ウッハwww貴族に生まれたwwwマジ勝ち組www   作:頭に油をさしたいマン

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明けない夜はない、

 ゆっくりと物音を立てないよう、気を付けながら進む。最初の頃の様に、なにかに足を取られること等なく進み続ける。本当に初めての頃と比べると、随分、忍び足が上達した。こんな場所に閉じ込められなければ、決して身に付かなかっただろう。その事に対して、感謝の念など抱くはずもなく、ただ薄暗い殺意の炎を揺らめかせるだけだった。

 そんな中、辿り着いた部屋は珍しく、扉がしっかりと残っていた。

 

 …ここに学生自治団が捕虜を閉じて込めているはず。手を掛けて、戸をゆっくりと引くが、

 

「…?」

 

 イスか何かが引っ掛かっているのか、扉が開かない。全力で引っ張れば開くかもしれないが、決して小さくない音が鳴るだろう。

 舌打ちがもれそうになるが、まぁ、文句を言っても仕方がない、もう一方の扉へと向かう。

 そして、私が扉の前にたどり着いた時に、扉の向こう側から声をかけられた。

 

「そこに居るんだろう?入ってこいよ。」

 

 よく通るその声には聞き覚えがあった。ここに居て彼女の雄叫びを聞いたことがないものはいない。

 立ち上がり、扉を開く、気づかれているのならもうこそこそと隠れる必要はない。

 扉を開けたその先、そこには、様々な体勢の捕虜達がいた。床に膝をつき頭を垂れている奴、這ってでも逃げようとしたのだろう仰向けに倒れている奴、ほかにも様々な体勢をとっている奴がいた。彼ら皆に共通しているのは、首はもう無く、本来首が有るべき所から止めどなく血が滴っているということだった。

 この部屋の中で、首が繋がっている人は独りだけだった。垂れる血液が地面と繋がっている斧。それを持つ冬将軍、彼女だけだった。

 

 無言で彼女を見やる。こんな場所に長くいたのだ、髪も痛むし、肌も荒れている。それでもある種の美しさがあった。外から差し込む仄かに赤い光と、部屋に散る血の赤、彼女の顔や服に飛び散る乾いた赤色。そんな中、威風堂々と立つ彼女。それは女性的な美というよりも戦士としての美しさであった。

 

 私の無言を催促と捉えたのだろう、先に口を開いたのは彼女だった。

 

「オマエと会うのは初めてだったよな。自己紹介は必要か?」

 

 私は首を横に振って答える。

 

「こうして直接会うのは初めてだが、それでも互いのことは良く知っているだろう。」

 

 あぁ…私はよく知っている。貴女がどれほど素晴らしいのかを。貴女が居なければ平民達が貴族達とやりあえるほど纏まることは出来なかった。

 対して貴女が、私のことを、私のしたことをどれだけ知っているのかは、貴女が向ける私に対する殺意が雄弁に物語っていた。

 鉄パイプで肩を叩きながら、私は無言で彼女の続きを待つ。

 

「レユニオンたちが包囲を解いて、一日たった。アタシらは今日ここから脱出する。」

 

 だから今日、後腐れのないように、ここでこいつらを処分したんだと。

 沈黙の間に外から響く爆発音は、今も続く軍とレユニオンの戦いによるものだろう。

 いやまて?なんの話をしている。レユニオンの包囲が解かれていた?なぜこのタイミングで脱出するんだ?

 どうやら困惑が隠しきれずに、顔に出てしまっている様で、それに気づいた彼女が続ける。

 

「オマエの目玉はビー玉みたいだな、気づいていないのか?空を見上げてみろよ、天災の予兆だ。」

 

 彼女が嘲笑とともに、親指を窓の外へと向ける。それにつられる様に、外へと視線を動かす。そこにあったのは、堕ちてきそうな赤い空だ。いつからあったのだろうか、あんな入道雲を私は見たことがなかった。

 

「それで、それを私に話してどうする?まさか一緒に行きましょう。なんて馬鹿な話をするつもりじゃないだろうな?」

 

 私も同じく嘲笑をもって返した。私は彼女の仲間達を殺したのだ、弱者の守護者たる、貴女には決して受け入れられないことだろう。

 

