ようこそ邪悪な教室へ   作:マトナカ

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2人の女
櫛田桔梗の憂鬱


こんにちは、Dクラスの櫛田桔梗です。

 

今日は体育祭の前日だけど、ついさっき、帰りのHR(ホームルーム)で『須藤が暴行事件を起こして停学処分になった』という通達が突然された。つまり、明日の体育祭には出れなくなったと……。

 

騒然となったクラスで、みんな茶柱先生に詰め寄ったけど、先生は『詳細はプライベートに関わるため伏せられている』と言うだけだった。相変わらず、あんまり味方になってくれない人だ。

 

何にせよ、須藤くん無しで体育祭を戦うことになってしまい、勝率が相当落ちてしまった。運動能力がトップの選手が居なくなって、それでも私達が勝てるとは到底思えない。

 

もしかしたら高円寺くんも身体能力的にはトップクラスかもしれないけれど……やる気が無いみたいだから、役に立たない。きっと参加してくれないだろうし。

 

私も個人的に他クラスの情報を集めて色々と知ってるけれど、初期のABCDクラスの順は入学時の『学力』が並んでるみたいだった。確実に、少しずつ差があるように。だからこそ、『運動能力』を測る今回の機会は、他の普通のテストや定期試験みたいなものより、ずっと勝機があるはずだった。全クラスで総合的な差がほぼ無いはずだから。もしかしたら、初期のDCBAクラスの順に『運動能力』の総合力が高く、私達が1番優秀だった可能性すらあった。

 

それなのに、始まる前から1番運動が出来る人が消えるなんて……。

 

須藤くん、割と身体能力だけは本当に凄い人だ。いつもバカだし、すぐ手を出す不良だけれど、そこだけは間違いなかった。きっと体育祭でも、ほぼ全部で1位を取ってくれてたと思う。だから、今回の体育祭はもう……。

 

まだ分かってないけど、きっと今回もあのクラスが暗躍したんじゃないかと思う。無人島でAクラスが消えたように、船上試験で1クラスだけボロ勝ちしたように。みんなも薄々そう思ってるんじゃないかな。

 

確実に、今1番警戒しなきゃいけないクラスだし、難敵だと思う。ちゃんと勝つには、せめて私達Dクラスも全員がしっかり同じ方向を見るグループにならなきゃ太刀打ち出来ないのかもしれない。仲良く、協力していかないと。

 

けど、そう言う私も、1人がどうしても受け入れられない……。

 

 

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「須藤のやつ、ホントにありえないんだけど!」

 

「偉そうにしておいて……」

 

「何があったのか気になるよね」

 

放課後、クラスの子たちと一緒に怒っているフリをしたり、落ち込んでる子を励ましたり、いつも通りに『信頼』集めをしていたら、まさかの相手からチャットが届いた。

 

『櫛田さん、今日、直接会って話をさせてもらえないかしら』

 

堀北さんから?……あっちから接触してきたのは、もしかしたら初めてかもしれない。流石にちょっと動揺してしまった。

 

「どうしたの?キョーちゃん」

 

「……ううん、なんでもないよ!」

 

クラスの子に心配されてしまった。でも、どうしようか……。

 

正直に言って、堀北さんに対してどうすればいいか決めきれていない。最初、同じ中学の人間だったと気付いた時は、同じ高校に来たアイツを心底憎んだし、何が何でも退学させるつもりだったけれど、今は……。

 

「なんか、嫌な相手だったの?」

 

「う~ん、……みんな、堀北さんの事、正直どう思ってる?」

 

あえて小声で、内緒話をするように聞いてみる。私の人望があったら素直に話してくれるはず。

 

「なんていうか、めっちゃ偉そうだよね」

 

「夏の干支試験で、AとBみたいにCPを減らさないで済んだのは堀北さんのおかげかもしれないけど……」

 

「でもあの見下す感じ、仲良くなりたいとは思えないよね。無人島でもウザかったし」

 

「勉強とか運動は出来るみたいだけど、性格は超悪いと思う」

 

当然だけど、評価は低いみたいだ。ちょっと気分が良い。

 

「キョーちゃんはどう思うの?」

 

当然だけど、私も賛同しておく。仮に堀北さんのことが好きだったとしても、ここで反対する女子が居たらバカだ。仲間として認めてもらえなくなる。

 

「私もやっぱり、そんなに好きになれないかも。仲良くしようと近付いても、いつも拒否されちゃうからね……。相手のことを考えないで、すぐに上から目線で言ってくるのも、やっぱちょっとありえないと思う、かな」

 

