ようこそ邪悪な教室へ   作:マトナカ

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はじめての工作
運動の秋


9月1日、夏休みが終わって、今日から2学期が始まる。いつも通り1人で登校して、いつも通り誰とも話さずにいる私は伊吹澪だ。

 

バカみたいな女子共と頭の悪い会話をするのも嫌だけど、この、孤立してる状況が少しだけ嫌でもある。……慣れたけど。

 

この学校に入学してから、今月でもう半年になる。入学前は良い高校に入れることになったと素直に思ってたけど、入ってから『Aクラスで卒業しないと意味がない』という無茶苦茶な、ムカつく事を言われた。最初は4クラスあるうち上から3番目でスタートすることになってたのも絶望的だった。その原因も、クラスのリーダーの龍園のせいだ。不良を絵に描いたような、暴力的で、ムカつく、嫌なヤツ。他クラスへの嫌がらせばっかりしたり、偉そうに命令しまくってきたり、本当にクズみたいな人間だ。

 

けれど、そんな私達だけど、今は意外とAクラスを狙えそうな位置に居る。最初Cクラスだった私達は、今はBクラスになってる。それもAクラスに僅差だ。

 

Aクラス:CP854

Bクラス:CP812

Cクラス:CP747

Dクラス:CP306

 

本人には言わないけど、まぁ……間違いなく龍園の功績だろうね。この夏休みの特別試験2回で、AクラスとBクラスを引きずり下ろして、Cクラスをしっかり上げた。いや、今は私達がBクラスだけど。

 

そういえば金田が作ったグラフもあった。今もこのグラフとほぼ変わりないCPだ。

 

【挿絵表示】

 

龍園はクズみたいなヤツだけど、この学校で勝ち抜くための力を持ってるんだと思う。試験というか、ゲームを理解して、他人の想像を超えていく発想力。そして実行力。リーダーとしては優秀と認めるしか無い。

 

嫌ではあるけど、付いて行くしか選択肢は無いと思う。命令の内容も、ただの嫌がらせにしか見えなくても、必要なことなのかもしれない、かも?

 

いやでも、絶対に必要ないこともやってるような……。

 

なんにせよ、龍園がこの調子で成果を上げていけたなら、1年のうちにAクラスに上がれるかもしれない。そういう希望は少しある。

 

 

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まだ教室に数人しか居ない早い時間帯、特にやる事も無いから、CPについて考えつつ、時間潰しになんとなく勉強していると、この夏やけに顔を合わせてたヤツが登校してきた。

 

「おはよっす~、伊吹」

 

「……おはよう」

 

浅井虎徹だ。龍園から監視しとけみたいに言われてるけど、私からするとやっぱりただのアホに見える。無人島でDクラスの奴らにキレてたとかいう話は聞いてるけど、そこまで警戒する意味が分からない。別に、悪いヤツじゃないとは思うけど……。やっぱ、ただのアホだと思う。

 

「そうだ、タロットカード返すよ。遅くなってごめんね」

 

「別に」

 

買う時に半分ずつ出してるんだから、私の物とも断言出来ないし。

 

「代わりって訳じゃないけど、何人か見てきたよ。想像通り龍園は……『悪魔』だった。まさに暴力マンだから合ってそうだよね。んはは!」

 

【挿絵表示】

 

『悪魔』の意味は『破滅、暴力、激烈、宿命、黒魔術』とかだったはず。

 

意外、って事はない。他にありそうだったのは、リーダーとして『皇帝』や、力などを表す『剛毅』、調子に乗ってそうだから『愚者』とかも可能性あったとは思うけれど、確かに『悪魔』が1番合ってそうに思える。やっぱコレ、かなり当たるタロットカードなんだと思う。

 

「他は?」

 

「おっ、興味ある?やっぱ占い好きだね~伊吹」

 

「うっさいよ」

 

アンタが『何人か見てきた』って言ったから聞いてんだろが。

 

「他は、最近仲良くなった、Dクラスのすっげー変なオタクの外村ってヤツが『隠者』だった。ちょっと口調とかの癖がヤバすぎて、イジメられないのか心配になっちゃうくらいのヤツだけど、パソコン知識とかがすごいヤツ。正直、隠れてるようなキャラじゃなかったかもしんない」

 

「……そう」

 

【挿絵表示】

 

