ウッハwww貴族に生まれたwwwマジ勝ち組www 作:頭に油をさしたいマン
そんな彼の一番の武器は躊躇いの無さだ。次の瞬間自身が死ぬとしても、相手を殺そうとする。
その戦い方をもって[死にたがり]等と言われている。
理想を追い求めるロドスではたとえ一握であっても慈悲を忘れてはならない。たとえそれが、握りしめれば指の間をすり抜けていくとしても。
グムは今でも彼を見ると、体がこわばって息が浅くなる。それでも、いつかグムがグムという殻を破るために。
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ピークの時間は過ぎたとはいえ、いつもなら余分なスペースなどないほど繁盛する昼の食堂。これほど人がたくさんいる食堂のなかで私たちのいるところだけスペースが空いていた。いつもより喧騒が遠い。黒く漂う空気も重い。ムードメーカーの必要性というのを改めて実感する。
空いてる席を見つけたと近づいてきた奴も、回れ右して引き返していった。ドクター、お前は引き返すなよ。後で覚えていろ。
始まりは、昨日の夜、扉の下に潜り込むように入っていた茶封筒だった。足元から摘まみ上げて、裏を見ても表を見ても、宛名も送り主の名前もない。
封を開けて、中身を見ると、かわいらしい丸文字で、場所と時間を指定していた。その筆跡には見覚えがなかった。
だが、呼び出される理由には覚えがある。私を裁くのはリェータ、イースチナか生徒会長だと思っていた。この艦にはウルサスの感染者も沢山いるのだ、私のことを知っていても不思議ではないか。
私にもついに裁きの時がきたのだろう、と。
その日の内に部屋の片付けを終わらせた。片付けるようなものはほとんどなかったが。
当日、食堂を使っていて不自然でないように、パンとスープを持って、断頭台に立つ覚悟で待っていると、グムがズィマーとイースチナを連れてやって来た。
正直にいえばかなり驚いた、まさかグム、彼女だとは。
下を向いたまま目の前にグムが座り、その両隣に二人が座った。あんなことをやって来たのだ、そんな私に対して一人で来ないことは当然だ。
一分たった。
スープは湯気を立たせ、立ち上る白い蒸気は私たちを区切る境界線なのだろう。
今もなお彼女は沈黙を貫いている。彼女にとってこの役割が逃げたいほど重いのは想像がつく。それでも、彼女がここまで来たのは生来の彼女の持つ誠実さだろう。
…三分たった
スープはまだ温かいがもう湯気を発するほどではない。一度、ひきつった笑顔とともに、口を開いたかと思えば、一言も発っさず、再び視線が机に吸い込まれた。
そういえば、いつ頃からだっただろうか、彼女が私のいる前では笑わなくなったのは。初めの頃から歪んではいたが、それでも私なんかにも笑いかけていたはずだ。
……五分たった
私が声をかけても、彼女はビクッと震えるだけだ。さすがにおかしい。
と言うよりも、そもそもズィマーがいるのがおかしい。イースチナだけであればまだ分かる。だが、ズィマーが知っているのならば、直ぐさま私を殺しに来ているはずだ。
彼女は本当に何で呼び出したのだろう?
…………十分たった
もう、目の前に置かれたスープは冷えきっている。
……そういえば、あの時もこうだった。
まだウルサス学生自治団の人数が今より多かった頃、レユニオンの集団から身を隠していた。私を恐れていたからか、心のなかに不満や恐怖を摩天楼が如く募らせている奴がいた。それを誰も気づけなかった。
いくら体が耐えきれても、あの劣悪な環境下に心が耐えきれなくなったのだろう、敵から隠れている最中に金切り声を上げ始めた。私は躊躇いなく、そいつの喉をレユニオンから奪った武器で切った。光が消え行く目が語っていた、お前のせいだと。
ぺしゃりと喉を押さえながら倒れた。床に大量の血液が広がって、そうして広がり続ける血の池はとても冷たかった。
声を聞いたのだろう近づいてきた奴らから、死体をその場に置いて、急いで逃げた。
それからだったか、彼女が私の前では笑わなくなったのは。
……回想に浸りすぎていたのだろう、ズィマーとイースチナから疑惑の目を向けられている。
なんでもないと、首を竦めて、窓の外へ視線を移す。
……………二十分たった
この奇妙な四人組の話を聞いたのだろうか、回りに人が増え始めた。仕事はどうしたんだよ。
元々いたドクター達のほかに、マッターホルン、ジュナー、食堂のスタッフ達、ほかにもどんどん人達が増えていく。
見ていて分かる、いつもは明るいグムの様子がヘンで皆不安なんだな。
それだけ、彼女は回りに大事にされているんだろう。
気まずいので帰ろうと思い、机に手をつけ、腰を浮かした。
そこに、ズィマーが目線で言ってくる。
