チャクラを使い切ったカカシと負傷を追った再不斬の回復には時間が掛かる。
ゆえに一週間ほどの暫定休戦期間が生じている。数日の誤差はあれおそらく原作とさほど変わらないだろう。
「一週間……薬で無理やり抑える可能性を入れて余裕は五日ってとこか?」
「そんなところかな。お前らもう木登りはできたよな? それなら臨界行と限界行をやろうか」
「何々? 何教えてくれんの!?」
臨界行というのはこれ以上はできない所で限度を超えて出そうとする努力だ。筋肉疲労を溜めて負担を増やし、更なる筋肉を付けようとするのに似ている。限界行というのは自来也が初期にナルトへやらせたチャクラの使い切り修行を思い浮かべれば良い。
「こないだ使った水面歩行の術は木登りの応用だ。自分を浮かせる程度にチャクラを一定量放出しそれの状態を保つ。お前らの実力で言えばそれだけなら簡単だよ」
そう言ってカカシは印を組むと原作の木登り修業の様にヒョコヒョコと水の上へ歩いていく。
「知っての通りオレはチャクラを使い果たして限界だ。ここから自然回復する最低限のチャクラだけで行動できる様に成れば、自然とコントロールが上手くなる。並行作業だってへっちゃらだ」
「スゲー水に浮かびながら分身や変化してるってばよ」
「水分身を水の上で造ったのを見たばかりだろうが。慣れりゃなんだってできるようになるさ」
この作業は省エネと精密コントロールの為の修行。もちろんナルトにとっては九尾のチャクラを理解し易くする為にもなる。カカシにそのつもりはないのだろうが、おそらくこの修行そのものが木の葉の教えの一つなのだろう。
「じゃあまずは俺たちもチャクラを使い切らねえとな。……火遁分身の術!」
「よーし! オレだって影分身しちゃうぞー」
俺が分身二つにチャクラを分け与えたのに対し、ナルトはいつものように無数の陰分身を作り出した。そして次々に水面に移動し、制御しそこなってレミングの行進の如く入水していく。
「……ナルトは多過ぎ。並行作業なら何でも良い」
「サクラは盃で水芸か、器用だな。オレはいつも崖を片手で登るけどね」
何というかサクラは無駄に凝り性だった。水の上にシャンパンタワーを立てて、上からチョロチョロと水を出している。使えることは使えるが俺の火遁ほどの才能はないので、どちらかといえばシャンパンタワー維持のついでなのだろう。
「そろそろ一体減らしても良いかな。封火法印! 駄目か……もう一回!」
「分身を封じても意味はないぞ? 咄嗟に連携取ることが前提だからな。再不斬の分身が厄介だったのは作戦を組み立てられたからだ」
仙人モードから還元する為の影分身を見た時、なんで予め増やしておかないのか不思議に思った事がある。分身を使う時にすべき行動を念頭に入れて分身すると、何をやるかを分身体が覚えている。慣れればナルトがやったように変化を同時に行う事もできるだろう。だが巻物に封印すると、意思疎通ができないので囮にしかならないのだ。
「難易度調整に丁度良い術が他に無いからだよ。まあデコイくらいにはなるさ」
通り一辺倒の事を答えつつ俺はこれから作る新術・火産霊の練習をしておいた。穢土転生を参考に三つ以上の術を一つにまとめる事にしたのだが、その一角に火遁分身を応用する。
呼び出した分身に即座の命令ができないのは知っている。だが、そこに穴というか思わぬ用法というか裏技があるのだ。できれば山中一族から伝心系の技をコピーしたいところだが、無理なら別にハンドサインでも良い。忍刀持って突撃するだけなら別に片手の指示で出来るからな。
(封火法印・火遁分身・伝心、そして二つのカグツチ。この五つの合わせ技なら、他人から見られてもバレることはねえ。ここでコントロールを高めて完成させてやる!)
