もう10時だし、こんにちはの時間かな。神崎とのんびり雑談していた俺は浅井虎徹です。
もう部屋にリーダー達も揃ってきた。そろそろ集合時間だし、神崎に教えてもらっためちゃウマのエスプレッソコーヒー、レストランで出してもらえるらしいやつはこの後で飲みに行こう。
一之瀬、櫛田、平田、ハゲ、いつの間にか堀北。なんとなく全員と挨拶を交わすと、ハゲが話しかけてきた。
「浅井、そろそろ時間だが……今回はどういう用件なんだ?」
相変わらずマジメなハゲ。別に試験じゃないなんだから、のんびりすりゃいいのに。もうちょい気を抜けよなぁ。
「おっすハゲ。チャットで伝えた通り、クラスの呼び方どうしようかって相談だよ。多分、30分もかからないと思う」
下手したら10分くらいで終わりそうな話し合いだ。
「……龍園はどうしたんだ?」
「ん?……あれ、居ないね。まぁ、別に良いんじゃない?」
あんなヤツを気にしてもしゃーないよ。来たくないなら何言っても来ないだろうし。
「そうか……」
不満というか、ちょっと疑ってる様子のハゲ。なんで?心当たり無いんだけど……。
「よう、ザコ共」
扉が開いたと思ったら、なぜかアルベルトを引き連れてる龍園が来た。おい遅刻だぞ、失格だ失格。帰れ帰れ。罰金払え。50万くらい払え。
「集合時間はもう過ぎてるぞ龍園。……と言った所で無駄か」
「クク、そういうことだ」
ハゲをおちょくる龍園。偉そうにすんなボケ。
「それで、浅井くん。私達を呼んだ理由はなんなのかしら?」
堀北が聞いてきたけど、こいつ自分が直接呼ばれなかった理由とかなんも触れないのな……。別に良いけどさ。
「いや待て、俺の話が先だ。オイ、Dのザコ共。お前らこれに見覚えはあるか?」
割り込んできた龍園が見せたのは、証拠品のようにジップロックの袋に入れられた例のデジカメだった。ビニールでしっかり保護してたはずなのに水没で壊れてたとかいう、やけに巧妙な手口でぶっ壊されたやつ。
「……盗撮でもしたというの?」
うーむ、やっぱ堀北は知らないっぽいかな?……多分、演技じゃないと思う。
「櫛田、平田、お前らはどうだ」
「えーっと、カメラだと思うけど……。私達のじゃないと思うよ?」
「うん……僕も見覚えが無いな。龍園くん、それがどうしたんだい?」
この2人も知らなそうかな。もちろん演技かもしれないけど。
「……お前らDクラスの誰かに壊されたものだ。弁償しろ、とは言わないでやるが……フン。犯人はお前らじゃねぇな」
睨みつけるような眼光で見定めてる龍園。
「そんなもの知らないわね。……誰かがやった証拠でもあるなら適切に対応するけれど、アナタの言いがかりかもしれないもの。検討に値しないわ」
「フン、まぁいい。……浅井、続けろ」
ん?もういいのか。サマーリーダー交代の話はしないらしい。
「えーっと、今回来てもらったのは……クラスの新しい呼び方を代表者達で分かりやすいやつを決めて、みんなで使おうよって話。今回はBとCが入れ替わったけど、4月に入学してから使ってきたクラス呼びで慣れちゃってるじゃん?だから別の呼び方を用意しておこうよって」
「……それ、必要かしら?」
ちょっと面倒そうな堀北。じゃあ来んなアホ。
「理由はめちゃくちゃあるけど、何より『面倒だから』だよ。『分かりにくい』って言ってもいい。今この場で『Bクラス』って言ったら、そりゃちゃんと把握してる人が多いだろうから『龍園のクラスの事か』ってなるかもしれないけど、違うクラスで、関係が薄い生徒だったら?……ちゃんと把握してるはず!って断言出来ないでしょ」
