ようこそ邪悪な教室へ   作:マトナカ

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カルチャーショック

夕方16時くらい、客室でめちゃくちゃ悩みノートに色々書いてる勉強家の俺は浅井虎徹です。

 

……嘘だ、勉強してる訳じゃないね。

 

Cクラスの誇るカス生徒に「無理だろバーカ、夢見てんじゃねぇボケ」的なことを言われてブチ切れた俺は、ひたすら今回の試験で結果1の『みんなで仲良く大儲け』状態にする方法を考えていた。

 

うーん、アイデア2個しか思い浮かばなかったけど、細かい所は話し合いで詰めていこう……。

 

ちなみに龍園もなぜか同室で似たようなことをやってる。金田、椎名を入れた3人で優待者の法則を見つけ出そうとしてるっぽい。

 

「金田、ひより……言うまでもないが、今見てる情報は誰にも漏らすんじゃねぇぞ」

 

「もちろんです龍園氏」

 

「私は、そもそも話す相手が居ないので大丈夫だと思いますが……覚えておきますね」

 

椎名ひより、ポワポワしてるマイペースな文学少女って感じだけど、やっぱ仲良い友達が居ないのかね……。本人はあんまりそういうの気にしなさそうだけど。

 

ちなみに俺としては、椎名の見た目だけなら結構好きなんだけど……エンタメ以外の本なんて眠くなるばっかりで何でも読むタイプじゃないので、残念ながら話が合わなかった。勉強めっちゃ出来る訳でもないからそっち方面もダメだ。住む世界が違う感じがしてしまう。

 

「オイ、浅井。お前は余計なことすんなよ」

 

「は?……龍園こそ法則なんて見つけられんの?どうせ無理でしょ。そっちの方が余計なことしてるんちゃうんか」

 

普通に考えて、1つのクラスに配属されるであろう優待者が3人だけ分かった所で全体の法則が分かるってことないでしょ。

 

試験が『シンキング能力』とやらを測るってのも、それぞれの立場で何がベストなのか、何を諦めるべきなのか、そういう条件分岐をしっかり考えろって事なんじゃないのかね。ちゃんと考えたら結果1がベストになるだろ?的な。

 

「……いくつかのグループがヘマして全員のフルネームを把握出来てない。そこが明らかになって、優待者がもう数人くらい分かれば不可能ではねぇはずだ」

 

「ホントかぁ~?」

 

強がって嘘付いてるようにしか見えないぞ。

 

「フン……」

 

なぜか不機嫌になった龍園、いや普通そう思うでしょうに。

 

「なんだか……浅井くんと龍園くん、仲がよろしいんですね」

 

「よろしくねーわ!」

 

「良くねぇよ」

 

「ほら。……ふふっ」

 

すげぇ楽しそうな椎名、こ、この……なんてこと言うんだよ。

 

もし言ったのが石崎とかだったら「バカヤロー!」言うて蹴り飛ばしたり出来るけど、流石に天然系の美少女にそういう事は出来ないな……。俺は優しいので。

 

そして金田、なんだその困ったような顔は。お前と一緒にすんじゃねーぞ!!

 

 

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意外と余った時間で、無人島で一緒になったメンバーとレストランで話し合っていたら、気付けばもう夜だった。

 

石崎、アルベルト、小宮、近藤、山脇、鈴木。やっぱり7日間も一緒に生活してたから割と仲良くなれたのはあるね。……なぜか山脇はちょっと居心地悪そうにしてたけど、まぁ俺と鈴木以外は不良っぽいのしか居ないもんな。

 

話題としては当然『干支試験』に関してだったけれど、結局どのグループでも似たような感じでAクラスが参加を拒否して、他クラス同士で話し合うという風景だったらしい。

 

優秀なの集められたっぽい『辰グループ』でも似たような感じだったし、そうなるのかね。

 

ついでに他では『ルールどういう感じだったっけ?』という話し合いもされてたらしい。それに関しては辰グループでは全然無かったかも、言われてみれば優秀なグループならではの状況だったのかもしれない。いやまぁそうだったとしても1時間も話して結論なんも出なかったから関係ない気もするけど。

 

そういえば『スマホを龍園に渡した』っていう案は、みんなにそこそこ感心してもらっちゃって少し嬉しかった。みんな、そりゃあ自信無いよな……。頭良くない体育会系ばっかりだし。

 

あと、『優待者じゃないことも隠さなきゃいけない』ってのを何人か忘れてたっぽいのはやべぇよ。当たり前じゃねーかよ……確か龍園からのメッセージにもあったでしょうに。そこは覚えとけって……。

 