「だよね~」

 

「なんかアイツ、自分のことめっちゃ偉いと思ってそうじゃない?」

 

「アハハ!言えてる!」

 

「ありそう!」

 

うん、須藤くんへの愚痴とかは落ち着いたみたいかな。

 

「ごめん、その堀北さんに呼ばれちゃったんだ。理由も分からないし、嫌いだし、あんまり行きたくないけど……ちょっと行ってくるね」

 

相手を隠すことも出来たけれど、一応話しておく。堀北にも頼られる存在というアピール、そして私が雑談から居なくなる事へのヘイトを、堀北に向けてもらうためにも。

 

「えぇ~?無視しちゃいなよ!」

 

無視しても私の好感度に影響は無いかもしれないし、行きたくない気持ちがあるのも事実だけれど、万が一の可能性もある。確認のために行っておきたい。

 

「ごめんね。……あんまり好きな人じゃないけど、もしかしたら私達のクラスが勝つために必要な話かもしれないから。明日また話そうね!」

 

「まぁ、そういうことなら……」

 

「分かった。じゃあね!キョーちゃん」

 

「じゃあ、また明日!」

 

さて、本当に何の用だろう……。

 

 

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チャットを返信して、1時間後くらいに話すことになった。

 

私は……正直な所、堀北さんに対して、どうすればいいかを決められないでいる。

 

最初は、私の過去を知っている可能性が高い、私と同じ中学だった彼女を『何をしてでも消す』つもりだった。そうしなければ、私の積み上げてきた『信頼』がすべて消えてしまうから。過去を暴露されることで、努力がすべて無駄になり、誰からも信用されなくなり、将来が閉ざされてしまう未来。私が集団から排除される存在にもなるかもしれない。……そんな未来は、絶対に受け入れられない。何が何でも回避しないといけない未来。

 

今すぐ消えてもらいたい存在、それが堀北鈴音という女だ。

 

だけど……、虎徹くんから言われた言葉で、ちょっと考えてしまった。彼女を退学させなくても、解決できるかもしれないという希望を。

 

夏前に軽い気持ちで話し合った虎徹くんとの電話、いつも通り『私に好意を持ち始めてるっぽい男子の1人とテキトーに仲良くなっておく』とか『信頼度を稼いでおく』『秘密も掴めるなら掴んでおく』くらいの心境だったけれど……彼の秘密と、それ以上の何かを教えられてしまった。

 

彼が言っていた秘密というのは、『自分はヤクザの家系』『母親は殺されてる』『父親は自殺してる』という、1つでも大きすぎる秘密が3つだった。あまりにもキツい過去を突然出されたものだから、聞かされた瞬間は驚いたし、思わず泣いてしまったけれど……虎徹くんは全然気にしてない様子だった。何が問題なのかも分からない、と言うかのように。

 

彼にとって、過去に何があろうと興味がなく、私が『秘密』を握っても、どう使ったとしても意に介さない、天敵のような存在かもしれないと衝撃的だった。少し、恐ろしい存在にすら感じた。

 

そして、それだけじゃなく、さらに言っていた言葉こそが衝撃だった。

 

『嘘だよ、って言えばそれだけで死ぬ情報じゃね?』

 

……真実なんて、簡単に否定出来ると。そう彼は言った。

 

ただ、それでも、大多数の人にとって『秘密』とは『弱み』になって、人を操作する『武器』にはなるはず。それは誰よりも私が実体験として知っている。大多数の人にとって、隠しておきたい『秘密』を明かされるというのは、耐えられないほどの苦痛で、人を狂わせるものなんだと。

 

だから、やっぱり信頼や好意を集める努力を辞めるつもりは一切ない。もしかしたら通用しない相手も居るのかもしれないけど……。

 

『信頼』集め、それは私にとって優越感を得られる唯一の手段でもあるから。

 

けれど……それとは別に、彼のおかげで『真実を否定する』という視点があるかもしれないと気付けた。『秘密』を『武器』にさせない方法。

 

信頼さえあれば、堀北の発言なんかより、私の発言を信じてもらえる?

 

信頼さえあれば、他人に『秘密』を暴露されることに怯えなくてもいい?