分身体を何に使うか? それは単純に武装ホルダーであり
(これでこの間の失敗を上書きできる。あの時は範囲固定だったからな。もし二人突破されていたら同時にやられてたし、水分身の再不斬には使えなかった)
鬼兄弟の時は狭いからナルトの傍に寄る必要があったし、逆に分身の時はジーサンを巻き込まないように離す必要があった。だがこの方法でなら、伝心で一言伝えるかハンドサインで変更すれば良いのだ。加具土命で作り出す武装と違って火遁分身なら万華鏡の使用時間が短くて済むからな。
五日を掛けてそれぞれにコントロールを強化し並行作業を覚えて行った。ついでに俺は新術を作り直し込みで三つまで増やした。サクラは追加印と省略印に興味を持ち、延々と一つの技にチャクラを練り込む修業を始めている。そしてナルトなのだが……。
「サスケー! 変化しながら歩けるようになったてっば! 約束通り教えてくれよ!」
「判った判った。教え得てやるから買い出しに付き合え」
原作を大幅にショートカットするのはやるのは自分ではなくとも楽しみではある。カカシに真似しないとは言ったが、修行の過程で実行してしまう『似て非なる失敗行動』ならば教えても問題ないだろう。約束通り防御向きの術を教えておこうじゃないか。
「久しぶりに買い物だってばよ! カップラーメンだろ、袋麺だろ、あとあとお菓子を……」
「物価が高いからそういうのは諦めた方がいいと思うぞ」
何しろこの波の国では物価が止まって大変なことになっている。流通の停止は商業の停滞を意味し、仕事が無いわ商品はないわそれなのに物は高いわと大変である。
「ウゲ! 本当だってばよ。なんでこんなにって……あー。どうにかならねえのかコレ?」
「直ぐに片付けるのは難しいな。まあだからこそタズナの爺さんが橋を作ってるんだが」
どうやらガキ……イナリの言葉を聞いてしまっているのだろう。色々とナルトは苦い表情で何かを思い出すようにしている。おそらくは親が居ないとか処刑された話を、自分の事に置き換えてクヨクヨしているのだ。やめろよな……うちはの心は硝子だぞ。
「例えばこの旨そうな魚。俺だったら十倍の値段で売れる。だがそれは木の葉に持って行く手段があるし、加工するための物を揃えられるからだ。おっちゃん、店先借りていいか?」
「……買ってくれるなら問題ないよ。汚すんなら多めに払いな」
俺は写輪眼で魚屋のおっさんの動きをコピーした。皿の上に丁寧に刺身を並べ、次に手持ちの薬草から香辛料として使える物や薬味といった物を並べて行く。
「ほう……小僧やるじゃねえか」
「おっちゃんの真似をしただけだよ。あんたが上手くなきゃ真似したってマズイだけだろ? それでだ、この技に値段を付けてくれる人がここにはいねえ。俺以上の名人がここに居るってのにな」
「よせやい。わしは息子と大してかわりゃしねえよ」
まんざらでもなさそうな魚屋親子を無視し、ラップを掛けて保存できるようにしておく。後で封印……いや刺身は少し寝かせる方が旨いんだっけか?
「ここの魚なら一流の料亭に持って行っても問題ねぇ。早飛脚を雇えるなら木の葉にだって持っていける。逆にあっちからこういった薬味やなんかを持ってくることもな。……おっちゃん、これの半身を戻したらまけてくれるか?」
「そっちの香辛料や薬味も置いて行ってくれるならな。全然入って来やしねえ」
「スゲー! 一気に値切ったてばよ!」
正確には値引きさせたのではなく、交渉で香辛料や薬味を代価にしただけだ。写輪眼でコピーしただけなので刺身の技は魚屋と同レベルだしな。
「さっきも言ったが橋ができれば何とでもなる。だが俺らが運んでも無駄だぜ?」
「へ? なんでさ。そりゃ任務の途中だからやれないけどよお」
次の店に歩きながら話しているとナルトが首を傾げた。まあ気持ちは判る。俺たちだけでなく、腕利きの忍者が何度も往復すれば、物は売れるしガトーだって戦力が増えてそうで焦るだろう。だがそれではダメなのだ。
「自分で考えてみろよ。今回はいいさ、お前から教えてくれっていったからな。だが他人に偉そうに説教されて、お前は気分良いか? 俺だったら即座に反発するね」
「あー。でもサスケの言う事は大抵当たってるし……。いや、でも駄目か。腹が立つってばよ」
