ようこそ邪悪な教室へ   作:マトナカ

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掲示板の裏事情

おはようございます。昨日の学内掲示板がそこそこ盛り上がってたせいで、少しだけ寝不足の俺は浅井虎徹です。昨日、龍園にアカウントがバレちゃったし、制裁されそうだなぁ、殴られそうだなぁ、怖いなぁ、イヤだなぁ……と怯えています。嘘です。

 

実は、事前に龍園には全部伝えて、許可も貰ってました~。怒られませ~ん!

 

昨日の放課後までに、指示というか、頼んだりしてた事は以下の通り。

 

To金田

・図書館のPCでスレ立てして

・スレがある程度盛り上がって、話題が落ち着いたら、金田自身のスマホから俺が送ったテキストを投稿して

 

To石崎

・夜ちょっと俺の部屋に来て学生証端末を貸して

・俺が石崎のスマホ使った事を誰にも言わないで

 

To櫛田

・『坂柳は心臓が悪いらしい』という情報を何かのタイミングで広げて

 

To龍園

・何をするかの事前相談&報告&許可承諾

・なんとなく掲示板に書き込んで盛り上げ役やって

 

学内掲示板について説明すると、1人1人に割り振られるIDは0時に変更される仕様で、1日しか保持されない仕様だった。

 

学生証端末、いわゆる生徒それぞれが持つスマホだと、専用アプリを使うか、規制まみれのインターネットブラウザから見るかの2通りで掲示板にアクセス出来る。けど、どっちを使ってもその日は同じIDになってた。

 

そういう訳で、夏休み終わり頃に、PCに強いらしい人物のDクラスの外村秀雄に『どうしたら複数IDを持てるか』を聞きに行った。なんとなく金田も一緒に。俺が分からない事でも分かるかもだし。

 

ちなみにその時は椎名に声はかけなかった。頭良いけど、文学少女すぎるので、なんとなくダメそうな気がして。龍園からも名前が出なかったし、まぁそういう事なんだろうな。

 

外村の回答としては、生徒1人で複数の掲示板IDを持つ方法はシンプルに『誰かに端末を貸してもらう』のが一番簡単なはずだという事だった。2番目の方法としては『PCを購入しちゃえばいい』とのこと。

 

さらに言うには、『PCからIPアドレスを偽装して投稿すれば無数に装える』とか言って、色々と解説してくれたけど、何を言ってるのか分からんかった。もしかしたら一緒に居た金田が理解して、出来るようになるかもしれないけど、俺は全然分からなかった。

 

でも、他クラスから欲しい生徒が居るとしたら、Dクラスの外村が割と欲しいかもとすら思えた。オタクらしすぎて口調がキモい、なんか会話してて疲れる頭おかしいメガネだから、ランキングで言ったら20位くらいかもしれないけど。

 

クラス競争的に欲しい生徒の名前を出すとしたら、1位は坂柳、2位に櫛田、3位が一之瀬って感じかな……。意外と少ないかも。後はハゲの葛城と、外村くらいか。じゃあ5位ってことか?いやそこまでじゃ……。

 

堀北は邪魔そうだし、平田はイケメンすぎて女を取られそうで要らないし、マジでそんなもんかも。逆に龍園を取られるとかなったら超大変になりそうかな……。まぁいいや、架空の話で考えすぎたな。

 

ただ、何にせよ、IT系に強い人材ってのは本当に役立ちそう。これからもお世話になること多そうだし、そういう下心アリで今回の相談では口止め料を5万pp渡した。流石にこれで言いふらされる事は無いでしょ……。外村は結構ビビってたけど、別に現時点では何の共犯でも無いし、信頼を得るための第一歩としては言うほど高くもない。今度また何か相談しても『報酬をちゃんともらえるはず』と思ってもらうのは大事だからね。

 

ちなみに金は龍園資金から出してもらったので、俺はノーダメージ。クラスのための行動なんだし、当然だな。

 

もしこれに出さなかったら何に使うんだよって話だよ。

 

 

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昨日の掲示板で俺がやりたかった事は、大きく3つ。

 

 

① 坂柳の求心力を下げる

 