「それは……でも、みんな自然と覚えていくものじゃないかしら」
頭良いからって全員出来ると思っちゃうの良くないよな。堀北こいつ人の上に立つ人間としてはイマイチだと思う。
「もちろん慣れの問題もあるでしょ。けど、この先も何度かクラス変動があるって考えた方が自然だし、その時その時で全員が100%把握してると期待するのはアホでしょ」
「……。」
「もっと言うとさ、過去の話になると、異常なほど複雑になっちゃうと思うんだよね」
「……どういうことかしら?」
俺もさっき神崎と話してて気付いたんだけど、
「例えば『無人島試験ではBクラスが1番上手くやれてたよね』って言ったらさ、多分その時のBクラスの事だろうなって現時点ではなんとなく分かるでしょ?」
「まだ1週間も経ってないもの。当然でしょう」
言い方がイチイチ微妙にムカつくな。
「けど、数ヶ月とか経って、『無人島試験ではCクラスが1番上手くやれてた』なんていう表現をしたら、今のCクラスを指してるのか、当時のCクラスか分からんでしょ。……この先も特別試験の結果がずっと積み重なっていって、毎回毎回の試験で、その時どのクラスが何クラスだったか、それを全員が把握してられる訳ねーじゃん?……でしょ?」
周りを見渡しながら言ったけれど、割とみんな納得してくれてるっぽい。多分。
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「意図は分かった。確かに、それぞれのクラスへの呼称はあっても良いかもしれない。……浅井に何か案があるのか?」
ハゲ!よくぞ聞いてくれた!
「いくつか用意してきたよ。まずは……入学時のABCDそれぞれで固定して『元々クラス』で呼ぶ案。一之瀬はこれからずっと『元Bクラス』だし、俺達は『元Cクラス』ってこと。元B、元Cって呼びやすいでしょ」
「ふむ……。慣れ親しんだクラスを使って認識しやすいかもしれない。だが、これから先もクラス変動があった場合、1つ前のクラスを指してると認識されてしまうんじゃないか?」
「あ~……元クラスが最初のクラスを指すとは限らないってか」
そうかもしれないかな。
「あの、浅井くん。もしかしたら、その呼び方ちょっと嫌な子も居るかもしれないかな……」
「えっ?……なんで?」
まさか一之瀬から反対されるとは思わなかった。
「その、もしかしたら『お前らはBクラスだったけど落ちた』って言われてるように感じちゃう子も居ると思うんだ」
「……なるほど?」
「それよりは、悔しいけれど『Cクラス』ってちゃんと呼ばれた方が良いかな。確かに、分かりにくい時があるかもしれないけど……」
よく分からんけど、まぁいいや。それほど本命の案じゃないし。
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「うーん、次行こう。2つ目は、数字で『1組2組3組4組』って呼んじゃう案!」
これ結構良いでしょ。どっちかって言ったらむしろクラス分けをABCにしてる方が全国でも珍しいだろうし。
「……確かに、判別はしやすいな」
「問題も特に無いと思うわ。クラス変動に影響されないし」
おっ、ハゲと堀北が良い反応だ。
「あの、葛城くん、堀北さん。そういう、現状と違いすぎる呼称を使って、学校側に怒られたりはしないかな……?」
