ウッハwww貴族に生まれたwwwマジ勝ち組www   作:頭に油をさしたいマン

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彼は白い息を吐く

 いつもどおりの時間に起床。香を消して、用を済ませたら甲板へと向かう。

 深夜程ではないが、この時間帯も廊下は落ち着いている。食事の仕込みや、私の様に今からトレーニングを行うもの、今日の任務のために整備をするもの、仕事帰りのもの、様々な人が居るが、それでも、日中よりは随分と静かだ。

 

 冷たい扉を開けると、小雨がパラパラと降っていた。豪雨だろうが結局は走るのだから、天気を気にしてもしょうがない。

 

 準備を整えてからひたすらに走る。

 太陽は未だ地平に沈んだままだが、日の光が地平線から溢れだし、雲を照らす。

 ペースを上げたり下げたりしながら走れば、小雨など気にならない。

 

 

 

 あの件から今日まで私が任務に呼び出されることが少なくなり、たまにある任務でも、長期間ロドスを離れる様なものはなくなった。まぁ、その代わりに事務の作業が増えたが。

 

 あのあとシーツを洗って、いつも通り訓練をしていたら、ドクターの執務室に呼び出された。その時には死を覚悟していたが、まさか、この年で性教育を受けることになるとは思っていなかった。

 ほかにも、ケルシー医師からの医者の連絡ミスなどの謝罪、しばらくドクターの秘書としての業務が増えることなどの連絡もあったが、それでも、ケルシー医師が出ていった後に、急に真面目なトーンで性教育を始めるドクターのインパクトには勝てなかった。

 

 

 暖かい空気が流れてくる。

 噂をすればなんとやら、珍しくドクターが甲板まで出てきていた。

 

 いつもより少し寒い甲板で二人で言葉を交わした。元々、ドクターから話しかけてくることはあったが、それでも今までよりずっと話すことが増えた。というよりも、彼の執務室で働いているので嫌でも増える。

 

 ドクターの仕事ぶりを見ていると、ケルシー医師がドクターと私を出来るだけ会わせないようにしていた理由がわかる。

 ドクターは並外れて優秀なのだ。

 もし、彼があの地獄にいたのならば間違いなくあんなことにはならなかったと確信がもてる程だ。

 身体能力や戦闘技術も、昔の私でも勝てるほどの雑魚だ。その不足を補って、なお余りあるほどの人を惹き付ける魅力、指揮能力などがある。ドクターは私が持っていない、あの場で最も必要な能力を持っていた。

 昔の私ならばそれを理解したときに、彼を殺しに行きかねない。お前さえいれば……等とほざきながら。

 そして、返り討ちにあって死んでいただろう。

 

 軒下でストレッチをしながら、ほかには人が居ないかをそれとなく探る。

 目に映るのは、移り行く風景と準備運動で息がきれているドクター。耳に聞こえるのは、雨が床を叩き、キャタピラが地面を踏みしめ進んでいる音、えづく声。鼻が捉えた匂いにも不自然なところはなにもない。

 

 ドクターほどの重要人物を一人っきりにするはずがない。今、護衛に就いているのはグラベルかレッドかそれともほかの誰かか。雨が降っているのもあるが、私では隠密を見抜けない奴はロドスの艦内に何人もいる。そんな中で殺せるわけがない。

 ケルシー医師が私とドクターがあまり関わらないようにしていたのは、ドクターを守るためというのもあるが、私が無駄死にしないようにしてくれたのだろう。

 

 

 だが今はそんなことよりも、雨の中、床に倒れ伏しているドクターだ。あのまま放っておくと明日には風邪か筋肉痛で動けなくなってそうだ。

 まずはストレッチを手伝って、あとはマッサージも後でした方がいいだろう。

 

……もう少しぐらい運動が出来るようになってもバチは当たらないはずだ。

 

 

 

 いつ誰が用意してくれたのか、軒下に置かれていた二人分のタオルで体を拭う。

 どうやら食事をとっていないのはドクターもだったらしく、一緒に食堂へと向かう。

 ロドスの朝は早い。

 食堂が開いたタイミングで来てもすでに人がたくさん居る。これだけ騒がしければ暖房もいらないだろう。

 人混みの中でも、私に向けられる視線の数も大分減ってきた。その代わりにドクターの隣にいることに対する嫉妬の視線は日に日に増えているが。

 

「ドクター、先に席で待っていて下さい。料理は私が持っていきますので。」

 

 ハンバーガーと追加でコールサワー、パンとスープを乗せたお盆を両手に持つ。

 

 それにしてもドクターはどこに席をとったのだろうか?

 ……あそこか、大きなテーブルの方にいるってことは誰かと相席しているのだろうか?

