こんばんは、20時過ぎなのに学校のイベントに参加して、なぜか俺だけのプレゼン発表会みたいになってしまい、少しだけ恥ずかしい気持ちになってる俺は浅井虎徹です。
まぁ、なんていうか『Aクラスどうでもいい』って思ってるのが意外と俺だけだったっぽいし、だから俺だけが優待者のこと考えず結果1狙いのアイデアを思いつけたのかもしれない。
「浅井くん、それで……もう1つの案っていうのも聞いてもいいかな?」
俺が『Aクラスになりたい願望無いよ』と言っちゃったせいで変な空気になってたけど、一之瀬が気を使って声をかけてきてくれた。天使やね。
「もちろん。……俺はさっきの『裏切り指名をしたらpp減りまくる』っていう状態でも、支払い能力が無いDクラスが指名しまくったらダメかもと思ったんだよね」
「……Dクラスが他クラスをすべて指名したら、CP450のプラス。現時点でもCP300ほどしかなく、Cクラスへの毎月の支払いを考えるとCP250相当のpp収入しかない。ゆえに、マイナス覚悟で損が少ないと考え、Dクラスが特攻のような形で裏切るかもしれない……ということか」
またハゲが総括してくれたな。便利なヤツ。
実際にはDクラスだけじゃなくAでもBでもCでも、全クラスが『ppよりCP』っていう選択を取る可能性があるってハゲに指摘されちゃったんだけど……。
「そうそう、そんな感じ。でもまぁ、全クラスが裏切る可能性あるってのは……うん、気付いてなかったけど納得は出来る。確かにありえると思う」
「そうか。……それで、裏切りの可能性を踏まえて、どういう案があるというんだ?」
「まぁ、ただ単純に『物理的に裏切れなくする』ってだけなんだけどね」
「物理的に……」
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「これ俺はちょっと記憶力に自信無いからアレだけど、そこはちょっとみんな助けて欲しいってのはあるけど、……確かルールで違反されてるのって『端末を奪い取る』とか『勝手にメールを送信する』とかだったよね?」
「大まかに言えば、そうだ」
なんか律儀に答えてくれる葛城との2人対談みたいになってんな。まぁいいけど。
「だからさ、『自主的にスマホを学年代表に提出して保管してもらう』ってやったら、もう誰も優待者を指名するメール送れないよね?……仮に送っちゃっても、送ったヤツが退学になるだけだし」
まぁ逆を言えば『退学1人でCP600稼げる』と言えなくもないんだけど、流石にそれは……無いでしょ、多分。そんな面白くて根性あるアホが居たら仲良くなりたいくらいだよ。
「……仮に実行するとして、学年代表はどうするつもりだ?」
ん~、ハゲの表情あんまり変わらないから乗り気なのか違うのか分かんねぇな。
「俺は別に誰でもいいけど……、なんだったらクラスごとにまとめて、A,BクラスのスマホはC,Dクラスのどっちかに預けて、逆もまたそうしたら?それだったらどうやってもメール送信が『失格行為』になるだろうし、セキュリティ万全になるでしょ」
相互監視というか、お互いに退学リスクを負う管理体制にしちゃえと。他クラスのために退学待ったなしの裏切り指名をすることは無いはずという前提での、共闘?
「ふむ……。最終日の指名時間にどうするかなど考える必要はあるだろうが……」
考え込むハゲと他のみんな。辰グループとして結果1を目指せそう、仲良くなれそうな雰囲気出てきたんじゃないの?
