二つの加具土命【第一部完】   作:ノイラーテム

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トーナメントでの読み合い

 トーナメントの形状と埋まり具合を見て色々と類推できることがある。

そして面白いのは試験官も三代目も『第三の試験の予選』の話をしていないのだ。原作と違い始めたことで驚きはしたが、よくよく考えればこのトーナメントは面白い題材だった。

 

 

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「サスケ。良かったのか?」

「そうそう。オレらと比べて戦う回数が多くなっちまったけど」

「俺なら構わないさ。それに……戦う回数が多いという事は、中忍としてのアピール回数が増えるという事でもあるしな」

 サクラとナルトが心配してくるが俺は首を振っておいた。もし予選の動きや判断も参考にしているのだとしたら、戦闘回数が多い事は無駄にはならない。何処かの世界のハンター試験が確かそんな感じの内容だったと思う。

 

「……?」

「どういうことだってばよ」

「大名天覧試合出場が名誉ってのは良いさ。だが班のメンバーをそこまで進ませる判断や、戦闘でのキレを評価しているかもしれねえ。そう考えると、このおかしなトーナメント表にも意味があると思わないか?」

 このトーナメント表は幾つもの三つ巴があり、シード権込みで戦闘回数が歪になっている。そしてその一部差の配置も露骨で、各班がどういう判断をしたのか一目瞭然なのだ。

 

 

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「シードの1・2はまあいいさ。だが三番目から七番目まではAブロック……いや、Aツリーかな? そこに集中し易くなる」

「そりゃ戦闘回数が少ねえってばよお」

「だが私や五番のツルギとか言う男の様な奴も居るが?」

 基本的にAツリーは一回戦闘すると天覧試合に出れる上に、普通のトーナメントだ。だからこっちに集中するのは当然だが、サクラは特に戦闘経験のあるキンとかいう音忍を選んだ。手の内を判っているから戦い易いからだ。

 

「あいつはカブトの班だろ? 同じようにデータ収集と見ればいいさ。そう考えればヨロイってのもそうだな。後は相手の戦闘回数が多くなるのを狙っているのもあるか」

「そっかー。そういやあの人もガーラとかいう不気味な奴選んだもんな」

「砂を始めとして同じ班を避けると、こうなるか」

 そんな感じでトーナメントの埋め方に特徴が出る。基本は勝ち上がってきた相手を狙ったり、チームメイトを避けて登録している。

 

ガーラの様に戦闘したがったり、ヒナタが責任を取ろうとした事で判り易いズレも入ったことでその差が露わになったのだ。チョウジに関しては隣のブロックでも良いはずだが、もしかしたら原作の紅班の代わりにアスマ班が砂の忍を見かけたのかもしれない。

 

「ってわけだ。トーナメントだけでなく的確な判断も見られてるってことなら、お前らも戦闘で気を付けろよ。自爆特攻とか勝てても点数低いんじゃ意味がねえ」

「了解した」

「あったり前だろ! オレは余裕だぜ!」

 そう言って二回と言うか踊り場で待機する為に向かっていく。と言っても俺は戦闘回数が多いから、直ぐに出番な訳だが。

 


 予選とも言える段階で戦闘回数が多いのは三組。オレとキバ、ガーラとカブト、そしてリーとチョウジの戦いだ。

籤で順番を決め、最初に戦ったのはリーとチョウジ。この二人に関しては原作よりもチョウジが頑張ったが、重りを外した上で勝負が付いた。連続体術の蓮華でないから判り難いが、チャクラ自体は強烈だったので八門の一つ目は解放してたのかもな。

 

「偶には真面目に行こうかな?」

「キャハハ♪ あっそぼう!」

 そして次はカブトとガーラだ。カブトは兵糧丸を口にすると印を組んで手にチャクラを集めていく。ガーラの方はいつも通りに砂を展開していった。

 

