ようこそ邪悪な教室へ   作:マトナカ

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暗闇の情事

辺りはもう真っ暗、秋の涼しさを感じつつ、体育館の外で、部活終わりのスポーツマン男子生徒をドキドキしながら待ってる俺は浅井虎徹です。ホモではないです。

 

今日は体育祭の2日前。明日を挟んで、明後日がもう本番となる日。そして、体育祭の『参加表』の提出期日でもある。

 

もっと細かく言うと、期限は今日の18時まで。そして、現時刻は18:43で、期限を過ぎた後。なので条件は整った。

 

これから、Dクラスの須藤を排除する。体育祭から消えてもらう。

 

体育祭は40人クラス同士の戦いなので、1人が減っただけで勝敗が決まる訳じゃない。けれど、身体能力だけなら学年トップクラスで、ヘタクソなりにリーダーも務めていた人間が消えたら、それなりに効果があるはず。1位を取る回数も激減するだろうしね。

 

大会における優位性はもちろんだけど、それ以上に『盤外戦術も警戒しろよ』って思いが個人的には強いかも。そういうメッセージのためにやる、っていう方が動機として強い。

 

ただ、龍園が何を考えてるのかは分かんないや。普通に勝つ可能性を上げたいと思ってやるのか、いつも通り人をハメるのが好きだから乗ってくれたのか、ただの好奇心か、もしくは暴行事件のリベンジ的な意味なのか。そこはちょっと分からない。

 

計画は、入学してすぐの頃にあった、須藤の暴行事件をベースにしてる。場所、状況を割と似た状況にして、今度は完璧な10:0の責任を負わせてやろうってね。

 

アレに関しては俺もちょっと思う所があるし、この上ない『教育』に出来そうっていうのも大きな目的にある。

 

……それにしても遅いな。『まだ』って龍園にチャット送るのも何回目だよこれ。16時くらいかずっと待機して、5分ごとくらいに送ってるぞ。

 

 

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19時過ぎ、バスケ部の居残り練習もしてた須藤がやっと体育館から出てきた。おっせぇ!

 

他には誰も居ないっぽい、1人ぼっち。それはありがたい、話しかけやすいし、誰にも介入されずに済みそうだからね。

 

ただ、バスケって集団競技じゃないの?友達居なくて大丈夫かよコイツ。関係ないけどさ……。

 

余計なこと考えてないで集中しよう。ちゃんと、しっかり演技しよう。よし。

 

「あっ、須藤!ちょうどよかった!」

 

「なんだ……?あぁ、龍園クラスのヤツか。何の用だよ?」

 

ちょっと疲れた様子。まぁ何時間もバスケで動き回ってたんだしそりゃそうなるか。スポーツマンな所は嫌いじゃないけど、申し訳ないけど犠牲になってもらおう。

 

「俺さ、クラスで龍園の隣の席なんだけど、今日アイツが『今日の夜は特別棟に近付くな』って配下の奴らに言ってて……。あそこってカメラ無いんだよね?なんかヤバいかもしれないと思って、晩メシ食った後に隠れて出入り見てたんよ。そしたら、黒くて長い髪の毛の女子と龍園が肩を組んで歩いてる所を見ちゃってさ」

 

「は?」

 

「それ、もしかして、堀北だったんじゃないかなって」

 

「なんだと!?……マジか?その話」

 

「うーん、顔は見てないんだけど、俺らのクラスにそんな髪の女子は居ないんだよね……。そうなると、一番怪しいの、やっぱ堀北なのかなって」

 

「いつの話だ?」

 

「5分くらい前。それで、1人で見に行くのも、バレたら俺またボコられたりしそうで怖いし、須藤なら力とか強くて、他クラスでただ1人頼れそうかもって思い出して。それで、バスケ部が練習してたな……って感じで、誘いに来た。一緒に来てくれない?」

 

「おぅ、分かっ……あ、いや、ダメだ。お前らが騙そうとしてくるかもしれない、って堀北からは聞いてんだ。『何を言われても、黙って無視しろ』ってな。確かに、お前、ちょっと怪しい気もする」

 

うわマジかよ。もしかして、俺がちょっと須藤に話しかけてただけで、警戒したってこと?……どうしようかな。堀北の名前を出せばすぐ釣れると思ったけど、うーん。強く誘うのもちょっと変だな。

 

「えっ、じゃあ……分かった。なら、俺だけで見てくるよ。残念だけど」

 

「……あぁ」

 

まだちょっと迷ってる様子だな。よしよしよし。押してダメなら引いてみよう。

 

「けど、俺も龍園に逆らうの怖いし、相手がホントに堀北だったら……申し訳ないけど、何をされてたとしても、俺は何もしないかもだよ?正直、堀北がどうなってたとしても、どうでもいいし」