『隠者』の意味は、隠れた人という意味はあまり無く、『精神性、悟り、告げる者』とかがある。……でも、まぁ外れる事もきっとあるんだろう。もしくは根暗なタイプなのかもしれない。知り合いじゃないから、合ってるのか合ってないのかも分からないけどさ。

 

「あとは、Aクラス……じゃなくて坂柳クラスって言った方がいいのか。のリーダーやってた葛城が『法王』だった。安定志向というか守備的な感じで『皇帝』かとも思ってたから少し意外だったけど、でも合ってそうだよね」

 

【挿絵表示】

 

『法王』の意味は『信条・社会性・恵み・有徳』など。要するに、マジメなタイプかな。

 

「まぁ、合ってそう」

 

「でしょ?やっぱそこそこヤバいタロットカードだと思うよ。正解率7割くらいは超えちゃってそう」

 

確かに100%って事は無いだろうけど、ほぼ合ってたような気もする。……いや、あんまり人付き合いしてない私だから合ってるように見えるのかも。

 

「それで、占ったのは今ので全員?」

 

「え~っと………いや、あともう1人やってた。『塔』が出たんだけど……あ~、でも、どうしよ。あんまり有名なヤツじゃないし、伊吹も知らないだろうし」

 

「……誰よ」

 

そもそも他クラスの生徒自体ほとんど知らないから関係ないでしょ。

 

「ん~、この事は他のやつに言わないでよ?」

 

「はぁ?……別に、言う相手なんて居ないから」

 

何を警戒してるんだコイツ。変に小声になったし。

 

「じゃあここだけの話だよ?……Aクラスの弥彦(やひこ)ってヤツが『塔』だった」

 

「知らないけど……。そう」

 

聞いたことも無いヤツだ。

 

【挿絵表示】

 

『塔』の意味は『悲嘆・災難・不名誉・転落』とか、結構悪い意味ばかりだ。下手したらアルカナ22種の中で1番悪いカードかも。

 

そいつ、かなり運が悪いヤツなのかな?見たこと無いけど。正直、そんなアルカナが出た相手とはなるべく関わりたくないかも。

 

 

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午前中の授業が終わり、昼休みを挟んで午後。今日はなぜか2時限も続いてHR(ホームルーム)らしい。理由はまだ知らない。

 

Bクラスになったのに特に変わらない様子の坂上が来て、淡々と説明を始めた。

 

「今日からまた授業が始まりましたが、2学期は9月から10月までの約1ヶ月ほど、体育祭に向け体育の授業が増えることになります。新たな時間割と体育祭に関する資料を配るので、しっかり保管して、紛失しないようにして下さい」

 

体育祭か、運動は苦手じゃないから少し楽しみだ。……クラスの一部の女子から嫌そうな声が出たけれど、すぐにまた静かになった。あまり騒がしくすると、龍園に怒られるかもしれない、目をつけられるかもしれないってね。今でも暗い静かなクラスだ。別に明るい必要も無いけど。

 

「プリントは全員に渡ったようですね。それでは説明を始めます。今回の体育祭は、全学年を『赤組』と『白組』の2つに分けて勝負することになります。あなた達Bクラスは『白組』となります。そして、Cクラスも同様に『白組』となり、この期間は味方となります」

 

ふーん……。それにしてもまだ『Bクラス』が私達、ってのに慣れないな。そのうち当たり前になるんだろか。

 

とりあえず、Dクラスと組むよりは一之瀬のクラスと組む方が良いかな。Dとは無人島で一緒に過ごして、悪い奴らじゃなかったけど、あまりにもギャーギャーまとまりが無さすぎた。騒がしすぎて、一緒に戦いたいクラスとは思えない。あと、スパイ活動したから、ちょっとだけ気まずい、あんまり顔を合わせたくないってのもある。

 

「では資料1枚目に目を通して下さい。今回の体育祭における点数配分と、結果が与える影響が載っています」

 

プリントには、次のように書かれていた。

 

 

**********

 

『体育祭におけるルール及び組分けについて』

 

 

【組分け】

 

全学年を『赤組』と『白組』の2組に分け行われる対戦方式の体育祭

 

『赤組』:AクラスとDクラス

『白組』:BクラスとCクラス

 

 

