ、他クラスの担任にまで呼び捨てかよ……。マジでこれと同じ扱い?泣きそうなんだけど。

 

「ダメだよ~、龍園くん。目上の人にはちゃんと敬語を使いましょう!」

 

その通りだ。お前は保育園児か?小学生ですら敬語使えるだろアホ。

 

「フン。うるせぇよ」

 

「もぉー……。ダメだよ?そういう態度。時間も限られてるから今日はしつこく言わないけどね」

 

ちなみに龍園以外の2人は一切何も言わずに黙り込んでいる。そして俺も物静かな生徒だからね、ちゃんと黙ってるよ。心配はいらない。……ごめん流石に今のは嘘過ぎた、静かな生徒ではないかも。

 

「さっさと始めろ」

 

「しょうがないなぁ……。時間も限られてるからルール説明を始めるね」

 

明るい表情、苦笑でも美人だし、顔が整ってて綺麗で好印象なんだけど……なぜか少しだけ嘘くさいような気がする。もしかしたら一之瀬より櫛田タイプの美人なのかもしれない。

 

……いや、でも分からん。気のせいかもしれない。女は分からん。

 

 

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ちょっと真面目な顔になった星乃宮が説明を始めた。

 

「今回の特別試験では、1年全員を干支になぞらえた12のグループに分けて、そのグループ内での試験を行います。試験の目的は『シンキング能力』です」

 

全クラスから3,4人ずつで1グループ、13人くらい。それはもう聞いてるから大丈夫なんだけど、シンギング?は?

 

「Singing?カラオケでもするんすか?」

 

なんか聞いてた話と違うんだけど。歌そんなに自信無いんだけどなぁ……。

 

「……Thinking、思考能力です」

 

「え?……あ、はい」

 

紛らわしいな!最初から日本語で言えよ。

 

「……。」

 

おい龍園と部下2人、なんだその目は。こっちを見るな。

 

「えーっと、続けるね……。社会人に求められる基礎力は大きく分けて3種類あります。『アクション』『シンキング』『チームワーク』」

 

なんだそれ。すげぇぼやっとした曖昧なことを言うね。

 

「それらが備わった者が初めて優秀な大人になる資格を得ます。無人島試験では主に『チームワーク』に比重を置かれた試験内容でした」

 

俺らはマジで実感出来ないけど、まぁ7日間みんなで協力してサバイバルしてたらそりゃチームワークが大事にもなるか。Cクラスは後半もう日光浴くらいしかしてなかったからなぁ……。あと深夜の偵察くらいか。

 

「しかし、今回の試験では『シンキング』、考え抜く力が必須な試験になります。考え抜く力とは即ち、現状を分析して、課題を明らかにする力。問題の解決に向けたプロセスを明らかにし、準備する力。想像力を働かせ、新しい価値を生み出す力。そういったものが必要になってきます」

 

「フン……」

 

なんとなく龍園は不満そうだ。でもまぁ、分からんでもないね。『言われなくてもやっとるわボケ』みたいな心境なんだろう。

 

俺としても、無人島試験をさっきの3つに当てはめるなら『シンキング』が1番、次に『アクション』っていう順で大事だったと思うし、『チームワーク』は必要ないとは言わないけど最低限だったような気がするかな……。

 

いや、食料燃やしてきてもらったのは分担して協力して頑張った感あったか。……今更だけど、物騒なことしてたね。

 

「そこで今回の試験では12のグループに分け、試験を行うことになりました。……ここまでで何か質問はあるかな?」

 

「……。」

 

「あー、大丈夫です」

 

3人が黙り込んでるから仕方なしに俺が返答する。

 

「そう?それじゃあ説明を続けるね。……君達ならもう知ってるかもしれないけど、ここに居る4人と、この時間に別の部屋で説明を受けてる子達も同じグループになります」

 

それが『辰グループ』って訳だ。竜、ドラゴン。なんか強そうだし、なんか強そうな生徒を集めたのかもしれない。『寅グループ』に集めろよな、トラのほうが強いぞ。

 

「じゃじゃーん!そのメンバーはこの子たちです!」

 

そう言いながら渡されたのはハガキくらいの大きさのメンバー表。うーん、見知った名前ばっかりだ。

 

 

【辰グループ】

A:葛城康平、的場信二、西川亮子、矢野小春

B:一之瀬帆波、神崎隆二、津辺仁美

C:龍園翔、浅井虎徹、鈴木英俊、園田正志

D:堀北鈴音、櫛田桔梗、平田洋介

 

 

これ、知り合いばっかりなのが良いのか悪いのか……。まぁ始まってみないと分かんないね。

 

ちなみに女子は14人中、6人だけ。許せねぇ……。

 

「その紙は退室時に返却してもらいますし、撮影も禁止です」

 

「えぇ……」

 