 意外な事にそれに対して、彼女は唇を噛み締めた。それが私を殺さないようにする為のものなのは、一目瞭然だった。

 

「アンナがオマエを戦力として使えばいいと、そうすればより確実だと。」

 

 彼女の目を見れば分かる。彼女にとって私は今でも憎むべき敵なのだろう。仲間を殺した、学内で殺戮の限りを尽くした敵。それでも、彼女はリーダーとして、私を利用してでも、味方を守ろうとしているのだ。

 

 …肺から空気が押し出される、息を吸おうとしても、空気が入ってこない。酸素が足りていないのだろう、自分の鼓動が刻むリズムは大きく、早くなっていく。

 私はまだ人を殺し続けなければいけないのだろうか?

 頭の中が、針金を捩じ込まれているかのような痛みを発している。首をすこし傾け、こめかみに人差し指と中指をあてる。彼女には悩んでいるかの様に見えているはずだ。

 私はまだ生き続けなければいけないのだろうか?

 

 私はどうするべきなのだろうか?

 ・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

 

 

 €月$日

 

 

 今もなお、背中に殺気、憎悪、恐怖を感じる。そこに肯定的な感情は存在しない。今までに私は彼らの仲間たちを何人も殺したし、ついさっきも殺したばかりなのだから。まぁ、当然だ。

 

 天災に紛れて逃げるという手段は決して悪いものではなかった。

 だけど、天災は隠れ潜んでいたとしても、こちら側に配慮をしてくれない。崩れた瓦礫に巻き込まれたもの、動けなくなったものを殺した。

 

 不幸中の幸いなのは、彼らの持っていたいくらかの食料と水が無事だったことだろう。

 

 にしても、やはり外は中ともまた違う地獄だった。店という店はすでに略奪されており、ろくに物資はなかった。そして、瓦礫だらけの街に、トロフィーのように吊るされた人々。ほかにも、家の中から子供が引っ張り出されて、殺されるのを見た。

 

 私たちはその子供達が殺されるのを息を潜めてただ見ていた。なんなら、それを利用して敵から逃げてきた。もし、それをしなければ私たちは更なる消耗を強いられたことだろう。

 だが、必要であったからといって、それは自身の罪を赦す免罪符にはなりえない。

 

 今、私は寝床の裏口を見張りながら、これを書いている。表口側で冬将軍が座りながら仮眠を取っているのが見える。

 この家には、元々三人が暮らしていたのだろう。キッチンに、机が一つとイスが三つ有った。扉は一つだけになった蝶番にぶら下がっている。鍵のかかっていた扉を、無理やり外側から蹴破られたのだろう。扉の近くには、無理やり引きずられて外へと引っ張り出される中、爪が剥がれてもなお、必死に床を掴もうとした跡があった。

 

 ここの子供のものだろうか、床に転がるテディベアは沢山の足に踏み潰され、中身の綿が飛び出ていた。

 

 いくらか彼らの死体を剥ぎ取り物資を確保したとはいっても、一人当たりの余裕はそれほどない。いつかは必ず不足する。

 悲鳴が聞こえる。ここらからそう遠くない。

 冬将軍やほかの奴等も目を覚ましたらしい。

 私が見てくるというと、難色を示した。私に対する信頼も信用もないのだろう。

 冬将軍がその反論を黙らせた。

 時間までに帰ってくること、帰ってこなければオマエを置いて移動する、と。

 

 垂れ下がる扉を潜り外へと出た。結局私のすることは変わらなかった。

 闇夜に潜み、人々を殺す。抵抗しようがしなかろうが、性別も年齢も関係ない。動かなくなるまで、その頭蓋を砕く。レユニオンの持っていた武器と生存者の持っていた僅かながらの食料と水をポケットに入れる。

 持ち主を失った、足元に転がるかわいらしい人形は汚れ血に濡れている。

 ただ、やはりただ殺すだけでは身入りが少ない。医薬品、生活用品が足りていない。特に学生自治団は女所帯なのだから。

 次からは彼らのアジトの場所も聞く方がいいな。今後は工具なども探そう。

 

・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

 