「なんだ? 指の先に何か見えるが……」

「たぶんチャクラで造った手鉤だな。極限まで出力を絞って攻撃範囲を拡張してある」

 カブトは原作と違ってチャクラのメスを使って居ない。手甲の先から伸びる爪を作り上げ、格闘戦の補助を行っていた。サクラの質問に俺は写輪眼で見た光景をそのまま伝えた。

 

(偽装として大げさに使ったのか。本来なら見せなくても良い技だが、ガーラの能力を見つつ真価は隠すってとこかな)

 神経や筋肉だけを切断するメスではなく、派手な格闘戦を行いつつ手鉤の形状で使って見せれば、カブトが本来は医療忍者で繊細な動き操作をするとは気が付かれ難いはずだ。むしろ大技を警戒させることで暗殺はし易くなっているかもしれない。

 

「ヒナタも同じ事を言ってたぜ。自分よりも上手く正確に出来てるって褒めてた」

「ヒナタはあの手の能力を修行中なのか。俺らだから良いけど、他の里には黙っとけよ」

 どうやらヒナタはサービストークで柔歩獅双……双獅だっけ? を習得中であることをナルトに教えたようだ。余裕なのかというと、おそらくはバレても良いと判断したのだ。第一の試験を考えれば、八卦空掌の方が厄介だからな。もし俺が信じたらラッキーだという程度の牽制だろう。

 

「まったく。硬くて攻めきれないな。でも……足元や中身はどうかな?」

「あれ~」

 やはりというかチャクラの手鉤も砂の防御には通用していない。砂の自動防御を掻い潜るので手いっぱいだ。仕方ないので足払いから変則的な裏拳を放ったようだが……。

 

「おっ。スッゲー! カブトさん、あいつを掴んで振り回してる! 凄い怪力だってばよ!」

「チャクラは巧く練るとパワーやスピードが出せるんだ。サクラもやってるだろ」

「うん」

 どうやらカブトはチャクラの手鉤を引かっけて投げ技に切り変えたようだ。最初はバランスを崩す程度から始めて、最後にはジャイアントスイング! そこからワンハンドでダイレクトに会場の外壁にぶつける大技を見せた。

 

「キャハ♪ ……おめめグールグル。あはは。初めて遊んでもらったよ?」

「マズイな……」

「ああ……」

 叩きつけた衝撃が効いているようだが、ガーラにはまだまだ余裕が見れた。表蓮華の様に高い場所から回転付きで落とすわけでもないので、あくまでクラっと来た程度だろう。砂のヨロイこそ剥げたが……瓢箪を構成する砂の形を崩さずにそのまま立ち上がっている。

 

「ハア? うちの妹があの程度でやられる訳ないだろ? ……血が登って殺さないかだけが心配なんだから」

「そっちの意味じゃねえよ」

「っ! ちっ。マズイじゃん。このままじゃあガーラが消化不良だ」

 テマリがむかついた様子で睨んできたが、別にガーラなんか心配していない。俺の様子から察したのかカンクロウが気が付いたようだ。よく考えれば原作でもこいつの方が頭脳派なんだよな。テマリはアレで脳筋だし。

 

「え? どういうことさ。何かあるならガーラに言ってやらないと……」

「もう遅いじゃん」

「フフ……中々の強さですね。久しぶりに熱くなりそうです」

 テマリが訳も判らずに首を傾げるのに対しカンクロウは首を横に振る。それらを尻目にカブトは一人独壇場にあった。この後を考えたら砂の連中が気の毒でならない。

 

「ボクはこの試合……棄権させていただきます」

「……!? どうして! これからが楽しいのに! どうして!」

「落ち着きなさいガーラ! いい子だからっ」

 にこやかな顔でカブトが敗北宣言して、壇上には煮え切らないガーラが憤怒の表情を見せていた。今にも暴れ出しそうなガーラをテマリたちが必死で止めている。

 

「どうしてだってばよ! カブトさんなら……」

「落ち着けナルト。三分目から降参を考え始め、五分経過したら負けで構わないって言ってたろ?」

「これが情報屋の実力……」

 忘れていたのか驚くナルトと違い、覚えていたサクラは素直に脅威を感じてくれたようだ。砂の鎧がはげるところまでは見たので、見せてないのは瓢箪も砂製ってのと、一尾の人柱力ってことくらいかな?

