イール(女性)
神、悪魔(男性)
魔法少女もののダークサイド。
動画サイトに転がってるようなロングバージョンの広告動画イメージ。
イール
愛こそが正義だと彼女達は叫ぶ。
守るものがあるから立つのだと。
まるで愛を知らぬ憐れな生物だというように。
強い光の宿った目でこちらを睨むのだ。
私が破壊する衝動をちんけな言葉でなど表したくはないが。
あえて彼女達に合わせた表現をしよう。
貴様らの愛が正義だというならば、私もまた愛ゆえにはたらいているというのに。
_間。
イール
私の名はイール。
ひと柱の神に愛され祝福を告げ歌う、楽園の碧き泉の名を与えられた天使だ。
__神代の不埒な人間に不覚にも羽をもがれた、間抜けな天使だ。
羽を奪われた天使は神の使いでない。もはやその概念も残らない。姿は似ていれども元よりヒトでは無いのだから、肉体も持たない。
ただ羽を残して消えゆくだけである。
そんな愚かな天使が眠ってか2000年がすぎた。
人類が神を捨て、自分たちで歩き出したことを知っている。
人間どもからの信仰を失ったあの方は、かつての輝きを失っていることも。
それでもあの方は、神を捨てた人間を変わらずに愛して、仕方ないと笑って。
人間共の住まうこの星に、力のがきりイノチを宿しているのだということも。
私は、知っていた。
神
「……良かった、ここにいたんだね」
イール
どれほど時が流れたのだろう。
私が閉じ込められた遺跡に光が差し、聞こえた懐かしい声に心が震えるのを感じだ。
ひどく優しいその声を忘れたことなどただの1度もない。
こけた頬、擦り切れた衣、失われた命の輝き。
すっかり変わられてしまったお姿に、無い翼の羽根が抜け落ちるような心地がした。あぁ、なんということだろう。おいたわしや、我が主、我が
それでもこの星の何よりもうつくしいその目は、変わらずに深い慈愛の色をたたえて。柔く笑みを浮かべていた。
何よりあたたかく、何よりも尊いあの方が私の羽を抱えて迎えにきたのだ。
神
「遅くなったね」
イール
「……私のことなど、人間に羽を奪われるような間抜けな天使など放っておいてよろしかったのに」(感極まって涙を浮かべている)
神
「僕のイール。僕の天使。そんな寂しいことを言わないで。君は怒っていいんだよ。長い間見つけてあげられなくてごめんね」
「君の羽、見つけたんだ。返してあげようね。あの子たちもやんちゃで困るね。でも、どうか許しておやり。怒るなら、ずっと君を迎えに来なかった薄情な僕にだ」
イール
「そのようなことなど!! いいえっ、貴方様は何より優しく暖かい御方にございます。ずっと、お会いしとうございました。どうかこれからも貴方様の思うままにお使いください」
神
「……さぁ、イール。羽ばたいてごらん。高く飛んで見せておくれ」
イール
「はい、喜んで」
神
「……僕はね、星の引力を知らぬ君の滑空が好きなんだ。やはり、綺麗だね。あぁ、良かった。空を謳うように、星と踊る姿をもう一度、見たかったんだ。僕の心残りはもうないよ」
イール
「っ。そのようなことを仰らないでください。貴方が望むのであれば、私はなんどでも!」
神
「いいんだ。そんな顔をしないでおくれ。聡い君はもうわかっているのだろう?
ヒトはもう、僕を必要としていないみたいだ。僕の役目はきっと終わったんだよ。
彼らは立派に歩いて行ける」
イール
愚かな人間共を愛した、優しい神様。
文字通り死力を尽くして星を回していた、失われた信仰と共に夢、幻へと還る今は儚き御方。
死んだ天使に再び息吹くほどの力など、もう無かったことなど想像に容易い。
悪魔
「水をさして悪いねぇ。そろそろ満足したかい?カミサマ」
イール
嗚呼、やはり。
私のことなど、思い上がったヒツジ共のことなど放っておけばよろしかったのに。
神
「あぁ、満足だよ。なんでも持っていくといいさ。悪魔殿」
悪魔
「それじゃぁ、お代を頂こうか」
神
「僕のイール。はやく天にお帰り。僕はきっと醜いナニカになる。そんな姿を君に見られたくはないんだ。僕からの最後のお願いだよ。
僕のいっとう愛しい子、僕だけの天使。さ、はやくお行き。幸せにね」
悪魔
「取引成立だ。頂くよ、貴方のいっとう尊くうつくしいもの。貴方を神たらしめる『慈愛』を」
神
「こんな
_間。
イール
慈愛を失ってしまった私の神様がどうなるかなど想像に容易い。
_間。
神だったナニカ
「__憎い、憎い。
__あんなに愛してやったのに
__あんなに大事にしてやったのに
__私を忘れて、のうのうと生き晒している
__神の恩恵を、
__思い上がった人間どもが憎い!!
__嗚呼イール、私のイール
__どこに行っていたんだ、私の天使」
イール
「はい、私はここにおりますよ。分かってるおりますとも、私は髪のひと房から脚の先まで、この心も全て貴方様のもの。貴方様だけの天使です。お傍におりますとも」
神だったナニカ
「あぁ、そうだったね……。私のイール。君も思わないかい。あの思い上がった愚かな人間共には神罰を下すべきだと。……そういえば。君のうつくしい羽を奪ったこともあったね」
「__あぁ、許してなるものか」
イール
「えぇ。貴方がお望みならば。
貴方様からの慈愛を甘受するばかりで裏切り捨て、神の座から引きづり落とした。その全てを破壊して参りましょう」
私の名はイール。
ひと柱の神に愛された、この星に破滅を告げ、滅びを歌う天使だ。
もう私にはあの泉の名もこの純白も似合わないかもしれない。
それでも貴方様の心が安まるのならば、私は輝く白を失うことも
「姫巫女☆ヒロイック、毎週日曜朝8時30分より放送中」
神だったナニカ
「公式ノベル、巫女姫☆ヒロイック、ダークサイドゲノム第3巻は2015年9月31日発売」
「お前らが捨てたんだ、私がお前たちを棄てて何が悪い」
蛇足。
悪魔は『神威:慈愛』を手に入れて魔王のひと柱になったはいいものの、生命体Xに成り果てた元神が暴走しているから先輩魔王達から「てめぇのケツはてめぇで拭け」とせっつかれる。
そして彼もまた「てめぇのケツはてめぇで拭け」ということで。
たまたま目に付いた島国の神職の人間共に力を与えて、『巫女姫』として祝詞を捧げさせてお祓いとお清めをさせているという話。
日本の神様じゃないからあんまり効果ないのだが、彼も適当なのでこれがまたなかなか気づかない。
神の全盛期だった、神代に切り離されたイールの羽は神秘に満ちている。
ラスボスより強いというか、実質ラスボス。