おはよ……。昨日の話が胸糞悪すぎて、なんか良く眠れなかった浅井虎徹です。
いやまぁ、龍園が言ってたように、まだそこまで悪すぎる状況じゃない可能性もあるとはいえ……。
龍園から呼び出された所までは良かった。何度かあった『意見交換』みたいなやつだと思ってたし、事実その通りだった。
他にありそうだと思ったのは『やっぱり月10万pp渡すのは嫌だ』とか『来学期から俺にもっと従え』とか、もしくはまさかの『伊吹は渡さねぇ!』パターンもあるかな、とか思ったけど、そういうのではなかったね。
出てきた話は想像以上、いや以下?……なんにせよ、嫌な話だったよ。
もちろん、俺の考えすぎ、想像を広げすぎたという可能性もあるよ。今でもそうだったら良いなと思う。真面目に、そうであって欲しいと思う。
でも、本当に想像通りだったとしたら、いや~……無いね。
実は裏稼業で『カタギに手を出さない』ってのは、正直、完全に守られることはない。時代と共に形を変えて、巧妙に金の流れを作ってたりはするよ。一般企業としてやってたり、ただの地主として存在したり、普通のスーパー経営してたりなんかもする。もちろん風俗店の経営なんかもある。そうじゃなきゃ食っていけないんだし。
けれど、絶対に手を出さない『一線』ってのが、それぞれある。
裏社会と言っても意外と広くて、価値観もピンキリ。そこは普通の企業と似てたりすると思う。だから、理想と現実の兼ね合いとか、純粋にクズ度の違いとかで、人や組織によって価値観も全然違ってくる。『全員が持つ絶対的な価値観』ってのは、正直に言うと存在しない。残念ながら、クスリ売ってシャブ漬けにするような所もある。未成年に売春させてる所すらある。
それでも、それぞれ自分の大事にしてる価値観を守るしかない。今の時代、もう無くなりかけてるとか言うけど、俺はそれが『仁義』だと思うよ。人が人であるための、世の道理。
俺の価値観で言うと、クソしょうもない競争のために、何も悪い事してない未成年の女の子達が食い物にされるなんてのは絶対にありえないね……。本当に殺したいよ。
……何はともあれ、詳しく確認しないといけない。
とりあえず龍園に分かってる事を聞いて、あとは坂上先生にもちょっと話を聞いてみるか。
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「あれ?」
外に出るため自室のドアを押して開けようとしたけど、なぜか開かない。何か重いものが邪魔をしてるっぽい?覗き穴で確認しようとしたら、勝手に逆にドアが引かれて開いた。は?どゆこと?
「……Hello, Tetsu.」
なんでアルベルト?
「おはようアール。何してんの?こんな朝から」
「……Nothing」
ナッシングな訳ねーだろ!……人の部屋の前でドア塞いでて、それで何も無い方がこえーわ!