 

ともあれこの試合で敗北したものの、カブトが一方的にガーラの秘密を暴いたのは言うまでもない。そして……この後にガーラと戦うのは、チャクラを奪うヨロイなのだ。その事を踏まえれば、かなりのポイントが付くのではないだろうか?

 


 という訳で次は俺とキバの試合だ。血沸き肉躍り過ぎて隔離されているガーラには悪いが、目を付けられない内にさっさと終わらせてしまおう。人柱力でなければ『目』は合わせておきたいのだが。

 

「あんまり舐めてんじゃねーぞ!」

「舐めてなんかねえよ。それどころか擬獣忍法は警戒している術の一つさ」

 キバは中忍試験がピークだったと言われているが、俺はそうは思わない。単純にデザイン上の不都合に巻き込まれただけではないかと思う。リーの活躍がガイに喰われたのと似ていると言えば、判るだろうか?

 

キバが覚えて居そうな術を他の忍者が使ったらそりゃ成長しなくなる。そういう事が長引いていくと、例えキバが居たら活躍するのになあ! というシーンが来てもキバの出番なんかあるわけない。ヒナタの様にヒロイン枠なら別として。

 

「てめーの姉ちゃんだか兄ちゃんだかが来てたら俺は負けてたかもな」

「そ、そうか? 擬獣忍法が強いこと知ってるなんて判ってんじゃねーか……あ? 待てよ、オレは弱いってのかよ!」

 真面目な話、凄まじい機動力とパワーを兼ね備え、それを二人分で使える擬獣忍法は写輪眼にとって相性が悪い。もし経験も豊富なキバの姉だったら、極めて不利だっただろう。少なくとも、今のキバみたいに睨み合って(・・・・・)はいないと思う。

 

「判ってんじゃねえか。てめーが負ける理屈はたったの一つだ。うちは(・・・)一族を舐めんな!」

「速っ!? 嘘……だろ?」

 俺はキバより速く行動し、キバよりも先に手裏剣を投げる。そして奴が回避する予定地点(・・・・)へ先にクナイを投げ、それを邪魔するであろう赤丸へ容赦なく火遁を放つ準備をした。

 

「くそっ! なんでオレよりも速やっ……下がれ赤丸!」

「てめーが遅いんだよ! 火遁、豪火球の術!」

 練り上げた火遁だが重視するのは速度と範囲。少々の移動力では避けれないように放ち、キバと赤丸がダメ元でダッシュするよりも、仕方なくバックしながら耐える方にシフトを切る。そしてオレは奴が予想する左右でも上でもなく、真正面から火球の中に突っ込んでいく!

 

「どこだ! 右か、左か……う……ウオオオ!?」

「ここだよ! 」

 俺はあえて自分から声をかけ、腕でクナイを防がせてメンチを切りながら頭突きを掛ける。もちろん狙うのは打撃なんかじゃない! そのまま奴が逃げようと選択(・・・・・)する右方向に手裏剣を投げ、その後ろにもう一枚手裏剣を投げ込んでおく。

 

「解毒しなくていいのか? 体を活性化させた状態で神経毒(・・・)を喰らうとフラ付くぜ? もう赤丸の動きすら見えてねえんじゃねえのか?」

「だっだまれ! 毒なんて汚ねえ真似なんかしやがって!」

 もちろん神経毒なんか使ってはいない。キバの様子がおかしいことを外野に気が付かせないため。そして何より、キバから見た赤丸の動きが速く見え過ぎる事から注意を逸らすためだ。

 

本来のキバは俺よりも早いはずだ。なのに何故?