原作と違ってもっと前から修行し合う友人だし、今はナルトがアイデアを訪ねてきた。だが俺たちのように我が強い性格だと、セッキョーほど嫌な物はない。それが正論であればあるほど、そんなことができればやってみろと言いたくなるのだ。もちろん実行されても反発するけどな。
「だからこそ……か。今回の任務、なんとしてでも成功させようぜ!」
「その意気だ。よし、コレとコレでいいかな」
ナルトの決に頷きながら、買ったのは自来也が用意したのと同じゴムボールだ。想像した者も居るかもしれないが、これから螺旋丸の修行を始める。ただし、成功例ではなく第二段階の失敗例を目指すだけだ。
「なんだ? キャッチボールでもすんのか?」
「ちげーよ。チャクラの放出を常にこの表面とか中でやるんだ。渦が造れるならどっちでもどっち向きでも良い。両手でボールを挟んでっと」
最初は気にもしてなかったナルトだが、渦という単語を聞いて興味を示したようだ。早く続きを言えと目が訴えている。
「表面でやると切り傷が出来そうだから、できれば中の方がいいな。最初は外に出ても良いから馴れておき、少しずつ中に移していけ。上手くいくとこうなる」
「うわっ!? 凄い風だってばよ!! サスケも風遁できたのか!?」
ボールを両手で挟み、チャクラを放出させあって乱回転させる渦を作り出す。俺がチャクラを飛ばしているだけでこれなのだ、ナルトのアホみたいな出力でやったら大変なことになるだろう。もし風遁を練り込もうものなら、凄まじい嵐になりかねない。
「せっかくだからこれに火遁を混ぜてみるぞ? お前にはまだ無理だから、先に完成させてこれは第二段階だな」
「炎の大渦が! 色が付いたんで判り易いってばよ」
ここは原作と違うが、一朝一夕にはできないので良しとしておこう。あくまで将来に、風遁・螺旋丸を覚えるための布石だ。
「あー。全然できねー。どうやってやるんだってばよ!」
「あのなあ。俺だって時間が掛かったんだぞ? 無理に決まってるだろうが、このウスラトンカチ。……しょうがねえ、手を出してみろ。二人で分担すりゃあ、今のお前にもできるだろ」
物凄いカンニングですまん。ナルトが思いついたコントロール様の手として、両手に加えて影分身を使う方法をフライングしておいた。この方法は急場しのぎであると同時に、経験値蓄積を兼ねているのでここで教える意味が大きいのだ。
「やった! できた、できたってばよ!」
「そりゃ俺が相の手を入れてるんだから当然だろ。時間を掛けていいから、自分一人でできるようにす……うわっ!?」
ナルトの勇み足とヘタッピぶりは相当なもので、このタイミングで猛烈なチャクラを入れやがった。おかげでボールは一発で割れてしまい、もの凄い音を立てて破裂。俺たちは相手の手を張り手でドつき合う格好になる。
「あ……ゴメン。その、サスケ……怪我……」
「怒ってないから気にすんな。ボールはまだあるから、今の修行の合間にやっとけ」
他人の協力で成功しといて、勇み足で大失敗。ましてやチャクラの集中させ過ぎで、俺の手もナルトの手にも焦げ跡がある。まあ性質変化を混ぜてないからこのレベルで済んでるんだけどな。
ちなみにこの修行がバレたが、螺旋丸の完成形とは方向性が全然違うのでカカシは怒る代わりに微妙な顔をしていた。おそらくは『別方向に力を振り向ければ螺旋丸ができるのになー』とか思いつつ、まだ早いとか思っているのだろう。
ある日ナルトが朝帰りをしてきた。吹っ切れた表情なのを見ると白と出逢ったのだろうか? それだけならば美談なのだろうが、裏話を思い出したためかモヤモヤした気分になる。
誰からも必要とされず親から殺され掛け、ようやく出逢ったのが再不斬。ロクでもない奴だがそれでさえ救いになるくらいの孤立で、俺なんかがセッキョーしても無駄なくらいの絆があるはずだ。その事を思うと湿っぽくなってやれない。前にも言ったが、うちはの心は硝子だっつーの。
「とうとう術を覚えたってばよ! ……へへ、まだ動きながらじゃないとできねえけど」
「上出来だと言いたいが、動けなくなるまでやんなよ。担いでいくのは俺だぞ?」
「よーし。二人とも、明日からタズナさんの修行に付け。そろそろ再不斬も無理すれば動ける頃だからな」