「俺を待ってた?それならメッセージとか送って来てるか。……もしかして、監視?」
「……。」
相変わらず無表情だから分からないけど、図星っぽいかな。だとしたら命令したヤツは1人しかありえねーわな。監視されるような心当たりなんて……まぁ、昨日はちょっと荒れてたけど。でも流石に1人で計画立てず殴り込みかけたりはしないって。多分。
「アール、Can you send message to Long Hair Guy? 虎徹が起きたよ、みたいな」
「……OK」
「サンキュー。あと、せっかくだし一緒に朝メシ食おうよ」
まだ朝7時前、休日とは思えないほど早起きだなこれ。
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食堂でアールとメシを食い始めてから1分くらいで龍園が来た。はっや。
「おはよす龍園」
「浅井、勝手に動くなよ」
ちゃんと挨拶しろよコミュ障。相変わらずだな。
「勝手に動くなって……。南雲のこと?」
周りを確認しながら小声で聞いてみると、
「そうだ。勝手に突っ走って、CP減点されたら許さねぇからな。大人しくしとけ」
「はー?俺は別に、CP減点されるような悪い事したこと無いでしょうが。鏡見て言えよ不良」
「……。」
何だその目、睨みつけてくんなよ。妙に不機嫌そうだし。
「別に、今すぐ何かしようって気は無いよ。俺も自分の目で直接確認したいからね。……それより、どんなヤツなのか詳しく教えてよ」
周りを見渡し、盗み聞かれてないことを確認した龍園は小声で話し始めた。ちなみにアルベルトは話を聞かないで、周囲に誰も近付いてきてないことを確かめてくれてる。助かるね。
「南雲雅、2年。入学時のクラスはBだったが、現在はA。それも最近は圧倒的な差をつけ始めてきたってな」
「へぇ、元Bなんだ」
ミヤビ、偉そうな名前しやがって。ムカつくな。
「そして生徒会副会長、前はサッカー部でそれなりの実力だったらしい。最近は、1年で唯一生徒会に入るのが認められた一之瀬も、アイツの意見があったから入れたみたいだ」
「一之瀬?………ふーん」
「そして、裏の情報だが、……お前、マジで絶対に誰にも言うなよ」
すげぇ真剣な顔じゃん。
「分かった、そこはちゃんとするよ」
絶対に漏らしちゃいけない価値の情報があるっていうのも、一応は知ってるつもりだ。俺も真剣な顔で答える。
「忘れるなよ。……俺が掴んだのは、南雲が女を奴隷のように言いなりにしてる事と、別の女を嘘つきまくりながら口説いてる所までだ」
さらに小さくなった声に耳を寄せながら考える。それだけなら浮気野郎ってだけの可能性もあるけど、でも龍園は女を誰かに抱かせたりする可能性まで考えたってことは、そういう様子だったのかね。
「どうやって手に入れた情報?俺も確認出来る?」
「……情報元は、言えねぇな」
「あ、そう……」
まぁ、仕方ないか……。
「他には、2年の噂話とか、断片的に集めた特別試験の結果とかだな。説明が付かない影響力まで含めて、学年で圧倒的な力を持ってるのが南雲だ」
「なるほどね……。分かった、ありがと」
「で?……お前はどうする気だ」
「坂上先生にちょっと聞いてみるよ。いくら下っ端だって言ったって、情報少しは掴んでるでしょ」
「勝手な事を、」
「いやいや、あの人なら別に他の教師とかに漏らしたりしないでしょ。あと、学校がわざと見逃してるなら理由とか聞きたいし。もう共犯レベルじゃんとか思うからね。最低限の規律も守らせない、保護者としての役目も果たせないってなら、その時は……ちょっと考える」
「……そうかよ。まぁいい、CP減点されない範囲では好きにしな」
「いや、言われんでも好きにするけど」
「フン……。じゃあな」
そう言って去ろうとする龍園。カッコつけまくりだよなコイツ。
「龍園、せっかくなら一緒にメシ食ってけば良いじゃん」
「いらねぇ」
「ホントに社交性が死んでるよな……。『同じ釜の飯を食う』って言葉知らんの?一緒にメシ食うだけで、苦労せず少し仲良くなるんだからやっときなよ。一応は仲間ちゃうんか?中二病すぎてキモいよ」
「………チッ」
あれ?自分で言っておいてなんだけど、本当に同席するとは思わんかった。意外だ。
もしかしたら無人島以外で一緒にメシ食うの、3回目くらいかもしれない。
