俺は龍園翔、Cクラスの頂点に立つ男だ。
この学校は『実力至上主義』なんて言っていたが、俺に言わせれば敵と呼べるような敵なんぞ数人しか居ないし、他はカスばかりで楽勝で勝てると思っている。平和ボケしてるアホしか居ねぇ。
……アイツ以外は。
浅井虎徹、アイツだけは俺寄りの思考をしているし、場合によっては俺以上に『実戦的』だ。
あのバカの言葉には、所々から『遵法精神の無さ』や『非情さ』や『徹底した実利主義』のようなものが漏れ出ている。恐らくだが、生まれや育ちが反社会的勢力に準ずる何かの環境だったり、親がそういうのに関係あるはずだ。まともな生まれ育ちとは思えねぇ……。アレは普通に生きてて出てくる発想じゃないはずだ。
それだけだったとしたら、危険性が多少あろうとも注意しつつ『使えるヤツ』として重宝するが……入学して2週間も経ってない頃、全く訳の分からない価値観でブチ切れ、俺を殺しかけた狂った奴だ。他にも、突発的に堀北に怒鳴り散らしたり、ひたすら金を出せとせびってきたりしやがる。そういう部分を見れば、確実に有害な存在だ。
しかし、異常な狂った人間かと思いきや、男子にありがちな性欲や恋愛願望なんかを普通に持っていたりもする。不気味なことに、他クラスの人間と当然のように交流してたり、一般人のようにアホみたいに気が緩んでるように見えたりもする。
かといって、伊吹が強姦脅迫されてるかもしれないと思い込み、勝手に心配し始める『異常に神経質』な側面、気の弱い心配性な人間に見える時もある。
ハッキリ言って……意味が分からねぇ存在だ。
俺にすらない発想を持っている事もある。ムカつく存在ではあるが、誰より使える場面もあるというのは間違いない……。
『欠点がある部下』ってだけなら許容出来るが、アイツが俺の言う事を聞いてるのは利害関係が一致してるからというだけだろう。何がキッカケで、何が理由で裏切ったり指示に背くか分かったもんじゃねぇ。
めちゃくちゃに扱いにくい存在だ。
加えて俺に対しての舐めた態度や言動は増える一方だ。これに関しては普通にぶん殴ってやりてぇが……仮に手を出したら、なぜかキレて闇討ちしてくる可能性があるようにすら思える。アイツの頭の中はいまだに分からない。
その場その場でテキトーに生きてるように思えるが、それゆえに思考が読み切れない。
本来なら、俺が狙い続け、疲弊させ、屈服させる『狩る側』のはずだが……あのクソボケは冗談じゃなく本気で頭がおかしいから、力加減が分からず本当に殺される恐れがある。実際にされかけたしな。
マジでムカつく状況ではあるが、俺ですら、アイツを敵にはしておきたくない。ビビってるつもりは無いし、顔色を伺う気もねぇが……相手にするには頭がおかしすぎる。
言動に我慢しておけば、今の所は基本的に俺らのクラスに利益があるように動いてるようではある。金が欲しいから収入に繋がることは協力するようだし、面白そうだったら他クラス妨害にも協力するらしい。色々な事に目を瞑れば、まぁ価値のあるヤツというのは事実だ。
無人島試験でのアイデアの数々、そしてカケラも罪悪感を抱かず敵をハメられる精神性と実行力。そして今回の干支試験では、極上のデコイになってリーダー格のザコ共の思考の邪魔をしてくれている。言いたくは無いが、最も使える『同盟者』ではあるだろう。
だが、それでも……間違いなく、アイツは『頭のおかしいバカ』だ。
---------------------------------------
現在、時刻は21時半頃。干支試験の1日目、2回目の集まりが終わり、俺らが優待者の選抜法則の候補を洗ってた所に、そのアナウンスは鳴った。
『猿グループの試験が終了いたしました。猿グループの方は以降試験へ参加する必要はありません。他の生徒の邪魔をしないよう気をつけて行動して下さい』
「フン……」
どこの誰が裏切り指名をしたか知らねぇが、忌々しいことに『猿』の優待者は俺らCクラスの生徒だ。もし指名が成功してたら、俺達からCPが引かれるということだ。
これがもし優待者がCクラス以外で、指名者が誰か分かってどのクラスか分かれば1つのグループで優待者をかなり絞り込めたはずだ。試験終了したということは、優待者の居ないクラスからの指名ということだから、そのクラスでもCでもないどちらかに優待者が居たということになる。法則を見つけ出す大きな一歩になったはずだってのに。