あれ~?またもや一之瀬が否定的だ。寂しい。
「ふーむ……どうだろうか。学校側の表記は変わらないだろうが、認識に齟齬が出るなどということで指摘される可能性はあるかもしれないな。先生方に確認を取っておいた方が間違いがないだろう」
「……そうね」
あーあ、2人も反論する気無いんかい。
「あと、その、やっぱり今までの呼び方と違いすぎて、みんなも慣れないかもしれないかなって思うかな……。ごめんね浅井くん」
「ん、大丈夫」
まぁ俺も『使いたいか?』って考えたら、別にそれほど好きな呼び方ではないかな。面白さが無いし。
ただ学校側が最初から使うべき呼称だとは思う。1組2組って。最初の1ヶ月過ぎた後からでもいいから。
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「虎徹くん、私からもいいかな?」
ちょっと珍しいことに櫛田からの発言だ。
「もちろん。何か案ある?」
「うん。そのね、今でも『龍園くんのクラス』とか『葛城くんのクラス』って呼び方をしたりもするから、そのまま使ってみたらどうかな?……って思うんだけども」
まぁ、それになるのか……。
「あっ、私もそれに賛成かな。それだったらみんな自然と慣れそうだし、分かりやすいし、クラスが変わっても変わらないもんね!」
櫛田に続き一之瀬からも賛同の声。これもう決まりかも。
「良いと思うわ」
「うん、僕も賛成だよ」
「……俺も異論は無い」
堀北、平田。そして神崎。
「フン、勝手にしろ」
「……。」
残る龍園の反応を見たけど、結局何も言ってないのと同義。まぁいいけどさ。アルベルトは元から無口だからいいや。
……アールを見てて思いついたけど、アルファ、ベータ、ガンマ、デルタとかどうだろうか。軍で使うコードだったらアルファ、ブラボー、チャーリー、デルタか。かっこいいし、識別性が抜群。
いや、これどっちにしろ1組とかそういう発想と同じだな。残念ながら慣れにくいのに変わりはないか……。
「決まりのようだな。……ただ、俺のAクラスは夏休み明けから恐らく坂柳が率いる事になるだろう。つまり『坂柳クラス』になるだろうということだ」
「えっ?」
ハゲによる、いきなり衝撃の告白だ。
「俺の指揮下にあったAクラスは2回連続して特別試験に完敗している。認めたくはないが、もう俺にクラスを率いる資格は無いと判断されるだろう」
まぁしゃーないか……。みんな、何とも言えない、同情するような顔をしてる。
「フッ」
いや龍園だけ笑ってた。なにわろとんねんロン毛、相変わらず性格悪いねぇ。
「龍園、……そして、浅井も。お前達のクラスには、全力で立ち向かい、クラスが団結していないと敗北するという事が分かった。かろうじて今はまだ俺達がAクラスだが、圧倒的に負けたという事実は認めるしかない。……だが!これからもずっと負け続けるつもりはない。俺は坂柳のサポートに回り、お前達に勝つため動いていく。もう二度と負けるつもりはない」
めちゃくちゃ真剣で、熱い眼で宣言してきた葛城。けど、その宣戦布告なんやねん、俺も巻き込む必要無いでしょ。やだも~、なんて返せばいいんだ?
「あ~……頑張って?」
「クク、負け犬のお前がクラスの統率に関われんのか?」
そりゃ関われるに決まってんだろ、ハゲかなり優秀なんだし……と思ったけど、かなり失敗したとも言えるから難しいのかな?