 

 手を振っている方へと、人を避けながら近寄っていく。机の奥に座るドクターと、囲むように随分と知り合いに似た人達が座っていた。

 

 ……現実逃避は止めよう、ズィマーにイースチナ、それにグムもいる。

  

「こっちだよ!!」

 

 奥に座るドクターの横でグムも笑顔で手を振っている。

 

 グムとはあれから何度か話す機会があった。その度に彼女は私にも笑いかけようとしてくれた、それが彼女自身のためとわかっていても、それでもこんな自分に笑いかけられるのは辛い。

 

 だけど、ズィマーとイースチナの二人がいれば、グムも私とまともに会話を行うことが出来るようになってきた。それは彼女がグムという殻を必要としなくなってきた、その証なのだろう。私が苦しむ程度で済むのなら十二分が過ぎる。

 

 イースチナの横の席につく。ドクターからコールサワーを追加したことに関する恨みがこもった視線を無視して食事を取る。

 

 交わる言葉は大したことではない。ただの雑談だ。私がたくさんの人から奪ってきた、なんてことない日常だった。

 

 あとグム曰く、今日のスープはいつもとスパイスを変えたらしい。とてもおいしいよ、と返す。

 …彼女の表情を見るに大丈夫だったらしい。

 改めて具材を口に運び、いつも通りに咀嚼する。食感に変化はなかった。

 

 適当な具材をフォークに突き刺す。左隣にいるグムに味を聞くわけにもいかない。意図を察してくれたイースチナはそれを食べて感想を言ってくれた。

 いつものより辛いらしい。

 

 ・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

 

 ドクターの秘書の役割は新人に割り当てられることが多い。それは自分達の仕事がどの様に役立っているのかを知ることが出来るからというのもある。

 だが、一番の理由はここにいると様々な人が訪れてくるからだろう。

 

 ざあざあと本格的に降り始めた雨が窓を叩く音と、ペンの擦れる音、ハイビスカスのクッキーをつまんでいる音、私達の間に流れる沈黙が心地いい。

 

 コンコンコンと扉をノックする音が聞こえる。

 

 ドクターが許可を出すと、うさみみの少女、アーミヤCEOが入ってくる。

 

 CEOは執務室に置かれた大小様々な形のカップが入った食器棚から、皆のカップを取り出して机に置いて、ソファに座った。

 

 棚の中から、適当にお茶請けを用意する

 

 ここでは報告にかこつけて、ドクターとお茶を飲むのが目的な人達が多数いる。その程度ならまだましで、ソファに寝に来る人、なんか発明品を持ってくる人、遊びに誘いにくる人、千客万来だった。

 

 棚の中のお茶請けもほかのオペレーターが持ってきてくれたものだ。とりあえずペンギン急便のモスティマが持ってきたカステラでいいか。

 

 二人の分はドクターが入れてくれるので、私は冷蔵庫から炭酸水を取り出す。

 

 私の復帰の話をしたら、あとは少女アーミヤからドクターへのアピールが主だった。

 

 私は離れて業務に戻る。ドクターは、ほかのオペレーター達の対処をしながらでも、私の倍以上処理をしているのだから凄まじい。

 

 この仕事をしてから様々な人の様々な面を見ることが出来た。

 アーミヤCEOの子供らしい姿、ヘラグがお菓子を子供達やドクターに上げている姿、ほめてとドクターにねだるイースチナの姿、楽しそうに料理を作るグムの姿、ドクターに父性を求めるロサとアブサントの姿、楽しそうなリェータの姿。

 

 私なんかがいなくても、学生自治団の皆の心は、ドクターやロドスの皆がいればきっと救われるのだろう。

 

 ・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

 

 

 静まり返った廊下にこんこんこんと三度響く。私は何度も訪れた扉の前で待っている。

 

 部屋の主から許可を貰い中に入る。

 

 もう見慣れた部屋の中、片耳だけ、イヤホンを外して本を読んでいる部屋の主、ズィマーがいた。

 駆け寄りたい気持ちを押さえながら彼女の元へと行き、その首元に顔を埋める。嗅ぎ馴れた安心する匂い。

 

 結局、あの時は一回だけなどと言いながら、こうして何度も何度も彼女の罪悪感につけこんでいる。でも彼女もきっと救われる。

 いつかは彼女の冬も終わり雪解けの春が訪れる。 

 

 対して私は、たくさんの人を踏みにじり、貴族として人として勝利を手にしてきた私に春など訪れない、訪れさせない。

 

 ならばこそ、ここは晩冬、冬と春の境界線。彼女がここを越えればもう会えなくなるだろう。

 

 それでも今だけは、嘲笑われる愚か者に安らぎを、痛みを忘れる快楽を。

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