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朝食が終わり、それでもまだ早い時間だったけれどチャットで坂上先生に連絡をした俺は、学校の屋上に来ていた。龍園に『盗聴されない所ってどこ?』って聞いたら、昼間ならここだと言われたからね。
「おはようございます、浅井くん」
「どもです、おはようございます坂上先生。呼び出しちゃってすんません」
「……いえ。しかし、なぜ職員室ではなくこんな所で?生活指導室もありますが」
雰囲気を見るに、疑問と警戒が半分ずつくらいの感じかな。
「ん~、他の人に聞かれたくなかったんですよね。他の生徒だけじゃなく、他の教師も。どこの誰が誰に繋がってるか分かりませんから。学校側で使ってる部屋なんて、誰かが盗聴器とか仕掛けてそうですし」
「そうですか……分かりました。それで、何を聞きたいんでしょうか?」
さーて、何から聞けばいいかな。あんまりリアクションが良い人じゃないけど、それでも知ってるか知らないかの反応くらいは見せてくれる、と思いたい。
「まず、2年に居る南雲っていう人の悪い噂を聞きましてね……。学校側は、それちゃんと把握してんのかな?って」
「残念ながら、私には伝える権限を持ちません」
流石に簡単にはいかないか。もうハッキリ聞いちゃお。
「じゃあ、例えばの話ですけど、女生徒を強姦して、それを脅迫して、クラス競争のために好き放題に使ってたりしても、本人から『助けて』っていう声が無ければ、学校側は黙認したままですか?」
「……何を罰して、何を罰しないか。どこまで把握して、どこまで把握出来ていないのか。そういったことは、学校運営における機密事項となっているため、伝えることが出来ません。しかしながら、どのような生徒であれ、保護を求めてきた生徒は必ず保護します。見捨てるようなことは、絶対にありえません」
それ『助けを求めなければ放置します』って言ってんじゃん……。
「何されてたとしても、自分から言わなきゃダメだと?」
「……でなければ、生徒の自由を著しく損なうことになってしまいます。当校の理念としても、自主性に重きが置かれていますので、そういった事には慎重です」
「なるべく放置すると?」
「性交渉に関して言うと、『同意の上の行為』なのか『強制的な性犯罪』なのか、証拠が無い限り判断することが出来ません。そして、プライベートな事である以上、当人からの申告がなければ判断することは出来ない、という事です」
ムカつくけど、まぁ、仕方ないか……?
「んじゃ、当人が『助けて』って言ってたり、もしくはハッキリした証拠が出てきたら、学校側も本気で調査するし、処罰するとは見て良いんですよね?流石にそれくらいはすると」
「はい、それは約束します」
「ふーむ……」
最低限の最低限はちゃんとしてる、と思えなくもない。
けどなぁ、複数人、友人関係とかを巻き込むだけで『てめぇチクったら全員道連れにしてやるからな』的な脅迫したら、行動を縛るなんて簡単に出来ちゃうと思うんだよなぁ……。
「他に何か、聞きたいことはありますか?」
顔は全く変わらんけど、ちょっとだけ優しい声だ。自分のクラスの生徒にはやっぱ優しいっぽいんだよな、この人。
「ん~~、これ答えられない質問かもなんですけど、学校運営側も『あえて隙間を作ってる』みたいなとこ無いっすかね?監視カメラの範囲にしろ、ルールにしろ。守らない余地を残してる、破る余地?があるような……」
もちろん資金不足とか、人員不足とかもありえるけど、豪華客船なんていうアホみたいな金の使い方してるくらいなら、わざとやってる気がしてくる。
「……残念ながら、私からは答えられません」
「ですよね~」
まぁ『見逃すから、積極的にルールを破っていこう!』なんて教師の口から出たらやべぇわ。
「ただ、そうですね……。浅井くん、生徒会長の堀北学くんと話してみることを勧めます。この学校が目指すもの、問題点、そういったものを、教師の口からは出せないものを知ることが出来るかもしれません」
なんじゃそら?
「はぁ……。まぁ、了解っす」
「では、私はこれで失礼します」
「えっと、ありがとうございました」
サッサと帰って行っちゃったけど、こんな所まで来てくれて文句も言わないのは割と良い先生だよな。
もしかして、生徒の中で俺以外からの連絡が無いから優しいとか?……これちょっと失礼な想像かね?