おおよそ原作通りの流れかナルトの修業が一定成果を越えた頃に、カカシがOKを出した。その日の晩にイナリのガキがわめいたが、ナルトはつらそうな顔で諭していたのが微妙な差だろうか。
なお翌日までの流れはピッタリ同じだった。強制力というより限界までチャクラを使う性格は変わってないのだろう。
「……起こす?」
「そのうち自分で起きるだろうから無理させなくて良いだろ。……いや、むしろこないだのバックアップ野郎の真似事でもさせとくか」
「それで良いんじゃない? まだ怪しいってレベルだしな。残ってれば二人の護衛にもなるし」
サクラが揺するモノノナルトは起きない。せっかくなので、この後の流れを紙に書いて軽く指示しておいた。起きたら森を捜索してガトーの手先が居ないかを確認し、その後にバックアップとして援軍のつもりで来いと置手紙を残したのだ。何もなければ翌日はサクラ、その次は俺とローテーションするみたいなことを書いておけば大丈夫だろう。カカシも認めたしな。
原作通りならこの後は再不斬・白戦だ。修業が上手く行ったこともあり、以前の様な不安は感じていない。火遁分身を組み込みハンドサインを考えた事で事前に考えることも多くなったので、まだ三つだがこれで今は十分だろう。まあ成長したら限界値もあがるので沢山作っても意味が無いのもある。
「来るぞ!」
「……霧。今日だったか」
「ナルトに手紙を残してきて正解だったな」
カカシの言葉にサクラと俺は即座に対応。工事現場に気絶した人足たちと周囲に立ち込める濃い霧か……。原作通りの流れで動きが進み再不斬たちは次々に先手を打つ構えだ。とはいえこちらは半ば予想しており、写輪眼をオンにして待てる分だけ余裕はある。
「相も変らぬ水分身ねえ。やれ。サスケ!」
「行くぞ。忍法・火産霊の術。一の式!」
周囲に現われた水分身を黒縄炎で一気に焼き払う。あらかじめ決めたハンドサインでサイズを拡張した状態で出し、タズナの爺さん込みで周囲を守ることにも成功している。もっとも範囲が広過ぎる事と、水辺とあって全ての水を蒸発できてないのが残念ではある。こういう所は水遁の独壇場だな。
「ホー。水分身を一撃で焼き払ったか。流石はうちは一族。強敵出現ってところだな、白」
「そうみたいですね」
原作通りに連中が現われるが猿芝居をやってないので特に会話はない。そのまま流れは同じかと思ったのだが……。
「あそこまでやるとは思わなかったが……まあ先手は取った。援護くらいはやるから挨拶に行ってこい」
「はい」
「っ水喇叭か! 速い!」
再不斬は短い印と共に息を吸い込み、牽制用に水喇叭を放ってくる。白はそれに紛れて接近し、俺は黒縄炎を圧縮して炎の籠手に変えて前に出た。
「相当な速さですね。しかしボクらは先手を二つ打っています。勝てないと思いますから、降伏してくれませんか?」
「抜かせ。依頼主を売り渡したら忍として終わりだよ」
「サスケはそいつを、サクラはそのままタズナさんの前を抑えろ。オレが再不斬を抑える」
白の千本を俺のクナイが抑え、その間にカカシが回し込んでいく。水喇叭を放った隙と傷の分だけカカシが速いか? とはいえ水分身であることを警戒してカカシも前へ出きれないようだ。
「降伏してくれないのですか、残念です。しかし周囲には水遁に有利な水が、そしていま片手を塞いでいます。状況は圧倒的にボクの有利だ」
「勘違いだ。俺にとっては別に不利なフィールドでもない」
原作と多少の差はあるが概ね同じで、こちらには対策がある。他にも何かあるかもしれないが、それほど恐れる事でもないだろう。むしろ大きく動いて依頼人狙いをさせない方が面倒だ。
「これから一方的に攻撃され続けて、同じ強がりが言えるでしょうか?」
「片手印だと!? やはり存在したのか! 未完成だが俺もっ……」
秘術・千殺水翔……だったかな? 周囲の水が千本になって襲い掛かって来る。俺は片手で千本をクナイで抑えつつ、もう片方の腕を軽く動かして印を結ぶフリをした。もちろんハンドサインでしかなく、炎の籠手にした黒縄炎の圧縮を解くだけだ。火遁分身が保有するチャクラを使い切ったが十分な成果と言えるだろう。
(よし! 炎とチャクラの反発力で防いだ! これで……?)