 

「は?」

 

「俺、アイツのことそんなに好きじゃない、っていうかどっちかっていうと嫌いだもん。偉そうだし、言うこともムカつくし。……ただ、それでも、龍園が好き放題やりすぎたらどうなるか怖いんだよ。どこまでやっちゃうかが分からないヤツだから。頭おかしい不良だもんアイツ」

 

「……チッ」

 

「まぁ、他の、ウチのクラスの誰かだったら助けるかもしれないけどさ」

 

「……。」

 

「えっと、じゃあ……そういうことで。またね」

 

そう言って、さっさと1人で小走りで行こうとすると、

 

「いや、待て!俺も行ってやる!」

 

よっしゃ、釣れたぜ。

 

思わず笑顔にならないよう気を付けなきゃ。

 

「ありがと、須藤。助かる」

 

「……あぁ」

 

 

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ほぼ真っ暗闇の特別棟に入った。明かりと言えば、小さな蛍光灯や階段の24時間点いてるっぽい薄暗い電気くらいしかなく、人の気配も無い。今にも幽霊が出てきそうな夜の学校という感じがする。

 

「須藤、……めっちゃ静かに行って、龍園がなんか悪いことしてたらスマホで録画しようよ。そうしたら、その証拠があったら、Dクラスにも手を出せなくさせたり出来そうだし」

 

小声で話しかける俺。

 

「……あぁ」

 

うん、俺のこと少しは信頼してくれてそうかな。

 

「ちょい止まって、足音立てないで。……なんか聞こえない?」

 

「…………上っぽいな」

 

マジ?適当に雰囲気出すためにテキトーに言ったけど、もう聞こえるのかよ。ホントか?

 

「そうだね」

 

テキトーに相槌を打って、階段を上がっていくと、須藤が周りを見て何かに気付いたみたいだ。

 

「ここ……俺がハメられた場所だ」

 

「ん?どゆこと?」

 

「監視カメラがねーんだよ」

 

「へぇ~……」

 

いやまぁ知ってるけどね。須藤が石崎小宮近藤の3人と喧嘩して、『最初に手を出したのが誰か』とかいう割とどうでもいいことで揉めて、学級裁判みたいなのやって、結局訴えを無かったことにしたやつ。

 

返す返すも、3バカはアホな判断したよな。元々3人組が喧嘩吹っかけてたとしても、怪我残るまで殴られたの3人の方なんだし、喧嘩両成敗で罰喰らえよって話だろ。『俺たちは悪くないです』って嘘ついたから退学になると思った、とか、アホすぎてもうね……。

 

そりゃ龍園に奴隷にされて酷使されるよって。結局、その時の龍園の目的だったらしい『監視カメラ外ではどれくらい把握してるのか』ってのも一切確認できなかった訳だし。

 

「こっちか?」

 

割と体がデカい癖に、静かに無音で進んでいく須藤。身体能力が高いからかね?

 

「ちょい待っ……あっ」

 

慌てたフリをして、ポケットに入れておいたボールペンを落とす。結構大きい音が出たな。

 

「おい!」

 

うわすげぇキレた顔。そして、めちゃ小声で怒鳴られるというレアな体験。

 

「ごめん、見えなくて落ちてたやつ蹴っちゃった。マジごめん」

 

「気をつけろ。もう近いぞ」

 

「それじゃ、そろそろ録画始めるね」

 

「あぁ」

 

部屋から声が聞こえてきた。1人は聞き覚えのある、上から目線の男の声。そしてもう1人、声が小さくて、ちょっと暗い様子の声。

 

「……本当に、言うことを聞けばいいのね」

 

部屋の中をちょっと覗いても、真っ暗でほとんど何も見えない。けれど、向こうに居る龍園を見て背を向けてる女子生徒が1人、黒い長髪だけが見えた。

 

「クク、さっさと脱げよ。鈴音」

 

その声を聞いた瞬間、須藤の体が思わず硬直した。

 

「代わりに、絶対に私達のクラスに手を出さないで頂戴。卒業までよ」

 

さっきより大きな声で、ハッキリ主張する女子の声。俺も忘れないうちにスマホで録画を始める。

 

「フン、聞いてやるつってんだろ。その代わり俺の女になれってな」

 

「っ、分かったわ……」

 

そしてわずかに聞こえる、布がこすれる音。マジで脱いでるっぽいな。

 

「来いよ」

 

「……いやっ!やっぱり無理!」

 

「今さら暴れんじゃねぇ。諦めろこのアマ!」

 

部屋から机を倒すような、騒々しい音も聞こえてくる。

 

「っ、助けて!!」

 