 

……でも、確信が持てない。

 

もし見通しが甘く、『自分の信頼度さえあれば何を言われても大丈夫』だと過信して、それで取り返しのことになってしまう可能性を考えると……堀北には、やっぱり消えて欲しい。邪魔だし、危険だから。

 

どう考えても、あんな女より私の方が信頼してもらえるだろうし、そうなると過去を暴露されたとしても『そんなことないよ』と否定できるかもしれないとは思う。

 

誰があんなボッチで調子乗りまくりの高飛車クソ女の言う事を信じるんだ?って話だし。

 

でも、やっぱり、過去を暴露されたら……私は警戒され、信頼に傷が入るかもしれない。それは無視できないリスクだ。

 

けど、問題は……『堀北抜きでもAクラスを狙えるか?』というもの。腹立たしいけれど、学力も運動能力もアイツは私より優れてる。クラストップに優秀だ。

 

社交性に関しては酷すぎて人間として終わってるし、比べ物にならないほど私の方が優れてる。容姿でも負けるつもりは無いけれど……それでも1人の生徒として大きな戦力、貴重な生徒というのは間違いない。

 

死ぬほど消えて欲しいけど、居なくなったらAクラスを狙うのが更に難しくなる。ただでさえありえないほど不利で、可能性が低く、無理かもしれないのに……。

 

他にAクラスで卒業する方法といえば、私だけが2000万ppを払ってAクラスになるという手段があるにはあるけれど……『過去1人として居ない』と言われてるように、現実的じゃない。

 

今のペースだと、クラス全員がもらえるppを全て徴収出来たとしても、CP300くらいだから毎月3万ppが40人分で120万pp、2000万貯めるのに17ヶ月、つまり約1年半かかる。全部渡してもらうなんて無理だし、例え毎月半分出してもらえたとしても3年かかる。タイムオーバー、絶対に無理だ。

 

だからやっぱり、このDクラスでAクラスまで上り詰めるしかなさそう。

 

前までは、私が本気でクラスをまとめ上げて、同時に他クラスの弱みも握っていけば、堀北が消えた所で対等以上に戦えるだろうと思ってた。Aクラスになることだって、そこまで難しい事じゃないと思ってた。他クラスの生徒に裏切らせたり、内部から崩壊させていけば簡単だと。

 

けれど……、入学してから約半年を過ごして、特に夏の結果を考えてみると、私が本気でやってたとしても勝てなかったであろう状況が多すぎた。

 

無人島試験では、他クラスの子に『試験用のポイントを全部使わせる』までの裏切りをさせるには『秘密』が足りなかった。間に合わなかった。

 

例え脅迫出来る程の『秘密』があったとしても、龍園くんのクラスは生徒の大半を船に帰してしまっていた。そんなことをされたら全く関与出来ずどうしようもないし、例え生徒が残ってたとしても、あの戦略を取られたら1人2人を裏切らせた所で結果は変えられなかったかもしれない。

 

Aクラスを失格にしたのだって龍園くん達に決まってるし、Dクラスが標的にされなかったのは、ただ相手にする価値が無かっただけなんだと思う。

 

もし標的にされてたとしたら、終わってたと思う。防ぐためにはクラス内で協力し合ったり『仲間のために我慢する』という共通概念、絆とかが必要なのかもしれない。……そんなもの、私達のクラスには存在しない。

 

干支試験では、自分のクラス内の誰が『裏切り者』なのかを把握する所までは簡単だった。けれどそこから、純粋な知能勝負で法則を見つけ出したり、ハッタリで相手の反応を伺ったり、実際に出来なかった。

 

そして何より『大きなリスクを背負って指名する』という事は私にはきっと無理だった。もし間違ってたら、クラス内での地位が落ちてしまうかもしれない。そんな恐ろしいリスク、軽々しく背負えない。恐怖政治で絶対的な統治をしてる龍園くんだからこそ出来たんだと思う。

 

試験2つとも、ちょっと勝ち筋が分からなかった。……どうしようもないほど圧倒的だった。

 

これから先、もっと色んな子と仲良くなって、信頼され、『秘密』を掴んでいけば有利にはなるだろうけど……。ただやっぱり敵対関係という認識がある以上、当然だけど中学ほど簡単にはいかない。距離を取るのが当然だと思ってる子が少なくない。

 

だから、もしかしたら間に合わないかもしれない。まだ1年も終わってないから断言は出来ないけれど……このままだと逆転不可能な差をつけられてしまうかもしれない。

 

そんな、少しでも勝ちを積み重ねないといけない状況。他クラスより強くならなきゃいけない現状。ちょっとでも優秀な生徒が欲しいし、全員が成長しなくちゃいけない環境。

 

だから、堀北さんにも居てもらわなきゃ困る。

 

だけど、堀北さんには消えて欲しい。

 

理屈と感情、どちらを選べばいいか決められずに居る。悩み、迷い、まだ結論を出せない。

 

憂鬱だ。心底嫌いな相手とも協力しないとダメなんて……。

 

