ようこそ邪悪な教室へ   作:マトナカ

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調整平均って票の上下10%ずつを削った80%での評価値なんですね。
上下20%ずつ削ってるんだと思ってました。


サマーモラトリアム
坂柳との夏トーク


こんにちは、夏合宿が終わってから2日ほど経った今、クーラー効きまくりの部屋でゴロゴロしてた俺は浅井虎徹です。

 

8月の中旬、日中の暑さがどんどん酷くなってる。外に出る気せーへん……。

 

でも、昨日、帰ってきた翌日はみんなと祝勝会っぽいことをした。特別試験で勝てたのと、クラス昇格したお祝い的な感じで。

 

ボーリングに行って遊び、ファミレスに行き、カラオケに行き、ラーメン食いに行って、解散した。ちょっと金に余裕がある、健全な男子学生の休日だったと思う。

 

実は同級生数人と遊ぶのは初めてだったけど、うん、楽しかったかな。

 

ちなみにメンバーは無人島での居残り勢、割と仲良くなった奴らだ。ほぼ不良メンバーと言っても良いメンツ。石崎、小宮、近藤の龍園の奴隷3人組に、アルベルト、山脇、鈴木。そこまで盛り上げ役が居るわけじゃないけど、そこそこ仲良いから気を使わないで済む良いグループだと思う。

 

一応呼んだけど、当然ながら龍園は来なかった。これに関しては『呼んでも来ない空気読まないアホ』とかじゃなく、『部下に気を使って出席しなかった社長』っぽさがある。いやまぁ、面倒だっただけという可能性もめちゃあるけど。

 

そんな遊びまくってた俺達に残ってたのは、夏休みの宿題と、残り2週間を切ってるという悲しい現実だった。ファッキン宿題、いらない……。燃やしたい。

 

「めんどくっさ……」

 

夏休みの宿題は、生徒にメリハリを学ばせるためなのか、豪華客船の中でやらせたくなかったのか分からないけど、なぜか夏合宿が終わってから出された。まぁ合宿前に出されてもやってないだろうけどさ。宿題の量としては、少なくないけど……超エリート学校としては、もしかしたら少ないかも?

 

坂柳とか葛城とか、椎名金田とかそういう『頭が良いタイプ』はもっとやってそうとは思う。勤勉な生徒にとっては、自主的にもっとやれる余地をしっかり残した課題量。そしてバカな生徒にとっても、頑張ればなんとか消化できそうな量って気がする。あえて差を作りつつ、最低限のセーフティにもするっていう。……いや分からんけど。

 

俺にとっては、まぁ出来るだろうけど、普通に大変、やりたくない……みたいな量かな。プラスアルファは無理だね。勉強そんなに好きじゃないから。

 

ただまぁ、やるしかないっていうのも事実だ。『試験で赤点だったら退学』というのは今後ずっと同じらしいから。最低限、宿題をちゃんとやって理解して記憶しておかないと退学になりかねないもんね。だからやるしかない。

 

でも、めんどくさいものはめんどくさい。めんどくさい!!!

 

やるしかない。めんどくさい。やるしかない。めんどくさい。

 

はぁ~~~…………。

 

まぁ、やるか。形だけでもとりあえずやっちゃおう。

 

 

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時刻は12時過ぎ。なんだかんだ4時間くらいやってた。ん~、量としては1割くらいかな……。

 

夏休みは残り2週間ちょっと、毎日このペースなら余裕ありそう。でもまぁ出来たら1週間くらいで終わるようにやっちゃおう。他にやることもないし。

 

そういや部活やってる奴らは時間少なくて結構大変そうだな……。文武両道、偉い。

 

どうせまたテスト前になったら俺がテスト対策の面倒を見ることになりそうだし、ちょっとした要点まとめたやつ作ったろうかな?金田と椎名にも頼んで、科目ごとに分担してもいいかも。

 

ん?……おっと、触らないように枕の下に隠してたスマホにメッセージの通知が来てた。

 

【坂柳有栖】:こんにちは浅井くん。会ってお話をしませんか?

 

これデートのお誘いやんけ!……通知は2時間ほど前。やべ、急いで返信するか。

 

【浅井虎徹】:オッケー!今日?

 

なんか返信遅れた理由で面白いこと言えないかな、勉強してたって言っても超つまんないし、嘘だと思われるかもしれないし、カッコつけるにしても違うしなぁ……とか考えてたらもう返信来ちゃった。

 

【坂柳有栖】:今日の17時頃はいかがでしょう?