まぁいい、俺がやるのは法則を見つけ出すこと、そのために情報を仕入れることに変わりはない。……一応、誰が指名したか探っておけというのは命令を出しておくか。
「おい龍園!どゆこと!?」
うるさいバカの浅井がもう来やがった。
「……お前は、優待者に関する情報を隠し通せる自信が無いからって俺にスマホを預けたんだろうが。別グループだからって情報を教えたら意味ねぇだろ」
コイツ、考える気が無い時は石崎レベルになることがある。……いや、流石にあれほどではないな。
「あ~、そういやそうか。うーん……ムカつくけど気にしても仕方ないか。オッケー、なんでもないわ。スマホは引き続きよろしく」
「……チッ」
基本的に俺が上のように振る舞うが、情報を要求してきたり、スマホを管理させたり……そういう部分だけ見ると俺と浅井のどっちが上か怪しくなる。勝手に俺を使いやがって、やっぱり微妙にムカつく奴だ。
「誰が指名したか、みたいなのは分かってるの?」
「……怪しいヤツは居るようだが、確信はまだ無い」
「それ誰?暇だし明日とか様子見てくるよ」
「Dクラス、高円寺六助というヤツだ。能力はあるらしいが『徹底的に自己中心的』な人間ってことで、裏切り指名をしてそうな確率はズバ抜けて一番高い」
「ふーん……」
「指名が成功してるか失敗してるか問わず、最も可能性があるのはそいつだ」
「え?……失敗してでも良いからって指名しそうなヤツなの?」
「あぁ」
「どゆこと?……Dクラスが嫌いだからとか?」
流石に自分のクラスのCPをわざと減らそうとするやつは居ないと思うが、居たら確かにおもしれぇな。
「……いや、試験のために拘束されるのを嫌ったとかいう理由かもな」
「あぁ~~、なるほどね~。……そんなにこの船の生活楽しんでるのか、1日2時間ですらもったいないって?やべぇなそれ、どんだけ楽しんでるんだろう」
また謎の方向に思考が飛んでるな。まぁ邪魔にはならなそうだ。
「高円寺に接触するなら、後で報告しろ」
「ん?あぁ、オッケー。いやぁ、会ってみるの楽しみだ、マジで何してんだろう……。明日ちょっと探してみるよ」
「……そうか」
コイツ、まさか試験のこと考えるのに飽きてるんじゃねぇか……?
---------------------------------------
時刻は22時過ぎ、俺は探索中に目をつけていた船内バーに居た。未成年飲酒は違法だが、この場に居るだけなら別に問題はないだろう。
当然今回の試験も重要だが、それ以上に教師陣とかの『学校運営側』の声を盗み聞けるチャンスというのは滅多に無いであろう貴重な機会だ。絶対に生かしてやる。
部屋の片隅で、壁を背にしてノンアルコールのカクテルを飲みながらスマホで整理した情報を見ていること数十分、モバイルバッテリーを買うことを心に決めていると、ついにやって来た。見覚えのある教師、Aクラス担任の真嶋だ。
「なかなか良い所だが……ふむ。Cクラスの龍園、そろそろ自室に戻りなさい。まだ違反時刻ではないが、この時刻に公共の場に居るのは褒められた事じゃないぞ」
ソファの影に隠れようとしたが、その前に真嶋に見つかり指摘されてしまった。うぜぇな。
「チッ……。仕方ねぇ」
不満全開、という顔を隠さず、舌打ちしてから立ち上がった。
「……俺のクラスではないから強く言わないが、目上の人間には正しく敬語を使え。龍園」
「フン。うるせーよ」
「坂上先生も苦労してそうだな……。早く帰りたまえ」
「チッ……」
不機嫌そうに、無視するような態度を取りつつ、スマホを触りながらバーから出た。
---------------------------------------
「おっすー、真嶋くん。お疲れ様~」
「あぁ。……こういう機会は悪くない、呼びかけに感謝するぞ。知恵」
「も~相変わらず固いなぁ。あ、私はウォッカで。ストレートね」
「……お前こそ相変わらずだな。明日も仕事に変わりはないんだぞ、せめてロックにしろ」
「大丈夫だって~、私お酒強いもん。そういう真嶋くんは……また芋焼酎?オッサンだねぇ」
「別にいいだろう」
「……あっ、佐枝ちゃーん!こっち~!」
「星乃宮、お前もう酔ってるのか?」
「まだ飲み始めたばっかりよ!」
「疑わしいものだ。……私はモヒートを」
「茶柱、プライベートとして会うのはいつぶりだろうな」
「……そうだな」
「も~、なんで真嶋くんも佐枝ちゃんも暗くなっちゃうの?もっと盛り上がって行こうよ~!」
「真嶋、星乃宮はどれだけ飲んでるんだ?これは出来上がりすぎだろう」