広がる炎の縄で水の千本を弾くが、思ったよりも蒸発させられてない。それどころかチャクラの航跡は水に残ったままだ。普通の水遁ならばもっと拡散しているはずなのに……。
「言ったはずです。先手を打っていると!」
「っち! お前もチャクラの反発を利用して!?」
奴は水に残したチャクラと足の裏を反発させ合い、想像以上の速度で突っ込んできた。俺は炎の籠手を無くしてしまったこともあり、仕方なくクナイを投げて飛びずさる。
「どうやら普通に競争したらボクが負けてしまうかもしれませんね。怖い怖い」
「……ちっ。前回で写輪眼の恐ろしさを見せつけ過ぎたか」
奴が次々に投げる千本へこちらは手裏剣を投げて迎撃する。どうやら奴らは水へチャクラを大量に練り込み、この戦いの為に準備していたのだろう。あるいは最初に倒した再不斬の水分身も、俺が火遁分身を保存したように奴らも保存していたのかもしれない。そう考えれば攻防一体の為に作り上げた黒縄炎が僅か二回で消えてしまったのも判る。
(ヤベエな。ゲームと違って他の人間にも心があるのを忘れてた。前回思い知ったはずなのにな)
原作と違ってこちらに写輪眼があることを連中は知っているのだ。しかも原作以上に負傷させている。何も対策しない方が嘘だろう。
「白。そのままだと何処かで逆転される。判ってるな?」
「はい。……残念です。ここまでする前に降伏して欲しかったのですが」
(っ!? 原作よりもタイミングが速ええ。くそっ間に合え!)
速度合戦が白有利な状況なのに、再不斬は容赦なく次の秘術を要求して来た。白からは本気で残念そうな口ぶりが伺えるが、俺の方も必死で術を発動させるために集中を余儀なくさせられた。
「秘術・魔鏡氷晶」
「火産霊・二の式!」
周囲に氷でできた無数の鏡が出現するのと、俺が手甲から伸びる赤い刀を作り上げるのは同時だった。黒縄炎で防御するだけじゃあ逆転できない。ここは攻撃用の術で状況を切り拓かねばならないだろう。
「氷遁……北国以外で使えるってことは血継限界。お前……。雪一族か!」
「そんな物は知りません。ボクは再不斬さんのモノです」
万華鏡写輪眼で見切りながら手近な鏡に向かっていく。奴は自分を乱反射させる光のように高速で突撃して来た。その速度はもはや狙って斬れるものではない。俺が致命傷を避けて居られるのは、万華鏡の力でチャクラの流れを見切り、攻撃ポイントを見切って躱しているからだ。
「戦闘中に分析とかお前、なんか余裕だね。つーか氷遁に血継限界以外もあんの?」
「血継限界には二種類ある。チャクラを混ぜる行為を容易くするモノと、他の者には行使できない特殊なモノだ。混ぜるだけなら条件さえ整えばできる。だがコイツの動きは絶対に無理だ!」
呆れるカカシに答えてやる。アニメ映画では普通に使っていたが、まあ北国なので混ぜ易いのだろう。最初はバーゲンセールかと思った事もあるが、オオノキが血継淘汰の塵遁を使ったり、我愛羅が努力で磁遁やら錬金を使った当たりで何となく納得した。
要するに累代で血縁を重ね、チャクラを混ぜ易くした血の結晶が血継限界なのだ。ならばコントロールを極めた者が、条件を整えれば可能なモノもあるだろう。だが、この秘術だけはそうもいかない。万華鏡の瞳術にも似た特殊能力だと思えば白の強さの秘密なのだろう。
「確かチャクラを全身にまとう戦闘モードとか、それを極めた変化能力を聞いたことがある。おそらくはその最終系がこいつだ。氷は無理でもカカシでも似たことはできるんじゃないか?」
「なるほどねえ。……とはいえオレの雷遁モードでもこの速度は無理だぞ。どうする?」