それは睨み合うたびにカカシが再不斬戦で使った洞察眼・催眠眼やら透遁の応用を行っただけ。あとは幻術で多少なりとも反射速度を落とそうとしたくらいか? それに関しては実際にどこまで反射が落ちているかは分からないが、やらないよりは良い。まあ専門家じゃない俺じゃあ、詳しい幻術とか使えないしな。タイムラグを入れるだけで精いっぱいだ。

 

「なんだ忍者なのに毒はダメなのか? 判った。テメー好みの体術で勝負を付けてやるぜ」

「う、嘘を吐け! 騙してまた何かする気だろう! それとも火遁で……」

 ここから先は嘘でも幻覚でもない。正面から戦って格闘戦でカタを付けるだけだ。既に追い込んでいるし、余計な事をするよりもその方が速い。

 

「宣言するぜ。俺は真っ直ぐ行ってストレートで殴る。その後は連続体術でボコボコだけどな」

「だっ黙れよ! 擬獣忍法……!」

 印を組んでチャクラを手足に回しているあいだにストレートでブン殴った。そのまま態勢を崩したところに、足払いを掛けてからリーを真似た連続蹴りを食らわせていく。さっきチョウジに使ったのは連携技じゃなかったから、どうしてもパワーで追い込む技になるんだよな。

 

「それまで! 勝者、うちはサスケ!」

 ここで審判である月光ハヤテが待ったをかける。既にボコボコにしているし、キバが多少冷静になっても無理だと判断したのだろう。実際、キバは倒れたまま唸るだけで起き上がってはこなかった。

 

「写輪眼相手に目を見るなというのは基本だが、下忍には酷な事かな。しかし昔のカカシを思いだ……」

「お見事。まさかここまで真似されるとはね。さすがは本家の写輪眼」

「とはいえ経験がねーからな。再不斬戦を見てなきゃ此処まで上手く行ってねーよ」

 先に声を掛けたガイを無視してカカシが祝福してくれる。別にガイを蔑ろにしたわけではないだろうが、再不斬戦の真似をされて刺激されたという所だろうか?

 


 Bツリーで一回分多い試合が終わったので、そのままAツリーの予選をやってからまたBに戻る。その間に体力を回復しておけと言う事なのだろうが、俺には先にやっておく事があった。

 

Aツリーの予選は『いのvsナルト』『キンvsサクラ』と事前情報や相性的には有利だし、『しのvsザク』に至っては原作と同じだからだ。

 

「よう、シカマル。話がある。お前の対戦相手の情報……欲しくないか?」

「なんだよ急に? そりゃ欲しいっちゃ欲しいけどな」

 用件があるのはシカマルなのだが、不思議とこっちに目線を寄こさない。まあ写輪眼でなくとも幻術を掛けてた奴を警戒するのは判るけどな。

 

「商談に入る前のオマケだが、あいつは特殊なギミックがあるから警戒が必要だ。それ以上の情報が欲しかったらで良い。なんだったら次に来る先輩の噂も付けるぜ?」

「っち。初見殺しかよ。聞いてなきゃヤベーやつじゃんかソレ」

 突っ込んだ話をすると途端にシカマルが嫌な顔をする。この状況で話しをするという事は、聞いているかどうかで難易度が変わる話だからだ。面倒くさがりである以上に、知略に冴えたシカマルにとってこの話は聞き逃せない。

 

「……条件は?」

「親父さんとかに伝言を頼みたいだけだよ。術の研究にちょいとな。親父さん達がダメだって言ったらそれで構わねえ」

 影を使った印を組みたいのだが、影真似が特殊過ぎて単純にコピーしても意味がない。たっぷりチャクラを練っているはずだしな。

 

「その条件でオレが断れる分けねえだろ、この悪党! 判ったよ! どうせ親父も頷くような内容なんだろうけどな!」

「そういってくれると助かるぜ。俺も試合を真面目に見たいしな」

 影を使った特殊な印くらいなら問題ないだろう。影真似みたいに粘着性を持たせる訳でもなく、自在に動かすわけでもないのだ。大蛇丸流の簡略印では不可能なレベル……複雑な印を陰に組ませておきたいだけなのだ。