② 一之瀬への警告のため、南雲の情報を流す

 

③ 龍園による堀北襲撃を匂わせる

 

 

これ、割と全部が上手くいったかもしれない。

 

1つ目、坂柳に対しては、そもそも目立った行動が現時点でほぼ無かったはず。だから『評判を下げてやろう』という動機を持ってそうな生徒として、Aクラスの葛城派だった人間に疑いの目が向きやすいはずだ。

 

それ以外の生徒を疑ったとしても、『あの小さい女の子』という情報を持ってるのは、昨日の体育館で見た生徒ほとんどでもある1年の全員が候補に上がってくるはず。

 

他に出した情報も『龍園が悪かったんじゃね?』くらいだし、それもまた学年全員が思ってもおかしくない。

 

使った主張も、分かりやすく『葛城さんの方がリーダーに相応しい!』なんて言わずに、『あんなに病弱で可哀想な少女に負担をかけるのはどうなの?』という、感情的に共感しやすい角度からの疑念を植え付けた。これを無視するのは難しいはず。

 

『心臓が弱いらしい』まで櫛田が良い感じに書き込んでくれたからね。共同戦線として、トップを弱体化させようと提案したんだけど、実際やってくれて助かった。ナイスアシスト。

 

もし、ここまで情報を入れて、それでも『いや、心臓が弱くて杖をついてて体が弱い坂柳だけど、頭が良いからリーダーとして色々と責務を負ってもらおう!』なんて言うヤツが居たら、それはそこそこヤバい人間だと思う。流石に少数派でしょ。

 

坂柳本人には『競い合いたい』みたいな願望があるみたいだし、今までずっと活躍の機会が無く、それでもクラスの内政で主導権を握りつつあって、やっと他クラスと競い合えるかも……っていう状況で、また内紛が起きたらちょっとかわいそうで、本当はやりたくなかった。

 

でも、まぁ、敵を分散させようとする離反工作なんて、謀略の基本中の基本だからね……。それなりに実力を示すなり、世の悪意を体験させるにはやらない訳にはいかねぇですわな。出来る限り、本気で動くとしたら、やるしかないよと。

 

坂柳、ごめん!

 

 

2つ目は、一之瀬への警告のため、南雲の悪行を伝えたやつ。

 

手段としては、ただ俺が作った2年からのメッセージに見えるテキストを、金田に投稿させただけ。アレは本当の2年生じゃない。

 

あのメッセージを見た上で、それでも一之瀬が南雲を信じ切って何もかも差し出すっていう判断をしたなら、それはもう……どうしようもねぇわ。その時はその時で、完璧にクラスを崩壊させて終わらせてやるしかないね。絶対的なクラスリーダーが年上のチャラ男に好き放題されて言いなりになってるって事になったら、もうその組織は終わりだろ。

 

ただまぁ、流石にあの仲良しクラスだったら、一之瀬に注意を促すなり、それぞれが南雲を警戒するなりしてくれるでしょ。そうしたらウンコ南雲も少しは1年に手を出しにくくなってくれるはず。

 

これからしばらく、一之瀬達の動きに要注目かな。

 

 

3つ目、最後、これは『龍園が女子を襲うかも』という情報を流しただけ。

 

これは、この言葉だけでも『標的は堀北かも?』って思う生徒はそれなりに居るだろうし、運動能力が高い須藤ってヤツが堀北のことが好きらしいので、須藤をハメる伏線になるかもしれない、くらいの理由。実行するかはまだ未定だけど。

 

それよりは、目的として『このIDの生徒が浅井虎徹』という偽装をするためではあった。Aクラスのやつとギャーギャー言い合って、その後にID変えて、そのIDを目立たせてもらうと。こっちが浅井虎徹だとアピールすると。そうすれば、普通に考えて『さっきのは浅井じゃない』って思ってもらえたはずだ。わざわざ端末変えてID変えるほどの理由も無いだろうからね。

 

上手くいっただろうけど、でも、だからって『バカ』とか『アホでしょ』とか、そこまで言わなくても良くない……?

