ようこそ邪悪な教室へ   作:マトナカ

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テスト対策期間
Aクラス勉強会


【龍園 翔】:オイ、位置情報切っとけ

 

なんだ?朝起きてケータイを見てみると通知があった。珍しく龍園からのメッセージだが……意味不明なこと言ってんな。特に意味もなく無視してやろうかとも思ったが、一応返信しておこう。

 

【浅井虎徹】:なにいうてんの

 

割とすぐ返信が来た。微妙に早起きなのか龍園、意外だ。

 

【龍園 翔】:連絡先交換した相手の位置情報が分かるようになってる。設定で切らなきゃ居場所がバレる

 

はぁ?そんなクソ機能ある訳ないじゃん。嘘でしょ?えーっと、設定の、チャットの…………確認したらマジであるじゃんか。意味が分からん、ここは高度ストーカー育成高校か?

 

【浅井虎徹】:了解、変えとく。情報ありがと

 

位置情報が筒抜けは……うん、気持ち悪い。何のメリットがあんだよ?

 

学校側が端末から生徒の位置情報を把握するのは、まぁ理解できる。生徒間のトラブルが起きた時や、そもそも外部接触禁止のための監視として必須ではあるだろう。なんだったら位置情報だけじゃなく常に録音もされてると思ってる。特段バッテリーの減りが早いとは思わないが、その辺は分からないようにしてるってことでしょ。常にビデオ録画は流石に無理な気がするけど。

 

しかし、生徒同士で居場所を伝え合う意味は無いだろ?見た感じ……10メートルくらいの誤差はあるみたいだが、それにしたってプライベート無さすぎるじゃん。意味が分からない……。インターネットが普及して、『友人関係なら居場所を伝え合うのが当然だよね~』なんていう価値観になっているのだろうか?んなアホな。

 

もしかして、『情報化社会によってお前らの全ては把握されているぞ』『すべて把握され管理されているのが当たり前』という価値観の植え付けでもしてるんだろうか。お前らは管理社会に生きてるし、管理されているし、悔しかったら管理する側の人間に立ってみろ、と。……そう言われたら納得出来るかな?

 

いやそれにしても……、うーん……?訳分からんな。

 

 

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プレイベート垂れ流し謎デバイス、別名学生証端末をいじって、まだ何か気付いてない機能があるか確認していると……、坂柳からメッセージが来た。地味にめちゃくちゃ嬉しい。

 

【坂柳有栖】:おはようございます。今日の放課後に勉強会を開こうと思いますが、いらっしゃいますか?

 

【浅井虎徹】:オフコース!

 

あたぼうよ!と迷った。ついでにOff courseかOf corseか悩んだのでカタカナにした。

 

【坂柳有栖】:では放課後17時くらいにAクラスに来て下さい。2時間ほどの会になると思います

 

【浅井虎徹】:ラジャー!

 

やった~デートだ~。違うか。

 

 

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皆にとって衝撃のクラスポイントシステムが知らされてから1日経ち、流石に落ち着いたCクラス。誰もがちゃんと真面目に授業を受けていた。そりゃ赤点1発退学は怖いもんなぁ、そりゃそうだ。意外にも、石崎、小宮、近藤とかいう不良カラーの強い3人組、別名『龍園の舎弟三兄弟』も真面目に授業を受けているようだった。龍園パパに怒られたのかな?

 

そんな訳で、今までの恐怖による静かなクラスではなく、割と誰もが集中してる良い雰囲気の静かなクラスとして1日が過ぎていった。

 

そして放課後、ついにAクラス勉強会に参加します!

 

……ただ、ふと思ったがCクラスでも勉強会あったら参加したいな。なんだかんだと4月は龍園に目をつけられないように大人しくしていたし、龍園ボコした後も繋がりあるのがバレたくないからと龍園の舎弟っぽいメンバーとあまり関わらないようにしてたし、……気付いたらCクラスでの友達が居ないぞ……?Aクラスに混じろうとしてる場合じゃないのか?うーんどうしよう。

 

……ま、いっか!そのうち何か仲良くなるタイミングあるでしょう。同じクラスだし。

 

「お邪魔しま~っす」

 

Aクラスの扉を開けて入ると……、うぉっ!なんでこんなに人が居るんだよ。半分くらい?20人近くも残ってる、5人くらいの勉強会かと思ってた。部活行ってる人間も居るだろうからすごい出席率なんじゃないのか?……んで、めちゃくちゃ見られてるな俺。

 

「なんだ?……Aクラスじゃない生徒が何の用だ?」

 

なんか痩せたメガネ男に絡まれる。めちゃくちゃにアウェーだなこれ、そりゃそうなんだけど。クラスに居る人の殆ど全員がこちらを見てる。坂柳もこちらを見てるけど、微笑んでるだけで何も言わないっぽい。なんで!?この美少女いじめっ子!助けて!

