ウッハwww貴族に生まれたwwwマジ勝ち組www   作:頭に油をさしたいマン

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彼が肌身離さずもっているナイフ、それについて知っている者はほとんどいない。
彼はそのナイフを何処でどうやって手に入れたのか、話したことはない。それを知る資格があるものが現れるまで。


無謀の果てに得た真実

いつもの様に食堂へと向かう。

 

 いつもとは違うのは、こそこそと私を見ながら話している人達がいることか。

 

「…あの話って………」

「俺も避難民から聞いた……」

 

 非難し、見下し、侮蔑する。それでも、手は出してこないのだから彼らにもまだ自制心は残っているのだろう。

 

 ドクターもケルシー先生達も気を使ってくれていたのだろうが、人の口に戸は立てられない。隠されているものほど、気になるものだ。

 背中に突き刺さる自身の罪科を受け入れ、ただ黙々と手を動かして食事をとる。当然の排斥だ、彼らからすれば今すぐ私を殺しにこないだけマシではあるんだろう。

 

 だがそのお陰で、己に対する罵倒が幻聴かどうか疑う必要はなくなった。

 なんせ、どれも実際に言われているのだろうから。

 

 私が椅子を引いて立ち上がると、一瞬で静まり返る。気にしたところでしょうがない、食器を戻しに行く。

 調理をしているスタッフ達からの目線も周りと変わらない。この様子では毒を仕込んできても驚かない。今後は自前で用意した方がいいだろう。

 

 食堂を出て輸送車へと向かう途中、道の真ん中で朝食を取りに来たのだろうズィマーと会った。

 あの酒によって彼女と同衾して以来、私は彼女とまともに話していないらしい。理由は、まぁ予測がつく。私に対する恨みと罪悪感で手一杯なんだろう。

 

 彼女は私を見て、なにかを言おうと口を開こうとしたが、黙ったまま早足で私の横を通りすぎて行った。

 

 ・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・

 

「やっ、やめろ!!」

 

 戦場はいつも通りだ。なにも変わらない。私を見る目も、溢れ出る血の色も。

 

「くそがっ、悪魔が!!」

 

 レユニオン達から悪魔呼びされることが増えてきた。

 

 …まぁ、当然か。

 左手で前髪をかきあげる。そこにあるのはもう隠しきれないほど大きくなった源石。まるで鬼やサルカズの角のようだ。脳から生えて来てるせいで簡単には削れないから不便で仕方ない。

 

「にしても、悪魔か。フッ、心だけではなく、体まで悪魔に成り果てるとは無様だな。」

 

 その姿を境遇を喉を鳴らし嘲笑う。感染者達からの暗殺から身を守るために学んだ暗殺術。その技術を感染者達に使うことになるとは。

 

 死体の手から武器を剥ぎ取る。今使っている武器は歯こぼれが酷い。ロドスは武器のメンテナンスもしてくれるらしいが、他人に自分の命綱を触らせるつもりはない。

 

 ほかの奴等と比べてもこいつの持っている武器が比較的マシだ。ほとんど使ったことがないのだろう、刃こぼれ一つない。

 レユニオンは基本的にそいつの錬度と武器の性能が比例する。サルカズの傭兵などであれば、彼らより持っている武器の性能はいい。いい武器は長持ちする。実際、腰の後ろに差しているサルカズ?のナイフはチェルノボーグからずっと使い続けているが問題なく使えている。

 他にも何か持っていないかと死体を漁る。

 

 今回の仕事はレユニオンからの村の防衛だ。近くでレユニオンを見かけたらしい。

 村人が見かけたというらしい場所に行くとこの通りレユニオンがいたので対処した。

 敵の規模は少数、錬度も低い。それでも、万が一がある。ロドスの本隊は村で待機。私一人で敵の対処だ。

 そこそこの実力があり、私が死んだところでロドスに悪影響はほとんどない。なんと使いやすい駒だろう。

 

 舌打ちをする。ほかに持っているものと言えば、写真やら、お守りやら役に立たない物ばかりだ。売っても二束三文にしかならない。

 

「くそが!」

 

 力任せに死体の腹を蹴り上げる。少し浮き上がったのち、荒れた地面の上を転がった。

 

 それを見ながら、額を押さえる。

 

「…なにやってんだ、私。」

 

 こんなことしても何も変わらないだろうに。最近は情緒が可笑しくなっているのがわかる。

 

 とりあえずやるべきことは、死体の数を数えて、それから処理だな。そして、外でキャンプを張っている本隊へと合流する。

 やることが決まったのなら、早急に取り組まねば。

 

 この辺は感染者に対する差別が根強い。自分達を助けに来た感染者を擁する組織であるロドスを村の内部に受け入れないぐらいには。

 

 今回の任務での隊長に、帰還の連絡を行う。公私をしっかり分けていて、私に無駄な嫌みを言ってこない奴だ。

 

「帰還しました。」

 

「ご苦労。敵は?」

 

 机の上に肘をつき、組んだ両手の上に顎を乗せている。

 

「キャンプにいた奴等はやりまし「この化け物め!!早く出ていけ!!」……随分と歓迎されているようで。」

 

