聖杯戦争―――
それは聖杯に選ばれた七人のマスターと七騎のサーヴァントによる人知を超えた殺し合い。
そして今まさに聖杯戦争は終わりを迎えようとしていた。
「終わったのか……ランサー」
「ああ、セイバーは消滅させた、残っているのは俺たちだけだ」
瓦礫の山、数時間前までは整然とした街並みだったそれを見てマスターの青年は悔しそうに拳を握る。
「くそっ、数時間前まで皆生きてたんだっ、ただ平穏にそこで暮らしていたんだっ、なのにっ、どうしてっ」
「すまなかった、俺の力不足だ。あのセイバー相手に街を守り切る余裕がなかった」
「違うっ、お前のせいじゃない! お前は俺みたいなヘボマスターの下で良く頑張ってくれた!」
青年がそう言うと同時に街だった場所の中心に極大の魔力の塊が出現する。
「……聖杯か」
「なにがっ、なにが聖杯だっ、本当に万能の願望器だっていうならみんなを返しやがれ!」
そう言うが、それが無理なことは彼自身が一番よく判っていた。
少なくとも今回の聖杯戦争の聖杯は、単純な魔力リソースであり死者を蘇らせるといった本当の奇跡など起こすことが不可能だということに。
そうしてしばらくの間、青年は出現した聖杯を憎らしそうに睨んだ後、自らのサーヴァントに指示を出す。
「ランサー……聖杯を破壊しろ」
「……いいんだな」
「ああ……」
「承知した」
そう言うとともに、ランサーの槍に莫大な熱が燈る。
そうして槍を構えたランサーが聖杯に向かってそれを投擲する。
それは俗に言う対国宝具というカテゴリに含まれ、相手がたとえ聖杯であろうとも当たれば消滅させうるだけの威力をもっていた。
そしてそれが聖杯に当たるかという、その瞬間―――
「なんだ、せっかくの聖杯を使わないのかい、もったいない」
まるで何事もなかったかのように攻撃が掻き消えていた。
―――否、消されたのである。聖杯の前に突如現れたその男に。
「何者だ」
ランサーが即座に臨戦態勢に入る。一瞬遅れマスターの青年も男に対して警戒を向ける。
男はそんな彼らを見ても所在なさげに棒立ちしているだけでこちらに対して興味深そうな視線を向けていた。
「何者……か、いやはやどう言ったものか」
そう言いながら何が面白いのか、顔を二やつかせながら一人、喋りつづける。
「いや、勘違いしないでほしいんだが別に煙に巻こうってわけじゃないんだ。ただ改めて何者かと言われると返答に困ってね、俺には名前なんて星の数ほどあるしそれを言ったところで恐らく君たちには通じまい。そうだな……この場合―――」
妙案を思いついたとばかりに手を叩くと男は―――
「聖杯戦争の黒幕って言えば一番的確に俺の立場が伝わるのかな」
青年にとってとても許容できないことを平然と告げた。
「なっ!!!」
青年が男を睨みつける。だがそれでも男はにやけながらこちらを見つめていた。
「お、お前が、お前が聖杯戦争を引き起こしたのか!」
「そうだよ、聖杯の作成から土地の下準備、サーヴァント召喚システムまで全部俺が用意させていただいた」
静寂が辺りを包む、男があっけからんととんでもないことを語ったことに理解が追いつかない。
しかしその静寂は長くは続かない、瞬く間に全身を怒りで震えさせた青年がその感情のままにサーヴァントに命令する。
「ランサー!!! やれ!!!」
次の瞬間にはランサーは男の目前に迫っており槍を振りかぶっていた。
その一撃は人間程度では対処しようがなく、たとえ相手が同じサーヴァントであろうともここまで迫られた状態とあってはもうどうしようもあるまい。
しかし―――
「ッ!」
咄嗟にランサーが下がった。
そのあまりに急な回避行動は身体に重い負荷が掛かかることだろう。
しかし、それでもランサーは回避を選んだ。
なぜなら、そこで回避を選ばなければ死んでいたのは自分の方だと戦士の勘が警鐘を鳴らしていたからである。
「ランサー!? 大丈夫か!」
何が起こったかわからぬまでも青年は傷ついたランサーに回復魔術を掛ける。
「さて、聖杯を破壊するというのであればこれは持ち帰らせていただく、俺にとっては作ろうと思えば作れるものだとはいえノーコストではないのでね」
「……お前は、一体何が目的なんだ」
青年が男を睨みつけながら問うと男はさもどうでもよさそうに言った。
「実験ですよ」
「実…験…?」
「ええ、どうやらこの世界線では御三家による聖杯戦争が起こらないようなのでこうやって自ら動いてるんですよ、サーヴァントシステムは確立しておいたほうが後々便利なので」
男が何を言っているのか青年には判らなかったが、それでも一つだけ確実に言えることがあった。
「そんなことために……これだけ多くの人たちを犠牲にしたのか!」
「大事の前の小事ですよ、実際システムを確立することで将来的に発生した人理の危機に効率的に対応することができる、そうすることでより多くの人たちの命を結果的に救うことができるのですから」
男は自分のやったことはむしろ人々のためだと言う。だがそれは身近な人たちが犠牲になった青年としては到底看過できるものではなかった。
だがそんな彼の心情など知らんとばかりに、男は聖杯に手を掛ける。
「ッランサー!!!」
とっさにランサーが男に切りかかるが男とランサーとの間に透明な障壁が生じる。
その障壁は天に空いた空間の割れ目のような場所から垂れており両者を完全に隔てていた。
ランサーは障壁に全力で切りかかるがそこには傷一つつかない。
そうしている間にも男と聖杯は空中に浮きだし、空間の割れ目に向かっていく。
そうして―――
「それではごきげんよう」
男は割れ目の向こうに消え失せて、割れ目は障壁ごと消滅したのであった。
主人公→この世界線が月姫よりだということに気がつき、人類の守護を目的として人理が弱い世界でも可能なサーヴァント召喚システムを確立させるために暗躍する。システム完成後は、暇つぶしで世界中に聖杯をばら撒きまくる。
聖杯戦争を勝ち残った青年→主人公が実験目的で開催した聖杯戦争に巻き込まれ、大事な人たちを失う。
ランサー→インドの大英雄