ようこそ邪悪な教室へ   作:マトナカ

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干支試験の勝因

おはようございます、浅井虎徹です。干支試験も無事に終わって、このクソデカ豪華客船での旅も今日の夕方で終わりだ。寂しいといえば寂しいけど、割ともう飽きてたからちょうどいいかも。帰ったら何しようかな……。

 

しかし、考えてみると意外と船旅の時間も長いな。フェリーだったら東京沖縄も1泊くらいで移動できたと思うんだけど、デカい船だから遅い?それともわざとゆっくり動いてるのかな?

 

もしかしたら、海外まで行かされてたのかもしれない?法治国家じゃない島で試験をやって、誰かが死んでもバレないように……?

 

「オイ、浅井。鈴音も呼んどけ」

 

なんだよいきなり。龍園が話しかけてきた。

 

「あぁん?え、なに、今日やるリーダー会のこと?」

 

「そうだ」

 

「別に……堀北なんか居なくてもよくねぇ?」

 

相変わらず好き過ぎるだろ。あの性格ブスの何がそんなに良いんだ、見た目か?どうでもいいけど自分で呼べよ。

 

「無人島のことも聞くならアイツも呼ばねぇと意味ねぇだろ。……何か引っかかるが、現状で一番怪しいのは鈴音だ」

 

「あ~、そういやそうだったっけ……」

 

無人島試験の時、最終日の早朝?前日の夜遅く?に、伊吹に気付かれずにサマーリーダーやってた堀北がリタイアして、指名受けるのを回避したってやつ。

 

まぁ伊吹がスパイやってたのは明らかだったし、警戒されてもおかしくないけど……何にせよ、誰かが決めつけで減点されるのを覚悟でサマーリーダーがリタイアすることにして、俺らの指名を回避したのは事実だ。ムカつくぅ!

 

消えたのは堀北なんだし、堀北が判断したんだとは思うけど。

 

そして確か、伊吹が隠しておいたデジカメをわざと水没させて、故障させた犯人も居るはず。こっちに関しては堀北がやりそうもない気もすんだよな……。そこまでダーティーに対応してくるかね?という疑問。

 

「カメラを壊した犯人、Dの……辰グループに居た3人じゃない可能性も少なくない。カマをかけるつもりだが、お前は余計なこと言うなよ」

 

おぉ、頼もしいじゃん。任せちゃおう。

 

「カケルだけに、カマを"かける"って?」

 

「黙れ。つまんねぇぞ」

 

「えっ……」

 

なんか、思った以上にショックだ……。そこまで面白いと思って言った訳じゃないけど、そこまで言わなくてもいいじゃん。やっぱり龍園嫌いだ。

 

「フン。ついでに、干支試験で優待生の法則を見つけ出したのも鈴音かもしれないだろが」

 

「まぁ……それはそうかもね」

 

なんだかんだ、堀北って頭良いみたいだし。知らんけど。

 

「分かったなら呼んどけ」

 

いや、そういう訳にもいかない。

 

「ごめん、無理」

 

「はぁ?……そこまで嫌ってんのか」

 

なんとなく呆れた様子の龍園。ちゃうねん。

 

「いや俺、堀北の連絡先知らんから。別に知りたくもないけど」

 

「…………櫛田か平田にでも言っとけ」

 

「あー、その……うん」

 

本気で呆れたような顔をされ、変な沈黙が続いてしまったので、思わず頷いちゃった。まぁ、良いけどさ……。

 

てか龍園はどうせ堀北の連絡先も知ってるだろ。カッコつけてないで自分で誘えばいいのに……。

 

 

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朝食後、9時過ぎくらい。辰グループ部屋に来た。合間の休憩日と試験が早く終わっちゃった強制休日を挟んでの3日ぶりかな。

 

集合場所は悩んだけど、レストランとかだったら邪魔になったりうるさいかもしれないし、誰かの客室ってのもおかしいし、新しく探すのも面倒だから干支試験と同じ部屋にしちゃった。密室で、狭くなくて、ちょうどいい広さ。防音性も良い。AV撮影にも良さそう。

 

部屋はちゃんと坂上先生にメールで許可もらったので、気兼ねなく使える。……AV撮影の許可ではないよ!

 

「うーっす」

 

なんとなく挨拶しながら入ってみたら、もう既に1人居た。ちょっとびっくり。

 

「おはよう浅井」

 

部屋には居たのは神崎だ、10時集合って伝えておいたけど早いねぇ。俺は呼んだ側だから遅刻しないようにって早めに来たんだけど。

 

「おはよう神崎、早いね」

 

「あぁ。お前達、大勝利だったな」

 

「まぁ、その、うん。……そうなっちゃうね」

 

それほど表情を変えてないとはいえ、悔しそうな表情にちょっと申し訳なさが湧く。否定もできない。本来はみんなで協力してppガッポガッポのはずだったもんね。

 

