ようこそ邪悪な教室へ   作:マトナカ

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伊吹カウンセリング

ん?チャット?

 

【伊吹 澪】:明日ヒマ?

【伊吹 澪】:占い付き合ってくんない?

【伊吹 澪】:2人じゃないとやってもらえないから

【伊吹 澪】:ダメならダメでいい

 

「いよっしゃー!!!」

 

まさかの伊吹からデートの誘いが来て、有頂天になってる俺は浅井虎徹です。「映画行こうよ」ってチャット送っても無視されてたから完全に脈無いと思ってたよ。

 

【浅井虎徹】:行く!

 

とりあえず返信して、スマホで調べてみると……これか。『ケヤキモールに外部から来た占いの館、10時から17時まで』とのこと。ふーん。

 

学内掲示板にもあった。『めっちゃ当たってた』『彼氏と行きたかった……』『女子ばっかりで行きにくい』『すごい混んでた』とかなんとか。いや~、この最近の暑さで長時間並ぶのは嫌だな……。

 

【浅井虎徹】:デートとしてはちょっと早いけど9時くらいから並ばない?

【浅井虎徹】:10時からみたいだけど

【浅井虎徹】:暑さもまだマシだろうし

【浅井虎徹】:2時間くらい並んでた、って感想もあったし

 

暑くなけりゃ俺も2時間くらい並んでもいいんだけどね、伊吹と2人きりだし。ただ、早めに行って2時間待つとかじゃなく、『あと何時間並んでる必要があるか分からない』とか、そういう状況はめちゃくちゃ嫌いだ。

 

【伊吹 澪】:分かった。寮のロビーに9時くらいで

 

おっ、返信早い。

 

【浅井虎徹】:オッケー!よろしく!

 

よし……。めちゃくちゃ楽しみだな。

 

どうせ明日も暑いし、小さいペットボトルのお茶でも用意しておこう。ハンカチも、カッコつけて貸せるように2枚持っておこうかな。

 

服は……どうしようかな。このクソ暑い中に出ていくのは正直クソ面倒だけど、デート用のちゃんとしたやつを今から買いに行っちゃうか。あとオシャレするとしたらなんだ?香水とか?よく分からんし臭いって思われたら嫌だから無しでいいかな。でも汗を抑えるスプレーみたいなのは1本買っておこう。

 

他には、一応コンドームもあった方がいい?……分かんねーな。自由恋愛の流れは知らん。でも、いつか使うだろうし買っとくか。

 

外は30度超えてるし、地獄の直射日光を浴びることになるだろうけど……仕方ない。よし、買い物行ってきます!

 

 

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次の日、デート当日の朝。万全の準備をして8時半からロビーで待っていた。もうそろそろ9時だな。

 

「……おはよう」

 

「おはよう伊吹!……うん、私服でも可愛いね!!」

 

正直セリフは前から決めてたけど、ミニスカートに薄い生地で透き通るようなカーディガンを羽織っていて、実際マジで可愛い。大人しいファッションではあるけど、すらりとした綺麗な脚がほとんど見えてるから健康的にえろ……魅力的でもある。涼しそうなのも良いね。

 

靴は運動靴みたいだ。まぁヒールとか似合うタイプじゃないし、健康的でいいね。デートで足の心配しなくて済むのもグッドだ。今日はそこまで歩かないだろうけど。

 

「うるさい」

 

えー!?褒めたのに……。

 

「……まぁ、せっかく早く待ち合わせたんだし、もう行こか」

 

軽く頷くだけの伊吹。

 

これ、脈アリのかナシなのか全く分からん……。

 

 

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ケヤキモールに到着したのは9時ちょっと過ぎ。1時間くらい前だし、流石に一番乗りだと思ってたのに、もう既に上級生っぽい女子が2人並んでいた。はっや!

 

「いや~、早すぎたかと思ったけど正解だったかもね。これどこまで並ぶのか想像もつかないよ」

 

「ん……」

 

伊吹、あんまり雑談するタイプじゃないのは知ってたけど、ここまで無口だったっけ?

 

「えーっと……今日はデート誘ってくれてありがとね」

 

前に居る女子には聞こえないように、という名目で内緒話をするように伊吹の耳に口を近付けて小声で言った。ちょっと良い匂いする。

 

「デートじゃない。ただ……他に居なかっただけ」

 

微妙に距離を取られながら否定されてしまう。いやいや、男女で待ち合わせして出かけるんだからデートでしょ……。何を言うてるんだ。アホか?これはデートです!!!