「これで全生徒が等しく50万pp、優待者はさらに50万ppってことだね。今日を入れてあと4日間、明日集めたとしても3日間だけスマホ使えなくなるけど、いやこれは我慢して良い金額でしょ。だって50万だよ50万。つい最近まで無人島生活してスマホ無しも慣れてるんだから、多分大丈夫でしょ」
我ながらすげぇ直球のセールストークしてるな……。でもまぁ普通にみんなで幸せに稼げるチャンスなんだから、そりゃ口も回るよね。
「……端末を自ら差し出した、というのを証明出来れば不可能ではないかもしれないけれど」
堀北がなんとなく乗り気っぽく発言してくれた。なんだ、今回の試験ではホントにそこそこ良いヤツじゃないか。
「そこは先生の前や、カメラや、誰かが録画録音してる環境で1人1人が『メール見ていいよ』って自分からスマホを差し出してる光景を証拠にすれば大丈夫そうだけどね。そこでついでに『メールを勝手に送るのはダメだよ』って言わせてもいいけど……いや、それはいらないかな」
「そうかもしれないけれど……」
んー、でもやっぱDクラスは挽回のチャンスを逃したくない、CP獲得のために裏切り指名もしたいってのはあるのか。はよ諦めてくれ。
「ハゲ……葛城としても、Aクラスの順位が変わらないならアリなんじゃないの?」
「……考えさせてくれ。ルールに穴が無いか、そしてAクラス生徒としての意見も聞いておく必要がある。この場での返答は出来ない」
「そりゃまぁ当然オッケーだよ」
「浅井くん、Bクラスも同じように、返答するのは待って欲しいな」
一之瀬からも判断保留のお願いをされる。全然ええよ、むしろ今すぐ全体の行動を決めてもクラスから不満が出ないのはウチのクラスくらいだろうし。独裁政権だけだろうし。
「もちもち。別にそんなに急いでないから大丈夫だよ。……流石に今日の話し合い2回、2時間だけで優待者見抜かれたりってことないでしょ」
「うん、ありがとう。……ところで龍園くんはどう思ってるの?」
そう問われた辰グループの癖にまるで参加してないダメドラゴンは、いつも通り偉そうに足を組みながらこう答えた。
「フン。……どうでもいい」
バカなんかコイツ。死ねアホ。
「えっと、流石に龍園くん、というかCクラスも契約するならちゃんとしてくれないと困るから、そこは……お願いするね、浅井くん」
「あー、そりゃそうだね……。了解」
大天使がめっちゃ困った顔になってるのに罪悪感が湧いてしまい、思わず了承しちゃったよ。いやまぁ確かに全クラスが協力しないと実現しないもんな。
でも考えてみると龍園の説得が一番なんか難しそうかもなぁ……。最終日まで『俺は見抜く!』とか傲慢に考えててタイムアップになったりすらしそう。嫌だわ~。
そんな事を考えていたら船内アナウンスが鳴り響いた。
『終了時刻になりました。これ以降は自由時間となります』
あ、もう終わりか……。でもまぁ1回目よりは有意義な話し合いだったと思うし、前に進んだんじゃないかな。
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さっさと帰ってしまった俺以外のCクラス3人を見送り、俺は他クラスの女子と会話出来そうなタイミングがあるかな……と期待をしながら、無駄に背伸びや柔軟をしていると、
「浅井……少し良いか?」
「……なに?」
ハゲに声をかけられてしまった。お前じゃない!!
「まず、ハッキリさせておきたい。お前の案なのか龍園の案なのかは別として、無人島でAクラスを失格させた実行者の1人がお前なのは間違いないだろう?」
まだ気にしてるのか……。
「まぁ、そうだね」
ぶっちゃけ発案者が俺だったのか龍園だったのかはハッキリ覚えてないんだよな。色々テントで話しすぎてて訳分からんくなってる。なので龍園発案ということにしてるだけ。全部アイツが悪いってことにしておこう。
「浅井、お前はAクラスに興味が無いんだろう?ではなぜAクラスを失格させることに加担したんだ……」
あー、そりゃAクラスに上がるための謀略みたいに思われちゃうか。仕方ない、素直に言っちゃおう。嘘ついてると思われる方がなんか面倒な気がするし。
「ん~、正直そこまでハッキリ覚えてないんだけど……、1番大きな理由はやっぱり『流石にAクラスが飛び抜けすぎてる』だったかな?」
もし仮にAクラスが失格しないで、アホの弥彦がサマーリーダーってのを見抜かれてなかったとしたら、初期点SP300を加算して、さらにCクラスへの指名成功も入り、CP350のプラス。そうなるとCPが確か……