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なぜか龍園が俺を警戒しまくってるっぽいので、一応『生徒会長と話してくる』とチャットで報告だけして、忘れかけてたアルカナカードを伊吹から借りて、微妙に来たくない生徒会室とかいう部屋の前に来ていた。
初対面だし『タロット占いをしたいんで』と言えば、取っ掛かりになりそうだからね。
流石に、今回ばかりは伊吹が居ない方がいいかなと思って誘ってない。いやまぁ、『私も行く』とか言ってくれたら普通にオーケー言うてたけど、言いませんでしたからね。「あっそ」だったからね。好感度バグってんのかマジで、恋愛経験が無いから分からんけど、そろそろキスしていい頃合いじゃないの?気配ゼロだぞ。
余計なことを考えていたら、目の前の扉が勝手に開いてしまった。
「先程から居るようですが……、何か生徒会にご用ですか?」
中からちょっと背の低い、お団子2つヘアの女子が出てきた。
「あ~、生徒会長にちょっと話があって。居ます?」
「……どうぞ」
なぜかちょっと不機嫌そうな女生徒に促されて入ると、なんか見たことあるような気がする、メガネの真面目系イケメンが居た。学力も身体能力もピカイチみたいなのどっかで聞いたけど、ちょっと納得出来そうな見た目だ。
「1年の浅井虎徹か。試験結果を通して、お前の話は聞いている。中々面白い思考をしてるようだ」
いきなり何だ?偉そうなメガネだな。
「どうも?です。……割と真面目な、学校に関する疑問とかがあるので、2人で話させてくれませんか?」
「2人?……橘も、邪魔だと?」
「まぁ、そうすね」
「なっ!」
「彼女は、信用の置ける俺の部下だが」
「信用できません」
「また失礼な1年生ですね!!」
そりゃ初対面の人間を信用する訳無かろうて。しかも女だし。3年だからきっと大丈夫!なんて思っちゃうようなアホじゃないんだよな。
「そうか。……仕方ない、橘、少し席を外してくれ」
「えっ!?会長!こんな失礼な1年生の言うことを聞くんですか!?」
「本気の相談のようだからな。男同士でしか話せないこともあるのだろう、下がってくれ」
そんな猥談とかするつもりないけど、橘?への配慮っぽいかな。
「分かりました……。それでは、30分程で戻ります。終わったという連絡があれば、それより早く戻ってきますね!」
「それで頼む」
橘とかいう女子は、なぜか俺を軽く睨みつけてから出て行った。なんだ?この堀北がバイだから警戒してたりすんのか?そうだったらちょっと嫌だな。
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「さて、相談したい事とはなんだ?」
「ん~~~…………」
「早くしろ。時間は無限じゃない」
うるせーな、せっかちめ。
「実は俺、生徒会に誰が入ってるか知らないんすよね。ここに盗聴器とか仕掛けられて、誰か経由で他の奴に伝わっちゃうかもしれないので、屋上に移動していいすか?」
「……この部屋も信用出来ないと?」
「はい」
「ふむ……こうなればとことん付き合おう。では行くか」
パッパと決めて動くこの感じは、それなりに優秀っぽく見えるかな。
こうして、生徒会室の扉に鍵をかけた初対面の生徒会長と一緒に、謎の校内散歩となった。
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「さて、もういいか?」
真夏の昼間、炎天下、屋上。クソほど暑いな……。
「いや、あとは学生証端末で録音通話してないかの確認と、あと申し訳ないですけど軽く所持品チェックさせて下さい。他に機械系を持ってないかの確認ですね」
「……感心する程の警戒心だな。良いだろう、好きなだけやりたまえ」
別に好きでやってんじゃねぇわボケ。涼し気な顔しやがって、どうなってんだよ。
「えーっと、スマホも普通にロック状態で、他に所持品は……無さそうですかね」
「あぁ、その端末しか電子機器は持ってない。ここまで慎重になるお前が話したいこと、興味が湧いてきた」
「そっすか。じゃあまず……堀北会長は、南雲とかいうヤツの事どう思ってます?」
龍園に2人がどういう関係か、あと会長がどういう人間なのか、くらい聞いておけば良かったな。タイプが全然違うってのは知ってたけど、まさかの2人がグルっていう可能性もあったと今更気付いちゃったよ。
「……南雲の名前が出てくるか。アイツを警戒しているなら、確かに納得出来る対応だな。それで、どう思ってるか。……ふむ、『実行力のある、優秀な生徒』だな。副会長としても、次期会長としても、責務を全う出来る能力がある人間ではあるだろう」
「ふーん……。嫌いな所は?」
「初対面で随分なことを聞いてくるな」
「俺ちょっと南雲に関して嫌な噂とか聞いたので、それの確認とかもあります」
「……そうだな、少しばかり『女性を私物化してる』という点では、あまり褒められたものじゃない。学年で退学者を多く出してるのも気になる。だが、俺としてはそんな事より、『全学年を支配する』という思想が認めがたい」
ん?なんだそれ?