【全員参加の個人競技】

1位15点

2位12点

3位10点

4位8点

5位7点

6位6点

7位5点

8位4点

9位3点

10位2点

11位1点

12位以下0点

 

【全員参加の団体戦】

勝利した組500点

敗北した組0点

 

【推薦参加競技の点数配分】

1位50点

2位30点

3位15点

4位10点

5位8点

6位6点

7位4点

8位2点

9位以下0点

 

(※最終競技のリレーのみ3倍の点数)

 

 

【結果が与える影響】

 

・組対抗の結果

→勝った組に所属するクラスは、CP変動なし

→負けた組に所属するクラスは、CP100減少

 

・学年別順位の結果

→総合点1位:CP50増加

→総合点2位:CP変動なし

→総合点3位:CP50減少

→総合点4位:CP100減少

 

**********

 

 

「――つまり、特別試験と捉えて頂いて構いません。組で敗北、そして学年最下位となった場合はCP200の減少となります。負けによるペナルティは小さくありません。全員が勝利に向けて努力してくれることを期待しています」

 

今回は、CPを増やすというより、減らさないために頑張るってことか……。せっかく増えたCPなんだし、なるべく減らしたくない。勉強ではAクラスとかに負けるだろうけど、運動ではウチのクラスもそこそこ戦えると思う。1位も夢じゃないはず。

 

「く、クソ試験……。学校側による回収だよこれ」

 

後ろの方から不満そうな声が小さく聞こえた。多分、虎徹だ。……言われてみれば、そういう目的があるのかもしれないな。

 

「……では次に、個人への報酬と罰則についてです。2枚目を見て下さい」

 

 

**********

 

『個人競技報酬』

 

【各個人競技】

1位5000pp贈与 または筆記試験3点

2位3000pp贈与 または筆記試験2点

3位1000pp贈与 または筆記試験1点

最下位1000pp没収

 

(※点数を選んだ場合、次回中間試験にて使用可能)

(※点数を選んだ場合、他人への付与・移譲は出来ない)

(※所持金が1000pp未満の状態で最下位だった場合、筆記試験にてマイナス1点)

 

 

【学年別最優秀生徒報酬】

 

・学年ごとに、全競技の合計点数が上位3名には『1万pp』が贈与される

 

 

【最優秀生徒報酬】

 

・全学年でもっとも高得点だった者には『10万pp』が贈与される

 

**********

 

 

「点数って、めっちゃ良いじゃん!」

 

女子の誰かが声を上げたように、筆記試験の点数をもらえるのは嬉しいかもしれない。別に勉強苦手って訳じゃないけど、上手く行かなかった時に赤点回避のために使えそうっていうのはありがたい。赤点で退学だからね。

 

優秀生徒の報酬は、……あんまり関係無いかな。私も体力とか運動神経にはそこそこ自信あるけど、流石に学年トップ3とか狙えるほどじゃないし。

 

「次に、体育祭での成績が低かった生徒へのペナルティ。そして反則事項に関してになります」

 

 

**********

 

『成績下位者へのペナルティ』

・全競技終了後、学年内で総獲得点数が下位10名にペナルティを科す

・詳細は学年ごとに異なる。担任教師に確認する事

 

『反則事項について』

・各競技のルールを熟読の上、遵守すること

・違反したものは失格同様の扱いを受ける

・悪質なものについては退場処分、獲得点数の剥奪も検討される

 

 

『各競技のルール・反則事項』

 

―――

 

――

 

 

 

**********

 

 

そして反則事項がずらずらと書かれている。ほとんどが各競技の説明やルールばかりで、加えてフライングしちゃダメとか、指定の服装でやれとか、アクセサリーはダメとか、常識的な事が書かれてる。

 

どこかから上がった「ペナルティ?」という疑問の声に、坂上が答えた。

 

「あなた達1年生に科せられるペナルティは、『次回筆記試験におけるテストの減点』となります。総合成績が下位10名、それぞれの生徒は、次回の中間試験において点数が10点の減点を受けます」

 

クラス中から「えぇ……」などの溜め息が漏れた。

 

「どのような方法で減点を適用するかは筆記試験が近づいてから、改めて説明されます。そのため、この場では質問を受け付けません。また、成績下位10名が誰かという発表も同様に、筆記試験説明の際に通告されます」

 

なんで今言わないんだ?体育祭に集中しろって事なのかな。

 

