ようこそ邪悪な教室へ   作:マトナカ

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雑用係

こんにちは、不良生徒の龍園に蹴り飛ばされてから2週間ほど経ち、健康体になった俺は浅井虎徹です。もう痛くもないし普通に走ったりも出来るけど……強く押したらまだちょっと痛いかな。あと色も少し変なままだ、意外とすげー長引くね。

 

足の負傷のせいで、1週間くらいは体育の授業も休んでた。まぁ、3日目くらいから普通にやれただろうけど、わざとらしく休んでた。授業と言っても、体育祭前の生徒達で自由に練習しろという時間だったから成績には影響しない。大丈夫。

 

クラスのみんなからは嫌そうな目、反逆者を見るような目?で見られるようになったり、距離を取られるようになっちゃった。でもまぁ、別にそれも大丈夫。逆に、それでいい。そうじゃなきゃ意味が無い。

 

体育の授業はずっと自由時間だったけど、みんな割と真剣に練習してることが多かったかな。体力測定というか、走る速さの測定とかもマジメにやってた。龍園に指示されても、イヤイヤという感じも全然無かったね。

 

あ、そうそう。俺達はもう体育祭に関して『練習しておけばいい』くらいに思ってるけど、他クラスはそうもいかないらしい。

 

その理由というのは、『参加表』の存在だ。各種目、どの順番で誰が参加するかを提出するやつ。要するに、『誰が何に出場するか』で他クラスは議論されたりしてるらしい。櫛田に軽く電話で聞いた。

 

俺なんかは『龍園が勝つために最善手で選ぶんだろうな』としか思ってないし、俺達のクラスでも割とそう考えてる人が多いんじゃないかな。

 

でもまぁ、言われてみれば、身体能力にそこまで自信が無くても、競技によっては勝てるかもしれないから、できたら推薦のこれには出場したい、みたいな意見もあるのかも。ppがもっと欲しいってだけじゃなく、『筆記試験での加点』というボーナスを確保しておきたいってのもあるだろうし。

 

競技を再確認すると、推薦競技4種目の中でも『借り物競争』だけは運が絡んできて、普通の生徒も勝てるかもしれない。それに参加したいって意見があるのかもね。

 

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<全員参加種目>

①100メートル走

②ハードル競争

③棒倒し(男子限定)

④玉入れ(女子限定)

⑤綱引き(男女別)

⑥障害物競走

⑦二人三脚

⑧騎馬戦

⑨200メートル走

 

<推薦参加種目>

⑩借り物競争

⑪四方綱引き

⑫男女混合二人三脚

⑬3学年合同1200メートルリレー

 

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ただまぁ、なんにせよ走ったりするし、運動得意な生徒がやった方が良さそう。

 

 

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あとDクラスで他にあったらしい意見は、『運動に自信があるから全部に出たい』とか。……いや~、どれだけ体力に自信あったとしても、それは無理だろって思うけどね。1日でやるのが不思議な競技数でしょ。全員参加のやつだけでも、適度に手を抜かなきゃ下手に疲れるだけな気もするよ。

 

意見を分類すると、

 

『全部に出たい運動得意な生徒』

 

『チャンスあるやつ多めに出たい普通生徒』

 

『捨て石にされるのが不満な運動苦手な生徒』

 

だいたいこの3パターンみたい。

 

捨て石が嫌だっていうのは、推薦競技の事じゃなく、全員参加の競技で『弱い人は強い人と組む』というのに納得がいかないらしい。クラス全体としての勝率は上がるだろうけど、ひたすら上位へのチャンスが減るし、最下位とかを取る確率が上がっちゃうと。まぁ確かに。

 

運動も勉強も苦手、っていう生徒にとっては死活問題になりうる。

 

いやはや、大変だね。坂柳クラス、一之瀬クラスも似たような議論はあるんだろうな。

 

俺らなんか龍園への信頼感メッチャあるからね。やっぱ勝ち続けてくれてるリーダーへの信頼感は強い。

 

出場表なんて、龍園が最初に『俺が決める』って宣言してたし、そのせいで存在すら忘れかけてたくらいだよ。そのうち決めて教えてくれるでしょ、みたいな。

 

良い意味でも悪い意味でも、絶対的リーダーだから反論もほぼ出ない。ただ、別に意見を許されないという訳でもない。最近は運動部を中心にチラホラ意見を出す生徒も出てきてる。……いや、今でも言っても無駄とか、怖いから言いたくないとか思われてる可能性も高いけど。

 

意見が無さすぎるのは良くないと思って、俺が龍園に夏休み最後あたりに少し文句言っただけで、今では運動部の奴らから意見をもらおうと質問したりもしてるからね。舐められないで、序列はしっかり維持したまま、下からの意見を吸い上げてる。

 