 …扉をノックする音が私をこちらへと引き摺り戻す。

 

「鍵は開いてますよ。」

 

 入ってきたのは顔が見えない、不審者にしか見えない格好をした人。

 

「ドクターですか、私に何か御用で?」

 

 ドクターも、特になにか用事があってのことではないらしい。その机の上の物は何なのかと言ってきた。

 

「これですか、日記ですよ。ウルサスでの」

 

 私はウルサスでなにがあったのかを詳しく話していない。ここの人達は善人であろうとしている。だからこそ、無理やり問いただしてくることはなかった。

 もらった紅茶が余っているのでそれを二人分淹れる。

 ドクターのもつお菓子をお茶請けに、紅茶を飲みながら話すことは大したことではない。体の調子はどうか?とか、ロドスには馴染めたか?とか。そんなどうでもいいような世間話。

 そんな時間ほど早く過ぎるもので、まだ仕事が残っているから、と部屋の外に向かう。その背中に声をかける。

 

 

「仕事があったらいつでも呼んでください。ロドスの感染者と非感染者の命を平等にみる在り方は、嫌いじゃありません。喜んで手を貸しましょう。」

 

 …扉が閉まった。まだカップに残っている紅茶に口をつける。生温かい。ドクターの様子から見るに、一応はおいしく淹れられていたらしい。いつかほかのオペレーター達にでも淹れてあげよう、私にはもったいない。

 

 

 内部でオペレーターとしてロドスで働いているとロドスという組織がよく見えてくる。

 私はまるでロドスは太陽のようだと思った。自身を磨り減らしながら、暗雲を払い、大地を明るく照らす。様々な人々は、その先に待つのがなんであろうとも、その光に焦がれ、重さに引き付けられる。 彼らの献身を見ていると思う、きっとこの暗い時代もいつかは終わる。いつになるかは分からないし、それを為すのは、ロドスではないのかもしれない。

 

 明けない夜はないのだから。

 

 

 

 

 片付けるためにとカップを持ち上げる。

 ふと、カップの底をのぞきこむ。当たり前のことながら、飲みかけの紅茶が入っているだけだ。揺れる水面にはなにも写らない。深淵のように底なしにどこまでも続いてる。

 

 その深淵が私に語りかけてくる。

 

 そして、沈まぬ太陽もない、と。

 

 温かい陽光は人の心を照らす。その光が温かければ温かいほど、再び訪れる夜の冷たさが染み入るのだろう。

 太陽の暖かさを光を、求めるものがいるのなら、薄暗く湿った世界でしか生きられないものもいる。 

 暖かな太陽の恵みは、実りをもたらし、多くを求める業突く張りどもが、土壌を汚し、人々を踏みにじる。

 

 100人を助けるために1人を殺しても、1人を助けるために100人を殺しても人殺しは人殺し、お前の手は薄汚い。

 

 命の尊さを説きながら、命を奪わなければ生きていけない。お前みたいな奴が死ぬべきだったんだ。

 

 私が殺した人達が現れる、老人、子供、学生、労働者、貴族、レユニオン、感染者。皆が皆、私に対する殺意を宿した目でこちらを睨み付けてくる。

 

 理由など関係ない、誰のため、なんのためであろうと、お前が私たちを殺したのだと。積み上げた屍の山が呪詛を吐き、救いを乞う人々は飛行機雲とともに地面を這う。

 

 ふらりふらりと、覚束ない足取りで、机へと向かう。引き出しから注射器をとりだし、それを自分の腕に打つ。いまさら、手が震えていたところで失敗などしない。

 頭からスーッと幻覚や幻聴が消えていく。

 注射器を打たれた腕を見る、そこにはいくつもの注射痕や、何度も切ろうとした痕が残っている。

 

 カップを傾け、残りの全てを飲み込む。乾いた喉に染みるようだ。

 

 …それはとてもとても濃厚な血の味がした。 

 

 




日記帳とペン
 凝った細工の日記帳とペン。表紙に描かれているのはザクロの果実が描かれており。ペンには百合の細工がついている。持ち主の名前は掠れて読めない。
 私にとって大切な人からもらったもの。
 その顔も声も、もう思い出せないけれど。
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