ウッハwww貴族に生まれたwwwマジ勝ち組www   作:頭に油をさしたいマン

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貴族の学制服(男)
 いくら洗ったところで、
 汚れが落ちて染みが抜けて匂いが消えても、
 今もまだ血の匂いが漂っている。


ロドスでのある一日

「どうした?ドクター。私に何か用か?あぁ…チェルノボーグの彼か、それならほかの実習生とともに外を走らせている。外の天気のことなら承知の上だ。」

 

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 今日の訓練はこれで終わりらしい。外を延々と走らされて、雨に濡れた体が重い。すでにほかの人たちはシャワーにでも行ったのだろう。彼も彼らと同じで体は疲れきっているのだが、それでもどうしてもまだ心が渇いている。

 

 すこしでも渇きを癒そうと、近接格闘の訓練室へと向かう。部屋の窓から中を覗きみると、今は、ここを使っているのは冬将軍、いやズィマーだけらしい。

 

 彼はチェルノボーグからロドスの救助隊に助けられてから、彼女達と話すことはほとんどなかった。 それは、彼が彼女達にとって忌むべきものであることを自覚しており、……彼にとっても彼女達といることはなによりもただ辛かったのだ。 

 

 ……一つ息を吸い込み、今も打撃音が続く部屋の中へと、自身の足元だけを見ながら入っていく。

 先ほどまで獅子の咆哮のように高らかに響いていた打撃音が鳴り止む。そのかわりに、ジッと背中に視線が突き刺さる。

 

 それに気づいてない振りをしながら、適当に離れた場所のサンドバックに構える。

 

 最初は左、次は右ストレート、左肘、スイッチしての左ハイキック…。打撃のペースを少しずつ上げていく。一打なぐるごとに少しずつ渇きが癒されていく、そんな気がする。何発も何発も足を組み替え、位置をかえ、ひたすらサンドバックを殴りつける。汗が飛び散り、身体中が酸素を求めて心臓が激しく叫ぶ。これで最後の一撃と、左足を踏み込み体を捻り右拳を打ち出す。

 …ぜぇぜぇと全身で酸素を取り込もうとする、身体中を満たす疲労感が心地いい。

 

 視界の外で水の入ったペットボトルが天井の光を反射する。くるくると回りながら、それが放物線を描き飛んできた。片手でそれを受けとめる。それを投げてきた相手の方へと、視線だけを動かした。

 

 そこには壁に寄りかかったズィマーが腕を組んで、なにをするでもなく、ただ彼をじっと見つめていた。

 

 渡された中身の減ったペットボトルに口をつける。中に入っていたのは誰かの血や泥の混じっていない水だった。それが渇ききった喉を潤す。あそことは違い、ここに入れば簡単に自販機で手にはいるようになったものだった。

 

「なにか用か?」

 

 質問とともにペットボトルを彼女に投げ返した。

 

 彼女はなにも答えず、受け取ったペットボトルを足元におくと、訓練室にあるリングの上へと上っていく。

 

「結局、一度もオマエとやりあうことはなかったからな。」

 

 逃げるのか?と彼女の目線が問い掛けている。

 彼にもそれが挑発であることは分かっていた。

 

「相手が女だからって手加減すると思うなよ。」

 

 リングの上で互いに距離をとって構える。

 

 彼女と彼の身長差はそれほどないため、互いのリーチも変わらない。故に問われた技能は、素手での格闘ならまだ彼の方が上だった。

 彼女が間合いに入るタイミングで殴り付け、彼女の攻撃は間合いをはずすことでよけて、出来た隙をさらに殴る。

 

「ちょこまかとっ!」

 

 ダメージを覚悟の上で踏み込んでくる。体重をのせた前蹴りを受けながら、不安定な体勢から放たれた打撃だが、

 

「…っぐっ、ゴリラかよっ!」

 

 彼女の一撃は重く、衝撃がガードの上から突き抜けてくる。

 視界が揺れて、たたらを踏みながら、膝が抜けそうになるのを力をいれて踏ん張る。

 

「ハッ、もう降参か?」

「そんなへぼいパンチ利きやしない。」

 

 ……結果的にいえば、どちらかが悪いという話ではなく、彼らは余りにも戦いに熱中していて、周りに対して全くと言っていいほど、気がまわっていなかったのだ。

 

 ビシンッ!!

