ようこそ邪悪な教室へ   作:マトナカ

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女性観

時刻は夜20時、誰も居ない運動部のグラウンド近くで、浅井が来るのを待ってる俺は龍園翔だ。

 

来学期から本格的に他クラスを潰しに行くが、その上で不安材料がもしあるとしたら、それは『浅井が裏切る可能性』だ。アイツが何よりの邪魔になりかねない。

 

夏休みもそろそろ終わる現時点で、ハッキリさせておく必要がある。

 

伊吹からの報告では『まだ誰にも執着してなさそう』『女子と話すだけで割と楽しいとか思ってそう』とかいう話だった。それはつまり、まだ裏切る可能性が全然あるってことだ。

 

だから、俺が探りを入れる。現時点でのアイツの価値観を確かめる。

 

場合によっちゃ、そのまま聞き出す。『どういう場合だったら裏切るんだ?』と。当然、本音を言わない可能性もあるが、現時点では流石に裏切るつもりは無いはずだ。……恐らく。

 

そう考えをまとめていると、問題の野郎が来た。

 

「よ~っす、龍園。なんでこんな所で……。街灯あるだけで暗いし。蚊も多そうだしさー、電話で良いじゃんか」

 

「……寮の自室だと、隣接する部屋のヤツに盗聴されるかもしれねぇからな。ここなら盗み聞かれる可能性がほぼ無い。人通りもこの時間なら皆無で、視界も悪くねぇから近付いてきた人間に気付ける」

 

「あ、そっすか……。そこまで警戒する話って、なんかめんどくさそうなんだけど」

 

ダルそうに、それでいて一定の距離を保ったまま話しかけてくる浅井。恐らくコイツの癖であり、警戒心だろう。俺がすぐ掴めず、殴るのにも遠い距離。

 

「呼んだ理由はいくつかある。……とりあえず、お前から見た他クラス女子の印象を言え。何人かと接触してる事は聞いてる」

 

「相変わらず偉そうだねぇロン毛。そんなんじゃ話す気にならないだろ、って前も言わなかった?」

 

「チッ。……教えてくれ」

 

「はいはい、分かったよ。……別に言っても良いんだけど、なんでそんなの聞きたいの?」

 

「ただの情報収集だ。逆に、お前こそなぜ女子に近付く?ヤりたいだけか?」

 

コイツがただ性欲で動いてるってなら、やはり警戒心を持っておく必要がある。

 

「いや、微妙に違うかな。童貞臭いこと言うね龍園」

 

「黙れ。テメェはどうなんだよ」

 

「俺は、あ~~~……なんていうか、詳しく説明は出来ないけど、それなりに抱かせてもらった経験あるよ。『女に溺れるな』って事で、変な教育みたいな感じで。だからヤりたいだけで近付いてるってことは無いかな」

 

どんな教育だ……。恐らく裏稼業に関係する何かだろうが。入学前にやってるってなら、中学の時だぞ。

 

「性欲が理由じゃないってんなら、なぜだ」

 

「いや、性欲も理由としてあるよ、そりゃ男だし。でも、そうだなぁ……これ笑われるかもしれないけど、『結婚相手を探してる』って理由の方が強いね」

 

「は?」

 

「なんだよその反応。俺はみんなと違って、大学に行くのが確定じゃないからね。高卒で働くってなる可能性もまだそれなりに残ってるし、そうなったらもう、今ここで結婚相手を見つけて卒業した方が良いでしょ。可愛い子もいっぱい居るし」

 

「……なるほどな」

 

確かに、それだと色んな女子に近付いてる説明がつく。ただの女好きってのもあるだろうが。

 

「龍園、一応確認しておくけど、他人に言うなよ?」

 

「あぁ。お前もな」

 

「……スマホ出しといてよ、録音されたりしてたらムカつくし」

 

相変わらず妙に警戒しまくるヤツだ。

 

「これだ、何も動いてないのを確認しろ。俺も会話中は触らないでやる」

 

「……他に録音機器は?」

 

「ねぇよアホ。うぜぇな」

 

「ん~、まぁ、とりあえず信じとく。別に録音されて困るほどの事を言うつもり無いけどね」

 

だったら良いだろが……。

 

「早く話せ」

 

「はいはい、分かったよ。えーっと、『結婚相手を探してる』って視点で見ると、今の所、一番気に入ってるのはやっぱ伊吹だね。元気だし、肉体的にも健康だし、物怖じしないし、メンタルもそれなりに強そう。最優秀候補だ。同じクラスだから接触しやすいってのもあるね」

 