Aクラス:CP1300
Bクラス:CP800
Cクラス:CP500
Dクラス:CP300
だいたいこんな感じだったはずだ。これは差が大きすぎるもんなぁ。
「……お前個人としてはAクラスに興味は無いが、Cクラスが上に行こうとする手助けはした、ということだな?」
「まぁそうなるけど、『面白くしたかった』とか、単純に『暇だった』ってのもあるね」
「なっ……」
あ、驚いてる。いやでも他に言いようが無いからね……。
「あともう1つ、俺もついつい忘れちゃってるけど、坂柳と『夏休み中のCP増減でクラス対抗』っていう勝負をしてるから、それも動機にあったね」
「なんだと?……その対抗戦で、何か賭けているのか?」
「坂柳、っていうかAクラスが勝ったら『何か1つ言うことを聞いてもらいます』とか言ってたはず」
「……それで、Cクラスが勝ったら?」
「俺が坂柳に『虎徹くん』って呼んでもらえることになってるよ。良いでしょ~?」
「な……」
あれ?なんかハゲが口を開けて固まっちゃってるよ。何してんだコイツ。
「どしたの?」
「……あ、いや、その、すまない。想像以上の、その、話だった」
なんで言葉を絞り出すような感じになってんだよ。
「どゆことやねん」
「浅井、お前は……俺の想像より遥かに『利己主義』だったのかもしれないな……」
確か『自分のために動く』って意味だったはずだよね。
「まぁ、そうだよ。Cクラスに敵対行動とかになったら嫌われちゃうからやらないけど、俺は基本的に自分のために動いてるよ」
多かれ少なかれ、人間ってそういうものでしょうに。
「……そうか」
額に手をやって困った様子のハゲ。うーん、俺が龍園の配下とでも思ってたのかね?
それにしても坂柳との勝負どうしよう。せめてゼロゼロの引き分けで言い訳つく感じにはしたいけど……。
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「話は変わるが、先程の話し合いでお前が言っていた事なんだが……」
「ん?……どれのこと?」
色々言いまくったから分からんぞ。
「Aクラス特権が存在するか疑わしい、という件だ」
「それの事か。それがどしたの?」
「……正直、『Aクラスで卒業すれば良い』と、それだけ目指せば良いはずだという心境は確かにあった。言われてみると、確かに疑わしい部分があるのかもしれない……と思えた」
「あ、そう……」
なんか少年からサンタクロースの夢を奪い取ってしまった、みたいな変な罪悪感がある。ごめんハゲ。
「考えたくはないが……我々がAクラスから脱落する可能性もあるだろう。しかし、どちらにせよ自分達の実力を伸ばすことさえ忘れなければ道は開けるはずだと内心で覚悟出来たようには思える。それには感謝したい」
「どういたしまして……?」
すげぇ前向きじゃん。まさに優等生。
「ただ、俺はそれでも、Aクラスでの卒業特権に『大学進学に関わる費用の全面負担』というものがあると今でも信じている……。そして、それをこれからも求め、精進し、相応しい学生になるつもりだ」
「あ~、学費かぁ……」
それは盲点だったな。俺は実家がそこそこ裕福で金で困った経験は無いからな……。まぁ、確かにそれ目的で頑張るのは良いことなのかも。
「加えて、これだけ大規模に運営されている国営の高等学校での成績は、間違いなく将来に影響すると俺は考えている。……勉強の成績でしか測れていない有名大学、一流大学を卒業したという肩書きより、この学校で『Aクラスで卒業した』という実績の方を重視する人々は少なくないとも考えられる」
「まぁ言われてみれば、ありえる、かな?卒業生とかも徐々に増えてくはずだもんね」
確かに本来ありえないほど『学力』以外を伸ばそうという意気込みは感じるよね、この学校。そこは褒めていい所なのかも。それでいて、ちゃんと『赤点で退学』ってケツを叩きながら勉強させてるし。……させられてるし。
でも『勉強と関係ない知的競争』みたいな側面が大きすぎると思うんだよなぁ……。そんな試験ばっかりにしてるから勉強しないアホの龍園が偉そうにしまくってんだよ。
「そして……まだ半年に満たない期間であるが、3年も過ごしていけばクラスメイト達とは親交も深まり、戦友のような存在になり、共に理想の人生を歩んでいきたくもなるだろう」
「んー、そうかもね」
まだ4月から始まって4ヶ月と少しだけだもんなぁ。けど何の話だこれ?