 

「要望の内容はこの巻物に書いてある。……まずあのドスってのは、籠手に仕込みがあって回避しただけじゃダメだ。音で三半規管をやられちまう。もちろん振動で攻撃もできるぞ」

「あー。そりゃヤベエな。ぎりぎりで避けて影真似とか絶対駄目じゃん」

 知って居ればどうということはないが、知らないと危険な初見殺し。加えてシカマルの影真似は伸ばして使えなくはないが、近い方が確実ではある。しかし離れないとドス相手には危険なので、少し考えさせられる相手だ。

 

「まあ何とかするっきゃねえが……あの先輩は?」

「投擲術のプロフェッショナルで、白兵戦もそこそこいけるはずだ。ただ影真似を見せちまったら徹底的に離れて戦うだろうな。俺ならこんな感じで巻物を用意して、時空間忍術で山ほど武器を持ち込むね」

 そう言ってもう一本巻物を取り出す。もちろんさっきシカマルの親父さんに渡してくれと頼んだ伝言とは別物だ。

 

「なんだよそりゃ?」

「簡単に言うと火遁で造った特殊な閃光弾だな。暫く浮かび上がらせて置ける」

 影の印を考察する時の為に、加具土命の出力を落として作った特殊……というか簡単な術だ。閃光弾のように一瞬ではなく、囮に使ったり印を組んだりする時間を稼ぐことができる。もちろん自分でも使うために封印してあるが、シカマルたちとの交渉に使えるのは判っていた。

 

「この悪党! てめーみたいなのはタラシっていうんだろうさ! 何すりゃ良いんだよ!?」

「毎度アリ。親父さんが話をいきなり断った時の保険になってくれりゃあ良いよ。あとこいつは口寄せ用に加工してあるから、覚えりゃ使い回せるぜ」

 どうせ戦えば判る情報とはいえ、ここまで段取りを踏む以上『親がダメだといったからここまででーす!』なんてのは論外だ。せっかくなのでシカマルにも協力してもらおう。後はまあ……こいつの頭が良いなら、こんな感じの他愛ない取引で仲良く成ってても良いしな。

 

ちなみに試合結果は予想通りというか、狙ったんだから負けてもらっちゃ困るけどな。

 


 という訳で商談が終わったので景気よく次の試合にも勝ちたいところだ。実力的にはこっちの方がキバより強いのだが、相性的にはさっきの方が危険だったりする。車輪眼を使う前にボコられたら危ないからな。

 

Bツリー予選の続きは『シカマルvsドス』『ネジvsヒナタ』、少し時間を置いて二回目になる『ガーラvsヨロイ』と『ツルギvsリー』、そして『テマリvsサスケ』……要するに俺の試合だ。

 

「最初から狙っていたのか凄いな」

「そうだサクラ。怠け者に見えてシカマルは頭が良いからな」

 どうやら原作と違う流れで来たこともあり、猪鹿蝶と音忍は戦っていなかったようだ。シカマルはむしろ『武器の影』に変形させられることを隠す方に苦労していた。

 

籠手の絡繰りを見抜いて大仰に避けるフリをして、試合場の脇にある二階の影まで誘い込む。そこからシカマル自身は何もない場所の脇で、相手だけ壁の近くという構図は原作と変わりない(試合場の縦横の差はあったが)。影真似でつないだ後は勢いよく頭突きを掛けさせて試合終了だ。

 

「あいつ……地味なクセして、今のはちょっと格好良かったってばよ」

「……まあな。同じことができても難しいかもな」

 入れ知恵したんだぞと言いたいが、俺自身原作知識からのカンニングなので言い出せない。何となくモヤモヤしてるのはきっとそのせいだろう。それよりも次の試合が非常に気になるところだ。