 

てかアレ、龍園っぽいのは龍園だっただろうけど、もう1人は……もしかして伊吹なのかな?俺からは何も伝えてないんだけど、たまたま見てたのかもしれない。ネットだと口数多くなるタイプなのかも?いや俺らのクラスの違う女子かもしれないけど。

 

もしかしたら龍園から伊吹に情報がいってた?……まぁ、全体的に上手くいったから良いか。気にしてもしゃーない。

 

他に気をつけた事といえば、『坂柳かわいそう!』の流れで1回止まってたら、後から坂柳とかAクラスの生徒が気付いて反論されたりしちゃうかもしれないので、話題をすぐ変えるためにもファッキンウンコ南雲情報を投下したのは良かったかも。大量の情報で、過去の話題を流してしまうという。実際上手くいったと思う。

 

実社会でも、とんでもない嘘ニュース流して話題になって、またすぐ次のニュースが流れて、何日か経ってから訂正ニュースが流れても誰も興味無くなってるからね。そういう感じ。

 

さらに、投稿時間も気をつけた。あんまりにも長時間やり取りすると、その間にAクラスだけや、2年だけで集合かけられて、『書き込んでるのは今ここに居ない生徒』みたいなアリバイ検証とかされちゃうかもしれないので、追加で書き込んだりは一切してない。ただ見てただけ。

 

幸いにして、その後はもう殆どが南雲についての話題で、体育祭についての話も全然されてなかったかな。『あれマジ?』『いや嘘でしょ』とか、先輩から聞かされた話とか、南雲が違う女子と歩いてたとか、あの投稿を補強する情報もちらほら出てた。

 

でも、全体的に6割くらいは『流石に嘘だろ』って感じで、怪しんでる。そして残りの反応も『嘘だろうけど警戒しておこう』みたいな感じかな。『絶対にありえない』って反応は、それこそ一之瀬っぽいコメントだけかもしれない。良くも悪くも2年との差があるからかね。

 

まぁ、信じようが信じまいが、とりあえず警戒してくれたらいいや。

 

もっと情報の信憑性を上げるとしたら、龍園から『南雲はマジでやってる可能性が高い』とか指示を出して、俺らのクラスから1年全体にその情報が回るのを期待するみたいな手もあるけど、それだと南雲から龍園が狙われちゃうかもしれないよね。……うーん、一瞬それも龍園が苦労しまくって面白そうだと思ったけど、いや流石にめんどくさすぎるな。

 

現状で、とりあえず2年からの影響力を減らしたであろうという意味では、最高の結果じゃないかな。

 

とりあえず、みんながどういう反応なのか楽しみかな。そろそろ学校行くか。

 

 

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「浅井、来い」

 

時刻は昼休み、午前の授業終わり。真面目な模範生徒の俺なのに、学年を代表する不良ロン毛に呼び出されてしまった。

 

「うぃっす……」

 

ちょっと怒られてる雰囲気出しておこう。それにしても、すっげぇ視線集めてるな。メシ食え!こっち見るな!

 

そういや朝は登校時間ギリギリだったし、まだみんなの感想、そもそも昨日の掲示板の話を知ってるのかとかそこまで聞けてないや。

 

……なんて考えながら龍園について歩いてると、連れてこられたのは学校の屋上だった。あんまり来ない場所だな、昼は学食行くか、購買で買ったパンとか教室で食うかだし。

 

屋上に出ると……クソ暑いな!これ残暑ってやつ?9月に入ったのに普通に30度くらいありそう。うへぇ。他に誰も居ないのだけが救いかな。

 

「で?お前を殴れば良いのか?」

 

「はぇ!?なんで!?」

 

いきなり何を言い出すのコイツ。頭おかしいよ。

 

「……俺がお前を制裁して、そこで初めて昨日のやり取りで、最後のやつがお前だったことになるだろ。逆に、やらなきゃ俺とお前がグルだったことにもなりうる」

 

「いや、まぁ……そうかもしれないけどさぁ」

 

う~ん、殴られたくねぇな。

 

「お前が言ったんだろ。俺との友好関係をある程度否定して、対立関係を偽装して、発言の信頼性を上げると」

 