「……そうか」

 

気に入ってるとは思ってたが、そう説明されると納得も出来るな。

 

「似たタイプでAクラスにも神室が居るけど、坂柳の補佐というか、側近として色々やりまくってるから接触しにくいよね。だったら全然伊吹でいい、っていうか伊吹がいいや感ある。……そもそも、他クラスとの接触を増やすこと自体が割と難しいけど」

 

「まぁな」

 

それでも、コイツは他クラス生徒とかなり接触してる方だろうけどな。

 

「あとは、そうだね、坂柳とかもかなり好きだよ。頭脳明晰、割と好戦的、見た目はちょっと小さいけど間違いなく美少女だし。会話してても結構楽しいし、メリットさえあれば気を使ったりもしてたし。うん、優秀な人だと思うよ。ただなぁ、」

 

こいつ、また何か坂柳に聞き出されたりしてんじゃねぇのか。

 

「なんだ?」

 

「体が弱いってのは、やっぱちょっと不安だよね……。なんか、うん。理由は言えないけど、俺はちょっと遠慮した方が良いんだろうなぁ、とか思うね。いやまぁ坂柳なら何とかしてくれそうな気もするけど。あと、将来めっちゃビジネスとかで成功しそうな人だから、繋がりはしっかり持っておきたい、それなりに『付き合う価値のある人間』だと認識されておきたい、とかはあるかな」

 

「……そうか」

 

やはり、浅井にとっては、この学校でのクラス競争に興味が無いんだろう。もう既に卒業後の事を考えてる。この執着の無さが、浅井の強みでもあり、今こうやって俺が警戒しなくちゃいけない一番の理由でもある訳だ。

 

「次は、やっぱ一之瀬だね。あの明るさ、社交性、優しさ。信頼出来るし、もっと話したくなるカリスマ性は素晴らしいね。『人に愛される』という才能、あれほどすごい人が現実に居るんだって、いつも感動するレベルだよ。絶対に外交官とかになるべき」

 

視点が微妙に違うな。

 

「1人の女として見たらどうなんだよ」

 

「そりゃあ、巨乳だし美人だし、性格良いし、好きだけど……。メンタル的には、ちょっと俺と合わない所も多いだろうから、気後れ?するね。一之瀬の良さを減らしちゃう、消しちゃうかも?みたいに、遠慮したくなる感じ。それよりは神崎とかとくっ付いて欲しいかな。だって俺、性格それなりに良いし」

 

最後は何言ってんのか分からねぇが、根本的には合わないだろうってのは分かるな。脳みそ花畑みたいなヤツと、誰もが悪意を持ってるはずだという前提で生きてそうな浅井が合うとは思えねぇ。

 

「Dクラスのヤツはどうだ」

 

「……櫛田、好きだった。てか好きなんだけどねぇ。振られちゃったからね」

 

ヘコんでる様子の浅井。割と本気だったのかよコイツ。

 

「櫛田を気に入った理由は?」

 

「んー、可愛いし、社交性めっちゃあるってのもあるけど、一之瀬のとはちょっと違って、色々と気を使って、演技というか、相手の求めてる表情、仕草をやってたりするっぽいんだよね。ある意味で一之瀬より化物だよ。何が目的かは俺ちょっと分かんないけど、そういう徹底した自己犠牲をしてる強さ、そういうのは魅力だよね。ただ、何かと気にしすぎなタイプだろうし、本人のメンタル的な負担も大きそうだったから、俺だけは絶対に気にしないからな!的な理解者になってやるぜ!みたいに思ったけど、断られちゃったからなぁ……。あーあ」

 

「……そうか」

 

かなりマジだったのかよ。

 

「後は、……誰が居たっけ?」

 

「鈴音に関してはどう思う」

 

「あっ、お前の大好きな堀北も居たね」

 

「好きとかじゃねぇ」

 

「なおさらヤバいだろそれ……。まぁいいけど。アイツに関しては、最初はマジで死ねよこのクズ!って思ってたけど、それなりに自分の性格を反省したっぽくて、言動をちょっと気をつける知能はあるらしいから、まぁ……この学校で叩かれて、もうちょいまともになるといいねって感じかな。恋愛対象とかでは、ありえないね。見た目は良いけどさ」

 

「フン……」

 

 

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話が落ち着いた所で、今日の本題に入る。もう直接聞いて、その反応から探るしかねぇな。

 

「浅井、今回呼び出した最大の理由は、お前が裏切る可能性、疑いをどうしても捨て切れないからだ」

 

「はい?」

 