 

 決して狭くない部屋中に鞭の弾けるような音が響いた。その発生源には

 

「どうやらお前達は、まだまだ元気みたいだな。」

 

 そこには鬼教官が立っていた。

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「ドクター、また彼を探しているのか?彼ならズィマー共々、甲板の掃除をやらせている。……違う、用があるのは私?」

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 あの後、一応、治療を受けたが、それなのに腕が今も痺れている。掃除道具を握る手に、力を加えると少し痛い。

 篠突く雨も止み、甲板の上にはいくつもの水溜まりが形も大きさも様々に咲いている。

 水面は風に揺られながら、沈みかけの夕陽、早起きな月や星を映す。

 

「…オイ。」

 

 背中にかけられた声は不機嫌そうだった。

 

「話してると、いつまでたっても終わらないぞ。」

 

 このくそ広い甲板を二人だけで掃除しなければならないのだ。急がなければ、いつまでかかるのかも分からない。

 

「オマエは後悔していないのか?」

 

 彼のブラシを擦る手が一瞬止まる。だがまたすぐに止まった手を動かし始める。

 背中にかかる震えるような声に、なんのこと、と聞き返したりはしない。ただ黙って聞く。

 

「アタシはなんどもあの学校でのことを夢に見る。二つ目の食料庫を燃やしてしまったとき、もし全部の食料が燃えていたのなら?アタシがもっと上手くやることが出来たのなら?」

 

 可能性の話をしてもしょうがない、そう言えればよかった。

 たけど、彼女は学生自治団のリーダーで、あの学校内でもっとも力を持っていた一人だった。彼女が積極的に動けば生存者の数は増えていたかもしれない。

 そんなことを言ったところでどうしようもないことは彼らも重々承知している。

 

 助けられた仲間達の中で、彼女がずっと一人で抱えていたのだろう。ロドスの理想を目指す世界は今も回ってる。だけど、彼らの瓦礫にまみれた世界は今もまだそこにあった。

 リーダーとしての責任感、罪悪感、一度流れ出した土石流は彼女の中の、堰もなにもかもを押し流し始めた。

 

「学外に出てからもだ、アタシはオマエのすることを黙認してきた。物資をたまたま見つけて拾ってきた?オマエが一人でいるときだけ?なわけないだろ。」

 

 互いに背中を向けたまま、ただ溢れ出てくるその言葉に耳を傾ける。あの場にいた誰もが気づいていたが確かめることは出来なかった。だれもがとてもとても渇いて餓えていた。常に背中合わせだった苦しさは、彼らに尊厳をもつ余裕を奪い去っていた。

 彼の表情が彼女には分からないし、彼女の表情も彼には分からなかった。それでよかった。彼女は決して彼に対して抱く憎しみを忘れていない。彼に仲間が殺されたことを決して忘れない。忘れられるわけがない。

 それでも必要だったのだろう、歩けない仲間を背負えばそれだけ動きは遅くなるし、食料も必要になる。誰かがその手を汚す必要があった。

 だから、彼が夜な夜な動けない仲間を殺していたのに気づいていても、どれだけの人を殺めても、止めなかった。彼女達は目を閉じ耳を塞いでいた。

 

「アタシ達はオマエの持ってくる物資がどれだけ血に濡れていても気にせず受け取った。」

 

 いつのまにか二人とも手が止まっていた。太陽はもう見えず、ただその光だけが地平線の向こうにあった。

 湿った空気を押し上げる、新しい季節が薫る風は汗をかいた体にはすこし冷たい。

 

「……いつか、割りきれるようになることを信じて待ち続けるしかないんだと思う。それまで、話を聞くことだけなら出来る。……まだ、私たちは生きているのだから。」

 

 改めて、彼らは手を動かし始める。

 

 今はもう、どこかへと向かう艦が土を踏みしめ走る音、甲板を拭く音しか聞こえない。それからは、ドーベルマン教官が止めに来て掃除が終わるまで一言も喋ることはなかった。

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「…そうか。わかった、こちらでも気を付けておこう。このことについてほかに知ってるのは?」

 

 アーミヤとケルシー。

 

「どうすんだ?」

 

 どうとも。

 ドクターは首をすくめる。

 日光の入らない部屋中を、照らすにはとても足りない豆電球が、二人の影を机の上に落とす。

 二つの人影の間におかれた資料にはウルサスの彼によく似た顔の男女が写っていた。

 




ズィマー 
 食料庫を燃やし食料を全滅させかけたこと、彼の物資調達等を黙認したことへの罪悪感から悪夢をみる。
 彼に対しては仲間を殺されたことの憎悪や、彼に汚れ役をおしつけた負い目が、ごちゃまぜになり自身でも整理が今だついていない。
 彼からは平民達を纏めてくれたことに対する尊敬、彼女達を苦しめることになった罪悪感を抱かれている。
 彼女は今でも無力感に抗い続けている。

 私がもっと強ければ貴女にすべてを押し付けずにすんだのに。
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