「どゆことっすか?」
「これは個人的な考えであり、俺の生徒会運営の基準になっているが、この学校ではなるべく『平等の条件で競い合う』というのが肝要だと思っている。しかし、南雲の思想では、学年が入り乱れての特別試験をして、自分が頂点に立つというのを夢見ている。そして、実際にそれを成し遂げる行動力と実力があるだろうな」
「……んだそれ。アホくっさ」
「気に食わないか?」
「いやそれ、ただ弱いものいじめするなり、歳下から金巻き上げたりしたいだけでしょ。調子乗った権力者がルールを作って、自分達優位にして、やりたい放題やるやつ。クソすね」
「……そう読み取るか。ふむ」
「ついでにちょっと聞いてみたいんですけど、この学校の目的?というか、『学校の存在意義』って何なんすか?」
「学校案内に書かれている通りだ。『未来を支える人材を育成する』というものだ。卒業後の進路も、『Aクラス卒業者』には可能な限り要望を叶え、国の中枢に入ってきて欲しいという意志がある」
「それ、……マジの話だったんすか?」
「何が言いたい。人材育成の環境として不満があるのか?」
「不満というか、疑問?」
「言ってみろ」
「まだ半年だけとはいえ、特別試験もやったし、普通の学校とまるで違うっていうのは認めますよ。勉強だけでも、運動だけでもない、色んな能力を発揮して競い合おう!って。うん、面白い学校だとは思いますよ」
「1年時はまだまだ甘い試験でもあるからな。今後さらに厳しくなっていくぞ」
そういう話はしてない。
「いや、まぁ、そうだろうけどね。でも、こういう試験をやりまくろうが、いくら難易度上げようが、結局はルールがあって、しっかり保護された環境でやってる、ただの『ゲーム』じゃん。今までの学校と違うのは認めるけど、だからって素晴らしい人材が育つかは疑問が残りますよ」
「1学年では、まだ難易度の低い試験しか体験してないからそう思うのだろう」
「そうっすかねぇ……。俺からしたら、みんなで仲良くパーティーゲームをしましょう!みたいな話で、確かに擬似的に社会でありそうな事を疑似体験できて、経験になるし、実学的な勉強にはなると思うけど、うーん。割と平等スタートでやってる時点で、それあんまり現実世界じゃ通用しないと思うんすよね」
「現実では、平等で始まることが無いから、まるで違うものだと?」
おっ、話が早い。流石だな。
「そういう事ですね。持ってる資金の差、それぞれ能力の差、人脈の差、そして何かを始めた時期、ありとあらゆるものが違うんだから、こんな『よーいドン!』で平等な状況でやりまくったって、練習にはなるけど、練習にしかならないやろって」
「……それは、南雲の思想と同じように、パワーバランスがまるで違うのが当然の状況にして、特別試験を実施するべきと言いたいのか?」
それもアリっちゃアリかもしれないけど、
「いくらそんなのやったって、現実と同じ差を作るなんて100%無理でしょう。だったら、今俺達がやってきたみたいに、学年ごとに区切られて、平等にスタート!で良いと思いますよ」
「それだと、お前の言う『練習』にしかならないんじゃないのか」
「そうですよ。『練習』で良いでしょ、教育機関なんだし。かなり効率的に競争出来てて良いと思いますよ。『みんなで一緒に頑張ろう!』って、本来あんまり仲良くなれないようなクラスメイトとも、協力して勉強会やったり出来ますし。そういう所は好きですよ」
「では、何が言いたいんだ」
「なんていうかなぁ……、そんなルールまみれの『練習』にちょっと勝った所で、それがつまり優秀な人間になれたなんてこと、ありえないでしょ。俺に言わせりゃ、テレビゲームで1位2位を争うくらいの話でしか無いですよ。マリオカートで順位を競ってる程度の話でしかない。だから何?社会に出てすぐ通用すると思ってんの?しねーよバカ、っていう」
「………では、お前の思う『現実』とやらで勝つためには、何が必要だと言うんだ?」
「そりゃもう、ただ『知識』ですよ」
「この学校で、どういう『知識』が足りないと言うんだ」