 

それにしても、友達が居ないから俺を誘ったってこと?なんか、そっちの方が悲しくないか……?まぁいいや。それならそれで、一生友達作らないでくれていいな。ずっと孤立しててくれ伊吹。

 

「まぁ、理由がなんであれ誘ってくれて嬉しいよ。ありがとう」

 

「別に。……それより、私と居ても楽しくないでしょ。無理して演技したりしなくていい」

 

はい?

 

「なんで?かなり楽しいよ」

 

ウッキウキだよ。

 

「気を使わなくたって分かってる。……他人と話すの、緊張するんだよ。緊張するから、トゲトゲしい感じになる。だから、空気が悪くなる」

 

「……そんなの悩んでたの?正直、なんか意外だよ」

 

思ったこと言いまくってて、孤高の存在でも気にしないタイプだと思ってた。俺はその攻撃的な部分も結構好きだけど……って言うとマゾっぽく見えちゃうからやめとこ。

 

「フン。似合わないのは分かってる、だから無理してしゃべりかけなくてもいい」

 

ん~、なんか励ましておくか。

 

「いや無理してないから大丈夫だけど」

 

「チッ……」

 

舌打ちすな!

 

「そもそも、なんで会話するだけで緊張すんの?」

 

怖い人を相手にしてたら、そりゃあ俺だって緊張するけどさ。でもそれは生物的本能みたいなもんだから全然違う気がする。

 

「……知らない」

 

分からんのかーい!!

 

「んー、……多分だけど、『優しいから』だと思うんだよね」

 

「は?別に、そんな訳無いでしょ」

 

「いやいやいや。じゃあ、これは極端な例だけど、龍園は人としゃべってて緊張してると思う?」

 

「思わない」

 

すげぇ即答。まぁそうだろうけど。

 

「でしょ?それはアイツが『誰にどう思われてもどうでもいい』って思ってる、嫌われてもなんともない、頭がおかしい常識の無いコミュ障バカだからでしょ?ある意味で嫌われて喜んでるアホだね」

 

「ふっ」

 

あれ?ちょっと笑った?

 

「人と話してて緊張しちゃうのは、多分だけど『嫌われたくない』とか、『相手に嫌な思いをさせたくない』とかいう配慮があるからなんじゃないの?」

 

「まぁ……。そうかもしれない」

 

「それなら、やっぱ伊吹は『優しいから』気を使って上手くしゃべれず、だから会話能力があんまり伸びないまま、さらに会話が苦手になってる、みたいな感じだと思うよ」

 

「うっさい。……なら、どうしろっての」

 

「そりゃあもう、あんまり気を使わないでいい相手としゃべってみればいいと思うよ。そしたら『意外と嫌われない』って事はすぐ分かると思うし、そうなったら会話への苦手意識とか消えるんじゃない?」

 

「……。」

 

ちょっと思案顔だ。

 

「俺は、伊吹めっちゃ可愛いから普通に好きだし、会話してて嫌いになるって事はほぼ無いと思うよ。安心していい。そりゃあ、家族のことをバカにされた……とかあったらキレるかもしれないけど、まだ学生なんだから喧嘩したりも別にしていいんちゃうの?」

 

「……ふん」

 

あんまり納得してない顔だな。

 

「じゃあ、『自分が嫌われるかも』っていう恐怖がどうしてもあるっていうなら、逆に『こいつには嫌われてもいい』って思える相手と話してみたら?そしたら何も怖くないでしょ。嫌われてもいいんだから」

 

俺はぶっちゃけ伊吹そういうタイプだと思ってたんだけどね。好かれることを諦めて、嫌悪されることを受け入れてるから、攻撃的に気にせずしゃべってたっていう。……強がってただけなのかもしれない?

 

「まぁ……ちょっと参考になった」

 

「そりゃ良かった。いつでも話し相手なるよ!」

 

俺が『嫌わないでくれる枠』に入ってるか『嫌われてもいいどうでもいいヤツ枠』に入ってるかは聞きたくないけど、まぁどっちでも仲良くなれるならいいや。

 

「……あっそ」

 

こっちに目を合わせないで、機械的な返事をしやがる伊吹。なんだよそれも~、お前は魔性の女か?男で遊ぶんじゃない!