 

【浅井虎徹】:大丈夫だよ。日差しも弱くなって良さそうだね

 

【坂柳有栖】:では、恐縮ですがAクラスの教室に来て頂けませんか?

 

えっ、学校行ってんの?夏休みなのに?自習とかで教室使ってんのかな……。

 

【浅井虎徹】:了解。それじゃまた後でね

 

【坂柳有栖】:ありがとうございます。お待ちしてます

 

ありがとう?なんで?……と思ったけど、わざわざ来させてごめんなさいってことか?もしそうなら律儀だな~。

 

坂柳の足が悪いから気を使ってるのもあるけど、あれほど美少女だったら別に足が悪くなくても素直にどこでも行くと思うけどね。

 

さて、昼飯食って、もうひと頑張りしますか。

 

坂柳というご褒美もあるし、ちょっとやる気も出てきたかな。人に聞いても変じゃない難問があったら、覚えて行って坂柳に聞いてみよう。

 

よっしゃ!出てこい難問!

 

 

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それほど難しい問題が見つからないまま数時間経ち、嬉しいようなムカつくような不思議な心境で学校に来た。

 

「おいっす~」

 

ちょっとは暑さがマシになった夕方、17時前。ちょっと早めにAクラスの教室に来て扉を開けてみると、坂柳だけじゃなく神室、浮浪者みたいな鬼頭、そして他に男子2人女子3人という合計8人も居た。なんか多いな。

 

みんな机に筆記用具を並べてるし、やっぱ勉強会やってたっぽい。明日もやるなら参加させてもらいたいかも。1人でやるより周りにも勉強してる人が居たほうが良いかもだし。

 

「こんにちは浅井くん、よく来てくれましたね」

 

「ん、久しぶり」

 

そりゃ来るでしょ。

 

「……制服の方が良かったとは思いますけれども」

 

「えっ、マジで?」

 

普通に部屋着で来ちゃったよ。確かにみんな制服だ。あちゃ~。

 

「では、皆さん。今日はここまでにしましょう。……全員解散して下さい」

 

坂柳の号令でみんな机を片付け、黙って教室から出ていった。ちょっと助かる、あんまり大人数だと話しにくいし。

 

みんな出ていったのを見て、坂柳にそもそもの疑問を投げかけてみた。

 

「今日はどしたの?」

 

呼ばれた理由にイマイチ心当たりが無いんだよね。CP勝負は『夏休み中』って話だったはずだし、まだ早い。

 

「浅井くんに夏合宿について伺いたい、というのが1つです」

 

「あー、はいはい。……他にもなんかあんの?」

 

行ってなかった時の話を別クラスの人間からも聞きたいってことか。そりゃ特別試験に出れなかった疎外感とかあるだろうからね。

 

「そしてもう1つは、クラスポイント勝負についてです。まだ夏休みは終わっていませんが、ほぼ間違いなく夏休み中の特別試験はもうありませんので、今日までを区切りに終了ということで構いません」

 

「えっ……いやありがたいけど、良いの?」

 

坂柳が負けを認めるのが、なんかすごい意外だ。

 

そりゃCクラス……じゃなくて、我らがBクラス、龍園クラスである俺達の勝利は99%間違いないだろうけど、大逆転敗北という可能性がゼロという訳じゃない。

 

AクラスがCPを増やせずとも、逆に龍園クラスの誰かを買収するなり、騙すなりして、操って、CPを減点させまくるとかで逆転は一応可能だ。

 

「ええ、私の負けで構いません。『虎徹』くん」

 

「おぉ~!良いねぇ!」

 

やっぱ嬉しいね、名前呼び。一気に親しみが増した感じがする。やったぜ。

 

これで『虎徹』呼びをしてくれる女子は、櫛田と坂柳、あとは呼んでくれるはずなのにまったく呼んでくれない伊吹の合計3人だね。

 

伊吹は『アンタ』とか『アイツ』呼びしかしてこない、悲しい。今度『名前覚えられないの?』とかで煽ってみるか。もしくは逃げる準備した上で『ミオ』呼びしまくるか。

 

「喜んでもらえたなら嬉しいです。虎徹くん」

 

そう言って笑顔を見せてくれた坂柳。けど……あれ?