なんか、どのクラスか分からないけど、ヘマしたやつが優待者ってことを見抜かれちゃう展開もありえるのかもしれないと思えた。もしそうなったら龍園ブチ切れちゃうぞ……。その時は見て見ぬ振りをしよう。

 

 

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時刻は19時半、試験の第2回話し合いは20時からだけど、偉いので早めに来た。

 

「よっす~」

 

なんとなく挨拶しながら入ってみたら、おっ!櫛田じゃんか。ついでに堀北も居るけど、そっちは無視してもいいや。

 

「こんにちは虎徹くん!……チャット送ってたんだけど、見てくれなかった?」

 

「あ、ごめん。スマホ今持ってないんだよね。どしたの?」

 

「えっ?あ、これ返さなきゃって。ありがとね!」

 

そう言いながら渡してきたのはボイスレコーダーだった。マジで忘れてた。

 

「どもども。役に立ったようで何よりだ」

 

Dクラスも無人島でしっかりA,Cへの指名を成功させてたっぽいもんね。

 

「その、スマホを持ってないってどういうことなの?もしかして……龍園くんに奪われちゃったとか?」

 

ん~、まぁ説明してもいいか。ちゃんとした言い訳にもなるし。

 

「俺、ずーっと優待者か隠せる自信が無いからね。学校からのメールも見てないんだよ」

 

「えっ!?……それは、大丈夫なのかな?」

 

「ルール的にってこと?多分大丈夫だったと思うけど……」

 

確か削除ダメ、複製とか転送、あと改変もダメ……だったよね?未読で退学ってことないはずだけど……無いよね?なんか不安になってきた。

 

「堀北さん、ルール覚えてる?メールを見なかった場合について何か書かれてたっけ?」

 

櫛田が堀北に質問しちゃった。

 

「閲覧に関しては、禁止事項に無かったわ」

 

「そっか。……堀北さんがそう言うなら安心だね。ありがとう!」

 

え?マジであれ全部ちゃんと覚えてんの?……半信半疑ではあるけど、こいつ頭良いってマジだったのかよ。初めて有能なのかもしれないと思ったよ。

 

「浅井くん、アナタは……勝つ気が無いの?」

 

なんとなく堀北を眺めてたら、なぜか俺に質問してきた。態度としては別に睨みつけられてる訳でも無いし、割と自然な感じで話しかけてきてるな。最初からそういう態度を取れってんだ。

 

「勝つ気って?どゆこと?」

 

「……優待者を見抜こうとか、そういう気持ちは無いのかしら?」

 

「無いってことは無いけど……。ん~、俺は顔に出るからね。それで他3クラスにヒントあげちゃうくらいだったら、龍園だけ知ってりゃいいかなって」

 

「そう……。やっぱり、龍園くんのことは信頼してるようね」

 

「してねぇわ!どいつもこいつも、すぐそういう事にする……。違うっての」

 

「……じゃあ、何なの?」

 

「仮にさ、俺が優待者だったとするじゃん?俺は割と顔に感情が出るタイプだから、それを6時間も隠し通すのなんて多分無理。もし隠せてたとしても、指名されちゃったら俺の責任っぽくなるじゃん?だったら最初から知らなかったって方が良いでしょ。それだったら、どう考えても俺の責任にならないし」

 

「……。」

 

「ついでに言うと、龍園だけが知ってる状態で、優待者を見抜かれたりしたら……それもう龍園の責任になるでしょ。俺はアイツをバカに出来るという訳だ。どっちの方が良いかなんて明らかでしょ?」

 

「……そう」

 

「あ、あはは……」

 

堀北は言葉少なく、櫛田は苦笑いだ。『頭良いね!すごい!』くらい言ってくれても良いと思うんだけど。

 

「けれど、それは……ほとんど試験の不参加に等しいでしょう」

 

そうかぁ?

 

「俺は言われた通りちゃんと自己紹介してるし、話し合いも参加してるから……別にええんちゃう?」

 

「……。」

 

んー、なんか複雑そうな顔してるね。もしかしたら堀北はマジメ過ぎんのかも、いやどうでもいいけど。

 

「とりあえず、結果1を目指す案も考えてきたから、試験時間をお楽しみに、ってね!」

 

 

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そして時刻は20時、龍園ですら時間通りに集まっていた干支試験2回目の話し合いが始まる時間になった。

 

『ではこれより2回目のグループディスカッションを開始します』

 

……相変わらず、まるでセンスの無いアナウンスだ。もっとテンション上がる放送してくれよ。

 

「それじゃあ、何か言いたいことがある人は居るかな?」

 