氷遁モード + 氷化の術。おそらくはこれが魔鏡氷晶の正体だ。しかしその連続性を普通の奴が真似ることはできない。おそらく北国一の使い手でも、氷遁モードすら難しいだろう。もし高速化のために組み合わせているのが瞬身ではなく、飛雷神や転送の術だったら不可能だろう。
「決まってるだろ! こうするんだよ! 火遁・豪火球の術!」
「火球ごときでは……炎の剣!? で、ですが全てを融かすことはできませんよ。また作り上げれば良い話です」
豪火球が炸裂しても聞いていないが、その間に切りつけた手から伸びる赤い刀……赤火刀は氷の鏡を引き裂いた。しかし白がチャクラを練り込むと新しい鏡がその穴を補充する。確かにその場に留まって居たら難しかったろう。
「その剣、何時まで保ちますか? 見ての通り火球では傷もつきません」
「まあな。やっぱり便利遣いする術は扱いが難しいぜ。やはり火力って言うくらいだ。力押しの術じゃないと駄目か」
二の式である赤火刀は手の動きで方向を変化させる武器だ。手刀だと真っ直ぐ、拳を握ると順手の位置に移動する。そして投げつけたらその位置から分身に戻って突撃。その場に突き刺したら俺と入れ替わる代わり身として設定してあった。
攻防一体型の黒縄炎もそうだが様々な使い道ができる便利な術は、火力よりも制御力だとかコントロールを重視してある。まともにやったら倒すどころか突破は無理だろう。まともにやれば……だが。
「だが、そんなことは先刻承知なんだよ。……ここで質問だ。効かないと判ってるのにどうして俺は豪火球を使った?」
「……ま、まさか」
そう。そのまさかだ。豪火球は最初から視界を遮る為にしか使っていない。ナルトが良くやる分身と変化のコンビネーションを真似して、赤火刀を投げつけておいたのだ。当然、俺本体はそこにはいないし、今の状況で姿を晒すわけがない。
では、俺は何処か? それは勿論……。
「着いたか。二人は?」
「無事だってばよ!」
もちろんナルトの元へ! 一人で倒すことが難しくとも、二人でなら容易過ぎる!
原作知識をカンニングしてナルトが現れる場所にフライングで合流しておいた。
ナルトが飛び出て鏡の真ん中に移動することを静止できる。霧越しにカカシの方を見れば、向こうは既に犬を口寄せしているようだ。再不斬が負傷している分、原作よりも流れが速く進行したのだろう。魔鏡氷晶使った時に俺が慌ててなかったのもあるだろうがな。
「ナルト。前に教えた術はモノにしたんだよな?」
「まあな。でも言った通り動きながらじゃ難しいぞ? 影分身出したら時間掛かっちまう」
原作よりも風遁が速い分、ナルトの影分身速度がやや遅い。まあ時間配分の問題なので仕方ないとはいえる。ただこの問題は想定内だ。
「俺の手を貸してやる。俺がコイツを投げたら最大風速でブッ離せ」
「Ok! それなら問題ないぜ」
左手をかざしてナルトの前に持って行くと、ナルトはそこに自分の右手を合わせて掌を合わせる。チャクラが集中し始めたのを見て、俺はもう片方の手で略印を刻んだ。用意するのは三つ目の新術だ。
さて、一の式も二の式も便利系だったのでいまいち出力が足りない。俺が成長すればコントロール力やチャクラも変わるから火力は増えるはず。しかしこのままでは威力が足りないのは判っている。第一、純粋な攻撃用がないよな?
(そもそも……天照の代用品を探してたんだよな。なら火力全振りの術があるに決まってんだろ)
印を刻んで三の式を用意する。それは白く輝く玉が一つ。俺の右手には左目の軻遇突智で威力を封印できる最大限にまで上げ、右目の加具土命で固定化させた炎玉があった。後はこれを投げつけるだけだ!