「残念ながら、本当にまだ飲み始めだ。コップ1杯すら飲みきってない状態だ」
「……恐ろしいな」
「なんかさー、久しぶりよね~。この3人がこうしてゆっくり腰を下ろすなんてさ」
「因果なものだ。……巡り巡って、結局、俺達は教師という道を選んだんだからな」
「よせ。そんな話をしてもなんの意味も無い」
「あ~、そう言えば見たよ?真嶋くんこの前デートしてたでしょ?新しい彼女?真嶋くんて意外と移り気なんだよね。朴念仁ぽいくせにさ」
「……知恵、おまえこそ前の彼氏はどうした」
「あはは。2週間で別れたー。私って関係深くなっちゃうと一気に冷めるタイプだから。やることやったらポイーね」
「普通それは男側が言うことなんだがな」
「あ、だからって真嶋くんにはさせてあげないからね?ベストフレンドだし、関係悪くしたくないでしょ?」
「安心しろ。それだけはない」
「うわー。なんかそれはそれでショック」
……くだらねぇ話ばっかりだな。
バーから出る直前に浅井のスマホを通話状態にしてソファの下に隠し置いたのだが、音声がなんとか拾える程度には聞こえていた。仮に録音していたとしても、バレてデータを消される可能性があるからな。リアルタイムで確認する必要がある。
それにしても早く使える情報を出せよカス教師共。星之宮がビッチだったと聞いて喜ぶのはあのバカくらいだろ。どうでもいい、さっさと意味のある会話をしろ。
---------------------------------------
15分ほどして、やっと話題が試験に関わるものになった。
「それにしてもさぁ、今年の『辰グループ』だけど、優秀な子が集まってるとは思うけど……Cクラスはなんか変だよね」
「確かにな。『クラスの代表を集めろ』という方針だが、実際の行動を見て坂上先生が選んだメンバーなのだろう……。今年の生徒の質は特殊なようだな」
フン……。何が特殊だ、勉強だけ出来るような奴らを集めて何になる。
「星乃宮、Cクラスで誰に注目してる?」
口数の少ないDクラス担任の茶柱が口を出してきたようだ。
「どしたの佐枝ちゃん?そんな怖い顔して。そんなんだから彼氏が出来ないんだよ?」
「黙れ。……それで、誰を警戒してるかくらい言え」
「そうだね~……やっぱり順当に龍園くんかな。夏休み前は色々やってくれちゃってたみたいだし、『知性』と『暴力性』を併せ持つ、手強い子なんだろうな~って思うかな」
「では……浅井虎徹に関してはどう思う?」
茶柱はアイツを警戒してんのか。
「うーん、無人島試験での報告書も読んだけど……意外とCクラスっぽくないというか、どちらかと言えば私のBクラスに近いかも?っていう印象を受けたかな。説明会の時もちゃんと挨拶してくれたしね~」
「……そうか」
「うーん……?あの子と何かあったの?」
「フン。浅井虎徹は無人島試験中に、私に対して『頭がヤバい』『クレイジー』『イカれてる』『クソゴミ』『バカなんすか?』などと、直接、面と向かっていきなり言ってきたぞ」
あのバカ、俺が見てねぇ所でまたそんなことしてたのかよ……。
「えぇ~!?」
「それは本当か?茶柱」
「事実だ。報告書には『教師に対して不適切な言動』とだけ書いておいたがな。……流石に詳しく書き記すことでないだろうと」
「ビックリだなぁ……。あんまりそういう子に見えなかったけどね」
「……浅井虎徹に関しては、俺は無人島での契約案などを見てもAクラスでもいいほど優秀そうな生徒だと見ていたんだが、そういう側面もあったんだな」
「あぁ。クラス対抗としてだけでなく、教師としても本気でCクラスは警戒しておいた方が良いと思うぞ」
余計なこと言うんじゃねぇよクソ茶柱。めんどくせぇな。
「そうかもしれないけど……佐枝ちゃん、Dクラスも癖はあるけど優秀な子が揃ってるでしょ?もしかして、目を逸らそうとか思ってたりして~?」
「フン。……例年通り、テキトーに面倒を見たクラスが3年間Dで終わるだけだろう」
「そうかなぁ?……あっ!バーテンさん、ウイスキーおかわり~!ビンで持ってきてよ、ビンで!」
「知恵、声がデカすぎる」
「星乃宮、うるさい」
「も~!夜はまだまだこれからだよ!」
チッ、流石にそこまで重要なネタは漏らさねぇかもな……。
だがまぁいい、昼でも好きなだけ眠れる俺達と違って教師の立場なら早めに切り上げるはずだろう。最後まで付き合ってやるよ。
B担任:星乃宮知恵(チエ)
D担任:茶柱佐枝(サエ)