「俺が早く来たのは、浅井にちょっと話を聞きたかったからだ。……龍園の前では言えないこともあるかもしれないから、1人で早く来てくれたのは助かる」

 

「ん?……なんぞ?」

 

割と真剣な表情だな。

 

「今回の干支試験、龍園は最初から全指名を狙っていたという認識で良いのか?」

 

なんか最近似たようなこと聞かれたよね?なんだっけ?……あ、櫛田に聞かれたのに似てるんだ。

 

「うーん、残念ながらそうだね。結構早い段階で優待生の法則っぽいのに気付けちゃってて、それ前提に動いてたみたい」

 

「そうか……。それで、『結果1狙い』の話は、ただ話を逸らしたり、破るつもりの『裏切らない契約』を結ぶためだったりしたのか?」

 

「いや違う違う。俺は本気で全グループで結果1の方が良かったと思ってたし、龍園の指示を受けてとかではないよ、これはマジ。龍園は、なんていうか……俺の案は『保険』くらいの感じだったんじゃないかな。優待生の選抜法則を見つけたけれど、その信憑性が低い、指名した時のリスクの方が高いって判断したら『結果1狙い』にしてやるか、みたいな」

 

そのリスクを減らし、可能性を上げるためのやり取りをしてたってのはあるけど……それはまぁ言わなくていいか。まぁ、櫛田には言っちゃったんだけど。

 

「……浅井は、龍園に協力して、関係ない話し合いをさせて、真意を隠そうとしてたのか?」

 

めっちゃハッキリ聞いてきますねぇ!……まぁ俺も答えちゃってるんだけどさ。神崎もそこまでストレートに聞いちゃうの謎の心配しちゃうレベルだ。読み合い、探り合いとか無しでハッキリ分かりやすくて、個人的には好きだけどさ。なんか変に騙されたりしそう。

 

「振り返るとそういう形になっちゃったかもしれないけど、俺はマジでなんも聞かされてなかったし、本気で『結果1狙い』を目指してたよ。……恨むなら龍園を恨んでね。マジで。頼むよ」

 

「……そうか、分かった。ありがとう、参考になった」

 

「ん、どういたしまして」

 

こういう、性格がまっすぐなの良いよね神崎。Bクラスにしては表情とかクールだし、ちょっとだけ社交性低いかも?と思ってたけど、やっぱ性格が良いからBクラスで合ってるね。

 

……あっ、今もう神崎達がCクラスなのか。めんどくっさ!!!

 

 

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もうちょい時間あるし、逆になんか聞いておこう。

 

「神崎、B……じゃなくなっちゃったけど、えーっと、一之瀬のクラスでさ、干支試験の時に一之瀬って『自分のクラスの優待生3人が誰か』って把握してたでしょ?」

 

「……そうだろうな」

 

ちょっと言いにくそう。でも終わったことだしある程度は教えてくれるでしょ。

 

「それ、いつ頃かって分かる?その3人全員を知ったの」

 

「まぁ……それくらいなら。俺も正確には分からないが、恐らく1日目すぐじゃないかと思う。メールも含めたら、Bクラスの生徒はほぼ全員が一之瀬に相談してるだろう」

 

仲が良いねぇ……。でも一之瀬への負担大きそうっすね。組織としてはちょっと危険かもしれない、1人が消えたら瓦解しちゃうかもっていう。……ウチも似たようなもんか。

 

あとBクラスじゃなくて現Cクラスってことになっちゃうけど、その時はBクラスだったから合ってるのか?……う~ん、死ぬほどめんどくさい。

 

「あとは……一之瀬は相談されるの待ってたの?それとも『教えて~』的に募集してた感じ?」

 

「いや、それぞれの自主性に任せていた。『自分が優待生かそうじゃないか、報告したい人だけしてくれたら良い』『相談にはいつでも乗るよ』といった事を伝えていたな」

 

「うわっ、言いそうだな~」

 

それぞれの生徒を尊重して、それぞれに任せる。ええクラスや……。ウチと真逆だよ。なんか違う種族かもしれないと思えてくるな。

 

「そのせいで、睡眠時間が……いや、なんでもない」

 

「……。」

 

夜遅くまで相談に乗ってたから睡眠不足になってた、かな?『そのせいで迷惑かかってんぞオイ!』的な批判になっちゃったと思ったのかもしれない。別に言っても良い気もするけど、仲良し同士の付き合いにヒビが入っちゃうかもしれない的な?