「ハッキリ聞かせてもらう。お前、俺達のクラスを裏切らないと断言出来るか?」

 

「いや出来る訳ねーじゃん」

 

「………。」

 

「…………えっ、何この空気」

 

考えもせず、軽く言いやがって……。このカスが。

 

「お前だけなんだよ、『Aクラス卒業なんてどうでもいい』と心底思ってるようなヤツは。それに加えて、女と金への執着が強い。クラスを裏切る可能性が一番高いのは、間違いなくテメェだ」

 

軽く睨みを効かせ、本気だと伝えたが、浅井は特に慌てる様子も無い。ムカつくヤツだ。

 

「まぁ言われてみりゃ、そうだね。確かに俺が一番怪しい。警戒して当然だね」

 

開き直りやがって。テメェのことだろうが。

 

「いつか裏切るってか?あぁ?」

 

「なんだよ、威嚇すんな不良。仕方ないでしょうが、『Aクラス特権』なんてクソだと思ってるし、いらんし、ついでにお前に対して忠誠を誓う理由も無いんだから。むしろ俺が『裏切りません!』って言ってる方が嘘でしょ」

 

「……クソが」

 

何が問題かって、コイツは悪意が無く本音で話してそうだってことだ。イキってる訳でもなく、ただひたすら素直に言っててこれだろ。本気で『自分は裏切るかもしれない』と考え、開き直ってるってことだ。

 

なら、どうすればいいんだ?どうすればコイツを従わせられる?

 

暴力での脅迫が通用せず、実際に暴力を振るって体に痛みで教え込んだとしても、他の奴らと違い自分たちのCPが減ることをなんとも思わないヤツだから、学校にチクるのは間違いねぇ。さらに言えば、学校側からの制裁を何も気にせず逆襲してきてもおかしくない。教師の目の前で暴行事件に発展させたりな。

 

やはり、プライベートポイントでの買収しかないのか?……気に食わねぇ。他クラスを潰すため、俺達が勝ち上がるために使う金を使うしかねぇってか。クソが。

 

だが、ある程度の報酬を渡した所で、それを上回る金銭だったり、女による工作活動をされたら結局意味がない。そう考えると、もういっそ消してやりたいくらいだが……。

 

 

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お互いに睨むような、見下すような、妙な空気が流れ……数分間ほど沈黙が降りていたが、浅井から話しかけてきた。

 

「まぁ、心配させちゃってるのも分かるし、警戒して当然だし、俺がこうやって言っても意味無いかもしれないけど……、とりあえず、今の所は裏切るつもりは無い。これからも多分無いと思うよ」

 

「……説明してみろ」

 

「まず、無人島試験と干支試験、クソほど面倒ではあったけど、正直言ってそこそこ楽しかったからね。龍園に言うのムカつくけど、他クラスと比べても圧倒的に良い動きしてたと思う。やるじゃん、とは思った。ただ普通の学校生活を送るなら一之瀬クラスにめっちゃ入りたいし、坂柳クラスで一緒にやったりもしたい。けど、この学校は特別試験がメインみたいだからね、他の抜けたアホみたいな奴らと比べたら、まぁ、あんまり認めたくないけど、龍園が一番良かった、クラスリーダーが龍園で良かったとは思うよ」

 

「……。」

 

こいつ本気か?いきなり持ち上げてきやがって。疑わしい。

 

「良く分からん名前の、偉そうな学校。『この学校でも大したことやんねーだろ』とか思ってたけど、あんな感じの、割と面白い試験が続くなら……うん。普通に協力していいとは思ってるよ。……恥ずかしいなこれ」

 

「金で買収されたり、女に交換条件とか出されたらどうする気だ」

 

「ん~~~、流石に干支試験ほど大きい額が動く試験は少ないだろうけど、ああいう試験で貢献してちょっとボーナス狙うっていう方が健全かもしれんかな。もし俺が心動かされるとしたら、金額で言うと……100万pp以上かなぁ。ただ、それで『龍園クラスのCPをゼロにしろ!』とか言われても、それ俺の定期収入が減っちゃうからやらんでしょ。かといってメリットが上回りそうな額って言ったら、もう1000万以上とかいう話だけど、んー、それだけあっても使い道がねーじゃん……。しかも3年終わり、卒業したら消えるんだし。何より、1000万も俺に出すヤツいねーでしょ。いや、クラス1つ潰せると思えば安いか?」

 

「1000万なら裏切るってか?」

 

「金だけ見たら、そりゃメリットあるでしょ。そこは俺じゃなくても飲みかねない条件だと思うけど。俺ばっか疑うなや!」

 