言いたくないけど、割とマジで理想的なリーダーになってるかもしれない。反抗を許さず、それでいて独裁でもない状態。完璧ではないけど、少なくとも、前より組織として改善されてるとは思う。

 

なんか、龍園の欠点無くなっちゃってない?……それはそれでつまんねーな。

 

まぁ、内政というか、身内に対してだけ成長して、他クラスとかへのちょっかいとかは今でもやっちゃいそうだ。そういう不良要素というか、『ガキっぽさ』はまだ全然ありそう。やっぱまだ『迷惑野郎』『学年1の嫌われ者』とかの称号はまだまだ譲りそうもないね。

 

 

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時刻は昼前、Dクラスとの合同体育の時間だ。入学してから今まで無かったのに、体育祭前になってわざわざ合同授業が始まった。『相手のクラスを観察しろ』ってわざとらしく言いすぎな気もするよね。別に良いけどさ。

 

合同の時は、体力測定を堂々とやったり、100M走のタイムなんか測ってたら情報を渡しすぎることになる。だから合同授業では体力測定のようなことは少なめにしてるけど、それでもやっぱり生徒ごとの優劣は割とハッキリしちゃうよね。ちょい困る、どうしようもない感。どうやってもデータ取られて対策立てられそうというか。

 

もうサッカーやるしかない?全然関係ない運動してたらデータも何も無いし、運動不足ってことはないもんね。もうサッカーやろうぜ!

 

……いや、考えてみると、別に身体能力がバレてもいいのかな?

 

結局の所、参加表さえバレなきゃ『誰が運動出来るか』なんていう情報あった所で対策が取れるはずもない。あれ?偵察する意味、無いんじゃね?

 

本来なら参加表をみんなで決めるかもしれないけど、俺らは龍園が全部決めるから漏れなさそうだもんね。自分の参加順とかも『提出期限が過ぎたら伝えてやる』って言ってたし。

 

そのせいで、体育祭前だからと用意された、週に2時間のHR(ホームルーム)の時間がヒマヒマなんだよね。話し合う事がマジで無い。だからもう、次から自主練習したいやつは運動していいことにすらなってる。

 

ちなみに俺は、龍園に制裁されたマン、下僕、奴隷として、見せしめのように雑用をやらされまくってる。そのせいで、たまに石崎と話す以外は完璧に孤立した状態になっちゃってる。女子なんかはもう、本気で俺と話したらハブられると思ってるのか、目も合わせてくれない。それは流石に寂しい。

 

最初は戸惑ってた男子達も、今では適度に俺とは距離を取ってる。龍園の怒りを買うと思ってるのか、龍園から指令があったのかは知らん。

 

もう普通に「いじめられてまーす!!!」って主張したら通りそうな状況だけど、まぁ別に良い。龍園と裏で連絡取り合ってる以上、どうこうする必要も無い。

 

ちなみに伊吹だけは普通に目が合うし、呆れた様子で見てくる。話しかけたら話してくれる気がするけど、まぁ別にもうちょい孤立してた方が良さそうだし良いや。何かあったらチャットで会話しよう。

 

そんなちょっと寂しい状況を思いながら、倒れた障害物競走のハードルを直してると、バカみたいにデカイ大声が聞こえてきた。

 

「オイおせーぞ池ぇ!もっと気張れ!足遅いなら、その分は根性出せ!」

 

声でっけーな。割と遠くに居るはずの、あれは……Dクラス須藤だ。

 

ふむ、見た感じ、クラスの男子を指導する側になってるらしい。身体能力が高いとは言われてるけど、指導力は……ちょっと無さそうだね。意味無いとは言わないけど、あと2週間で足が早くなるってのもほぼ無いだろうし、運動部じゃなさそうなヤツをゴリゴリにしごいてもあんまり意味無いでしょ。

 

……偉ぶりたくてやってる訳じゃないっぽいし、本気で鍛えてるつもりっぽいけど、いや~ダメそう。他の男子からすげぇ嫌そうな目で見られてる。ただでさえまとまりの弱いクラスなのに、また勝手に分散しちゃいそうだなこれ。

 

「浅井、サボんな。白線引き直してこい」

 

龍園に命令されてしまった。サボってる訳じゃなくねぇ?……まぁいいけど。

 

「うっす……」

 

離反工作とはいえ、流石にちょっと嫌になってきたかも。

 

「フン。体育祭が終わるまではこのままだ」

 

「分かっ、りましたよ~」

 

まぁ夏の関係性をある程度消すためには、それくらい長期間でやった方が良いのは間違いない。なんだったら、ずーっとこのままの方が他クラスからの警戒心が減って動きやすいのも間違いない。

 

けどやっぱ会話すら出来ないってのはちょっと面倒だね。仕方ないけどさ。

 

 

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「まだ全然ダメだ!お前ら放課後も練習しろよ!!」

 