 テントの外から聞こえてくる声に、隊長の眉間の皺が深くなる。私も持ち上げた口角が震えている。

 

「聞いて分かるように我々は歓迎されていないようだからな、明日の0200には撤収する。」

 

「了解。ですが、問題ないので?」

 

「あぁ、我々は手を差し伸べたが向こう側からその手をふりはらった。ということだ。」

 

 眉間に手をやって皺を解そうとしている。ロドスに居る子供に泣かれたのがそんなに嫌だったのだろう。

 

 感染者と非感染者の平等の為に動くのがロドスだ。だから、溝がこれ以上深まらないよう、感染者が暴れていたら止めに行く。

 今回もそれを聞いてきたわけだが、この通り。私たちが派遣されたのは、見捨てたわけではないと、言質を取るためだろうな。私も詳しいことはわからないが。出ていっていいと許可を貰い、一礼しテントから出る。

 どうも飛んで来ているのは罵声だけではないらしく、握り拳大の石が空を飛んでいる。石も今まで見上げるだけだった空を跳べて嬉しいだろう。

 それを投げている奴らももうすぐ空の向こうへ飛んでいくことになるだろうが。

 春ももうすぐ終わる。風は暖かくなく、涼しく感じるようになった。それでも実りの秋には程遠い。キャンプを潰された彼らが秋まで飢えに耐えられるわけがない。きっと村を襲う。この辺境の村には国から守衛が来ていないらしい、彼らは自分達で身を守らねばならない。

 明日を生きられるか怪しい奴らが手段を選ぶことは恐らくない。仲間の死体を川に放り込むぐらいはするだろう。

 

 

 視界の端には何処かの学校の制服を着た奴が私に呪詛を吐く。

 今日も変わらず世界は地獄だ。

 

 ・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・

 

 レユニオンの残党に撤収中襲撃されることもなく無事に帰還できた。

 出迎えにきたスタッフ達からは射殺さんばかりに睨まれているが、まぁいい。さっさと部屋に帰って報告書を仕上げよう。そう思っていたが、視界の端で靡くマフラー。

 リェータか。

 彼女は大股でこちらに近付いてくる。

 

「私が訓練室をとってある、来い。」

 

 字面だけなら訓練に誘っているだけだが、彼女の顔を見ていれば、そんなわけがないことは馬鹿でもわかる。自然と口角が上がる。

 

 裁きの時はもうすぐだ。

 

 ・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・

 

 訓練室にいるのは私と彼女だけ。

 この部屋にはファンが回っている音と息を整える音が響く。

 私が来るより前に待っていた彼女は体を動かしていたのだろう滝のような汗を流している。ここに来るまでに買ってきた水を投げる。入り口の横の壁に背中を預けながら、彼女が話せるようになるのを待つ。

 

「私がお前と合流する前にレユニオン達の所に行った話をしたよな?」

 

「らしいな。」

 

 そんなことが日記に書いていた覚えがある。

 

「そこで白い小さな男にあった話は?」

 

「…あぁ…悪い、覚えてない。」

 

 そんなことは書いていなかったはず。

 

 そうか、と彼女は呟いて、水を一気に飲む。

 ここから先の話が本番で、彼女にとって覚悟のいる話なのだろう。

 ……一気に飲んだせいか、どうやら気道に入ったらしく、むせて咳き込んでいる。

 

 彼女の視線が問いかける、見たかと。

 私は視線を逸らした。

 

……

 

……

 

……

 

「そこで、何を話したのかほとんど覚えていない。」

 

 視線を彼女に戻す。

 

「でも、覚えていることもある、その一つがお前のこと。」

 

「…あぁ。」

 

「お前の家が鉱山を運営していたって。感染者をゴミの様に扱っていたと。」

 

 まぁ、私も彼女が何かを知っていると予測はついていた。まさか、そこまで知っているとは。

 

「……今回、その話が艦内に広がっているから聞いてきたのか。どうして、今までにそれを誰にも話さなかったんだ?」

 

 彼女は…その……あんまり…思慮深い方ではない。

 それを知っていて殺しにこないのが不思議だった。

 

「私もそれを聞いてどうするべきか分からなかったんだ。本当なのかもわからないし、ズィマー達にも話してどうなる?それにお前がそんな奴には思えなかった。」

 

 ずっとそれを抱えていたのだろう。でも、すまない。

 

「結局殺すんだ。誰かに殺させて、それを知らない顔をするのが嫌だった。だから、私達は鉱山の管理を請け負っていた。」

 

 これは私の罪だ、彼女から決して目線を逸らしてはいけなかった。

 換気扇の音が無駄に大きく聞こえる。

 彼女の顔に様々な感情が混じっている。憎悪、失望、殺意……。

 

 正直、殴り飛ばしてくれた方がずっと楽だった。

 無機質に後ろで扉の閉まる音がする。

 

 私もさっさと寝なければ。明日も戦うために。脳にこびりつく誰かの死を振り払うために。

 




リェータ
 彼の実家のことをメフィストに聞いてからずっとそれについて黙っていた。どうすればいいのか分からずに。
 彼への対応にずっと悩んでいた。
 彼からはその腕っぷしの強さは尊敬していた。

「許しはこわない、恨んでくれ。」

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