「行くぞ! 忍法・火産霊、三の式!」
「行くぜ! 忍法・渦潮隠れの術!!」
着弾と同時に灼熱の白炎が広がり、ナルトの広げたチャクラの嵐が周囲に吹き荒れる。それは鏡の一部どころか……殆どすべてを呑み込んですらいた。
「下がれ、ハク!!」
「……これじゃあ、もう、再不斬さんお役に……すみま」
光の渦が氷ごと白を飲み込み、原作には無い結末を呼び起こしていた。
いや、正確には原作にあった光景が……主従を逆転して引き起こしていたのだ。腹に穴を空けた魔人が最後の気力で飛び込んでいた。
「嘘……なんで再不斬さんが……」
「馬鹿野郎。運ばせるつもりだったのに……お前がウスノロだか……ら……逃げ遅れちまっただろう、が」
腹に穴を空けた魔人は下半身を炭化させながら白を救い出していた。正確には、救い出した気分になっていたというべきか。
「直ぐに脱出します。ちょっと待っててくださいね。無理なら交渉してでも……」
「そう……か。なら大丈夫だな。お前はゆうしゅうな、ぶ……。さむい、ハク、何処に……居」
「ここに居ますよ」
もう目も見えず触覚も感じていない。明らかに致命傷の再不斬を大火傷を負った白が慰める。医療忍術があればギリギリで間に合うか怪しいところだ。
「どうする? まだやるか?」
「いえ。ボクも殺してください。再不斬さんの居ない世界に意味はありません。それに……実は、息をするのも苦しくなってきて」
二人はとっくに虫の息。再不斬はとっくに死んでいてもおかしくないし、生きているとしても大人の体だからだ。子供の白では全身火傷で逃げ出せるはずもない。まして上半身だけとはいえ運べるはずはなかった。
「悪りぃ。サスケ、二人を頼めるか? オレってばあいつらを止めてこねえとさ」
「オレも行って来るかね。ちょいと辛いが本当の意味での下忍卒業試験だな」
「ガトー達か。判った……こいつらは俺が……責任をもってトドメを刺しておく」
原作よりも早く進行したことで、今更ガトー達がやって来た。ナルトは涙をこらえて影分身。カカシもそれに同行して足止めに向かっていく。
「早く殺してください、お願いします。ずっと二人で居たんです……。できれば同じに……」
「判ってるよ。直ぐに送ってやる。だが、なあ。一つだけ聞かせてくれ。もし同じ
原作と違う流れでお涙頂戴は止めろよ。うちは一族の心は硝子だって言ってんだろ。だいたい、俺はこの手の話に弱いんだよ。他の連中と違って、原作読んでる分だけ背景も知ってるしな。
「涙? きみは……優しいんですね。再不斬さんと同じ地獄なら何も怖くない……ですね。早く殺してください。この経験が、ボクからの報しゅ……」
「これは涙じゃねえよ! つーか貧乏性の俺がただ殺す訳ないだろうが!」
俺の両目から血の涙が落ちる。加具土命の性能的に出るはずもないのだが、おそらくこれまで省エネモードで使い過ぎて、最大出力に悲鳴を上げているのだ。
「俺には天国へ連れて行ってやれるような祝福も洗礼もねえ。だが! 同じ場所に逝けるように呪ってやるよ!」
加具土命と軻遇突智を同時に使う、俺専用の術。最大でも十くらいしかつくらないのと決めたのに、いきなり圧迫しやがって!
炎の洗礼を浴びて、再不斬と白の体が火の粉に変わっていく。代わりに現われたのは火遁分身と封火法印の方陣だ。新術用に用意したモノで、三重円のド真中が空いている。
「さあ。永遠の黒炎で呪ってやる! 前たちの命は俺が預かった!」
軻遇突智で性質変化させた火の粉を火遁分身と融合させ、ソレを加具土命で二人の体に創り変えていく。時間が経てば無理だろうが、今ならば可能かもしれない。失敗したからと言って、知るもんか!
「うちはハクに、うちはザブザ。それが今日からてめえらの名前だよ!」
せいぜい役に立ってくれ。俺はそう思いながら熱くなった目を閉じた。
波の国編が終わりました。
最初は七月ごろにオリ主で書いたのですが、何となくしっくりこなくて時間をかけて修正してたのですが、少しずつ修正した内容もここで使い切ります。
好評なら続きで中忍試験に突入し、白と再不斬も死人ですが出てくるかもしれません。
その場合は一週間に一話のペースになるかと思います。
それでは短い話ですが読んでいただき、誠にありがとうございます。
設定
『加具土命』形態変化特化で消えない黒炎を操る
『軻遇突智』性質変化特化で浄化の炎を操る
『火産霊』二つのカグツチを使ったオリジナルの術
一の式・黒縄炎。読み、こくじょうえん。
反発力重視の攻防一体型です。縄の結界ですが籠手にもなります。火遁分身もあり。
二の式・赤火刀。読み、しゃっかとう。
直刀や忍者刀になります。火遁分身もあり。
三の式・白輝玉。読み、びゃっきぎょく。
火力特化の手榴弾です。
四の式・紫双陣。読み、しそうじん。
圧縮すれば炎遁チャクラモードで広げれば炎の霧です。ちょっと視力落ちました。
火遁分身もありますが出てくるのはどちらか一人だけです。