めんどくっさ。いやまぁ撮影オーケーだったとしたら、画像データとかでホームページで公開しろよって話になるんだけどさ。記憶力もシンキングってか?無理だ、全部を覚えられる訳ねーわ。

 

「そしてこれは分かりやすく理解してもらうためのプリントです。これも返却してもらうし、撮影禁止だよ?……特別試験における結果は各グループで4通りしか存在せず、その説明になってます」

 

そう言いながら、また小さい文字で細々書いてある紙を渡された。

 

この敬語でしゃべってる部分は他の部屋と同じことをしゃべるために覚えさせられてるみたいな感じっぽいな。ご苦労様だ。

 

さーて、他の3人と同じように渡されたプリントに目を落としてみると……文字が多い!あーもうダメだ!!そりゃこんなの見せられたら他の奴らにルール聞きに来るよ。どんだけ書いとんねん……。

 

とりあえず読んでみると、次のことが書かれていた。

 

 

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【夏季グループ別特別試験説明】

 

本試験では各グループに割り当てられた『優待者』を基点とした課題となる。定められた方法で学校に解答することで、4つの結果のうち1つを必ず得ることになる。

 

○試験開始当日午前8時に一斉メールを送る。『優待者』に選ばれた者には同時にその事実を伝える。

 

○試験の日程は明日から4日後の21:00まで(1日の完全自由日を挟む)

 

○1日に2度、グループだけで所定の時間と部屋に集まり1時間の話し合いを行うこと。

 

○話し合いの内容はグループの自主性に全てを委ねるものとする。

 

○試験の解答は試験終了後、21:30~22:00の間のみ優待者が誰であったかの答えを受け付け

る。なお、解答は1人1回までとする。

 

○解答は自分の学生証端末を使って所定のアドレスに送信することでのみ受け付ける。

 

○『優待者』にはメールにて答えを送る権利が無い。

 

○自身が配属された干支グループ以外への解答はすべて無効とする。

 

○試験結果の詳細は最終日の23:00に全生徒にメールにて伝える。

 

 

《4通りの結果》

 

1.優待生の所属するクラス以外の全員が正解したら、優待生を含むグループ全員が50万ppを得る(優待生にはさらに+50万pp)

 

2.優待生の所属するクラス以外の誰か1人でも不正解だったら、優待生のみ50万ppを得る

 

3.優等生以外の者が、試験終了前に答えを学校に告げ正解していた場合。

→答えた生徒の所属クラスはCP50を得る

→正解者に50万ppを支給する

→優待生を見抜かれたクラスはCP50のペナルティを受ける

→その時点でグループの試験は終了となる

→なお優待者と同じクラスメイトが正解した場合、答えは無効とし試験は続行となる

 

4.優等生以外の者が、試験終了前に答えを学校に告げ正解していなかった場合。

→答えを間違えた生徒が所属するクラスはCP50のペナルティを受ける

→優待生は50万ppを得る

→優待生の所属するクラスはCP50を得る

→答えを間違えた時点でグループの試験は終了となる

→なお優待者と同じクラスメイトが不正解だった場合、答えは無効とし受け付けない

 

 

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ん~、読んでる途中で星乃宮先生も色々と解説してくれてたけど、まぁ書いてある通りだな。ついでに聞いてた通りでもある。多分。

 

「あと、今回の試験では学校側は匿名性についても考慮してます。誰が誰を指名したか、誰が指名に失敗したか、そういうのは本人以外には伝わらないようにしてあります!」

 

「ほーん」

 

これは先に説明を受けた奴らから聞いてなかったな。……俺が聞いてなかっただけかもだけど。

 

「具体的には、結果発表はクラス単位でのポイント増減だけです。そしてプライベートポイントの受け取りについても、仮IDを一時的に発行して、そちらに振り込むことも出来ます。本人のIDで分割して受け取る事も出来ます。『本人が黙ってたら絶対にバレない』ってことだね!もちろん本人が堂々と公表してもいいよ!」

 

50万とか100万ってかなり大きいからねぇ。嫉妬で色々なトラブル起きないようにしたいって事だろうな、脅迫とか、乞食みたいにクレクレ言われたり。高校生にとってはめちゃ大きいもんな。

 

公表するメリットは、「俺がリーダー当てた!」的なアピールとか?もしくは金を上納したいとか……いや無いか。

 

「ルールとしては、最後に禁止事項について伝えておきます。違反した場合は『退学処分』となるので、気をつけてね?」

 

退学処分ってすげーな。そんなに今回の試験しっかりやって欲しいのか?力を入れる所がなんか違うだろ。だったら無人島でもっとちゃんとカメラ増やすとか盗聴器仕込みまくるとか頑張れや。

 

そんなことを思いながら渡された紙には、次のことが書いてあった。

 

 

【禁止事項】

以下の行動は『退学処分』とする。

 

・他人の端末を盗むこと

 

・他人を脅迫して学生証端末を奪い取り情報を確認すること

 

