1番最初の『おどろいた……』の部分は15そこらの少年なのでぐっと幼くして読んでください。
過去も今も初はあまり変わらないので、声音を変えなくてよいです。
小説のような雰囲気を出したかったので長ゼリフ多めになります。
所要時間13分程度。
最後のナレーションはお好みで。
春彦……男性
初……女性
春彦
「筋肉か……」
初
「失礼します。春彦さん、
春彦
「ん、お初。わ。もう一刻も過ぎていたのか。
初
「
春彦
「学者様の書いた論文さ。筋肉があった方が長生きできるそうだよ。僕には逞しい肉がないからなぁ。君より早く衰弱死してしまいそうだ」
初
「あら。では婿入りし直してうちの米屋でも継ぎますか、必要に駆られて自然と鍛えられますよ」
春彦
「
初
「まぁ、残念です。でもあまり早く置いていかれるのは、私は嫌ですよ。ただでも女のほうが長く生きるようにできているのですから」
春彦
「そうだね。僕もあんまり長い間きみが居ないと、
初
「柘榴、ですか?」
春彦
「お初、こんな話を知っているかい。西洋に伝わる死者の国。その王の恋物語の話だ」
_間。
春彦
_生者を引き止めるのには冥界の4粒の柘榴があれば良かった。
では、死者に会いに行くにはどうしたらいいのだろうか。
「なぁ、お初。僕を置いて遠くへと行ってしまった人。
僕は黄泉の柘榴が欲しいよ」
「僕を君の居るところに連れて行っておくれ」
君の
僕の
僕は海に来ていた。
素足を撫でる波は、僕をゆるやかに誘っている。きっと凍えるほど冷たいのだろう。けれども、それが分からないくらいに僕はその先へと行きたかった。
僕の視界はいつからか、ぼうっと周りがぼやけるように暗かった。それからだんだんと色が分からなくなったのだ。代わりに
だが僕はそこへ行かねばならない。
目指せど目指せど叶わなかったが、諦めることはできない。
そこへゆけば君に会えると確信していたからだ。
海はそんな僕のすべて理解しているかのようにとても静かだった。昔、君と来た時。足首にまとわりついて遊んでいた無邪気な波は、居なかった。
あぁ。この先だ。この虚空の先に君がいる。
ようやっと見つけた。何をしても辿り着けなかった先へ行く道は、海にあったのだ。
僕はきみに伝えなければならないことがあるんだ。
_間。
初
『ー♪(適当に鼻歌で)』
春彦
「(初の鼻歌の途中で)……ポカポカと暖かい。間違えて極楽にでも来てしまっただろうか」
初
『春彦さん』
春彦
「初!? お初!! ……なんだ? 声が、口が動かない。っ、身体も……!!」
初
『よかった。気が付かれたのですね』
春彦
『……おどろいた。この世でいちばんうつくしいものは、きみかもしれない』
初
『あら、まぁ』
春彦
「この間抜けな声、稚拙な言葉回し。自由の無い身体で過去の愚行を見ているばかりとは何たる拷問。あぁ、嫌でも思い出すね。これは見合いの時だ。次は、花見、誕生日、記念日……なるほど、初と出会ってからの日々を逆行しているのか!!」
_愛しい人との記憶を辿り、愚行は繰り返し。
彼女との尊き日々は
初
『それでは春彦さん、少々行ってまいります』
春彦
『あぁ、先に楽しんでおいで。僕も今夜にはそちらに向かうから』
春彦
「ダメだ!! 手を離すな間抜け!! お前が手を離せば行ってしまう。彼女があの船に乗ったら最後。もう戻っては来ないのだから!! 嫌だ初、行かないでくれ!! 行ってはいけない!! 君は今夜僕と一緒に行こう、お初!!!! あ、あぁ……いかないで」
足掻くこともできなければ、過去も変わりやしない。
初
「〜♪(鼻歌再び)」
春彦
「ぅん……はつ」
初
「気が付きましたか、お久しゅうございます春彦さん」
春彦
「……あぁ、やっぱり君はどんなものより美しく笑うね」
「君は黄泉にいても変わらない」
初
「貴方は少し老け込みましたね。酷い
春彦
「この
……僕はこれを恋の物語などと題するするつもりは無い。
ましてや、亡き妻を求めて黄泉の国へと飛び込んだ冒険譚などでも無い。
初
「……!! ふふ。
春彦
「……僕が過去の自分を恥じていると知っているだろうに、きみもなかなかに意地悪なことをするね」
初
「旦那様があんまり私を恋しく思ってくださってるようでしたので、思い出巡りをばと思ったのですよ」
春彦
「だからと言ってあの日のことまで見せる必要は無かっただろう……僕はあんな思いをするのは二度と
初
「それは…そうですね、すみません。私には途中で止める
春彦
これは、死者に手を引かれ淵に沈む1人の愚かな男の話だ。侘しさに潰れ、惰性で生を手放し逃げ出した、愚か者の滑稽な笑話。
「……。そうだね、君に会いたくて仕方なかったさ」
「だから君は僕に
仮にこの冥界での出来事を綴り、1冊にするとしたら。
僕は背表紙にはこう綴る。
柘榴は遠き海に沈む__と。
(手を叩くなりなるべく大きな音で、パァァンッと入れてください)
初
「えぇ。ですからこれは、私から貴方にに渡せる最後の贈り物です」
N
『柘榴は遠き海に沈む』
大正86年、秋公開予定。特典付き前売り券は8月10日より発売開始。