ZODIAC EXAM
DAY 2
おはようございます。干支試験の途中だけど、他のグループで裏切り指名が出ちゃって悲しい俺は浅井虎徹です。『みんなで幸せになろうよ第2弾』もとい『所得倍増計画』が消えちゃった感があるし、なんか試験どうでもよくなってきちゃったね……。
CP50の増減ってのは結構大きいからね。計画終了してもおかしくはない。
ただまぁ、試験中に『裏切り指名が成功したか』というのは判明しない事になってる。なので指名が成功してるか失敗してるかは試験の結果待ちだ。
……そう考えると、誰が得して誰が損したか分からないから、まだ許容範囲かも?
どう考えたってみんなで協力した方が金入ってきて得なんだし、今日の話し合い次第ではまだ可能性あるかも?……いや分からん。頭良い人達がなんか色々と考えてくれて、その結論次第かも。
それより今日は高円寺?とかいうヤツに会ってみよう。『時間を潰されるのが嫌で試験を終了させた』って指名したかもしれないとか面白すぎるだろ……。頭やべぇよ。
昨日は夜遅かったから寝たけど、そういう訳で今日の午前はクレイジーな生徒を探してるという訳だ。
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時刻は9時過ぎ。通りすがりの生徒に声をかけながら探してみたが、意外とすぐ高円寺の場所を知ることが出来た。ちなみに、見た目は金髪、ムキムキ、整った顔らしく、誰もが『偉そう』と表現していた。どんなヤツだよ。
話を聞かせてくれた1人が「多分プールに居たはず」とか言ってたので来てみたら、プールサイドにあるビーチチェアに座って日光浴をしている金髪のヤツが居た。なんか結構デカイし、確かに筋肉しっかりあるし、見た目だけでもホントに偉そうだ。ちょっと謎の感動をしてしまった、本当に言われてた通りだ……。
「あー、もしかして高円寺……?」
寝てるようにも見えるので、なんとなく小声で恐る恐る近付いてみたのだが、割とすぐ目を開け声を返してきた。
「なんだね?ボーイ」
「ボーイ……?」
あまりにも聞き覚えのない呼称にビックリしてしまった。なんじゃそりゃ。
「ふむ、キミは確かCクラスのタイガーボーイだったかな?私と同室のボーイ達が噂していたよ」
「タイガーボーイ……。いやまぁ確かに、浅井虎徹で『虎』の字が入ってるけど……」
なんか筋肉痛に塗る軟膏の『タイガーバーム』みたいな響きだけど、面白いな……。ついでにアダ名を付けられたの初めてかも。
「それで、何のようだね?」
「あ、うん、日光浴の最中にごめん。……俺も高円寺のこと、ハイボーイとか呼んだ方がいい?」
ハイボールみたいになるけど。高円寺の『高』を取ったけど、サークルボーイでもテンプルボーイでも語呂は良いな。
「ノーサンキュー。……本題はなんだね?」
「えっと、昨日の試験で優待者の指名メール出したのって高円寺なの?」
「イエス。私だ」
直接聞いた俺も俺だけど、普通に答えるコイツもコイツだな……。いやありがたいけどさ。
「あー、そうなんだ……。すぐ見抜けたから?それとも試験が面倒になったから?」
「両方正しいね。私には簡単過ぎる問題で、面白くもない試験を続ける必要が無かったというだけのことさ」
「なるほど……」
成績は良いとは聞いてたけど、この試験で1人ですぐ優待者を見つけたのかな?いやまぁ間違ってる可能性もあるんだけどさ。
「用はそれだけかね?」
「あ、うん、ありがとう。……もしかして優待者の法則みたいなの気付いたの?」
「二度も同じことを言わせないで欲しいねぇ」
めちゃくちゃ見下した冷たい目で見られてしまった。とりあえず話を続けるのを優先しよう。
「いやごめん、えーっと……俺はバカだからちょっと信じられなくて」
「ふむ、そういうものか。下々の人間がどれくらい無能なのか、残念ながら優秀な私には分からなくてね」
なんか、嫌味や挑発目的で言ってるんじゃなくて、本気で言ってるっぽいな……。驚くことに、本当に悪気は無いっぽい。完璧に初めて見るタイプの人間だ。
「優待者の法則も、気付くはずだと思った……というか、言う義理が無いと思ったってこと?」
「私は上に立つ人間として、庶民が成長する機会を奪い取るような事をしないというだけさ。釣りの方法を学ぼうとしてる庶民に魚を分け与えるような愚かな行為はしないというだけの話だ。……純粋に関わりを持つ気が起きず、教えてやる義理が無いというのもあるがね」
うわ、なんかこれマジで優待者の法則に気付いってるっぽいな……。
「もしかして高円寺って、かなり良い家庭の育ちだったりする?皇家と関わりあるとか?」
そう考えてみると、戦後すぐまで残ってた日本の貴族みたいな『華族』に関係しそうな名前にも思える。『高円寺』って名字、なんか縁起が良さそうだし。そうでなくても地元の名主とかでありそう。
「私は高円寺コンツェルンの1人息子、高円寺六助。いずれはこの日本社会の将来を背負って立つ人間となる男だ。高貴なオーラが隠しきれず申し訳ないね」
「えっ!?……マジで?」
「疑うのかね?タイガーボーイ」
いやだって、俺でも聞いたことある日本の巨大財閥じゃねーかよ。簡単には信じられないでしょ。
「だって……。えっ、じゃあ、なんでこんな学校来てんの?」
一般人にとっちゃ良い暮らしが出来るし、将来のために頑張りたくもなるだろうけど、めっちゃ金があって将来が約束されてる人間が来る学校じゃないでしょ。色々と面倒なことさせられるし、自由に金も使えないし。……意味が分からん。