座ってろ、と。
……おずおずとそのまま席に座る。
……………………三十分たった
私の視線の先、彼女達の後ろでは、私がなにをやらかしたのか、トトカルチョを始めてやがる。
一番最有力は、私がグムに手を出したというものらしい。ほかにも、お菓子を盗んだやら、グムが私の後頭部をフライパンで殴ったなど色々出ている。
止めておけよ、と目線で伝える。が、誰もきいちゃいない。
ほら、言わんこっちゃない。ズィマーの殺気に満ちた睨みつけで集まった人の輪と、距離が広がる。
グムの左側にいるイースチナは、片手で懐から取り出した本を読んでいる。右側にいるズィマーは、頬杖をつきながら私が席を立とうとすると射殺さんばかりに睨んでくる。ここからでは見えないが、グムの両手は、机の下で彼女達の服でも掴んでいたのだろう。目線を上げて無理に笑おうとして、顔がひきつり、また目線が机に吸い込まれていた。
私もやることがなく、スープのグリーンピースやニンジンをフォークに刺してまとめていた。
尖った骨に串刺しにされた目玉は瞳孔の収縮を繰り返し、指は今も痙攣している。
…………深呼吸とともに一つ瞬きをすれば、そこにあったのはいつも通りの食堂だった。
食事に行くだけだからと薬を携帯しなかったのは、失敗だった。
フォークに指した野菜を一口に食らい、残ったスープをパンで拭って食べる。
部屋に戻ろうと椅子から立ち上がった。背中に殺気が物理的に突き刺さっているのではと思うほど向けられるが、無視して部屋へと向かおうとした。したんだ。
「…待って!」
…今もなぜそうしたのか分からない。だけど、その声が足に突き刺さり、私の歩みを引き留める。
ゆっくりと彼女のほうに振り向いた。
勢いよく立ち上がったからだろう椅子は倒れており、自身の拳を握り、視線は私を捉えていた。
私を見る彼女の真っ直ぐなその目には、昔と変わらず人殺しの化け物が映っていた。
よく聞く話だが、他者とは自身を写す鏡らしい。
だからだろう、彼女を見ていると自分の醜さがよく分かる。彼女は良くも悪くも普通だったからこそ、その眼に写る恐怖は私の悪行を、それを行った私自身の醜さを心の奥深くに沈めることを許さない。
下から見上げるように、必死に恐怖を隠そうとして、それでも隠しきれていない笑顔でこちらに問いかけてくる。
「…おいしかった?」
…あぁ、やっと、彼女が私を呼んだ理由がわかった。彼女が笑うのは過去を振り払うためでなく、彼女が笑うのは回りの人を元気づけるためで、その人の輪に私も入れようとしているのだろう。
今もあなたに纏わりつく恐怖の対象である私を。
私を見たところで想起されるのは、自身を縛る恐怖の記憶ばかりだろうに。
…もし……もし………許されるのなら、今すぐ彼女に跪いて、私にそんな権利はないんだと訴えたい。この臓物はすでに腐り果てたくせに、未だに生きているふりをしているだけなのだと。この身は輪廻の果てまで苦しみ続けなければならない咎人なのだと。
………唾棄すべき発想を鼻で笑い飛ばす。
そんなことを言ったところで、立ち直ろうとしている彼女の足を掴むだけだ。
ならばせめて、恐怖を押し殺して、笑おうとする彼女に対して、こちらも頬を引き上げて笑おうとする。誰よりも優しい貴女に祝福を。
「…えぇ、とても。」
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彼が食堂から去っていく。
ズィマーお姉ちゃんは頭を撫でてくれた。イースチナお姉ちゃんは励ましの言葉をかけてくれた。
彼と初めてあったのは、彼がウルサス学生自治団に同行する時だった。グムは彼のことをそれほど知らなかったんだ。知っていることは彼が皆を殺してるそれだけだった。
だから、本当はいやだった。
実際、彼は噂どおりだった。いらないって思ったんなら躊躇わずに仲間も殺した。夜はいつも怖かった、いつかグムの番が来るじゃないかって。
それでも、グムには見えてたんだよ、仲間を殺すとき、彼がいつもの様に無表情で殺したように見えて、悲しそうな目をしていたのを。
だから、いつか彼といっしょに笑えたのなら、そのときこそ、グムは過去を乗り越えることが出来るはずなんだ。
グム
未だにチェルノボーグにいた頃の習慣は抜けきっていないが、それでも確実に変化している。
仲間を殺した彼には、今も恐怖を抱いている。彼が近くにいると笑顔が歪む。
彼からはその優しさを尊ばれているし、自分のせいで普通の女の子を曇らせてしまった罪悪感を抱かれている。
ゆっくりだが確実にグムという殻を破き始めている。
きっといつか、彼女はグムという殻をやぶり、再び歩き出せるだろう。
私が仲間を殺さなければ、彼女はここまで苦しまずにすんだのだろう。