 

それにしても、伊吹もまだ高校1年生だもんね。大人になる前の悩み、って感じの少女らしい、思春期らしい悩みだ。

 

俺はそういうのねぇなぁ……。ウチで色々と教えてもらい過ぎて、きっと開き直りがすごいんだろな。『無理なもんは無理』『それは相手が悪い』とか逆ギレができちゃうから。全然悩まないのは若者としてどうなんだと自分で思っちゃうけど、まぁ、しゃーないか。

 

 

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時刻は10時前、なんとなく俺がほとんどしゃべってる雑談をしてると、あっという間にめちゃくちゃ列は伸びていた。もう軽く20人くらいは超えてるっぽい?すごい人気だな……。そして女子率もすごい、他に男子は、3人だけかな?男女カップル1組と、男同士の1組だけみたいだ。

 

そういえば、持ってきたペットボトルのお茶は普通に受け取ってくれた。良かった良かった、ナイス俺。

 

「伊吹、俺も肩組んでカップルですよアピールしていい?」

 

「嫌だ。絶対に。……触ったら蹴るよ」

 

ダメか~。いけると思ったんだけどな~、5%くらい。

 

「それでは占いの館を始めます。2人ずつ、空いた方に入っていって下さいね」

 

よっし、やっと時間か。昼前なのに結構もう暑いよ……。横に伊吹が居なかったら20秒で帰っとるわ。

 

あれ?占いの先生とやらは2人で、2組ずつ占ってくれるのか。知らなかった。じゃあ俺達もある意味で一番乗りだったってことか。

 

あまり馴染みのない学校の施設に入り、前の2人がちょっと迷いながら部屋に入っていくのを見て、もう1つの部屋に入ると、いきなり雰囲気が違う空間になっていた。

 

お香が炊かれた、赤い民族的な幾何学模様で囲まれた部屋。デカい水晶玉や、変な図とかが飾ってあったりする怪しげな少し薄暗い所だった。なんか、良い雰囲気じゃん。占いに興味なんてマジで無かったけど、ちょっとワクワクしてきた。

 

「お座り」

 

は?なんだババア。客に対して偉そうすぎだろ。しかもなんだそのフード、町中で見かけたら即通報するレベルで怪しすぎるぞ。顔もほとんど見えてないし。

 

「よろしくお願いします」

 

伊吹が礼儀正しく挨拶してさっさと座ってしまったので、仕方なしに俺も座る。

 

「あー、……よろしゃす」

 

「はい、よろしく。料金は1律5000円……じゃなくてポイント?だよ。これでよろしくね」

 

そう言って取り出したのはカードリーダー。部屋の雰囲気ぶち壊し過ぎで笑いそうになったけど、横に伊吹が真面目な顔をしてるので頑張って耐えた。

 

「……。」

 

伊吹の分も払おうか考える間もなく、すぐに学生証端末で決済しちゃってた。まぁいいや、俺も文句言わずに払っておくか。

 

「じゃあ、まず、2人は……友達だね。男と女の間柄じゃない。相性とかは興味無さそうだね」

 

うぉい!最初に何を見抜いとんねんババア!!嘘でも『仲良さそうな恋人同士ですね~』とか言え!死ね!

 

「はい」

 

伊吹も即答すんなよなぁ……。

 

「で、今日は何を知りたいんだい?占いも、手相、水晶、タロット、占星術。代表的なやつで、やって欲しいのがあるならそれでやってあげることも出来るよ」

 

意外と出来るババアなのか?っていうか占いってそういや何種類もあるのか。もちろん、俺にはやって欲しい占いなんて無い。

 

「あの……大殺界ってやつ、知りたいです」

 

なんじゃそりゃ。

 

「大殺界?そりゃいいけど、せっかくの時間もったいないだろ。生年月日が分かりゃ自分でも出せるし、本の1冊でも読めば自分で分かると思うよ?帰りに1冊買っていくといい、1000円もしないよ。他の占いにした方がいいんじゃないのかい?」

 

出来ない占いだから逃げてるとかじゃなく、割と本音で言ってくれてるっぽいかな。無愛想だけど良いババアなのかも。

 

「……じゃあ、えーっと、オススメの方法でお願いします」

 

「はいよ。わたしゃタロット引いて、それ元にして手相ってのが一番見やすいね。……あんちゃんもそれでいいかい?」

 

「ん?あぁ、はい。大丈夫っす」

 

超なんでもいい。良く分からんけど、伊吹が夢中みたいだからそれだけで十分だな。

 

 

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「じゃあ、お嬢ちゃんから占うよ。名前は?」

 

「伊吹、澪です」

 

ミオ、久しぶりに聞いたな。もうちょい仲良くなったら呼べるかまた試してみるか。

 

「自分がどんな人間なのか、性格はどうなのか、長所と短所はどんな所か、自問自答して考えながら、呼吸をゆっくりして……心を落ち着けて」

 

ババアは取り出した変な模様の緑っぽいカードを机の上にぶちまけて、がしゃがしゃと混ぜ始めた。規則的にも見えるし、不規則的にも見える。変なの。1枚も表になったりしないのは流石っぽい?

