ウッハwww貴族に生まれたwwwマジ勝ち組www 作:頭に油をさしたいマン
彼が学生であった時のものだ。
多少、汚れてはいるが読めないほどではない。
これには本名や生年月日などが書かれている。
今は彼の机、その奥深くにある。
努々忘れることなかれ、その刻んできた足跡は掠れはしても、消えることは決してないのだから。
♭月Γ日
ベットに転がりながら手を伸ばしたが、窓から見える碧空にはとても届きそうにない。
なにがあっても今日は休むようにと医者に言われた。運動をすれば胸の手術痕が開きかねないかららしい。随分と念入りに言われたが、それほど信頼がないのだろうか。
運動をするなと言われても、何をすればいいのだろうか。私に趣味と言えるようなものはない。精々、トレーニングを趣味と言えるかというぐらいだろう。
今後はなにか趣味を探すべきだろうか?
……そうだな、読書などがいいかもしれない。いつの時代だって知識は力だ。イースチナを見ていると、そう思う。もしも、私にその力があれば、彼らを殺したりせず、もっと沢山の人達を助けることが出来たのだろうか?
そういえば、部屋にいたところで気が滅入るだけなのでと、ロドス内を歩き回っていると、喧騒に触れられないほど閑散としている廊下で、彼女と会った。買ったのか、借りたのかは分からないが推理小説だろうか、本を喜ばしそうに抱えていた。その喜びも私を視認するや否や、まるで幻だったかのように消え果てたが。
彼女はウルサス学生自治団のブレインとも言える存在だった。その知識の量や頭の回転の早さには随分と助けられた。実際、彼女が居なければ私たちはここに居ないだろう。
それと、私が彼女達とともに行く様になったきっかけ、ズィマーの私に対するスカウトは、彼女の助言があったかららしい。確実に言えることは、それがなければ、私はここに居なかった。そして、あの廃墟にも似た学校で、僅かながらの達成感とともに死ぬことが出来たのだろう。
彼女は結果的に私の命を助けたが、しかし、それは決して私に対する好意からではない。むしろ、彼女は私のことを殺したいぐらい憎んでいる。
そうなった理由も分かっている。
彼女の友達にヴィカという女がいて、結論から言えばそいつを私が殺した。二個目の食料庫が燃える前、生徒会長に会いに行ったその帰りに。貴族との密会を行っていたからだ。
彼女からすれば私は友人の敵なのだ、と生徒会長がその女の話を私に教えてくれた。又聞きなので、それが真実か否かは怪しいが、それでも彼女が私を恨んでいることだけは事実だった。
それでいいんだ、彼女の友人が彼女を裏切ろうとした、もうそんな事実はこの世のどこにも存在しない。彼女の友人の敵がここに居る、それが事実だ。
ここに来て、ロドスのオペレーターとして働いていると、何度も彼女と仕事で会うことはあったが、それでも感情任せに、アーツを隙だらけの背中に打ってくることはなかった。それは、チェルノボーグでもそうだったように、今も彼女がとても理性的な証だった。
しかし、決して私に対する恨みを忘れたわけではないのだろう、廊下でばったりと会ったとき、同じ戦場に立ったとき、私を認識すると彼女の目に憎悪の炎が宿る。私を焼き尽くさんとするばかりの猛き炎。
…あの目は今までに何度も何度も数えられぬほどに見たことがある。年齢や性別、感染者と非感染者、そんなことは関係なく私を殺そうとしてきた人達の目だった。そして、私が物言わぬ屍の山に積み上げてきた人達の目だった。
彼女の私に対するその目、私にはそれがとても居心地がよかった。心臓を掴みながら私の行った殺人を糾弾されているようで、頭蓋を割って醜い中身を引きずり出して私の罪が裁かれているようで。私を許す資格があるのは死人達だけなのも解っている。それでも、ここで人を助けていると一瞬、自分自身を許してしまいそうになる。
そんな中、彼女のその目は、決して罪を埋もれさせない探偵の目は、私の罪を思い出させてくれる。
私は所詮人殺し。
たとえ、すべての人を救った所で、私が人殺しであることは変わらない。
私に救いなどあってはいけないのだから。
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……私は今日、ロドスの廊下で彼と会いました。
彼は間違いなく善人ではあるのでしょう。誰よりも率先して前に出て、常に自分が一番キツい仕事を受け負おうとする。実際、彼のお陰で助かったことが何度もあります。
私が彼を憎むことになった、彼が彼女を殺した理由にも目星もついています。彼女が貴族と密会を行っていることは私も把握していました。
そして、それを私はなんとか説得しようとして、その説得が終わるのを待たずに彼は殺した。
……私は彼女を説得しきれなかった。
本当にそれだけ?