・勝手に他人の端末から回答メールを送信すること

 

・学校から送られてくるメールの複製、削除、転送、改変

 

・試験終了後の指定時間内で他クラスの生徒と会話すること

 

(※怪しい行為は徹底して調査が行われる)

 

 

端末やメールに関しては、まぁ仕方ないな。これを禁止しておかないと『俺が優待者!これが証拠!』って提示されても何一つとして信じられなくなっちゃうし。詐欺スキル試験になってしまう。

 

でも、最後のやつ……なにこれ?会話しただけで退学?嘘でしょ。

 

「あー、星乃宮先生。この『他クラスと会話したら退学』ってマジですか?」

 

「そうだね。試験終了後、グループはすぐに解散してクラスごとに別れてもらいます。その時間に会話したら退学になるっていうことだね」

 

「なんでっすか?」

 

「それは言えないなぁ。それこそ『シンキング』だし、考えてみてね!」

 

「はぁ……」

 

笑顔でムカつくこと言うねぇ。説明会なんだから説明しろよ。

 

えーっと、試験終了後に『回答受付時間』があって、全員が正解してppがっぽり儲けるにはこの時間での回答しなきゃいけないはずだ。その辺の時間で談合というか、話し合ったり確認し合いながらの指名をさせないため……っぽいかな。

 

「ルール説明は基本的に以上です!それじゃあ君達は明日の13時と20時に、指定された部屋に行って下さい。部屋の前にそれぞれのグループ名の書かれたプレートがかけられているので、ちゃんと『辰』の文字がある部屋に入ってね。初顔合わせの時には、必ず自己紹介をして下さい。室内に入ってからの退室は基本的に認められていないので、トイレとかはちゃんと済ませておいて下さい。……以上!」

 

13時と20時、うーん……昼メシちょっと早く食わなきゃダメかもしれないし、晩メシも余裕ぶっこいてたら危ない時間帯だな。なんか説明会を妙に遅い時間にしたり、試験を食後の時間帯にしてるのは、あえて頭を動かない時間にしてたりするのかも。嫌らしいねぇ。

 

かといって10時、15時とかいう抜群に良さそうな時間にされても遊ぶ時間が上手く取れなくなって面倒かもしれんな。一長一短かも。

 

 

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「それじゃあ、質問が無かったら退室してね」

 

「フン。帰るぞ」

 

さっさと出ていってしまう龍園と、それに着いていく他2人。自信あるから質問しないのか、ただアホなだけなのか分かんないんだよなぁ。後者な気がするけど。

 

「あー、説明ありがとうございました」

 

なんとなくBクラス担任が相手なので丁寧に挨拶しておく。まだ俺が『ごめんね!クラス分け間違ってた!』って言われてBクラス転入される可能性はゼロじゃないし。

 

「んん?……いいえ~、お仕事だからね!それじゃ、頑張ってね浅井くん!」

 

「うっす。どもでしたー」

 

流石ハッフルパフの担任教師って感じかな。人当たりの良さは半端ないものがありそう。真嶋、茶柱、そしてウチの坂上先生と比べて、圧倒的なコミュニケーション能力という気がする。

 

もしもこの学校が男子校だったら、マジで死ぬほど人気出てただろうなぁ……。

 

まぁいいや。なにはともあれ、明日の朝8時に来るらしいメール、『優待者』かどうかの通知を楽しみに、だね。

 

辰グループ……。竜なんだから、龍園が選ばれると思うんだけど。他にリュウやタツっぽい名前のヤツ確か居なかったし。

 

でも、じゃあなんで俺は虎徹なのに『寅グループ』じゃないんだよって話になるんだけど。

 

なんにせよ、明日のメール待ちだ。

 

……考えてみると、『自分が優待者かどうか』っていうのすら知らない方が良い場合ってあるのかもしれない。

 

明日からの4日間、1日休みらしいから3日間、1日2回の合計6時間ある話し合いの間ずっと『自分は優待者』もしくは『自分は優待者じゃない』っていう情報を隠し続けなきゃいけないんだもんね。……無理だな!隠し通せる自信、無いね!

 

だから最初から何も知らない方がマシだ。誰も知らなきゃ、誰にもバレないもんね。

 

なんだったら龍園の指示で『お前は優待者だ』とか『お前は優待者じゃなかった』っていう設定だけ聞いておいて、それを信じて動いてもいい。それだったら何があっても龍園の責任に出来るし。考えなくて済むし。

 

俺としては結果1が良いけど、無理なら無理で最低限『誰にも見抜かれなかった』という個人的な結果は確保しておきたいのもあるし。

 

思いつきだったけど悪い案じゃない気がしてきた。龍園と相談してみよう。

 

少なくとも1日目は、自分でも自分が『優待者』かどうか知らないまま参加してみようかな。




明日はNFLスーパーボウルなので更新1回くらい飛ぶかもしれません。

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