イラついてるような、困ってるような、それでいて興味を持ってるような不思議な声色だ。戸惑ってるのかね。
「『世界の現実』ですね。あるように見えるルールなんて実際には無い、倫理観なんて無い、ひたすらに利益を追求する、他者を蹴落とし続けようとする、おぞましい世界。そういう知識、歴史、常識、価値観。そういうのを全く教えられないで、日本人すべてに等しく教えられるような知識だけ詰め込まれて、それで『未来を支える人材』って……。ギャグで言ってるんだと思ってましたよ俺。入学者を誘うための嘘みたいな。そう言われた方が全然納得できますね、マジで」
「……。」
「今まで通り、何も知らない平和ボケした日本人を量産して、そんなボケ同士で競い合わせたって、ただザコ同士が遊んでるだけでしょ。『未来を支える人材』って、当然だけど『日本の未来を支える人材』なんでしょ?世界と渡り合うんでしょ?……それなのに今まで通りの日本教育受けちゃってる人材しか居ないなら、なんも変わんねーでしょ」
「それが、お前から学校への不満という訳だ」
「不満……?」
「そうだろう。『未来を支える人材』を育てるには、今の教育カリキュラムではダメだと。変えなきゃいけないと」
「いや別に……、優秀な人材なんてどうでもいいですけど。とにかく、Aクラスで卒業した所で、それはイコール『未来を支える人材』になれた、みたいなクソみたいな勘違いをやめろよ。頭おかしいの?って感じっすかね」
「……。」
なんかすっげぇ話が逸れたかもしれない。えーっと、つまり『学校の存在意義』は、本当に『未来を支える人材』を育成してるつもりだったってこと?
……アホくさ。育つ訳ねーじゃん。
あと残った疑問はアレだ。
「そして、もしかしてだけど、学校運営側は『ある程度はバレないようにルール違反をする』みたいな判断、そういうのも実力として、見逃してたりするんすかね?」
「……ハッキリと断言は出来ないが、ルールを完全に把握し、さらにルールを上回るというのも実力の1つだろう」
南雲が罰されることなく、偉そうに過ごしてるらしいっていうのを考えると、やっぱそういう感じだったのな……。
「フン……。クソっすね。まだ社会人にもなってない、持つべき知識も常識もないガキども相手を、好き放題に食い物にして、それも実力の1つ?この学校、クソです」
「なんだと……?」
「まだ社会人になってない、保護すべき存在が、食い物にされてるのを眺めてるだけ。指導も、注意も、警告もしない。自殺者が出てないのが不思議な環境だろ」
「……。」
「そして、子供達同士で遊んでるだけなのに、それで実力が付くと勘違いしてるアホ共。クソですわ。良くまぁそれで偉そうに出来ますね。ムカつくを通り越して、もう……悲しいですよ。哀れ過ぎる。学校側も、生徒も、よくまぁそこまで勘違いしてますね……」
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生徒会長を屋上に放置して、勝手に自室に帰ってきた。ベッドに寝転がりながら、やっぱ色々と考えてしまう。タロット占いやり忘れたとかは、もうどうでもいい。
今の1番の感情は、『怒り』というより『失望』かな。そこまで信じてなかったとはいえ、ここまで酷いのか、と。
ルール違反を多少許容するってのは、『ルール守るだけ』の奴隷になられると困るということで、ムカつくけど、残念ながら理解できる。
ただ、許せないのは、まだ社会人でもないガキンチョ達を、世界の怖さを知るはずのない未成年を相手に食い物にしてる存在だよ……。中学を卒業したばかりの、マジのガキじゃん。何も教えてないのに、思う存分食い合えって、イカれてるよ。
少なくとも、この世に『悪』が存在することを認識してもらって、最低限の常識を身に着けてからやらなきゃいけない話だろ。
『世の中、良い人だけじゃない』
『悪い人も居る』
『信じられそうな人も、悪い事をしてるかもしれない』
こんな死ぬほどに常識的なことすら知らんから、クソ男に食われて好き放題にされてんだろ。
何も知らない、ただ高校に入ってきた子供を好き放題に食いまくって、それが実力だって……?