 

「これ以上はあまり言えない。すまないな」

 

「いや大丈夫。ありがと神崎」

 

「あぁ。……逆にお前らは、龍園の指示で優待生かどうかを白状させられたんだろう?」

 

白状って言うか、全員がメールを提示させられたって感じだけど。

 

「ん?そうだよ。……面白いよね、クラスメイトを信じてる一之瀬と、クラスメイトを信じてない龍園。この2人のクラスが団結力とか結束力でトップ2クラスなんだもん。事実として、この2人がずば抜けて情報を手に入れたの早いだろうし」

 

流石に龍園の方がちょっと早いかもしれないけど。メール来て即座に全員呼び出してたし。

 

「……そうかもしれないな」

 

「学校側は、干支試験で『シンキング』の能力を測るなんて言ってたけど、俺としては今回こそ『チームワーク』だったと思うかな」

 

「どういうことだ?」

 

「クラスじゃないグループに分けられて、そんなクラスとしては繋がりが無いとも言える状況で、それでも『クラスのために動けたか』っていう。情報を集めたり、差し出すことが出来たか。1人じゃなく協力して法則を探し出せたか。めちゃくちゃ『チームワーク』が大事だったと思う。あえて言うなら『シンキングを測る』っていうの自体が大嘘で、本当に必要な『チームワーク』から目を逸らさせた、かもしれない?……まぁ、結果論だけどね」

 

もちろん、優待生情報を全部知った所で気付ける法則じゃなかったかもしれない。自分が優待生かどうかをクラスメイトに公開することで、その情報が誰かの失敗とかで他クラスに伝わっちゃうかもしれない危険性もある。それぞれが1人で情報を隠し通してた方が良かったのかもしれないって可能性は当然あるんだけども。

 

「今回の干支試験、……俺達は勝てたかもしれないと思うか?」

 

ちょっとだけ悲しそうな神崎。これ、どう言えばいいんだ?『勝ち目あったよ』って言っても『可能性無いよ』って言っても、どっちでも落ち込まれちゃいそう?難しすぎるぞ。

 

「あ~、うーん……。正直に言っちゃうけど、一之瀬が良くも悪くも、めっちゃ優しかったからこそ自主性に任せちゃった訳で、『私にだけには教えて!』って言ってたら、多分すぐに情報集まったでしょ?」

 

「あぁ、みんな拒否しなかっただろう。それは間違いない」

 

その場合でも、もし誰かスパイ的なヤツが居たら偽の情報を混ぜられちゃうし、そうしたら法則なんて見つけようが無いだろうけど、そこは言わないでおこう。流石に敵に塩を送りすぎ状態になっちゃうかもだし。

 

「ちゃんと情報があって、頭脳派タイプが数人居たら、多分だけど龍園と同じように気付けてたんじゃないかな……。要はどれだけ早く情報を集められたかっていう」

 

「……。」

 

同じ条件で、同じ情報を提示されて、それでよーいドン!で法則を見つけだせってなったら、それはやっぱりAクラス生徒が最初に見つけそうかな?でもあんまりクラス別の差は無いような気もする。どのクラスも色んなヤツが居るんだし。いやまぁ、法則がなんなのか結局まだ聞いてない俺が勝手に言うのは変なんだけどね。

 

「あ、そもそも最初から『何か法則があるはずだ』って決めつけて動く必要はあったかもね」

 

本当にランダムっていう可能性もあったけど。ただまぁ『生徒に不満が出ないように』って前提があるなら、やっぱ平等にするのかな?100%は信じられないけど、法則があるっていう可能性の方が高そうではあるかな。

 

「……クラスがまとまってる俺達は、勝てた可能性があったということだろう?」

 

悔しそうな神崎。ちょっと励ましておこうかな、仲良くしておきたいし。

 

「今回の試験、『チームワーク』というか、もっと言うと『統率力』が重要だったと思うんだよね。クラス内で『情報を集める』と『情報を漏らさない』っていう、この2つ。AクラスもDクラスも、まだチームとして出来上がってるか微妙な状態で団結力なんて無いようなもんだし。だから……BとCにしか可能性無かったような気もするよ。個人の意思を尊重したから少し遅れたのかもしれないけど、優待生を見つけ出すチャンスがあったクラスは他にBだけだったと思う。少なくともADよりは優れた集団だったと思うよ」

 

「……そうか」

 

いやまぁ、平田と櫛田っていうDクラスに入ってることがおかしいコミュニケーション能力異常者が居るから、Dクラスにも可能性あるけどさ。……それも黙っておこう。

 

「もっと言うと……俺が言うのも変なんだけど、『みんなで結果1を狙おう』とかいう状況になったりしてる中で、優待生を探し出そうとかするのは難しかったかも。考えること多かったし。一之瀬も『チャンスがあったら狙いたい』とは言いつつ、優しい所が出ちゃって、裏切り指名のために動けなかったって所もあるんじゃない?」

 

ウチの不良は裏切り指名したくてしたくてたまらないようなヤツだからねぇ。そりゃ行動の早さに差も出ちゃう。

 

「そうかもしれない。……他クラスなのに悪いな、色々と参考になった」

 

「まぁ、うん。結果論として言ってるだけなんだけどね」

 

最初からこんなこと気付けてた訳でも無いし、偉そうに言う申し訳無さがちょっとある。

 

「いや、反省というのはこういうものだろう。良い勉強になった。……感謝する」

 

「えーっと、その、どういたしまして……」

 

ここまで真っ直ぐ感謝されると少し照れちゃうな。

 


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