「少しは私の価値が理解出来るようだね、タイガーボーイ。……私がこの学校に居るのは、ただ父上にそう指示されただけさ。私は既にパーフェクトな人間だが、庶民のことを知っておけということなのだろう」
「はぇ~……」
ガチのマジでお坊ちゃま、御曹司ってやつじゃん。すげー、初めて見た。そりゃ雰囲気とか態度とか納得すぎるよ。流石に嘘で演じてるようには見えない、かな……。俺的に80%くらいマジだと思う。
「なかなか分かってるようじゃないか、タイガーボーイ。私の記憶に残れるよう頑張ってくれたまえ。それでは、アデュー」
そう言った高円寺は、立ち上がり、数人しか泳いでないプールに飛び込んでめちゃくちゃ泳ぎだした。……泳ぐの結構早いな。
「そこの生徒!またですか!!飛び込みは辞めなさい!!」
監視員っぽい人の注意を完全無視して泳ぎまくる高円寺を見ながら、なんとなく感心してしまうのだった。
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ここ数日あまりにも食いすぎたので、軽いランチっぽい何かをもう済ませて帰ってきた。まだ11時か。
「よっす龍園、高円寺に会ってきたよ」
なんかまたグループごとのメンバーを書き出した紙を散らかしてる。マジメだねぇ。
「……どうだった」
「いやぁ、すごかった。まさに御曹司って感じだったよ」
「昨日の話はどうだったって聞いてんだ」
「は?じゃあそう言えよ。……あぁ、昨日の指名は高円寺がやったって本人は言ってたし、多分そうだと思う。なんとなくだけど、確信を持って指名してたと思うよ。めちゃくちゃ自信過剰なバカで、大口叩いて外してるって可能性も無くはないけど……いや、それは無いと思う。100%ではないけど、90%くらい正解してそうに思えた」
「フン……」
なんか不満そうだ。そりゃまぁ自分が気付いてないもの気付かれちゃってるならそうなるのかね。
「当然のように見抜いて確信あるっぽいし、1グループだけ見ても分かる法則あるんじゃないの?」
俺は分からんけど。っていうかまだスマホ返してもらってないから、俺が優待者なのかどうかすら知らないけど。
「参考にはしてやる」
「なんじゃそりゃ」
高円寺について話を聞いてた時に『行動が読めない』とか『何考えてるか分からない』なんて評価を良く聞いたけど、俺からしたら龍園の方が訳分からんな。高円寺はマジでクラスのために動く必要も無いし、ただ在学してればいい、なんだったら別に退学になった所で困る事も無いって話だし。
「オイ浅井、高円寺が無人島で俺達のカメラ破壊や、ペナルティの可能性を指摘した存在Xだと思うか?」
「んん?……うーん、実力的には気付いて行動出来るくらいの人だと思うけど、あえて放置すると思うよ。思想的に。Dクラスが嫌いなんじゃなくて、『自分がやる理由が無い』とかいう感じでクラスの危機でも無視して、アドバイスもしないタイプだと思う」
「フン、そうか。……ちなみに高円寺は1日目にリタイアしているから、物理的に関与するのはほぼ無理だろうな」
「は?」
じゃあなんで聞いたんだよ。意味不明だ。
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試験時間まであと1時間くらいある。今からどこか行く時間は無いので、自室でのんびりしていよう。
しかし、なんで誰も高円寺に媚びに行ってないんだろう?1人きりで居たのが不思議で仕方ないんだけど。
もし仲良くなれたら、割とマジで日本最強に近いコネじゃんか。『財閥の一人息子と同級生で仲良し』なんて。普通に有名大学入ったりするより遥かに良い就職先をくれそうだけどね。なんだったら大学なんか行かず、高卒でも良い企業入れさせてくれそうな気もするし。
俺の将来どうなるか分からないけど、マジで仲良くなっておいて損は無いな……。
あとは、自分達の手を汚さずやって欲しい事、誰かに頼みたい『汚れ仕事』とかがあったらウチを使ってもらえるかもしれないな。あれだけ大きい企業だったら既にあるかもしれないけど、個人的に頼むくらいの事なら浅井家を使ってもらえるかも。うん、それはちゃんと伝えておこう。俺もやったことない営業活動だけど、言っておいた方が良さそうだし。
ただ、可能性としては『高円寺コンツェルンの一人息子』って嘘付いてる可能性もまだ残るんだよなぁ……。この学校じゃ外との繋がり断たれてるから証明出来ないし。
そもそも、なんで1人息子で『六助』なんだよって気もするし。先祖から受け継いだ名前?もしくは兄弟で殺し合いしたとかは……流石に無いか。
うーん、なんか証明する方法あるかな……。確認しておきたい。
「なぁ龍園、高円寺の家がめっちゃ金持ちっていうのを証明する方法ってある?……親の名前を知る、とかでもいいけど」
「……無理だな。そういう個人情報に関しては異常にガードが固い、生徒の立場で知るのはまず無理だ」
「えぇ……。なんか無いの?」
「ねぇな」
んもー、役に立たないロン毛だな。
「まぁいいや、今度また本人に聞いてみるよ」
父親の名前くらいだったら現代資料として名前分かるかもしれないし。
……いや、そういうの完全に記憶してる詐欺師って可能性はなくもないのか。うわー、めんどくさいな。
もし嘘だったとしても、あれだけ『御曹司』っぽいオーラを出せる演技が出来てるなら、それはそれで稀有な才能だけどさ。
なんにせよ、凄いのに出会ったなぁ……。世界は広いね。
まだ午前が終わったばっかりだってのに、なんかもう疲れちゃったよ。