いいえ、部屋の外に行けば彼が来ることも予想できていた。それでも私は彼女が抜け出すのを止めなかった。
……彼だけを責めるのは筋違いなのかもしれない。
もしも、彼が全ての原因だったとしても。
「私は貴方を決して許さない。許せない。」
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無理矢理、心臓が動き出す。
……頭から血がだらだらと垂れてくる。視界が真っ赤に染まっている。それでも、辛うじて物の陰影は見える。
左腕を動かそうとするが、……駄目だ、ぴくりとも動かない。よく見れば、二の腕の辺りから捻れているため、自分の肘がよく見える。
それに、肋骨が何本かイッている、空気を吸う度に激痛を放っている。
それもあるからなんとか意識を失わずに済んでいるのは不幸中の幸いなのだろうか。
近くに転がっているイースチナの方へと体を引き摺っていく。
……脈拍、呼吸ともに問題なし。
爆発の衝撃で意識が飛んだだけらしい。
まずは、現状の把握だ。
足元に広がっていたレユニオンが拠点としていた廃鉱山、そこに落ちたのだろう。これには不幸が重なったからとしか言えない。敵がここを拠点としていることは知っていた。それでも、最後っ屁というやつだろう、これほど大規模な爆発を起こしてくるとは思わなかった。
ドクターの指示は的確だった、ただそれを敵の執念が上回ってきた。
一人止めを刺し損ねていた、そいつがイースチナの足を掴んだ、彼女は自身のアーツでそいつを殺したが、一瞬稼いだ時間で彼女を崩落に巻き込んだ。
足元に真っ逆さまだ、彼女を助けようとした私も一緒に。完璧な二次災害だ。
回りを見渡すと、しっかりと補強されている。恐らく一部分だけ腐っていたのだろう、よくあることだ。オリジニウムが出なくなった所の補強費用もただではないのだ、使わないのなら補強などもせずそのままというのはよくあることだ。
それにしても、前も似たようなことがあった。
色々と状況は違って、あの時はビルだったし、なによりも、その時は間に合ったが。
複数の班に別れて食料を探している時に起こった崩落。ほかにも何人か巻き込まれる中、一番近くに居た誰かの伸ばす手を掴まず、彼女を助けた。彼女以外を見捨てた。確かめてはいないがほかの人たちが暗闇に飲まれるのを見ていた。最後に見えたのは私に対する疑問、憎悪、諦観の宿った目が暗闇の中で光っている様子だった。
視界の隅で彼女が唸っている。
「おはよう。」
私を認識したのだろう、その目に憎悪が宿る。元気そうでなによりだ。
「私は足を捕まれて、あぁ…なるほど。」
辺りを見渡して現状を理解し始めた。相も変わらず、頭の回転が早い。
「……取り合えず移動します。」
何故、移動するのかは分からないが、彼女が言うのならそうすべきなのだろう。彼女は立ち上がろうとするが、足首を捻ったのか、壁にもたれ掛かっている。
そちらへと近寄ると、彼女の腕が肩に回る。負荷が増えたからか、身体中が痛い。
「どこまで?」
「私が指示をします。」
ここまでの怪我を負うことは今までなかったが、命懸けなのは今も昔も変わらない。私達もそうだ、昔と変わらず信用
私も彼女がアーツを使って攻撃してくることがない事は知っているし、彼女も私が置いて行くとは欠片も思っていない。
この先がどうなっているのか、一寸先も見通せないが、その事に恐怖はなかった。
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Ω月ω日
今、手元に日記がないので、メモ帳に書いている。
どうも、イースチナより私の方が重症だったらしく、私は今も病室にいる。
ドクターなどが見舞いに来てくれた。あと、かなりの叱責を受けた。
それと、ケルシー医師には感謝している、おかげでなんとか生き残ることが出来た。
ズィマーは見舞いの品として雑誌を持ってきた。あと、グムからとクッキーも渡された。仲間を助けられたかららしい。ずいぶんと優しいことで。
生徒会長はフルーツの詰め合わせをも持って来てくれた。その時に、オペレーターとして戦闘に参加するつもりということを言っていた。その剛腕で敵を薙ぎ倒すのだろうか。
意外なことにリェータが見舞いに来てはお菓子を置いていった。彼女は何度か口を開こうとしたが、結局一度も彼女と話すことはなかった。
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ほかになにか書くことがあるのだろうかと考えながら、窓の外を見やる。
灰色の雲が寝転がっている、今にも泣き出しそうな曇天の空だった。
そこへ手を伸ばすが、また上から落ちてくる少女には手が届かない。
…扉の開く音が聞こえた。そちらには顔も向けず答える。
「ノックぐらいしてくれると嬉しい。」
帰ってきたのは、淡々としたかわいらしい声。
「しましたよ。」
「この声はイースチナか、なんの用だ?」
彼女がなにか放り投げたのだろう、ぽすっと、ベットの上になにかが落ちる音がした。
そちらに視線だけを向けると文庫本があった。
「暇だと思ったので見舞いの品です。」
ありがたく受けとらせて貰う。
「どうするんですか?」
彼女の方を向く、憎悪の炎が燃えるなか、私の心の奥底まで見えているかの様な目だった。
首を竦めながら答える。
「許される限り、ロドスに居続けるよ。」
いつか訪れるその日まで。
イースチナ
ヴィカを殺した彼に対して心底憎んでいる。
理性的なため殺しにかかったりはしない。
現状、もっとも彼の状態を理解している一人。
ただ、彼女とあうたびに彼の目のハイライトが消えていく。
彼は彼女に何度も助けられているので、感謝もしてるし、尊敬もしている。
「いつか、私が彼女に殺されるとしたら、それはウルサス学生自治団を守るためだろう。」