ウッハwww貴族に生まれたwwwマジ勝ち組www 作:頭に油をさしたいマン
暗いまぶたの裏から、光と共に入ってくるのはいつもと変わらない天井だ。
ズキズキと痛む頭を抱える。
吐き気もするが、いつものとは少し違う。これが二日酔いというやつか。
愚者も経験から学べるのなら、この世には愚者未満が溢れているのだろうな、等と益体もないことを頭の中で回す。
頭痛と吐き気は辛いが、本当に、今日は久しぶりによく眠れた。ベットや体が、汗まみれじゃない目覚めをするのは、一体いつ以来だろうか。
ベットの縁に体を回して腰かける。外から差し込む陽光は朝が始まったばかりだと、私の背中に伝えてくる。
二日酔いだからか喉が渇く。
いつも机の上には口を濯ぐ為の水が入ったカップを置いている、そこへ手を伸ばすが、なにも掴めず手は空を切る。手の中を確認するが当然カップはなく。酒を飲んで酊酩していたのだから、置き忘れたのだろうか。
…いやいや、待て、そもそも部屋の様子が可笑しい、部屋の隅に積まれた食料や水の入った段ボールがない。それに、机の上に洗面器ではなく、女物のファッション雑誌が置いてある。
「……んっ!…っ…」
背後から聞いたことのない声が聞こえる。
いや、この声自体は知っているが、こんな女の子らしい声は知らない。
油が切れてカチカチに固まったような首を無理矢理動かす。
ベットの上で、芋虫の様にもぞもぞと布団の固まりが動いている。
……大きな溜め息と共に、項垂れるような体勢で、目頭を揉む。
ついにこんな幻覚まで見えるようになったのか。
さっさと、部屋に薬を取りに戻ろう。
そう思い、脱ぎ捨てたコートを探して、視線を左右に揺らせる。
足元には私の使っているロドス所属を表すコートの他に、ファーのついたコートが床に落ちている。
………
………
……覚悟を決めて布団を少し持ち上げる。
気のせいだろうか、二日酔いとは違う理由で、頭が痛くなる。
なんか、すごく見覚えのある人が寝ている。
しかもスカーフが解けて、襟が外れかけているから、いつもより胸元が見えている。意外に細い首、そこから続く鎖骨が……
起こさないように、ひっそりと持ち上げた布団を元に戻す。
なんとか、曇った記憶を鈍った感覚で呼び覚まそうとする。
……昨晩、生徒会長じゃない、っと、こっちではロサだっか、の前線への転勤を祝って買った茶葉をプレゼントしに向かって。
えぇっと、あぁ、確かそこにズィマーも居て、折角だからとロサが何処からか酒を取り出して、逃げようとしたけれど、あれやこれやと流されて結局、酒盛りを始めて。
初めて飲んだ酒のせいでなんか色々と小恥ずかしい事を口走って………
……ダメだ、それ以上は思い出せない。
まぁ、多分、大丈夫なはずだ。きっと。
それにしてもと、視線を布団の固まりに移す。静寂に浸る部屋の中では、布団の掠れる音も聞こえず、耳を澄ませば彼女の寝息だけが聞こえてくる。
気の抜けた寝顔を晒して、随分と気持ち良さそうに寝ていた。
あちらにいた頃にはあんな顔見たことはなかった。私の知っている寝顔は殆ど眼を閉じているだけの物。薄皮一枚を被せただけのような眠りだった。
あそこでは誰もがそうだった、先の見えない暗闇の中、何時何処から襲われるか分からない恐怖と不安に気を張詰めて、まともに眠ることなんて出来なかった。風が窓を叩く音、床板の軋む音、そんな少しの物音で目が覚める事はざらにあった。
もしも、あんなことがなければ、彼女はチェルノボーグの家で今も普通の生活を送ることが出来たのだろう。過去に苦しめられず、普通の家族、普通の学校生活、とても退屈なもう二度と手に入らない、日常を送られたのだろう。
このくそったれな世界で小さな幸せを手に生きられたのだろう。
私なんかとは違う、誰かを守ることが出来る、優しくて強い貴女にはその権利があったはずなのに。
顔を手で覆う。目頭は乾いたまま、もう涙など出やしない。
今日はなぜだろう、まだ眠気が残っている。いつもなら一度目が覚めてしまえばしばらく眠れなかったのに。なんでだろうか……今はなんだかすごく疲れている、布団に足を突っ込んで体を倒して、久しぶりに訪れた自然な睡魔に身を任せた。
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腕を天井を貫かんばかりに持ち上げ、固まった体を伸ばす。
「っ~んっ~~」
まずはシャワーでも浴びようかと、ベットから降りようとするとナニカを蹴った。
そのナニカはよく知っている奴だった。
ぁあ、そうだ、この馬鹿が自分の部屋すら把握できなくなっていて、廊下に捨て置くのはさすがに可哀想だからと、自分の部屋に連れ込んだんだった。
私が正義の味方か……
コイツが酒の勢いで口走った、アタシに対する憧憬。弱きを守り、強きを挫く。仲間を手にかける自分とは違う、誰かを守れる存在だと。
鼻で笑い飛ばす。そんなわけない、ただオマエに汚い仕事を押し付けていただけだ。
起こさないように気をつけながら体の上に股がる。
ゆっくりと喉仏の出ているその首に手をかける。
こいつがアタシの仲間を殺した。
わかってる、わかってるんだ。それは本来、アタシがしないといけなかったことだ。
それでも、だとしても、死んだ仲間達の顔が忘れられない。今でも夢の中に出てくるんだ、アイツらの死に顔が。
死にたくなかったって、生きていたかったって。
………大きく一つ息を吐き、手を離す。
アタシにも彼を殺す資格はないのだから。
改めて、彼の顔をじっと見る。いつもの仏頂面とは違う、年相応の寝顔。
ずいぶんと幸せな寝顔を晒しやがって。
そんな、彼の前髪を触る。出会ったときより随分と髪が伸びたな。もう額が隠れてしまうほどだ。
「んっ?」
指先が彼の額に触れる。なにか、硬いモノにふれた感覚。
…おかしい、彼の前髪を持ち上げる。
「………あぁ、くそっ…!…」
そうだよ、そうだよな。オマエがそうなってても可笑しくはなかった。
コートを羽織、急いで部屋の外に出る。どうせ、本人に聞いたところで答えちゃくれないだろ、訊ねるべきは、ケルシー先生だな。
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………扉が閉まる。
上半身を起こし、目を開く。
彼女が額を触り始めた時、止めた方がよかったか、いや、しょうがないか。
自分の首を擦る。彼女が絞めようとした、その場所を。
まさか、これをされてた時だけ意識なかったなんて言っても信じてもらえないだろう。
互いに気まずくなるだけだ。
いつのまにか両手で首に触れていた、彼女の武器を握って硬くなった皮膚、そして、女の子らしい細い指の感触を思い出す。殺す為ではなく、誰かを守るために戦ってきた優しい手。
彼女がやっていた時より、ずっと広い範囲に指が届く。あんなに小さな手で頑張っていたんだな。
それでも出来れば、
「そのまま絞め殺してくれればよかったのに。」
口から溢れた言葉は誰の耳にも届くことはなく、柔らかな朝日の差し込む主のいない部屋に溶けこんだ。
オペレーターズィマーに対してケルシー医師は特例として、彼の健康診断の結果、手術歴、家族構成を公開した。
それが正しかったのかは、誰も判らないが、知らないままの方が幸せなことはありふれたことだろう。