「だから、恐らくテメェだけがAクラスに興味が無いっつってんだろ」

 

「あっ……。そういやそうか。いやー、でも俺以外にも意外と居ると思うけどねぇ」

 

テメェみたいなヤツがゴロゴロ居てたまるか。

 

「だから、お前だけが裏切る可能性があるっつってんだよ」

 

「ん~、まぁ、そうだねぇ……。でもさ、例えば1000万もらって、俺が超絶上手くやって我らが龍園クラスのCPをゼロにして、他クラスをAクラスに出来たとしても、それで恋人が出来るかね?……間違いなく伊吹には『死ね!』とか言われて嫌われるでしょ」

 

「当然だろ」

 

「なら、んー、やんないと思うけど……」

 

「それを提案してきたのが坂柳や一之瀬だったとしたら?……テメェは裏切るだろ」

 

「ん~~~~、ちょっと悩むけど、多分俺はそんなの信じないと思うよ。『言う通りに動いてくれたら付き合ってあげるよ!』って女に言われても、絶対に信じない。信じたくても信じないタイプのやつ、明らかにハニトラというか、嘘でしょそれ。契約で結べるもんでもないし」

 

「……フン」

 

女とヤるのが目的じゃなく、『結婚相手を探してる』ってのがマジなら、ある程度は信じられるかもしれねーな。

 

「そうだ、今ちょっと思ったのは、2000万ppもらえて、その2000万ppで好きな子を卒業直前にAクラスに送る、とかだったら普通にやるかもね。うん。俺はAクラスになる必要ないし」

 

「……裏切るじゃねぇか。このボケが」

 

「あっ!………ホントだ」

 

「アホめ」

 

「じゃあもう俺が2000万pp貯めないように監視でもしてくれや」

 

「チッ……」

 

俺に従う利益を感じさせつつ、他クラスからの干渉で所持金が2000万ppを超えないようにしろってか……。本当にクソ面倒なヤツだ。

 

「考えてみたら、俺が絶対に裏切らないパターンは、ただ普通に同じクラスの誰かとめっちゃ良い関係になって、それで2000万ppも貯められそうに無いってパターンだね。……普通にありえるはずでしょ。一番、健全なパターン。龍園も俺の恋愛を応援しとけばいいさ」

 

「……。」

 

バカみてぇな話だが、浅井がさっさと女を捕まえりゃいいっぽいのはマジかもしれねぇ。なんでこんなヤツに悩まされてんだよ。

 

コイツが何か誤魔化してる可能性が無いかは後でまた考えておくが、少しは浅井の価値観が分かったし、裏切るパターンも見えた。

 

……そうでも思わなきゃ、やってらんねぇな。

 

 

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「浅井、最後に一応聞いておく。仮に、『この女を好きにしろ』と、お前の言うことを何もかも聞く、奴隷のような女を渡されたら、その見返りとして俺らを裏切るのはありえるか?」

 

「はい~?……何、そういうエロ本でも読んだの?俺にも貸してよ」

 

「マジな話だ。具体的な証拠は掴めてねぇし、3年の生徒会長にすら見つからず、2年の南雲とかいうヤツは『女を道具にしてる』可能性が高い。そいつから女を贈られたらどうする?」

 

「………………。」

 

なぜか、いきなり表情が抜け落ちた浅井。まさか、キレたのか?今の話で?一応、すぐに動けるよう警戒していると、

 

「ごめん、龍園、それマジなん?」

 

声が、今までのバカにするような軽さのするものじゃなく、低くなっていた。何がスイッチになったのか知らねぇが、明らかに様子が変だ。

 

「確証も無い、嘘の可能性もある」

 

「それでも、そういう噂があんの?」

 

「……あぁ。2年での異常な影響力、権力、そして実行力。その裏付けとしても、女を道具で使ってるってのはありえる話だ。重ねて言うが、証拠はまだ何も無い」

 

「っ、はぁ~~~。マジかよ……」

 

そう言いながら、その場に座り込む浅井。

 

「なんだ?……女を食って、言いなりにしてる南雲に嫉妬してんのか?」

 

「いや違うよ……。もしかしたら少しは嫉妬もあるかもしれないけど。別に18歳未満でセックスするなとか言う気もないし、言う権利も無いし。セフレが居るとしても、それはそれで羨ましくてムカつくけど、それでも別に関係ないからどうでもいいよ。……そういうのじゃないんだよ」

 

「なら、何が言いたい?」

 