 

「ん、こんちは。坂柳にAクラスの勉強会参加させて~って頼んで来た感じ」

 

「……クラスはどこだ?」

 

「Cだよ。浅井です、よろしく」

 

「ここはAクラス、君はCクラス。相応しくない劣等生は出て行きたまえ、ここはエリートのAクラスだけが存在して良い教室だ」

 

うーん、この。あざ笑い見下すような表情でこちらを見てくるメガネ。他の生徒もなんとなくこちらを下に見てる視線だ……。うへぇ、選民意識ドバドバですねぇ。なんか悪口とか言い返していいのか?でも呼んでもらったのに迷惑になるか?なんてちょっと困りながら坂柳を見てみると、まだ微笑みながらこちらを見ているだけだった。……何も言わんのかーい!

 

「……そんなにケンケンしなくてもいいじゃん」

 

「なんだと?」

 

さぁどうしたもんか。何もしてないのに一方的に見下され、ちょっと腹が立つけど……今回は仲良し路線でいこう。せっかく呼んでもらったんだし、メンツも何も無い所で無駄に争っても良いこと無いし。

 

「あー、俺はCクラスじゃ勉強ちょっとやってる方だけどさ、間違いなくAクラスの方が勉強できるでしょ?みんなエリートだろうし。……そういえば、小テストの平均点ってどれくらいだったの?」

 

「……86.2点だ」

 

「は!?すっげぇ」

 

「あの程度、Aクラスだったら90点以上を取ってやっと合格点という所だ。褒められたものではない」

 

「いやいやすごいでしょ……。そんなすごいAクラスの勉強会に参加して、勉強の姿勢とかを見てみたいって感じっすよ。A以外にも勉強だけ出来る人なら少しは居るかもしれないけど、Aクラスの優等生達が居る雰囲気とかも知りたくて。そんな訳で、Aクラスにお邪魔したって感じ。きっと見習えると思ったから!」

 

不自然にならない範囲で、思ってもないことを言いまくってAクラスを持ち上げまくる。あえて声をちょっとだけ大きくして周りにも聞こえるように言った。

 

「そういうことなら、まぁ……。坂柳が許したのが本当なら……」

 

自分を頭が良いとか、優秀な人間だと思ってるヤツは「流石です」「当然ご存知の事と思いますが……」「これは他の方にはまだ伏せている情報なのですが」なんて言っておけば意外と扱いやすいアホだと菅原レッスンで聞いていた。その通りっぽいな。

 

ここでやっと、ずっとこちらを見ながらニヤついていた坂柳がやっと声を出す。

 

「えぇ、彼は私が呼びました」

 

「そうか……、なら仕方ない。ただし、騒がしくするなよ!」

 

図書室でもないのに別にええやんけ、お前の方がうるさくねぇ?……なんて思うがもちろん言わない。

 

「ん、了解。許してくれてありがとう」

 

嬉しそうな笑顔を意識してわざと作って感謝を伝える。ありがとうメガネ!どうでもいい男なんだから二度としゃべりかけてくんなよ!

 

「……話は終わったようですね」

 

ほとんど何も言わなかった坂柳、こうなるの分かってて呼んだんじゃないのか?……ま、ええか。

 

「もしかして、あのメガネ……、坂柳のこと好きなんじゃね?」

 

「……そういう訳では無いと思いますよ」

 

あれ?違うのか。ちょっと呆れた感じの顔を見せてきた坂柳、……照れてる訳でもないみたいだ。なんとなくメガネマンは坂柳の方をちらちら見てた気がしたけど……、うん、分からん。

 

「浅井くんは、コミュニケーション能力が優れているのかもしれませんね」

 

「……そう?」

 

「えぇ。人と仲良くなるのがとても上手だと思いますよ」

 

そう言って微笑んでくれる坂柳、かわいい~。

 

褒めてくれるのは嬉しいけど……、俺は興味ない人間の名前をすぐ忘れちゃうし、人にすぐ好かれるような容姿でもないし、櫛田や一之瀬というバケモノを見てしまうとザコ過ぎるから素直に喜びにくい。Dの平田みたいな我慢強さと人当たりの良さも無いし、俺がやってるのはテキトーに思ってもないこと言って褒めて誤魔化してるだけなんだよなぁ。まぁでも好意は素直に受け取っておこう。

 

「うーん……?ま、ありがと」

 

「いえ。それではそろそろ勉強しましょうか」

 

