百折不撓のトリップループ   作:恒例行事

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六話

「──来たか」

 

 腕を組み、待っていたであろうホオヅキに声をかける。

 

「……ソレ(・・)にしたのか」

 

 ああ。

 武術も知らないし、武器の振るい方なんて知らない素人だからな。ただ力を籠めて振るうだけで敵を殺せる武器が一番良かった。

 

 武器──ハンマーと呼ぶことにしよう。

 よく漫画やゲームの中では背負ったりしてるが、あの原理はどうやっているのだろうか。出来たら便利なんだが、生憎この世界じゃそんな不思議能力は無い。

 今も不便極まりないが手でもって歩いている。

 

 腰に付けるには長すぎるんだよ。

 

「まあいい。森の中で振るえるのか?」

 

 狭い空間で正しく威力を発揮できるかどうかは、わからん。

 外で十分に力を籠めるには問題なかった。

 

「……水木」

「恐らく問題ないですよ!」

 

 明るい水木の返答。

 俺の何を信用してるのかわからんが、コイツから謎の評価を受けている。不気味とまではいかないが、疑問ではある。一体俺の何を気に入ったのだろうか。そんなに付き合いも長くなく、ファーストコンタクトは俺があの怪物の頭を叩き潰してる場面だろう。

 

「……フン。お前がそういうなら問題ないだろう」

 

 そう言って小屋の中に入って行くホオヅキ。

 隣の水木を一度見て、そのまま俺も付いて行く。軽く感謝でもしておけばよかっただろうか、だがこれが別れなわけではない。また会ったときにでも言えばいいか。

 

 小屋の中は簡素な造りになっており、箪笥にも似た家具が幾つか。

 中央に机が置いてある。

 

 机の上に広げられた地図のようなモノを手に取って、ホオヅキが話し出した。

 

「ここの説明は?」

 

 ある程度は受けた。

 周囲を囲う木で出来た壁の中、周囲は森。まだその全貌は掴めてない。

 

「その通りだ。未だにあの怪物共の生息地域も生態系も解明できていないし、いつどこから沸くのかもわかってない」

 

 この世界じゃ異物は俺達の方なんだろう。

 元々生息していたのは向こうで、俺達がやってきただけ。ここが地球かどうかもわからないのに人類の起源なんて知っても何にもならないが、気休めにはなる。

 

「お前は、転移してきたんだろう? ここじゃない何処かから」

 

 ああ、そうだ。

 自然何てモノは薄くなり、人類が支配する世界。天敵と呼ばれる生命体すら管理して、自分たちの支配下に置いていた。こことは大違いで安心安全な世界だったよ。

 

「……そうか」

 

 ──この拠点には、二つの人類が存在する。

 水木や桑田、俺のようにある日何処からか『転移してきた存在』。転移組なんて呼ばれ方をしているらしく、苗字があるのがその象徴。

 

 逆に苗字がなく名前だけ──スグリやホオヅキはこの拠点で生まれ育った組だ。

 

 身体的特徴に差はない。

 差が無いからこそ逆におかしいと言える、そんな風に桑田が語っていた。

 

 生命体の姿は歴史を表す。

 

 全く同じ言語、全く同じ姿、全く同じ種族。

 そんな奇跡がある訳はない。この集落の人間も俺達も、元は同じだ。何十何百、それ以上前かもわからないが。

 

「まあ、いい。肝心の見回りの話だが」

 

 思考を切り替える。

 無駄な雑な事を考える癖は相変わらず残っている。俺の悪い所で凡人たる所以でもあるが、死ぬ直前もそうやってうだうだ考えていたのに変わらないものだ。

 

「壁の外側から点検を行う。それくらいだ」

 

 ……それだけか? 

 もっとアイツらを探したりとかは。

 

「それは──」

 

 そこまで話して、唐突に言葉が途切れた。

 

 小屋の壁を突き破って、突如として現れた白い何か。

 四足歩行で歪に発達した手足に、顔面に目は存在せずに口そのもの。気持ちが悪く、得体の知れないその存在は俺へと突撃してくる。

 

 何故だ? 

 周囲の音はある程度拾っていたがそんな音聞こえなかった。どうして現れた? 