 

この世界では男女の組み合わせが微妙に異なるが、ヒナタが男になったことでどう変わるのだろうか? 少なくとも現状では、原作よりも修練を積んで居るのは間違いがない。

 

「……左上に視線を動かしたのは過去の辛い体験を思い出している。そして直ぐに右下に動いたのは肉体的・精神的な苦痛を連想したからだ」

「当たってますが、肝心な理由が違いますよ」

 原作と同じような流れでネジは告げたが、ヒナタがそこから復帰するのにナルトの声援を借りなかった。代わりに熱い視線でナルトを見ているが、やはりナルトの為に強くなったのだろうか?

 

「私は踏み出せないで何も変わらないのが怖い。そして変えられないことで負け続けている事、そして届かないことが何より恐ろしい」

(……なんでこっちを睨むんだ? そこはネジでないとしてもナルトに決意を示すところだと思うんだが)

 不思議なことにヒナタは俺を睨んでいた。その事でネジが逆上しかかっているのだが、良いのだろうか? 今にも襲い掛かりそうな目をしてるんだが。

 

「ネジ兄さん。勝負です」

「……いいだろう」

 この辺りはあまり原作と変わらないように思える。もしかしたら腰の入れ方とか違うのかもしれないが、流石にそんなことを覚えているような記憶力はない。

 

二人は同時に動き出し、機先を制したのはヒナタの方だ。

 

「八卦空掌か!」

「追いつく為に必死で磨いた拳です!」

 何もない所で大気が弾ける。ネジが放つチャクラの流れに、ヒナタが居合気味に放った空掌が当たったのだ。パンパンと連続で弾けているが、ネジの眼力を持ってすれば居合に意味はない。とはいえ接近戦を挑めばネジの方が有利なはずだった。

 

「ヒナタ押してるってばよ!」

「いや、駄目だ。肝心のチャクラを弾かれてる。皮膚を焙る事が出来ても経絡系を攻撃できなきゃ柔拳同士の戦いには意味がないはずだ」

 写輪眼で見ても撃ち込まれる空掌は肝心の場所を逸れるか弾かれていた。そのくらいはヒナタにも判っているはずだが、居合を混ぜたり混ぜなかったりする変化以外は、あまり流れを変えようがない。

 

「やはりこの程度か宗家の力は!」

「くっ……」

 ジリジリと接近されてそこから打撃戦。普通に打ち合っているように見えるが、ネジは的確にツボを突いているように思えた。流石に点穴なんか見切れないが、原作でも可能だったネジがしくじることはあるまい。

 

ここまでは予想できた流れだ。ここでヒナタは終わりなのか、それとも何かしらを見せるのか?

 

(まさか剛拳に切り替えるって付け焼刃はねえよな。となると残るはあのへんだが)

 考え方としては二つしかない。有名格闘ゲームの老師の様に柔剛を巧みに切り替えて、ここからパワー戦に打って出る。しかしそれは考え難いし、気の遠くなるような修錬が無ければ無理だろう。

 

「諦めろ。オレの目は既に点穴を見切る。もはやチャクラを練ることも叶うまい」

「ネジ兄さん。その答えは……コレです!」

 修錬の結果か原作よりもマシな状態ではあったが、やはり点穴を突かれていたようだ。しかし変化はここから大きく生じる。

 

なんとヒナタは手の周囲にチャクラを集めて放出したのだ。そういえばさっきナルトがヒナタが習得中だと言っていたような気がするが……重要なのはそこじゃない。どうして点穴を突かれたのにチャクラが練れるのかだ。

 

「柔歩獅双拳!? そんな付け焼刃で……いや、どうしてチャクラが練れる!」

「簡単な推測です。ネジ兄さんなら何某かの厳しい修練を積んで居ると確信していました。そして私は父上の技を知っています。ネジ兄さんならばそのいくつかをモノにしているという、確信を抱いていました」