「……分かったよ。まぁ、うん、そうだね。しゃーない」

 

嫌で嫌で仕方ないけど、今後の事を考えておくと、龍園と敵対してるように見られた方が動きやすいのは間違いない。

 

「顔にするぞ」

 

「まぁ、そりゃ目立った方が良いけど……いや、ちょっと待って。この程度のことで龍園が分かりやすい傷を付けて、教師に何か言われるかもしれないヘマを龍園がするか?もっと言うと、俺と龍園がマジで対立してたら、CP減点されたとしても坂上先生にチクるのが自然じゃね?」

 

「チッ……。仕方ねぇ」

 

「は?……俺の顔面殴りたかったの?嫌なヤツだな~」

 

「で、だったらどうすんだ」

 

「……足にしようか。骨折まではいかないけど、痛くて数日ずっと歩くのが難しい、みたいな。そのくらいでやってよ。ちょうど午後には体育の授業あるし、その時に痛くて見学ってやってたら周りへのアピールにもなるでしょ」

 

「フン。なら、とっととやるぞ」

 

えっ?……いってぇ!!!構える間も無く、めちゃ素早いモーションで、いきなり俺の左足のふくらはぎ付近をつま先で刺すように蹴りつけられた。足を払われたような形にもなったので、立ってられなかった。一瞬浮いたかも。

 

「おい!!!……めちゃくちゃ痛いよこれ。やりすぎ。バカタレ~!」

 

あ、立てないかもこれ。痛すぎる上に、力も入らない。

 

「……フン、石崎でも呼べ」

 

そう言って龍園はさっさと1人で帰って行った。クソボケ……。死ね!

 

仕方ない、石崎呼ぶか。んで保健室に行こうかな。

 

いや本当に痛いな。これ骨は折れてないよね……?

 

 

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「おい虎徹、大丈夫か?」

 

何度目だよコイツ。心配してくれるのは嬉しいけど、何度も何度も言われると鬱陶しいな。

 

石崎の肩を借りて保健室まで来た俺は、龍園に蹴りつけられた部分、青アザというか、青と黄色になって少し膨らんでる患部をアイスノンで冷やしていた。先生いわく骨は大丈夫だとのこと。まぁ良かった。

 

「めっちゃ痛いけど大丈夫だって。今もう痛くても1人で歩けるし」

 

「そうか?……龍園さんと仲良いと思ってたけど、喧嘩したのか?」

 

「……そう思う?」

 

「えっ?いやだって、無人島でも、船でも2人は口喧嘩しながら仲良いように見えたし、龍園さんも虎徹にだけは手を出さないんだと思ってたぞ。すげービックリしたよ」

 

ふむ。石崎はちょっとバカだから参考にする程度だとしても、ここまで驚かれるなら、確かにやって良かったかもしれない。

 

「ふーん……。あ、石崎は体育祭どう思ってんの?」

 

「体育祭か?結構やる気だぞ。俺あんまり頭良くないからな、その分やっとクラスのためになれるぜ!って感じだ。他のバカ系の奴らも結構やる気だぞ」

 

「良いじゃん」

 

「運動部に足の速さとかは負けるかもしれないけど、俺も筋トレは結構してるからな。アルベルトも居るし、俺達で1位も狙えるぜ!」

 

思ったよりやる気あるのね。良い事だ。

 

「応援してるよ。石崎なら活躍しそうだし」

 

「……へっ、ありがとな」

 

「ところで、俺まだ昼メシ食ってないんよね。俺もそろそろ教室戻るから、その間に購買でなんか買ってきてくれない?後で金は払うから」

 

「ん、分かった。待ってな!」

 

……なんか、ここまで気持ちよくパシリやってくれと清々しいな。軽く褒めただけなのに。いやまぁ、素直に友情とか、石崎が良いヤツだと思おうか。

 

体育祭まで期間はまだあるし、情報集めたり、なんとなく情報工作したり、モチベ高めのメンバーの練習見たり、割と楽しめそうかも。




連載開始から1年になりました。
おめでとうございます(自分)

前回の掲示板IDネタバレはこちらです↓
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=268786&uid=310499

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