「こんなん、流石に無いと思ってたけど……。いやはや、期待してないつもりだったけど、それでも学校側を信じすぎてたのかね。ガッカリだ」

 

本気で、落ち込んでるのか?様子がおかしすぎる。

 

「……どういうことだ」

 

「ん……、はぁ~~~。俺は最初、龍園がそういう事やっちゃいかねないな、って思って警戒してたんだよね。拒否出来ない女子をレイプして、写真撮って、弱みを握って、それを元に売春させて誰かに抱かせたり。そしてその女子の友人に、助けたかったら言うこと聞けとか脅迫して、性奴隷を増やして。さらには、他クラス男子にも抱かせ、それを証拠に残し、脅して……ってね。死ぬほど効率的だよ」

 

「……。」

 

流石に返事が出てこなかった。確かに、言われてみれば、可能かもしれないし、影響力の説明にもなる。だが、流石に……。

 

「問題はね、龍園。これ、証拠を一切出さず、女子からの文句も一切出さずに出来ちゃうんだよ。『Aクラス特権』っていう形の無い、保証も無いものに釣られてね……。『Aクラスから落ちたくない』『この学校をやめたくない』そういう恐怖を煽って、いくらでも脅迫出来ちゃう。証拠だって、先に所持品検査したり、コンドームをちゃんと使わせた上に回収したり、セックスの後にシャワーを必須化したり、後はそうだな……、本当に撮影なんてしてなくても『あの時のことは撮影してある。バラされたくなかったら言うことを聞け』って脅すだけで、もう聞くしかないと考えるヤツは少なくないだろうね」

 

「……それは、さすがに」

 

「学校側が止めるって?いやぁ、どうだろねぇ……。相当に頭が回るやつなら、『ただの自由恋愛』って主張出来る状況にしてんじゃないの?『不純異性交遊の禁止』なんて言ったって、コンビニでコンドームが激安で売られてる時点で、『せめてゴム使え』ってだけの話じゃん。……いやまぁ、無いより全然マシなんだけどさ」

 

「待て。可能性がゼロとは言わないが、そんなことが起きてる可能性の方が少ないだろが」

 

「まぁ……そうだけどね。最悪を想定しておくべきだろ、龍園」

 

そう言った浅井の目は、妙な恐ろしさがあった。

 

「浅井、落ち着け。せめて情報収集して、確定してから動け」

 

「……このさ、閉鎖された環境。親とも会えず、話すことも出来ず、兄弟とも連絡が取れない。頼れる大人は居ない。担任が居るには居るとはいえ、ほぼ無意味。そんな環境で、誰にも相談出来ず、脅迫され、強姦され、脅迫され、好きに使われ……。自主的に体を売る選択をした訳でもない、まだ、18以下の、女子供やぞ……。マジだったら、殺してやるよ」

 

真顔で虚空を見つめながら、ボソボソ声でしゃべる浅井は、本当に人を殺しかねないように見えた。

 

「浅井、今もかなり優先順位を高めにして情報収集してる。お前も気になるなら手伝え。それまで勝手に動くんじゃねぇぞ。……明日また呼ぶ」

 

「………分かったよ」

 

ひとまず納得した様子の浅井は、立ち上がり、寮への道を帰って行った。

 

なんとか、今すぐ殴り込みに行くことは無くなったはず、だよな……?

 

 

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とりあえず、明日に持ち越しだ。明日になれば、少しは落ち着いてるはず、だと思いたい。念の為、今晩は浅井が1人で行動しないが寝ないで監視しておくべきだな……。

 

あまりにも、予想外だった。ブチ切れた様子の浅井、何かがアイツの逆鱗に触れた。正義感なのか、倫理観なのか、もしくは違う何かなのかは分からない。

 

だが、異常なほど本気だったように見えた。

 

俺の想定では、南雲は複数人の女子生徒を食って、道具にしてる程度だ。今でも、それくらいの話で済む可能性の方が高いだろう。

 

だが、もし浅井の想定した最悪パターンが本当だったとしたら……。

 

いや、考える前に、寮に帰って行った浅井を監視するのが先だな。石崎に電話をかける。

 

「石崎、今すぐ寮のロビーに待機して、浅井が帰ってくるのを確認しろ。その後は理由をつけて自室まで同行しろ」

 

「えっ?はぁ、分かりましたけど……」

 

「急げ。今すぐだ。早くしろ」

 

「はっ、はい」

 

俺も急いで追うか。

 

アルベルトも常に待機させ、警戒させておく必要があるな。

 

不安の種を潰すための呼び出しだったはずだが、遥かに巨大な別の種が降ってきたような気分だ。


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