台本置き場。   作:就鳥 ことり

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『』のセリフは過去の2人のセリフです。
1番最初の『おどろいた……』の部分は15そこらの少年なのでぐっと幼くして読んでください。

過去も今も初はあまり変わらないので、声音を変えなくてよいです。


小説のような雰囲気を出したかったので長ゼリフ多めになります。


所要時間13分程度。
最後のナレーションはお好みで。

春彦……男性
初……女性


柘榴は遠き海に沈む。予告編

春彦

「筋肉か……」

 

「失礼します。春彦さん、珈琲(こぉひぃ)を淹れました。1度、読み物は置いて、お茶にしませんか」

 

春彦

「ん、お初。わ。もう一刻も過ぎていたのか。4半刻(よんはんこく)くらいの気でいたよ……ありがとうお初、すぐに行くよ」

 

随分(ずいぶん)と熱心になっていたようですが、何を読んでらっしゃったのですか」

 

春彦

「学者様の書いた論文さ。筋肉があった方が長生きできるそうだよ。僕には逞しい肉がないからなぁ。君より早く衰弱死してしまいそうだ」

「あら。では婿入りし直してうちの米屋でも継ぎますか、必要に駆られて自然と鍛えられますよ」

 

春彦

義兄上(あにうえ)がいらっしゃるだろうに。素敵な誘いだけれど僕には荷が重いな」

 

「まぁ、残念です。でもあまり早く置いていかれるのは、私は嫌ですよ。ただでも女のほうが長く生きるようにできているのですから」

 

春彦

「そうだね。僕もあんまり長い間きみが居ないと、柘榴(ざくろ)の実を黄泉(よみ)から持ち出してしまいそうだ」

 

「柘榴、ですか?」

 

春彦

「お初、こんな話を知っているかい。西洋に伝わる死者の国。その王の恋物語の話だ」

 

_間。

 

春彦

_生者を引き止めるのには冥界の4粒の柘榴があれば良かった。

では、死者に会いに行くにはどうしたらいいのだろうか。

 

「なぁ、お初。僕を置いて遠くへと行ってしまった人。

僕は黄泉の柘榴が欲しいよ」

 

「僕を君の居るところに連れて行っておくれ」

 

君の在処(ありか)を求めて、どれくらい経っただろうか。

 

僕の(まなこ)が温度を映さなくなって暫くしたころだ。

 

僕は海に来ていた。

 

晩秋(ばんしゅう)の砂浜。

素足を撫でる波は、僕をゆるやかに誘っている。きっと凍えるほど冷たいのだろう。けれども、それが分からないくらいに僕はその先へと行きたかった。

 

僕の視界はいつからか、ぼうっと周りがぼやけるように暗かった。それからだんだんと色が分からなくなったのだ。代わりに(まなこ)が見つめるようになった虚空は、とても遠くて。それはどこまで歩いても届かないくらいの、遥か彼方にあるのだ。

 

だが僕はそこへ行かねばならない。

目指せど目指せど叶わなかったが、諦めることはできない。

そこへゆけば君に会えると確信していたからだ。

 

海はそんな僕のすべて理解しているかのようにとても静かだった。昔、君と来た時。足首にまとわりついて遊んでいた無邪気な波は、居なかった。(やわ)く、穏やかに、ただ優しく、冷たい(ふち)へと招いている。

 

あぁ。この先だ。この虚空の先に君がいる。

 

ようやっと見つけた。何をしても辿り着けなかった先へ行く道は、海にあったのだ。

 

僕はきみに伝えなければならないことがあるんだ。

 

 

_間。

 

 

『ー♪(適当に鼻歌で)』

 

春彦

「(初の鼻歌の途中で)……ポカポカと暖かい。間違えて極楽にでも来てしまっただろうか」

 

『春彦さん』

 

春彦

「初!? お初!! ……なんだ? 声が、口が動かない。っ、身体も……!!」

 

『よかった。気が付かれたのですね』

 

春彦

『……おどろいた。この世でいちばんうつくしいものは、きみかもしれない』

 

『あら、まぁ』

 

春彦

「この間抜けな声、稚拙な言葉回し。自由の無い身体で過去の愚行を見ているばかりとは何たる拷問。あぁ、嫌でも思い出すね。これは見合いの時だ。次は、花見、誕生日、記念日……なるほど、初と出会ってからの日々を逆行しているのか!!」

 

_愛しい人との記憶を辿り、愚行は繰り返し。

彼女との尊き日々は()せず、されど再び失う。

 

『それでは春彦さん、少々行ってまいります』

 

春彦

『あぁ、先に楽しんでおいで。僕も今夜にはそちらに向かうから』

 

春彦

「ダメだ!! 手を離すな間抜け!! お前が手を離せば行ってしまう。彼女があの船に乗ったら最後。もう戻っては来ないのだから!! 嫌だ初、行かないでくれ!! 行ってはいけない!! 君は今夜僕と一緒に行こう、お初!!!! あ、あぁ……いかないで」

 

足掻くこともできなければ、過去も変わりやしない。

 

 

「〜♪(鼻歌再び)」

 

春彦

「ぅん……はつ」

 

「気が付きましたか、お久しゅうございます春彦さん」

 

春彦

「……あぁ、やっぱり君はどんなものより美しく笑うね」

「君は黄泉にいても変わらない」

 

「貴方は少し老け込みましたね。酷い(くま)(せわ)しなくともしっかり寝ろとあれほど。こんなに痩せてしまって。ちゃんと食べていなかったから……。死に急ぎすぎですよ、全く」

 

春彦

「この(しわ)が笑い皺だったら良かったんだけれどね。どうにも僕はきみが居なくちゃ駄目らしいんだ。情けない僕を君は許してくれるだろうか」

 

……僕はこれを恋の物語などと題するするつもりは無い。

ましてや、亡き妻を求めて黄泉の国へと飛び込んだ冒険譚などでも無い。

 

「……!! ふふ。今日(こんにち )の旦那様は随分(ずいぶん)と素直に言葉を下さるのですね。過去を巡って身に染みでもしましたか」

 

春彦

「……僕が過去の自分を恥じていると知っているだろうに、きみもなかなかに意地悪なことをするね」

 

「旦那様があんまり私を恋しく思ってくださってるようでしたので、思い出巡りをばと思ったのですよ」

 

春彦

「だからと言ってあの日のことまで見せる必要は無かっただろう……僕はあんな思いをするのは二度と御免(ごめん)だと思っていたというのに」

 

「それは…そうですね、すみません。私には途中で止める(すべ)を持たなかったのです」

 

春彦

これは、死者に手を引かれ淵に沈む1人の愚かな男の話だ。侘しさに潰れ、惰性で生を手放し逃げ出した、愚か者の滑稽な笑話。

 

「……。そうだね、君に会いたくて仕方なかったさ」

「だから君は僕に柘榴(ざくろ)を食べさせてくれるのだろう? そのために、僕の力では辿り着くことのできない虚空の先へと呼んでくれた。違うかい」

 

仮にこの冥界での出来事を綴り、1冊にするとしたら。

僕は背表紙にはこう綴る。

 

柘榴は遠き海に沈む__と。

 

(手を叩くなりなるべく大きな音で、パァァンッと入れてください)

 

「えぇ。ですからこれは、私から貴方にに渡せる最後の贈り物です」

 

N

『柘榴は遠き海に沈む』

大正86年、秋公開予定。特典付き前売り券は8月10日より発売開始。

 

 

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