ウッハwww貴族に生まれたwwwマジ勝ち組www 作:頭に油をさしたいマン
毎日、食堂では毎日同じ食事をとり、訓練でも実戦でもその仏頂面だからだ。ドッキリで激辛ソースの入った水を飲んでもその顔が変わらなかったことは記憶に新しい。
もし、彼の別の顔を見たければチェルノボーグでの話を聞けばいい。その顔はすべてを嘲るような嗤いに変わるだろう。
いつもどおり自主練を終えて、シャワーはいいから、痛む体をベットに放り込もうと、部屋に向かっていた。
子供達は夢の世界へ飛び立ち、外は闇に沈んだ時間帯。部屋に向かう廊下には最低限の光しか点っていない、そんな中でロサと会った。
体が汚れていないところから、もう寝るところなのだろう。
とりあえず、会釈だけして通り過ぎようと思っていたが、彼女に呼び止められた。
「ねぇ、少しいいかしら?」
足を止める。出来れば早く寝たいんだが。
「今からお茶でもしない?」
今からか。
今日は高所からの受け身、そこからどう動くかという練習を主にしていたため、背中や腕、足が本当に痛みを発しているし、疲労のせいで、なんなら今ここで寝てしまいそうなんだけど。
「…こんな、土にまみれ、汗にまみれた状態では、申し訳ないのでまた後日……」
私の切実なお願いには気づいているのはずだが、なぜだか、彼女の口調には呆れた、という雰囲気が漏れだしている。
「常に訓練か任務でろくに居ないじゃないの。私は気にしないから、さぁ。」
そこを突かれるとなにも言い返せない。部屋に居るのは寝るときぐらいで、趣味で読書を始めようとしたが、結局、借りた手垢にまみれた古典小説も、私の手垢が加わらないまま引き出しの中にある。そろそろ返しにいかないと。
などと思いながら、今の私に抵抗するだけの力もなく、彼女の部屋へと引きずられていく。
私の送った紅茶に対してお返しをしたいと呼ばれて、ロサの部屋にいるはず。部屋の構造などは同じなのだが、部屋の真ん中になんかすっごい手作り感のあるイスが置かれている。
がらくたの中から拾ってきたのだろうか?
それに、彼女が躊躇いなく座ったので私も紅茶を手に向き合って座る。尻にできた痣がいたい。
やはり彼女の根は貴族なのだろう、紅茶を手にもつ姿がとても似合っている。
「後方で働いていたときもこのようなことを?」
彼女は笑いながら否定する。
「いいえ、そんなことをすれば自分は貴族なんだって言い張ってるみたいじゃない。」
意外だった。
正直に言えば、彼女がここまで上手くロドスに溶け込めると思っていなかったからだ。
彼女は良くも悪くもウルサスの貴族だった。そんな彼女の骨肉に染み込んだ生き方がそう簡単に抜ける訳がないと。
とは言っても、心配もしていなかったが。あの学校で生徒会長をする、それに必要な能力を持っている彼女なら上手くやれるだろうとは思っていた。
実際はどうだ、後方でも上手くやっていたのだろう、今の彼女に対する周りの扱いからもわかる。
貴族、特にウルサスの貴族は恨みをかっている。彼女がいると陰口を叩かれなくなるのだから、恐ろしい。
記憶の遥か彼方に飛んでいった礼儀作法を引っ張り出しながら、カップに口をつけ、紅茶を口に含む。私には紅茶の味は分からないが、どうやら、傷に染みるのは水も紅茶も変わらないらしい。
私の姿を穴が開きそうになるほどに、彼女は私を観察してくる。
「……似合ってないのはわかっています。」
顔を逸らす。窓の外には月が浮かんでいる。部屋の中を反射して外の景色は殆ど見えない。そうして、そっぽを向きながら言葉を続ける。
「私も自分が貴族に相応しくないのはわかっていますよ。」
そうね、とロサは答える。
「当時は私も貴方は貴族にふさわしくないと、常々思っていました。貴族も庶民もどちらに対しても同じような目を向けていた。貴方は特別な存在ではない、そう言わんばかりの目。それが苦手だったの。」
彼女の目に暗い光が宿り始める。………話を変えるべきだろう。
「それで、オペレーターとして武器は何をつかうのですか?」
彼女と未だに一度も同じ戦場に立っていないから、見たことがないのだ。
「あれよ、あの街のなかで拾った攻城兵器、修理してもらったわ。」
正気か、あれで殴りかかるつもりなのか……。確かに重量はあるから威力は出るのだろうが。いくら訓練を積んだところで、あんな隙の大きい武器をつかえば、生傷は絶えないだろう。
「……その、おせっかいかもしれないが、もう少し軽い武器を使った方がいいのでは?」
少し驚いたような顔で、彼女は答えを返してきた。
「…大丈夫よ。これでも私もウルサス人だから。」
貴族を捨てたとはいえ、そんなバーサーカーのような人だったのか。私が知らないだけで実は武闘派な貴族だった奴も多かったのでは。
……あんな自信満々な顔をしているとはいえ、何かあったとき援護できるように、投擲武器を多めに持っていこう。
カップに口をつける。見たことのある紅茶を適当に買ってきたのだが、これはそんなにおいしいのだろうか?お茶会で味わう余裕などあった試しがないので分からない。
それにしても、と彼女が切り出す。