 既に俺が間に合う範囲じゃない。確実に命を獲られる距離間、今回は諦めた(……)。だが考えなければ、この僅かな間に。

 

 木の壁を越えて、建物をぶち破って俺だけを狙ってきた。

 確実に俺を狙う理由が存在する。それを考えろ、そして対策を取る。巻き戻れるのが、どの地点までだ。わからない。

 

 初めからじゃ無ければいい。

 

 俺に飛び掛かって、そのまま大きな口を広げて──激痛と共に視界が暗くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 目の前にあるホオヅキの顔。

 そして見覚えのある小屋。地図を持って説明している場面で間違いない。

 

 どうしてここが巻き戻り範囲になっているかは不明だが、利用しない手はない。

 

 ──即座にハンマーを構えて、その方向へと思い切り振りかぶる。

 

「おい、お前なにやって──」

 

 瞬間、小屋をぶち抜いて突撃してくる白い怪物。

 狙いを定めて、振り下ろす。

 

 まさか先制で攻撃されると思わなかったのか、そのまま俺を喰らった口そのものと言える頭部を叩き潰す。

 少し甘く入った一撃、まだピクピク動いているソイツに対して追撃を入れる。

 

 一発入れて、大きく痙攣した。

 二発入れて、胸が陥没した。

 

 三発目、骨が砕けた。

 四発目、腕が千切れ飛んだ。

 五発目六発目七発目、白い肉片が周囲に飛び散って赤い液体が俺にかかった。

 

 八発目を打ち込もうとして、もう動いてない事を認識した。

 

「………………いいな」

 

 凄く好い。

 しっくりくる。

 殺した。殺したという実感が、感触が、ダイレクトに染み渡る。

 

 俺を散々食ったこの化け物を俺は意図も容易く殺せるようになったんだ。

 

 なあ、クソ野郎。

 どんな気持ちだ。どんな痛みだ? お前らはいいよな、死ねるんだから。

 

 さっき喰われた痛みが抜けてない。

 人の頭を喰っておきながら、それで終わりかよ。首が痛ぇ、ジンジン痛む。それでいて突き刺さるような抜けるような痛みだよ。

 本当腹立たしいな、お前らは。

 

 ……落ち着こう。

 吸って吐いて、血液の香りが充満したこの場は不愉快この上ないが仕方ない。

 

「……次は」

 

 一匹だけで来る訳がない。

 俺を追って来たにしろ、必ず複数体いる。お前らはそういう姑息さも持ってるだろ? 

 そこに関しては信用してるんだ。

 

 小屋の外に出て、少し周りを見る。

 既に水木の姿も無く、今の音を聞いて周りの人間が見に来たくらいだ。

 

「──おい、大丈夫なのか!?」

 

 そう言いながらホオヅキも外へと出てくる。

 

 俺は大丈夫だが他の連中はどうなってる。

 一匹だけか? これまで侵入してきたことは? その際は何匹で、どういう目的で襲来した? 

 

 それを理解しなければいけない。

 今すぐに。

 

「…………お前も……」

 

 何かしらホオヅキが呟いたが、その声が小さすぎて聞こえなかった。

 顔に飛び散った血を指で拭ってから改めて侵入してきたであろう方向へと足を進める。人間の手が入っているとはいえ雑草は生えている。その上を踏み倒して歩いて来たのだろう、大きな足跡がくっきり残っていた。

 

 木の壁を破壊してきたわけでは無さそうだ。乗り越える位は平然とやるだろう。

 

 そうやって足を進めている最中に、唐突に後ろから押される様な感覚。

 何とか踏みとどまったがその力が衰えることは無く、抵抗するようにして足に改めて力を籠めようと思い下を見て──驚いた。

 

 腹から赤く染まった手のようなモノが突き出ていた。

 無論俺の身体を貫通した。

 

 後ろを振り向けば、頭部を失った先程の怪物。

 

 ああ、クソ。死んでなかったか。

 いや、死んだのか? 復活でもしたのか。痛みで思考が上手く纏まらないがそこは仕方ない。

 どうせ巻き戻る。

 

 引き抜かれた傷痕──というより、最早穴。

 血が噴き出るように流れ出て、臓物が溢れていくのを目で捉えた。

 

 わかった。

 今度はお前が死に切るまで殺してやる。

 

 怪物の振りかぶった腕で頭を千切られて、死んだ。

 

 

 

 

 

 

 再度ハンマーを振りかぶって、備える。

 もうホオヅキの事は無視してアイツだけを見る。

 

 壁を突き破って怪物が来る。

 それに対してハンマーを振り下ろす。

 