前回に引き続き司会っぽいことをしてくれる一之瀬。ボケーっと見てたけど、あぁそうだ俺から発言しなきゃダメだ。

 

「はいはい!俺めっちゃ良い案持って来たで!」

 

「ホント?じゃあ浅井くん、お願いします!」

 

ちょっと様子見っぽくなってた全員の視線が俺に集まる。今回はしっかり用意してきたからドンと来いって気分だ。

 

「まず、俺は結果1を目指す。その上で、この辰グループだけじゃなく、全グループで結果1にする方法を思いついたよ」

 

「……言ってみろ」

 

なんで龍園が……。まぁいいけど。

 

「問題は『裏切り者が出るかも』って事でしょ?それを契約でガチガチに固めて、『裏切った方が損』って状況にすれば良いんだよ。具体的には、『CP50を増やしたクラスは、CP50減ったクラスに対して、毎月CP100相当にあたる40万ppを振り込む』って設定にしよう」

 

CP150相当とちょっと悩んだけどね。どっちでも良いけど、流石に大きすぎるかなと。

 

ちなみに生徒間のやり取りでCPを増やしたり減らしたりというのはダメみたい。もし許可しちゃったら生徒達が自主的に特別試験っぽいことやっちゃうからなのかも。いやpp契約も似たような気がするけど、そっちは社会経験的に許されてんのかも。

 

「……。」

 

一瞬静まりかえる辰グループ部屋。なんでじゃい。「良いねぇ!」「最高!」「イケメン!」とか言ってくれよ。

 

「もし裏切って優待者への指名をすれば、CP50を増やせるが、その分のppをもらえないだけでなく、さらにCP50相当のppを損することになる……ということか」

 

ハゲがまとめて発言してくれた。

 

「そうそう、その通り。そんな契約があったら誰も裏切り指名しないでしょ」

 

50万ppもらえるはずだったのが、毎月クラスの収入が20万pp減ることになるんだぞ。絶対やらないでしょ。

 

「……それはどうかな」

 

「えっ?」

 

「浅井、1つ聞きたいんだが、もし仮に『CP1000』と『毎月CP2000相当のpp収入』の2つを選べるとしたら、お前ならどちらを選ぶんだ?」

 

「そんなの当然後者でしょ」

 

当たり前じゃん。考えるまでもない。

 

「そうか……。恐らくだが、Cクラスの中でも前者を選ぶ人間は少なくないはずだぞ」

 

「なんで?」

 

「この学校では、Aクラス以外に価値は無いだろう。ただ1クラス、Aクラスにならないと意味が無い。その以外には一切の価値が無いんだ……。忘れてるのか、求めてないのか分からないが、誰もがAクラスになろうとしている。プライベートポイントが必要ないとは言わないが、Aクラスのまま卒業出来るならば、月々のppなんていらないという生徒は多いはずだ」

 

「えぇ~……」

 

そんな馬鹿な……と思ったけど、周りの視線も割とそういう感じみたいだ。龍園だけがニヤニヤ笑ってる。

 

「浅井、お前はもしや、Aクラスになりたいという動機が無いのか……?」

 

恐る恐るという感じで聞いてくるハゲ。何をビビってんだ?

 

「無いね。全然無いよ。……俺としては、みんなの方が不思議だけどね。大学なんて普通に勉強して入りたきゃ入ればいいし、どうしても入りたい企業なんか無いし」

 

「それは……」

 

「てか、そもそも実力も無しに入ったら、すぐ留年したりクビになるだけでしょうに」

 

「……。」

 

あれ?なにこの沈黙……。まぁいいや、続けちゃおう。

 

「そして『Aクラスで卒業できなかった人間は殺します』って言われてる訳でもないでしょ?」

 

「当たり前だろう」

 

「そもそも『Aクラスで卒業した人間には望む通りの人生を約束する』っていうのも半信半疑だし……。いやまぁ、無人島を試験のためだけに管理してたり、こんなアホみたいにデカい船を用意してる資金力とか見ると、可能性が無いとは言わないけど……うーん、なんとも信じ難いね」

 

むしろ『良い話には裏がある』ってのを教えるために全部が嘘って可能性も考えてるけどね、流石にそれは言わんとこ。

 

「……。」

 

うわ、なんか変な空気になったな……。

 

ん~……みんな、なんていうか、『素直』なのかもね、『良い子』というか。高校1年生なんだしそういうものなのかも。だから『Aクラスにならなきゃ!』ばっかり考えてるのかもしれない。元気だね。

 

まぁいいや、もう1つだけ案があるから、そっちも聞けば賛成してくれるかもしれないかな。

 


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