 

「ん~?……なんか企んでる?」

 

やけに優しい態度、可愛い笑顔を見せてくれてるけど、ちょっと違和感あるぞ。……俺を良い気にさせて情報を聞き出したいとか?

 

「……そう思いますか?」

 

そう言いながら、ちょっと目が細く鋭くなり、少しだけ怖い、それでいて本気で楽しそうにも見える笑顔になった。

 

「んはは!そっちの笑顔の方が似合うと思うよ」

 

「ふふふ……そうですか。えぇ、虎徹くんに試験について色々白状させたいと思い、ちょっと笑顔を作ってみましたが、見抜かれてしまいましたね。流石です虎徹くん」

 

「あー、まぁ、うん」

 

そんなにモテる人間じゃないから、他人の好意を持ってそうな態度に違和感があって疑ってしまった……って言うのは流石に恥ずかしいから黙っておこう。

 

 

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「それで、虎徹くん。夏合宿は楽しかったですか?」

 

坂柳は絶対に意図してやってるだろうけど、しっかり虎徹くん呼びしてくれて気分が良いから情報しゃべっちゃおう。まぁ、なんだかんだ合宿に行けなかったのは普通に可哀想だし、夏の思い出を共有ってことで色々話してあげてもいいでしょ。

 

「うん。結構楽しかったよ。試験はめんどくさかったし、無人島は……めっちゃクソだったけど、船ではウマいものいっぱい食えたし、海も綺麗だったし、良い経験だったよ」

 

無人島では死ぬほど暑かったし、とにかく湿気が酷くて不快感ヤバかったし、飲料水は生ぬるくてマズかったし、夜は暑くてイマイチ気持ちよく眠れなかったし、虫はウザい、日焼けはヒリヒリする、水浴びしても数時間で汗だくでヌメヌメ、総じてガチクソだったけど……それは黙っておこう。

 

ホントに良い経験ではあった、良くも悪くも。

 

「そうですか。……夏の特別試験に関して、既にクラスメイトから聞いてはいるのですが、虎徹くんからもいくつか伺ってもいいですか?」

 

「んん?」

 

もう聞いてるなら俺が言うことあるかね?

 

「船上試験ではなく、無人島試験について、もっと詳しく聞きたいことがあるんです。もちろん答えられる範囲で構いません」

 

「まぁ、ええよ~」

 

別に『答えられない範囲』なんて無いような気もするけどね。もう試験終わってんだし、バレて困ることは特に無い気がする。『だいたい龍園が企んでたから龍園が悪いよ』って本当のことを主張しておけば大丈夫でしょ。

 

「では……無人島試験についてですが、Cクラス、失礼。現Bクラスの『龍園クラス』の計画は、大きく3つあったと認識しています」

 

おっ、クラスの呼称についての話も聞いてるのか。耳が早いな。ハゲが伝えたのかも。

 

「3つ?」

 

多い気もするし、少ない気もする。色々考えまくってやりすぎてハッキリ覚えてないや。

 

「1つ目は『特別試験でのポイントを物資に替えて売却』という、私達のクラスが実質的に借金を作ることになってしまったものです。月々CP200相当のpp、つまりクラス全体で月々80万ppを支払い続けるという契約。そうですよね?」

 

無人島のポイント、俺達がSPって呼んでたやつか。試験終了時にCPになるやつ。契約に関してはうろ覚えだけど、そんな感じだったはず。

 

「うん、多分ね。正確には龍園しか知らないんじゃないかな」

 

俺は契約する場に居なかったような気がするし。言われてみると教師にどういう契約なのか確認しておいた方がいいな。どうせ龍園が金を受け取ってるけどね。そういう意味では、みんな実感が無いままAクラスからの恨みが積み重なっていくって事なのか……。

 

「そうでしたか。……2つ目は『龍園クラスはサマーリーダーを公開し、それぞれのクラスからCP50相当のppを毎月受け取る契約を結ぶ』ですね。その契約を強要するために、食料の処分活動もしていたと聞いています」

 

「そうだね。合ってるよ」

 

どうせSP、スペシャルポイント?サマーポイント?がゼロになるんだから、サマーリーダーの情報を公開して取引しちゃおうっていうやつ。ちょっと懐かしい。

 

「これを思いついたのは虎徹くん、というのは事実ですか?」

 

あれ?言ったっけ?島でみんなに言ったような、言ってないような……。まぁいいや。

 

「うん、そうだよ。龍園が島についてすぐ『SP200を物資にしてAクラスに渡す』とか言い出して、『だったらリーダー情報を売れるかも?』みたいに思いついたやつ」

 

「とても良い作戦だったと思います。その契約で企んでいた、本当の狙いというのは、」

 

「ん?」

 

本当の狙い?