 ここまではさっきと一緒だ。問題はここから。

 

 頭を一発で潰して、今度は胴体。

 数発かけて胴体を潰してから手足を潰す。決して起き上がれることがないように、二度と再起できないように。お前は終われるんだから終わっておけ。

 

 死ねることは知っている。

 だから死ね。

 

 白と赤が混ざり合って鮮やかな色に変貌し、小屋内に血肉が飛び散った。

 贓物も引き摺りだした。もう二度と動けないように、物理的に動く手段を封じる。もう元の形は留めていないが念のためだ。

 

 そうして挽肉よりも粗く、それでいて細かく磨り潰した。

 

 ハンマーにこびり付いた肉片が気持ち悪い。

 ピクピクと痙攣する様な、そんな動きだ。気持ち悪かったからそれも地面に叩き落として、踏み潰した。

 

「──…………」

 

 ああ、これで死んだろうか。

 頭を潰しただけで死ななかった理由はなんだろう。脳があるのは理解しているが、もしかして脳の位置が違ったのか? 普通に考えて既存の生物の枠組みを超えている。やはり何かあるな。

 

 晴れやかな気分だ。

 俺は死んでも死ねない。苦しみしか感じないと思っていたが、こういう楽しみもあると思えば少しは楽になった。

 

 一方的に相手を殺せる。

 

 それはとてつもない快感だ。

 生物として持っていい感情か、それとも──そんな事はどうでもいい。

 

 元より決めた事だ。

 

 俺が生きる理由は何時か死ぬため。

 終わりを求めて生きている。

 

 この怪物を殺せば終わりに辿り着けるなら、喜んで殺そう。

 

「──おい」

 

 ホオヅキが話しかけてくる。

 ゆっくり振り向けば、俺から距離を僅かに取る。なんだよ傷つくな。

 

「……お前は」

 

 何かを問おうとして、そのまま口を閉じた。

 

 無意識に腹を摩っていた。

 先程貫かれた痛みがまだ残ってる。脳が痛みを知覚してるって事は、それは現実に起きた事象なのだろうか。そうじゃなきゃ説明がつかない気もするが、強烈なイメージを持っていれば現実のように誤認する事も出来るらしい。

 

 実際に死んでいるかどうか何てどうでもいい事だが。

 

 首も痛い。

 喰われても死なないからいいが、出来るだけ避けたいな。痛いのは嫌いなんだ。

 

 担ぐようにしてハンマーを支えてから、ゆっくりともはや肉の塊とすら言えなくなった怪物を見る。

 

 贓物はぐちゃぐちゃに叩き潰されて、直前に喰ってたであろう生き物の骨も出てきた。

 これは研究に使えるかな。現代日本だったら使えると思うが、今のこの世界じゃどうだか。多分最先端の科学を保有するのが桑田個人だろう。

 

 俺を狙ってきた理由も気になる。

 パッと思いつくのは敵討ち。俺が引き千切って叩き殺したアイツと関係を持った、とか。

 

 人間に似た独自のコミュニティを持つのは既に理解してる。

 そういう点で襲撃してきた──いや、何か違うな。

 

 わからない、か。

 俺一人じゃやはり何も出来ない。一緒に考えてくれる優秀な人間が欲しい。

 

「──え、わわ、一体何が……ってうわ!?」

 

 小屋の開いた穴から水木が入ってきて、そのまま小屋内部の惨状を見て叫ぶ。

 散々見飽きてるだろ、お前みたいにずっと戦ってる奴は。

 

「う、うわぁ……いや、私はこれで斬るので」

 

 ああ、そんなに周りに散らばらないのか。

 汚くなるのも別にいいんだが、そっちの方が確実に殺せるのか? 

 

「うーん、そうでもないですね。偶に頭部飛ばしても死ななかったりするので」

 

 結構いるのか。

 今回の奴もそのパターンだった。頭を潰しても生きてたよ。

 

「よく対応できましたね。あ、ホオヅキくんも大丈夫ですか?」

 

 声をかけられたホオヅキは、俯いたまま。

 

「──……何なんだ、お前らは」

 

 極めて小さな一言を呟いた後、小屋から退出していった。

 まだ見回りの事とか全部聞いてないんだが。

 

「…………ちょっと間違っちゃったな」

 

 困ったように笑う水木。

 

 俺には二人の感情がわからないまま、時が過ぎた。

 

 

 

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