さらに不利になるのを覚悟して、それでも『堀北を消す』という判断をしてしまいたい。スッキリしたい。……何度そう思っただろうか。

 

 

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「こんばんは櫛田さん、わざわざ来てくれてありがとう」

 

「ううん、大丈夫だよ。堀北さん」

 

呼び出されたのは、なぜか特別棟の前。辺りはもう暗いし、監視カメラは少ない場所だったはず。なんでこんな所に……。誰にも聞かれないため?自然と警戒心が高まってしまう。

 

「櫛田さんは、……私のことを好ましく思ってないでしょう?」

 

当たり前じゃない。誰がお前のことなんか好きになるっていうの。

 

「……そんなことないよ?みんな友達だよ?」

 

「いえ、そういうのは今いらないわ」

 

「……。」

 

せっかく気を使ってやったのに。このクソ女……。イラつきが思わず顔に出てしまいそうになり、表情が固くなってしまった。

 

「その、私の事が嫌いな理由は、やっぱり私の性格が起因するものかしら?」

 

「う~ん……」

 

人付き合いをしたい相手じゃないけれど、かといって敵対関係になって得は無い。まだやっぱり消えてもらうと困るんだし。退学してもらうのがほぼ確定したら本性を少し見せられるかもしれないけれど。

 

「えぇ、私が性格が悪いのは分かってるわ。ハッキリ言って欲しい。……私も、今のままではいけないと思ってるから。直すべき所を教えて欲しいの」

 

へぇ……。入学当時から比べて、図書室で虎徹くんに恫喝され、無人島でも虎徹くんにブチ切れられて、その度に、ほんの少しずつだけど反省して、僅かに人間性が改善されたとは思っていたけど、私にこんなこと言えるほど成長してたんだね……。正直、意外だ。

 

それにしても虎徹くんとの相性が本当に悪いよね堀北さん。

 

「今日こうやって話したい事っていうのは、自分の欠点を教えて欲しいっていうこと?」

 

「えぇ、そうよ。……そして、これからのクラスのためにも、一緒に須藤くんの所に付いてきて欲しいの。私だけじゃ上手くいかない可能性が高いから」

 

なるほどね……。あまり楽しい仕事じゃないけれど、今この状況で須藤くんがどうなるかを不安視するのも分かる。クラスがこれから戦っていくために、恐らく欠かせない生徒の1人である須藤くんをフォローしておかなきゃいけないというのも当然だ。

 

そして、私に声をかけたというのも、至極当然の話だろうね。平田くんでも良いかもしれないけれど、今回に限っては女子の私が行った方が良いだろうし。

 

「須藤くんを励まそうって事だよね?」

 

「そうなるわ」

 

「うん、賛成だよ。きっと落ち込んでるもんね!」

 

「もし反省してなかった場合は、自分がやったことをちゃんと理解してもらわないと困るわ。どれだけクラスを不利にして、絶望的な状況にしたのかと。絶対に、二度とやらないように説得もしなければいけないわ」

 

あ~、ダメだコイツ……。

 

「ダメだよ堀北さん……。今はただ、感情で寄り添ってあげないと。理論で攻撃して反省させようだなんて、絶対にやっちゃダメだよ……」

 

「なぜ?私達がちゃんと言わないと同じ過ちを、……いえ、じゃあどうすればいいというの?」

 

素直に心から協力したいとはカケラも思えないけれど、同じ敵を持つ、同じ集団の人間として、仕方ないから協力しよう。今この1年の途中で須藤くんが消えたらどうしようもなくなるだろうから……。

 

もし堀北さんが信頼を集めまくったら、私の過去を暴露した時に信憑性が増してしまうかもしれない。だから社交性を身に着けられてしまうと嬉しくないという思いがある。

 

……けど、今のままじゃ堀北さんが何をしても信頼を稼げず、クラスとしても弱いまますぎる可能性が高い。人間としてダメ過ぎるから、ちょっとだけ改善してもらおう。

 

曲がりなりにも私達のクラスのリーダーをやる人間なんだから、言うことすべて反感を買うような言動はちょっと控えてもらわないと話にならない。クラスが崩壊しちゃう。

 

本当にやりたい事ではないけれど、仕方ない……。このウザいクソ女に、ちょっとは人間性を身につけてもらおう。

 

消えてもらうとしたら、私達がAクラスになれる可能性がもうちょっと高くなってからにしよう。堀北抜きでも可能性が見えたら、すぐ消えてもらえるように準備もしておこう。……そう思わなきゃ、やってられないよ。

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