 

「契約する際に、リタイア交代の可能性について言及されずに済んだ場合は、龍園クラスはサマーリーダーを変更し、そうすることで他3クラスにはリーダー指名を失敗させる。加えて、他3クラスへのリーダー指名を当てに行っていた。……ですよね?」

 

なんか、当然のようにアッサリと見抜かれてんなぁ……。坂柳が居なくて良かったよ。いやまぁそれ失敗したんだけどね。

 

「リーダー情報を売った後のそういう色々を考えたのは龍園だったと思うけど……期待できる最大利益はそんな感じだったと思う。結局出来なかったけど」

 

そういうのは日が落ちた後のテントで、龍園と2人で色々話しながら考えたから、龍園が全部考えたとは言いにくいけど、まぁ全部アイツが考えたってことでいいや。

 

「葛城くんが『提示したリーダーを変更されるかもしれない』という可能性には気付くことが出来て、契約にペナルティを盛り込むことで阻止出来たようですね。もし見逃してしまっていたら、どこまで龍園くんの好き放題にされてしまっていたかと恐ろしい話です」

 

ん~、懐かしい。そういやハゲが最初に気付いちゃって、それを目の前で見てた一之瀬もリーダー交代時のペナルティを加えちゃったりして、あーあって感じのやつ。

 

「そうそう。ハゲが気付かないでくれてたら、無人島試験でもCP増やせてたかもしれないんだよね~」

 

しっかりppは稼げてたから良いんだけど、残念と言えば残念。

 

「ふふ、そうですね。……それで、最後の3つ目ですが、これはただ『Aクラス脱落』という話です。戸塚くんが見事に挑発に乗ってしまい、暴行に走ってしまったという」

 

戸塚くん?

 

「……やひこ?」

 

「はい。戸塚弥彦くんです。虎徹くんが上手く挑発したんですよね?」

 

アイツ騙すのは結構イージーだったけどね。

 

「まぁ演技をそこそこ上手くやれたとは思うけど……詳しく何をしたかは、内緒で!」

 

なんか引かれたら嫌だし、変に警戒されちゃうかもしれないし言わないでおこう。説明するのめんどくさいし。

 

「そうですか。……えぇ、総じて、龍園クラスの行動、虎徹くんの案も含め、どれも素晴らしい知略だったと素直に感心しました。お見事です」

 

なんか本当に感心してるっぽい?めっちゃ楽しそうな顔だ。

 

「えーっと、ありがとうございます?」

 

「ふふ。……本当に、私も参加したかったくらいです」

 

浮かべてるのはさっきと変わらない笑顔だけど、なんか可哀想だ。完全に関われなかったってのはやっぱり寂しいのかも。

 

「うーん、今考えると……SPで無線機をポイントで交換して、すぐリタイアして、船から無線機を使ったら、もしかしたら坂柳も試験に参加出来たかもしれないね。できるのは指示を出すくらいだけどさ」

 

「無線機ですか」

 

「船の位置的に、電波がずっと届く距離かは微妙だけど、意外と無線機使える気もする。あっ、学校側だって船とやり取りしてたはずだし」

 

それだったら体調悪くても客室で休めばいい。なんか良い案だなこれ。

 

「なるほど……。可能かもしれませんね」

 

「だよね。けど……坂柳としては、なるべく早く葛城vs坂柳の派閥戦争を終わらせたくて、そのためにはハゲに全権渡してお任せして、その上で失敗してもらったのは都合が良かったんでしょ?」

 

見事にそうなったから、もう『リーダーは坂柳!』みたいな雰囲気なんじゃないかな。

 

「ふふ。さぁ、どうでしょうか?」

 

うーん、イタズラに気付かれて喜んでる妖精みたいな笑顔だ。かわいい。

 

さて、俺らがやってたことは9割くらい把握されちゃってるみたいだけど、もし坂柳が参加出来てたらどうしてたのかな?

 

……聞いてみるか。




長くなりすぎたので分割しました。

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