授業終わりのチャイムが鳴ってからも、イライラした様子で他の生徒を怒鳴り散らし、冷たい目で見れられてる須藤に近付いていった。

 

「須藤、お疲れ様」

 

「なんだてめぇ?……龍園のクラスなら関係ねーだろ。敵のはずだ、消えろ」

 

めちゃくちゃキレてんな。逆に面白くなってきたけど、今は煽らないでおこうかな。

 

「いやね、授業が合同だったからついつい見てたんだけど……須藤も大変そうだったね。みんな、なぜかやる気も出してなかったし」

 

「……。」

 

無視して立ち去ろうとされちゃったから、小走りでついていく。誰かに何か言われてんのかね?『黙って無視しろ』とか。

 

「敵って言うけど、俺は龍園クラスだけど、別に龍園のこと好きって訳じゃないんだよ」

 

「……だからなんだ。関係ねーだろ」

 

「ちょい待って!堀北に関する事で、Dクラスにちょっと知らせておきたい事があるんだよ」

 

「は?……アイツがなんだよ?」

 

良し釣れた。堀北のこと、かなり好きっぽいって情報がマジだったみたいで、ちゃんと足を止めてくれた。それにしても物好きが多いっすねぇ。

 

「俺、掲示板でなんとなくバラしちゃって、それで怒られたんだけど……やっぱ龍園が堀北のこと狙ってるみたいなんよ」

 

「なんだと?」

 

「ほら、堀北って友達が少ないし、1人で居ることが多いでしょ?だから敵のリーダーとして狙いやすい……とか言ってたんよ」

 

「………詳しく聞かせろ」

 

「他に聞いたのは、Aクラスの坂柳は元々体が弱いし、何か手を出したら学校側から重い処罰がありそうで、一之瀬は友達といつも一緒に居るから狙いにくい。けど、堀北だけが、クラスのリーダーでありながら1人ぼっちのことが多い。狙いやすい。だから狙う……って。龍園が言ってた。具体的な日付とかは決めてないみたいなんだけど」

 

「ふざけた野郎だ」

 

うぉー、キレてる。今すぐ殴りに行ってくれそうだけど、今はちょっとやめて欲しいかな。

 

「ちょちょ、流石に今すぐ行くのはやめてよ、俺が龍園に殺されちゃうよ。……あと、ムカつくだろうけど、今は何もしてないから、手を出したら須藤が悪いことになっちゃうかもしれないよ」

 

「……まぁ、そうかもな」

 

「だから、今後、堀北が危なかったら守ってあげて欲しいんよ。龍園ならどこまでやっちゃうか分からないし」

 

「あぁ。……覚えとく」

 

「それと、あと、ごめん。今ここで『須藤から情報を聞き出してた』っていう言い訳が無いと、また後で『情報漏らしたのか!』って殴られたりしちゃうから、なんか、小さい情報でもいいからくれない?ごめん、なんでもいいから。頼むよ……」

 

泣きそうな顔をして、手を合わせて懇願する。初めてやったぞこんなポーズ、とか笑っちゃいそうになるのをなんとか我慢しながら、おねだりする。

 

「……チッ、仕方ねぇ。とりあえず、そうだな、俺は全競技に絶対出る予定だ。推薦もな。これでいいだろ?」

 

もっとお願いしたら他にも教えてくれそう気もするけど、それが目的じゃないからいいや。

 

「うん、ありがとう。マジで助かった」

 

「……じゃーな」

 

「ありがとね」

 

なんか、俺こういう単細胞バカと相性良いのかも。石崎みたいなタイプとの関係性が作りやすい。

 

性格が悪い訳じゃないけど、本当にバカで、嫌われやすいタイプ。だからこそ超扱いやすいって思っちゃう。見てきたやべぇ人達と比べて可愛いもんだし、ちょっと積極的に行くだけで、割とすぐ仲良くしてくれる気がする。

 

会話した感じ、なんとかなりそうかも。少しは信頼してもらえたと思う。『龍園に警戒して』『堀北を守ってあげて』と言って、龍園と協力した上でやってる策謀だとは相当バレにくいでしょ。……逆にバレたら、それに気付いたヤツ、めちゃくちゃ諜報員のセンスあると思う。

 

うん、今回の体育祭は『ちょっと暗躍、しっかり勝つ』を目標にしよう。

 

ちなみに、それと真逆の『全力で負けに行く』のを条件にして、全学年の赤組、3年のA&Dと2年のA&Dと1年のA&D、全6クラスからppを巻き上げようという計画もあったけど、交渉がクソ面倒そうだったのと、どの学年のAクラスも乗ってこなさそうだったので断念したプランもあるにはあった。でもまぁ、流石にそれは無理だわな。

 

タイミングに気を付けつつ、須藤を消し去る計画を詰めていくとしますか。


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