 

「……。」

 

集中した顔でカードを見ている伊吹をよそに、ババアはカードをトランプみたいに普通にシャッフルして、3つの山に分けて、またすぐ合わせて1つの山にした。そして机の上で一直線に広げるように、カードが綺麗に重なり合った状態に並べた。

 

「さぁ、好きなの1枚選んでみなさい」

 

「それじゃあ、……これで」

 

「表にしていいよ」

 

そう言われて出てきたカードは、なんかファンタジーに出てきそうな青い鎧を着てる戦士と、白と黒のライオン2匹だった。パンダじゃねぇんだぞ、なんだその色。ちなみにTHE CHARIOTって書いてある。チャー、チャリオット?

 

【挿絵表示】

 

 

「ふむ、『戦車』だね。援軍・摂理・勝利・復讐とかいう意味がある、人間性として見るなら、良くも悪くも直情的な人が多いね。意志が強く、行動力もある。ライバルが居ると大きく成長出来たりもする。けれど、だからこそ、暴走しないように注意が必要だよ」

 

「はぇ~」

 

ホントになんか合ってそうだ、伊吹っぽい。この占い、ちょっと期待できるのかも。

 

「手も見せてみな」

 

「はい」

 

「生命線は……しっかり太いね。長生きするし、健康、病気も治りやすいよ。……知能線、ちょっと短いかな。決断力があるとか良い面もあるけれど、慌てやすくもある。少し落ち着いて考えたり、誰かに意見を求めることも念頭に置くといいね。『戦車』だし特に気をつけた方がいい。感情線は、うーん、ちょっと薄いかな。アンタまだ若いんだから、諦めるのは早いよ。向いてない気はするかもしれないけど、自分なりの恋愛を見つけなさい」

 

マジ?恋愛もう諦めてたの?嘘でしょ?

 

「運命線、この学校に来るたび思うけど、ホントにみんなハッキリしてるよ……。いったい何やってんだか。これの意味は『様々な出来事がある』ってことだ、良い悪いを問わずね。大変だろうけど頑張るしかないね」

 

まぁこの学校に入れた時点で、そこそこ運命は面白いことになってそうかも。

 

「太陽線、財運線、結婚線。この3つは残念ながらあんまり良くないね……。将来的には、もしかしたら困るかもしれない。けど、散財するタイプでもないだろうし、力強く動いて成功出来るタイプだから、金に関しては心配することはないだろうね」

 

「……はい」

 

まぁ『金を稼ぎまくってやる!』みたいなタイプには見えないね。

 

「ただ、結婚に関しては、今のままじゃちょっと難しいかもしれない。ここは今から気をつけた方が良いね。もうちょっと笑顔を増やすとか、挨拶くらいは恥ずかしからずに出来るようになった方がいい。まだ高校生なんだから、いくらでも成長できる。意識してみなさい」

 

ここまでハッキリ助言するって、良いババアだな。手相で分かったのか、見るからにコミュニケーション苦手だと思ったからなのか分からんけど、伊吹に社交性がもっととあった方が良いのはマジだろうし、ハッキリ注意するのは偉い。

 

ただ、そこまで言うなら『アンタの魅力を分かってくれる人も居るよ』『ほら横に!』くらい言えよ。商売ヘタクソか?

 

「はい。……ありがとうございました」

 

伊吹もちゃんと会話出来てんじゃん。会話が苦手ってのも、同学年に合わせるのが苦手ってだけなのかもな。

 

「手相ってのは、一生ずっと変わらないとか思われたりするけど、意外と生き方ですぐ変わる部分も少なくないんだ。毎月のように見るほどのもんじゃないけど、人生ちょっと迷ったりしたら、健康診断みたいに使ってみるのも良いもんだよ。もちろん全部信じすぎるのは良くないけど、お金に余裕があったらまた来るといい。ひひひ」

 

うわっ、魔女みてぇな笑い方。ってか、服装からして魔女だし、多分本当に魔女だな。間違いない。魔女ババアだ。

 

「それじゃあ、次はあんちゃんだ。名前は?」

 

あ、そうか俺も占ってもらえるのか。忘れかけてた。ちょっと楽しみだ。

 




手相は意外と変わる、ってのはマジです。

「健康診断くらいの感覚で来い」って言う人が居るかは分かりませんが……w

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