「貴方に心配されるとは思わなかったわ、噂は後方にいた私のところにも聞こえていたのよ。[死にたがり]。」
私の戦い方を見て、周りが呼び始めた呼び名だ。常に先手を打ち続ける戦い方をそうみられているらしい。私に死を選ぶ権利などないのに。
「有名に成りすぎ、薄々気づかれてるわよ?貴方が何者なのか。」
心臓に噛みつかれたような気がする。カップに写る私の姿が少しの揺れと共に消えていく。
「…………。」
再び、カップに口をつける。この世に永遠に隠せる秘密などありはしない。ドクター達もがんばってはくれたのだろうがしょうがない。彼女はこちらに憐れむような眼差しを向けている。
「……それで、貴女は私になにかようがあったのでは?」
一瞬で彼女の表情が固まった。
本当にただ私に警告するため、いいや違う。
無償の奉仕をするような人は殆どいない。大抵はなにかしらの対価を求めるものだ。なにも金銭に限らず、感謝、態度、貸し、自身の満足等。貴族を捨てた彼女が敬意を求めているとも思えない。不安で誰かに話を聞いて欲しいからだろう。
間に流れるのは、この船が今も動いている証明だけだった。
彼女はまるで許しを乞うかのように話し始めた。
「ねぇ…私が貴族をどうやって纏めたと思う。」
顎に手をやり考える。
「家名を出したりしたんですか?」
貴族は外面ばかりを気にかける。なぜなら、彼らのよく響く頭では内面を見ることは出来ないからだろう。だからこそ、彼女の親やその仲間の名前はよく効く。
彼女は力なく首を左右に振った。
「……それもあるけれど、それだけじゃないの。私たちを団結させるには奪うべき敵が必要だった。」
……まぁ、当然ではあった。貴族と平民の間に跨がる崖ほどではないが、貴族同士の間にも壁があった。貴族の中身は渇きなのだ、自身で満たそうとしなければ決して満たされない渇き。それを満たすために他者の生き血を啜るのが貴族だ。同じ貴族に対しても変わらない。
ウルサスが戦い続けるのは、そうしなければその渇きは内側に向く、その果てにあるのが破滅だとしても、奪うことが辞められないからだろう。
そんな貴族を理解している彼女がいたからこそ、貴族同士で奪い合わず団結できたのだろう。
「貴女を赦すことはできませんが、間違いなくそれは最善の判断でしたよ。」
私のその言葉を聞いて彼女がなにを思ったのかはわからない。
ただ、彼女はなにかを覚悟したのだろう。一口飲み、口を開いた。
「私はあの場所にあっても結局一度もその手を汚すことはなかったのに。」
「…っ……!」
なんとか、舌打ちを堪える。頭の中が一瞬で沸騰する。こいつは何を世迷い言を言っている。無意識に手が腰へ、腰に指したナイフに向かっていた。
一つ息を吐き、ナイフに対する意識を外す。
彼女はそんな私の様子をただ見ていただけだったが、殺すことを諦めたことにただ少し安心したようだった。
絶対に受け入れられない。受け入れてはならない。
「汚していない。そんなわけない、貴女の指示で貴族が略奪を行ったのだから。……直接手をかけなければ殺人ではない?間接的にであろうが、所詮、人殺しは人殺しでしょう。」
言ったのちに、後悔した。
これは彼女の傷口に牙を深く抉りこむような行為だ。
今回は完全に私が悪い、どんな罰でも甘んじて受け入れよう。
またベットに逆戻りかと思っていたが、拳どころか、平手すら来ない。当然のことながら銃口や剣先も向けられておらず。
意外なことに向けられていたのは、傷だらけの獣をみるかの様な表情だった。
「……貴方は辛くはなかったの?家業を継ぐこと?」
背もたれに背中を預ける、木の板が痣に当たって痛い。ベッドの奥、窓の向こうでは雲が、月を、星を隠している。
微かに見えていた窓の外の風景は部屋の光に掻き消され、窓から見えるのは疎ましい自身の姿。愚かな愚かな虐殺者の姿。
それに、縋り付く様に、助けを、許しを、救いを求める手。小さな柔らかい手、固く節くれだった手、指の欠けた手、源石の生えた手、私の体を掴み、引きずり込もうとしているのか、それとも昇ろうとしているのか。
「見えずとも、聞こえずとも確かにそこにあるのだから、ならばせめて……というやつです。」
私にその手を振り払うことは許されない。
彼女は窓に映る私の顔になにを見たのだろう。
「その果てに待つのはただの事実だけ。積み上げてきた屍の山だけよ。」
それでいい。
きっとそれが私に似合いの末路なのだろう。
ロサ
学内で自身が行った貴族達による略奪それに対する罪悪感は彼女の心に巣食っている。
彼の行った虐殺をノブリジュオブリージュを果たしたと捉えている。だからこそ、彼に対する悪感情の割合がそれほどない。ズィマーのお陰で前を向けるようになっていたが、自分を削り続ける彼を見て、ふらっと、彼女自身の希死観念も混ざり、彼の地雷を踏みつけて彼に殺させようとした。
彼は自身の出来る最善を尽くした彼女を決して恨みはしない。それの辛さをよく知るが故に。
彼は彼女を助けれはしないが、彼女の仲間達は彼女と共に歩むのだろう。
今の貴女の方が私はいいと思いますよ。