「こんな所に誰も来ねぇよ。黙れ!」

 

「あっ、やだ、……イヤぁ!誰か助けて!!」

 

情事を盗み聞きしながら須藤を撮影してたけど、悲鳴のような声でついに須藤がキレて扉を開けて突進していった。

 

「やめろこの野郎!!」

 

「てめ、がっ」

 

飛び蹴りしたっぽい須藤、吹き飛ばされっぽい龍園。そして体を隠そうとしてる全裸女子。ちなみにずっと俺は撮影してる、女子は一瞬だけ映しちゃった、慌ててちょっと画角から外す。

 

「ふざけんじゃねぇ!この!クソが!」

 

「チッ、この……やめろ!」

 

倒れた龍園に馬乗りになって顔面を殴りまくってる須藤。しっかりマウント取ってるね、喧嘩慣れてんのかな。

 

「この、ふざけんな!堀北に、お前、ふざけんなよ!!」

 

死ぬほど声がデカい、うるさいなコイツ。あと、ちょっと泣いてる?

 

「てめぇ……須藤か?見てみろよ、鈴音がどこに居るってんだ」

 

「は!?それはテメェが……は?」

 

そう言いながら見た方向には、黒くて長いウィッグを外した、茶髪でショートヘアの女子が居た。俺らのクラスの女子、ちょっとギャルっぽいヤツ。

 

あ、せっかくだしもう電気を点けちゃおうか。ちゃんと録画出来てるかも分からないし。

 

「えっ、お、おま……誰だ……?堀北は?」

 

明るくなった部屋で、慌てた様子で下着だけまず着た女子は、別に泣いてもなかった。

 

「ちょっと!こっち見ないでよ!……カケルくんとヤッてるとこだったのに、なんなの?アンタら。まだあっち向いてて!」

 

「あ、あぁ……。えっ?」

 

困惑しまくる須藤と一緒に、廊下側の方を向く。俺はずっとスマホで撮影してるけど、カメラ部分だけ後ろを向けちゃおうかという下心を必死に抑える。

 

「もう。カケルくん大丈夫?……カケルくん!?ちょっと!返事して!!」

 

あれ?龍園死んじゃった?悲しいな~。死んだらポイントどうなるんだろか。

 

「は?え?」

 

「ちょっと、アンタ達!救急車、じゃない、保健の先生呼んできてよ!!早く!」

 

「あ、あぁ!」

 

慌てた須藤が物凄いスピードで走って行ってしまった。俺そんなに早く走れねぇよ。

 

「録画は……もういいか。終了。んじゃ、俺も呼んでくるね」

 

「……あぁ」

 

お、龍園から返事。ちゃんと意識あるみたいで良かった良かった。殴られた顔にはアザもあるし、頭も打ってたみたいだし1%くらいマジかと思って少しだけ心配したけど、ちゃんと演技だった。

 

そういう訳で、今回は、ただ『龍園が女子とセックスしてました』『堀北の真似をして、嫌がるフリをしてました』というだけでしたとさ。本当に全裸にまでなるとは思わなかったけど……根性あるね長尾。女は怖い。どんな報酬でやってくれたんだろか。

 

要するに、今回のは『イメクラ』プレイだったって事だね、イメージクラブ。本来、普通のセックスに飽きたような人間のやるシチュエーションプレイ。もし、高校1年生で、あの状況で、暗闇の中でその可能性に気付いたら、それもう将来が恐ろしいほどの変態だよ。

 

この後は、龍園が頭打ったから脳震盪でヤバいフリをして、須藤を停学にして、終わり。最初からずっと録画してある証拠もあるんだし、龍園が殴り返した訳でもない。完璧でしょう。

 

こうやるんだよ!石崎小宮近藤!バーカ!

 

もうちょい龍園のこと殴ってくれて、血でも流してくれてたら、もっと良くてパーフェクトだったけど……まぁこれでも満足かな。

 

何が良いって、計画だったとはいえ、『龍園が彼女に堀北鈴音のフリをさせてセックスしてた』っていうのが最高に良いね。嘘だったとしても笑える。

 

録画データも、事実確認の証拠として教師陣に見られるくらいだろうな。あんまり多くの人に見られるもんじゃないから、龍園の間抜けな姿を広められない、っていうのだけは心から残念だな。

 

まぁ、一応は協力関係だし、クラスの統治にも影響しちゃうだろうから、ちゃんと内緒にしておこう。……残念で仕方ないけど。

 

須藤への処罰がどれくらいになるかは、龍園の演技力と交渉力次第かな。

 

俺は余計なこと言わないようにだけ気を付けておこう。




堀北役をやってくれたのは、ただのモブキャラです。

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