「……さぁ、どうだろうな」
分からんのかーい!……しかしなんだその顔、全然変わってないはずなのに、ちょっと泣きそうになってるようにも見える。どんな表情だよ。
とりあえず、夏明け、2学期にどうなるか見てみるしかないってことだろうな。
でも、そっか、次の試験からは隠れてた坂柳が出てくるんだろうなぁ……。怖いよ。ボロ負けしそう。
しばらくCPが大きく変動する試験無いといいな。せめてppを貯め込んでおきたい。
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話がまとまって終わり、なんとなく解散ムードになっているけれど、せっかく集まってもらったのでアイデアを公開してから終わっておこう。もったいないもん。
「ちょい待った!……クラスの呼び方はさっきの『代表者+クラス』の形で決定して良いんだけど、せっかくだから他に考えてきたやつもあるから聞いてよ」
「あっ、そうなの?……うん。聞かせてくれるかな?」
一之瀬は素直に聞く態勢になってくれたけど、他はちょっとめんどくさそうだ。ちくしょうめ。
「これが俺のイチオシ、『ハリーポッターの4寮呼び』だ!……Aクラスは勉強家、優等生タイプが多いからレイブンクロー。Bクラス、じゃなくて一之瀬クラスは仲良しで温厚なタイプが多いから、ハッフルパフ。そして俺達は、龍園がずる賢すぎるのと、なんだかんだ団結してるし、陰気臭いし、暴力的だからスリザリン。そしてDクラスは……まぁ、グリフィンドール。理由は特に無し!」
裏のマイナス要素も言ってしまうと、
A:陰湿根暗
B:間抜け
C:狂信者
D:考えなしの馬鹿
って感じだし、それもまた合ってる。
本当はDクラスにはアズカバァン!って言いたいけど、流石に特別試験2回連続して思い通りに動いてくれなかった『難敵』を相手にその評価はなぁ……という。あとまぁ普通に『お前らはアズカバンな』って言っても聞き入れてもらえないだろうし。
「ふふ、面白いね虎徹くん。言われてみると、かなりピッタリだね」
おっと櫛田からは高評価、可愛い笑顔を見せてくれてる。……じゃあなんで俺を振った?思い出すとやっぱ少しへこむわ~。
「あの、ごめんね浅井くん。私ハリーポッター読んでない……」
まさかの一之瀬、未読宣言。ウッソだろお前。
「えっ、……他に読んでない人は?」
「俺もだ」
聞いてみたら、軽く手を挙げる神崎、葛城、そしてアルベルトもかよ。嘘だろ、俺的にちょっとBクラス……じゃない、一之瀬クラスの評価だだ下がりだよ。ショック。
「えぇ~……まぁ、しゃーないか……」
けど世界で一番読まれてる娯楽小説だぞ。読めよ。『呼び方がちょっと長くなる』的に断られるのは覚悟してたけど、そもそも知らないやつばっかとは思わなかった。は~、悲しい。
「それで?他にも何かあるの?……無いなら帰っていいかしら」
軽く落ち込んでる俺に、気を使う事無く好きに言ってくる堀北。なんだお前。
「いやお前どうでもいいよ。帰れ帰れ、呼びたくて呼んだ訳でもないし。……あっ、そもそもDクラスのリーダーってお前でいいの?」
そこがハッキリしないと新しい呼び方が出来ないじゃん。
「……。」
何か言おうと口を少し開き、結局何も言わなかった堀北。『私のクラスだ!』って断言出来ないのかよ、良くそんなテキトーなクラス状況で試験とかやれてたね……。訳が分からん。
「まぁいいや。アイデア、もう1つだけあるんだよね。それはクラス代表者じゃなくて、ただ担任教師の名前を使えばいいかな?って。『真嶋クラス』『星乃宮クラス』『坂上クラス』『茶柱クラス』で、これも教師が変わることは無いだろうし、勝手に略したりしてもいいかなって」
確か卒業まで同じ担任教師って言ってたし。
「略すとは?」
ハゲの相槌、これもクラスリーダーから脱落したら最後なのかな……。ちょっと寂しい。相槌係として残ってくれないかな。
「『真嶋クラス』は『まクラス』とか、他は『星クラス』『坂クラス』『茶クラス』とかかな。まぁ、俺的には今ひとつなアイデアだけどね」
担任教師の名前と顔、意外とみんな覚えてないと思うし。ウチの坂上先生とか影薄すぎな気もするし。
「そうか?……悪くないと思ったが」
「あれ?そう?」
意外と好感触?サンキューハゲ。
「だがまぁ、既に決まった話だからな」
確かに。これ以上はもう話す意味も無いか。
「んじゃ、もう解散にしよっか。お疲れ~」
豪華客船の生活も、あと数時間で終わりか……。
最後に、腹を空かせてから、今まで食った一番美味しい料理を食いに行こう。良く分からんメチャウマソースとワサビ醤油の2種類の味付けにしたステーキ、そして黒胡椒とキノコが乗ったハンバーグだな。米もパンもサラダもいらん。肉だけ食ったるわい!