「……それでは、次に実施競技の一覧です。次の資料を見て下さい」

 

 

**********

 

<全員参加種目>

①100メートル走

②ハードル競争

③棒倒し(男子限定)

④玉入れ(女子限定)

⑤綱引き(男女別)

⑥障害物競走

⑦二人三脚

⑧騎馬戦

⑨200メートル走

 

<推薦参加種目>

⑩借り物競争

⑪四方綱引き

⑫男女混合二人三脚

⑬3学年合同1200メートルリレー

 

**********

 

 

「あの、先生、これは少し多くないでしょうか?日程は1日だけなんですよね?」

 

金田が声を上げた。言われてみれば確かにそうかもしれない、全員参加競技は1学年160人だから全学年で400人以上も居るし、その全員が全部やって、さらには推薦競技もやるってなると時間が足りなくなりそう。

 

「厳格に時間が決められており、実際に可能なスケジュールが出来ています。……中学までの『体育祭』という想定ではなく、体育会系部活動の『競技大会』を想定すると良いかもしれません。淡々と、ひたすら自分の競技をこなしていく事になります」

 

かなり効率的に、って事みたいだ。この学校らしくもある。

 

「そうですか……。了解です、ありがとうございます」

 

「最後に、非常な重要な『参加表』と呼ばれるものについて説明します。この表には全種目の詳細が記載されており、あなた方が自分たちで、各種目にどの順番で、誰が、いつ参加するかをすべて決めて、記入し、担任の私に提出して下さい」

 

なんだかよく分からないな。学校側が勝手に決めても良い気がするけど。

 

「体育祭で実施される競技のすべて、何組目に誰が走るかまで、全部あなた方が話し合って決めて下さい。締め切り時間を過ぎた場合、どのような理由があっても入れ替えることは許されません。必ず期日を守るようにした方が良いでしょう。……提出期間は体育祭の1週間前から、体育祭前日の午後5時、17時までの間となっています。もし提出期限を過ぎた場合はランダムで割り振られるため、注意して下さい」

 

かなり考えて、メンバーを選ばなきゃいけないって事みたいだ。クラスの40人をどうやって使うか、まぁ……龍園が勝手に選ぶでしょ。良くも悪くも。別に文句は無いけど。

 

「坂上!もし欠席者が出たらどうなる」

 

「……敬語を使いなさい龍園。各競技、必要最低限の人数を下回る形で欠員が出た場合、続行不能となり失格となります。騎馬戦でも、二人三脚でも、組んでた相手も共に失格となります。体調管理には大いに気をつけて下さい」

 

「体育祭当日の競技者交代は出来んのか?」

 

相変わらず、敬語を使う気配すら見せない龍園。坂上もなんか諦めてそう。

 

「……救済措置としての特例があります。『全員参加』の競技では一切認められないものの、『推薦競技』に関しては代役を立てることが許されます。条件は、各競技1人につき10万ppです」

 

高くない?……一応、体調管理に気をつけておこう。もし体調が悪かったら龍園に自腹で払えとか言われて分捕られそうだし。

 

「では、次の時間は第一体育館に移動して、各クラス他学年との顔合わせとなります。それまで30分ほど授業時間が残ってますので、好きに使って下さい。話し合いも許可します」

 

そう言われると、クラスの大半が教室の最後列の方を向いた。龍園が何か言うのを待つように。

 

私も教室の後ろの方を見てみると、見慣れたニタニタ顔の龍園だけでなく、龍園の隣に座ってる虎徹がなぜか真剣に何かを考えてる様子も見えた。あんな顔するヤツだったっけ?もっと気の抜けた、めんどくさそうにしてるキャラだった気がする。

 

言葉にするのは難しいけれど、なぜか、今までの虎徹とは少し違うように見えた。

 




愚者 :石崎大地
魔術師:
女教皇:堀北鈴音
女帝 :櫛田桔梗
皇帝 :平田洋介
法王 :葛城康平
恋愛 :軽井沢恵
戦車 :伊吹澪
剛毅 :
隠者 :外村秀雄
運命 :椎名ひより
正義 :
刑死者:
死神 :神室真澄
節制 :山田アルベルト
悪魔 :龍園翔
塔  :戸塚弥彦
星  :浅井虎徹
月  :綾小路清隆
太陽 :高円寺六助
審判 :坂柳有栖
世界 :

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