ふざけんじゃねぇよ……。
小学校にアサルトライフル持って入って行って、素手の子供たちを全員殺して、大喜びで『俺が最強なんだ!』とか言ってるようなもんじゃん。馬鹿じゃねぇのか。
は~~~、もう……。
仕方ない。学校が何も教えてないってなら、世に存在する『悪意』ってものを、俺が教えてやるよ。
俺がやらなきゃ、この学校で食い物にされるだけじゃなく、勘違いしたまま卒業しちゃうことになるもんな。『僕達、私達は過酷な試験を勝ち抜いてきたんだ!』なんて言って、何の実力も無いのに社会に飛び出してっちゃう。丸腰で熊に食われにいくようなもんだ。アホすぎる。けど、このままじゃ本当にそうなる。そうなってきてんだろうな。
俺が全力で『悪』を叩き込んでやるよ。平和ボケしたアホ共の、『自分は優秀』だという、クソ以下の勘違いを叩き潰すために。
なーにが『未来を支える人材』だよ、死ねよカス。学校側含め、勘違いしかしてないバカ共がよ。
南雲は当然潰す。だがそれ以上に、そういうヤツに食い物にされないための、当然の思考を身に着けさせなきゃダメだ。こんなに学校で何も教えないとは思わなかった。何も注意せず、何も伝えず、ただ食い物にされるのを眺めてるだけの運営者共。死ねよ本当に。
もしかしたら、俺みたいな存在を入学させた理由、『浅井虎徹の存在意義』ってやつがあるとしたら、それを求められてるのかもしれない。『調子に乗ってるアホを潰してくれ』『世界の怖さを教えてやってくれ』という、舞台装置として動いてもらいたいと。……そうでもなきゃ、俺みたいな人間、『Aクラス卒業特権』にカケラも興味無い生徒を入れるメリットが無いでしょ。まともに試験に参加するかも怪しいんだから。
こんな学校作れるような人間だったら、それくらい気付いて改善しようとしてもおかしくない。『あんなザコガキが勝ってる状況なんてつまらないしありえない』ってね。むしろ、せめてそれくらいの思考はしてて欲しい。
面倒と言えば面倒、クソほどに面倒だけど、何も知らないまま悪に飲まれていく子供達を、ただ眺めてるよりはマシだ。
最低でも、俺の学年の奴らには、何も考えずアホな男に食われて性奴隷として好き放題使われなくなる、常識的な思考を身に着けてもらおう。
将来、社会や世界に出ていって、他者に食い物にされるのを見るよりは良い。
だから仕方ない。俺がやるよ。
今から、この学校で、俺が『教育』してやるよ。
『悪』を見せよう。
『悪』を体験させよう。
『悪』に恐怖させてやる。
そんな本物の『悪』に、俺がなるよ。
『ようこそ邪悪な教室へ』ってね。