「オッケー。……じゃあ早速なんだけど、数学の参考書に載ってたこの問題が訳分からなくてさ、解説読んでもイマイチ分からなくて」

 

「その問題ですか。それなら……」

 

こうして、なんとかAクラスに滑り込み、2時間ほどだったが勉強会に参加させてもらうことが出来た。最初に俺のせい?で少しだけ騒がしかったけれど、その後はひたすら真面目に勉強する人だけで静かな環境だった。私語も無かったし、お互い勉強を教え合う声があっても不快に思うことのない2時間だった。うーん、やっぱエリート集団っぽいね。

 

 

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「では、そろそろ終わりましょうか。まだ続けたい方は続けてもらっても構いません」

 

坂柳がもう19時を過ぎていたのを確認して全員に号令を出した。それを聞いてAクラスに居た生徒のほとんどが片付けを始める。あぁ、Aクラスのリーダーって本当だったのか。

 

「よっしゃ、集中したわ~。呼んでくれてありがとう」

 

「いえ。そろそろ夕食の時間もありますからね」

 

「……そういえば坂柳は例の小テスト何点だったの?」

 

勉強中に気になったけど、周りに気を使って聞けなかったので今聞いちゃおう。

 

「私は100点でした」

 

「おぉ!?すげー!あのやけに難しい3問って大学受験レベルだったんじゃないの?」

 

「そうですね……。数学の問題は一見難しかったですが、範囲としては高校1,2年のカリキュラムに収まっていたと思います、なかなか面白い応用問題でした」

 

一応俺たちは高校1年生になったばかりであって、1年生レベルでも早いはずなんだけどね……。ま、ええか。

 

「国語の問題は文学部でしか出ないであろうくらいの問題だったと思いますが、意味を記述するだけだったので、なんとかなりました。該当する熟語を漢字を書け、という問題だったら私でも書けなかったかもしれません」

 

難読熟語の問題だったはずだけど、本で見たとかなのかな。

 

「社会の問題に関しては……、あの歴史問題はもう……、雑学クイズの領域でしたね。大学受験でもまず出ないと思います」

 

「んはは!めっちゃ呆れてんじゃん」

 

きっと問題を出したのはDクラス担任の茶柱だろうけど、坂柳にもやりすぎだと思われてんのかい。

 

「……あの程度のテスト、Aクラスだったら最低でも90点を取らなくては恥ずかしい問題だ。80点などという情けない点数を取っていた生徒も数人居たみたいだが、Aクラスに相応しいのかね?……ちなみに君は何点だ?」

 

最初に絡んできたAクラスのメガネが勝手に話しかけてきた。お前と会話してないが……、なんとなく人との距離感を掴むのがちょっと下手なヤツっぽいな。良く言えば研究者気質、悪く言うとコミュ障。自己評価と他者からの評価にまぁまぁズレがあって面倒なタイプだ。

 

加えてAクラスとして結構調子に乗ってるっぽいかな?そりゃあ結構良い高校に入れた上に「お前らの未来は素晴らしい!国が何でも保証してやる!」なんて言われたAクラスなら有頂天にもなるのだろう。……俺としてはどうせ嘘だろとまったく信じてないが。

 

うーん、相手するの、めんどくさい!

 

「俺は80点だったかな。あー、腹減ったや。今日はお邪魔しました~。んじゃ!」

 

Aクラスの残っていた人になんとなく挨拶しながら、さっさと教室から退散した。

 

 

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今日はめっちゃ勉強した気がするので、自室ではしまっせーん。もう歯も磨いて寝るだけの状態で、布団でゴロゴロしながら学生証端末をいじくり今日も匿名でスレ立て逃亡をする。『1-C龍園が人を殺したことあるってマジ?』『信じたくないけどありえる』と……。

 

……そうだ、坂柳に「また参加させて~」言っとくか。

 

 

[浅井虎徹>>><<<坂柳有栖]

 

【浅井虎徹】:今日は勉強会入れてくれてありがと。また行っていい?

 

 

あれ?なんか龍園から通知が来た。……やべぇよ怒られるにしても早すぎるだろ。

 

 

[浅井虎徹>>><<<龍園 翔]

 

【龍園 翔】:ヒマならDの偵察してくれ

 

あれ、掲示板の件じゃない?良かった~。恨み買いまくってそうだから俺だという特定はまぁ無理か?良かった良かった。明日……はまぁヒマだけど……うーん。

 

【浅井虎徹】:やれたらやる

 

なんとなく、すぐに「いいよ!」言うのが嫌でもったいぶったが……返信ねぇな!

 

ん……まぁ、いいや。寝よう。

 

 


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