 おそらくは点穴をヒナタの父親であるヒアシも使える。だからヒナタはそこを突かれるという予想をしたのだろう。だが……それではヒナタがネジの攻撃を受けて無事な理由が説明できない。

 

「馬鹿な。技が判ったからといって点穴を突かれたのに……」

「ネジ兄さんは班員の方に点穴を指突されてチャクラが練れなくなりますか? ただの打撃では意味がない。そう返されると思いますが」

 一連の言葉は最初意味が分からなかった。ハッキリいってネジには猶更だろう。だが、ヒナタがこちらを睨み、次いでナルトを見て微笑んだことで何となく理解できた。

 

もしかしたらヒナタはネジの攻撃タイミングを見切る……いや誘導して、その時に体の中にチャクラを溜めておいたのではないだろうか? その流れを俺とキバとの戦いから連想し、体に溜め込むというのはナルトを見て思いついたのではないだろうか?

 

「ネジ兄さんと違って点穴は見切れません。しかし私の目は……時間を見切ります!」

「ほざけ!」

 攻撃タイミングの見切りと、透遁によるタイミングの誘導。これらを組み合わせてネジの攻撃を、シューティングゲームの一種であるFPSの様に見切ったのだろう。これで『何時』『何処へ』やったのかは分かった。となると手段だが……。やはりアレを覚えていたのか。

 

「見切れるというならば受けてみろ! 八卦……六十四掌!」

「……守護八卦、六十四掌!」

 先に放ったのはネジであり、連続攻撃がヒナタを襲う。だがそれに対してヒナタは掌から放つ攻防一体の壁を次々に打ち立てた。それを弾きながら押し込む為にネジもチャクラを溜めている。

 

他の者には見えないだろうがチャクラを見れる俺の写輪眼には、まるで『割れるバリア』のように建てられては消えて行くチャクラの防壁が映る。ヒナタは『何時、何処へ打ち込まれる』という攻撃ポイントの見切りと攻撃タイミングの見切りを行っているのだ。普通なら防戦のヒナタ側に負担が多いはずだが、防御しつつチャクラを押し込む必要があるだけにネジの方が消耗が激しい。

 

「まっ……負けられるか! こんな所で負けられるか!!」

「うそっ。ネジ、もう使うの!?」

「いえ、使わなければ消耗戦で敗北します。流石の判断です、ネジ……」

 ネジの体から膨大なチャクラが溢れ出る。しかもその勢いは留まることなく、しかも方向性を持って発せられる。先までの攻防が互角であり守り切れていただけに、惜しかった。

 

「これは……回天!?」

「はああ!!! もう一度だ! 八卦六十四掌!」

 至近距離から放たれる回天は攻防一体の一撃となる。吹っ飛ばされるヒナタを追撃していくネジだが、途中で審判が割って入って試合に決着がついた。

 

「そこまで。勝者、日向ネジ!」

「……届かなかった……ナルトさんの所まで……サスケくんの所まで」

 悔しがるヒナタだが原作よりもはるかに健闘している。それどころか回天をネジがまだ使えなければ勝てていたのではないかと思う程だ。

 

(あと一歩……。まるで原作のサスケとイタチみたいだな。……俺にあんな戦いができるのか?)

 そう思いながら俺はヒナタにどう声をかけるべきか決められなかった。ナルトの様に即座に駆け寄って声を掛けたい。健闘だったと言いたいが、素直になれない。そして中途半端な俺自身がどうすべきかを決められなかったのだ。




 トーナメント表を簡単に作ってみました。
不器用なのと他にも色々やっているせいで、色々と不具合が出てると思いまうがすみません。

来週で予選の残りと修業で何をするかの話。その次の週が本戦ダイジェスト。
真面目に戦闘するなら本戦は二回に分け、そうでないならば一回で済ませる予定です。

ナルトの一人称はオレから変化すると思いますか?

  • オレっ娘のまま
  • あたし・あたい。になる
  • 私。になる
  • うち。になる

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