「そのためにも、学友のためにも、お前達に負けるつもりはない。それを言っておきたかった」
すげぇ真剣な顔で言ってきたけど、意外と嬉しいけど、なんか恥ずかしいな……。
「ん、まぁ、お互い頑張ろう……?」
「あぁ。そうだな」
こっ恥ずかしいやら、ライバルっぽい関係が嬉しいやらで、なんかちょっとソワソワするな。
とりあえず、『Aクラス目指すなんて元気なバカだね』とか言うのは辞めておこう……。いや言ってないけどさ。
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「では、俺はそろそろ失礼させてもらう」
気付けば部屋に残ってるのはハゲ以外はBクラスの3人、そして何故か残ってる櫛田だけだった。
せっかく葛城と話す珍しい機会だし、もうちょい聞いておこうかな。
「ちょい待ってハゲ。前から聞きたかったんだけど……なんで坂柳とリーダー争いみたいになってんの?」
聞いた途端に苦々しい顔になるハゲ。表情ある時はあるんだよな
「……クラスを導く代表者は1人でいい。それで対立しているだけだ」
「ふーん。……他には?」
「他……?」
「え、いやだって……別に坂柳リーダーで、そのサポートでも良いはずじゃん?それなのに葛城がリーダーやろうとしてるのが不思議なんだよね、なんとなく。『女のリーダーなんかふざけるな!』って思ってる訳じゃなさそうだし『俺がトップだ!』って偉ぶろうとしてるアホの龍園みたいなタイプにも見えない。なんか義務感とかからやってるように見えるんだよね」
「……そう見えるか?」
「うん。なんとなくだけどね」
「まぁ、そうだな……。当然だが、俺自身がリーダーとして責任ある立場を任されたいという気持ちはある」
「ふーん」
マゾかな?
「それと……もしかしたら、体が不自由な少女に責務を負わせたくなかった、という心境はあったかもしれない……。少しだけ、病気の妹に似てるからな」
「あー、そう……」
軽い気持ちで聞いたのに、とんでもなく重いのが返ってきたな……。
「……この学校に入って、連絡が取れないとは聞いていたが、手紙1つに至るまで禁止されているとは思わなかった。ありとあらゆる環境の整った素晴らしい学校だが、それだけは後悔している」
「なるほどね……。仲良いの?」
「あぁ……」
ん~、超暗い感じになってしまった……。
暗いついでに聞きたいこと全部聞いちゃおう。もう開き直っちゃえ。
「関係ないけど、ハゲって病気なの?」
「お前、いきなり……。まぁ、そうだ。『全頭無毛症』という持病だ」
「マジで病気かよ。完全にキャラ付けでカッコつけてるんだと思ったわ」
ちょっと怖がってもらおう的な。
「……そんな訳無いだろう」
「それで、葛城は『ハゲ』って言われて嫌だったりすんの?」
ウチの実家には複数人ハゲが居るから、あんまり呼称としては便利じゃないんだけど……高校だと1人しか居ないはずだもんな。すげぇ良い呼び方だと思うんだけど。
「うーむ、気分の良いものではないが……そう呼びたければ好きにするといい。必死になって止めても無駄だろうからな」
「お、ありがとう。すげぇ分かりやすいから助かるよ」
「……そうか」
なんか変な形で友情が芽生えたというか、友人が増えたのかこれ?……なんて思ってたら、船内アナウンスが鳴り響いた。
『猿グループの試験が終了いたしました。猿グループの方は以降試験へ参加する必要はありません。他の生徒の邪魔をしないよう気をつけて行動して下さい』
ん?
「……ハァ!?」
「なんだと?」
嘘だろ、どっかのバカが優待者もう見抜かれちゃったのか?
そこそこ頑張って考えた『所得倍増計画』が潰れてしまう嫌な予感を感じながら、通知で震えまくるスマホを見ながら慌てて部屋を出ていく葛城を眺めるのだった。