戦闘妖精雪風はストライクウィッチーズ世界の空を飛ぶ   作:ブネーネ

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9話

ウィッチが魔法を用いたり、フェアリイ星の空を舞う事が出来るのはフェアリィ星の大気に『エーテル』と呼ばれる物質が満ちているからだ。

詳細は未だ不明ではあるがこのエーテルを利用して魔法を行使できるのはごく一部の例外を除いて女性のみ、それがウィッチと呼ばれる所以でもある。

ネウロイ戦争が始まった際にこのエーテルもとい魔力を纏わせた攻撃は質量に見合わない破壊力を発揮し、ネウロイの自己修復能力を阻害する事が分かると人類連合軍はウィッチを徴発しネウロイと戦わせることを選んだ。

しかし素人の少女に対ネウロイ戦での生存は見込めない、そんな中で魔力を研究していた研究所が一つの発明品を完成させた。

少女達が持つ魔力を増幅し、ストライカーに『攻撃』『シールド』『空中または陸上での高速機動』の魔法術式を標準搭載し、ウィッチの魔力操作を補助する事でウィッチの戦闘能力の向上と短期間での実戦投入を可能にした現代の魔法の箒、それがストライカーユニットである。

今回501JFW基地に運び込まれたジェットストライカーはまるで地球の航空機の歴史をなぞるかの様に生まれた新世代のストライカーだった。

ジェットストライカーに搭載された新型魔導エンジンによって使用者の魔力を通常のレシプロストライカー以上に増幅、さらに大気中のエーテルと増幅能された魔力を再度混合して魔法術式で圧縮し点火、これを継続的に繰り返す事で爆発的な推力を発生させる。

テストパイロットとして選ばれたバルクホルン大尉はジェットストライカーを装着すると己から発せられる絶対的な魔力量の違いに、そしてMK108 2連装30mm機関砲を二丁、背にBK-5 50mmカノン砲を所持しているにも拘わらず十分に保持が出来ている事に驚愕した。

あらかじめ話には聞いていたが、魔導エンジンをアイドリングさせただけでその性能が引き出される事に技術の進歩を大いに感じ取った。

「これは…すごいぞ」

静かに魔導ジェットエンジンの出力を上げていく、ストライカーを保持するSSPS(ストライカー発進促進システム)の外部補助を受け離陸に必要な出力と推力を外部から確保する。

「バルクホルン大尉、発進する、滑走路を開けろ!」

SSPSからパージされたバルクホルン大尉とジェットストライカーが離陸を開始、前を見据えながら脳裏に貯めた力を解き放ち地面を蹴り出すようなイメージをそのまま受信したジェットエンジンの出力が離陸に必要な出力まで上昇していく。

ジェットストライカーのエンジンの回転数が徐々に上昇し高音を発し始める、混合エーテルの圧縮が臨界に達し開放する。

それはまさに爆発ともいえる衝撃を放ちながらバルクホルン大尉は滑走路を十秒足らずで駆け抜け離陸、空に吸い込まれていくように上昇を開始。

「バルクホルン!離陸に成功した!これより試験を開始する!!」

武装を携行せず上昇試験を開始、先発していたイェーガー大尉は上昇限界の12000メートルで待機、ジェットストライカーを利用したバルクホルンは高度20000メートルまで上昇に成功。

次いで武装を全積載した状態での飛行テスト、試作品故か立ち上がりは遅いもののカタログスペック通り950m/hを維持する事に成功、速度が乗った状態では不安な挙動を感じられない。

そのまま501JFW基地周辺に浮かべている粗砕気球を目標に射撃テスト、射撃体勢に変えてもジェットストライカーの機動は安定しMK108、BK-5ともに優秀な射撃精度を以て命中。

「凄いぞ!まるで天使に後押しされているみたいだ!!」

そのまま飛行を継続し、各種マニューバの実施飛行に移ろうとバルクホルンがジェットストライカーの魔導式にアクセスした瞬間、彼女の記憶はそこで途切れた。

「バルクホルン!どこまで行くつもりだ!」

「ミーナ中佐、バルクホルン大尉からの応答がありません」

「オイ!バルクホルン大尉が落ちるゾ!!!」

数秒後、コントロールと推力をを失ったバルクホルン大尉は海面に向かって垂直落下し着水、―――巨大な水柱が立ち上った。

 

 

数日後、ミーナ中佐の執務室では普段聞けないような鋭利と言える程の怒号が響いていた。

「どういう事なの!」

「ジェットストライカーにこれまで見つからなかった欠陥があったようです、やはりここでの試験は正解でした」

そう言ってウルスラ中尉は淡白に告げた、バルクホルン大尉は墜落後に501JFWの医療室に緊急搬送、診断結果は急激に魔力を消費した事による魔力欠乏症だった。

「あなた…知っていてやったわね」

「まさか、先日もお伝えした通り私どもの試験ではこの様な欠陥は見当たりませんでした」

「いけしゃあしゃあと……!!」

「止めろ、ミーナ」

「トゥルーデ!」

「おやバルクホルン大尉、どうやら体調は良好の様子、しっかりと休憩をとられたようですね」

確かにバルクホルン大尉は着水直前でジェットストライカーの安全装置が作動、自動的にシールドを展開し海面に叩きつけられる衝撃を緩和したことで重篤な外傷を負う事は避けられた。

さすがのバルクホルン大尉も僅かに眉間に皺を寄せるが、あえて突き放す様な態度はとらない構えを示す、それは既にミーナ中佐がしているのだからこちらが冷静でいなければならない。

「試験の最中にイレギュラーが見つかるのは当然だ、それを無くすために試験があるんだからな」

「ご理解感謝します、至急調整致しますので後ほど再度ご協力をお願いいたします」

「バルクホルン大尉、貴女は自室待機です、これ以上試験の参加は認めません!」

「大丈夫だミーナ、故郷を解放する為ならこの身は惜しくない」

「ゲルトルート・バルクホルン大尉!!!」

「大体試験が終わるまで解放されないだろう、他に誰がジェットを履くというんだ、もう一人寝込ませるような余裕はウチにはないぞ」

「504のウィッチに…」

「落ち着けミーナ、他所の隊員を傷物で返すつもりか?」

「あなたが傷ついてもいい理由にはならないのよ!」

言い合いは続く、ウルスラ中尉は興味なさげにレポート書類をめくっている。

「501JFW司令として命じます、ルクホルン大尉は自室にて謹慎、ジェットストライカー試験は凍結します!!」

「ミーナ中佐―――」

「技術屋風情が軽々しく部隊運営に口を出さないで」

女公爵とも呼ばれる程に凛とした、殺意すら籠もった視線に身じろぎもせずにウルスラ中尉は肩をすくめた。

「失礼いたしました、たしかにこの情報だけでも上層部は納得するでしょう」

「ならば早く基地から出て行きなさい、二度と失敗作を持ち込まないで」

「了解しましたミーナ中佐、それではこれより撤収の準備を―――」

 

 

――――警報が鳴り響く、ネウロイ出現の合図だ。

 

 

「北方第三ブロックにて直接敵影をレーダーで捕らえました、推定高度3500メートル、敵ネウロイはいずれも低空飛行で警戒区域の監視をすり抜けて侵入した模様」

「敵は中型ネウロイ四機、哨戒飛行隊第一班がスクランブル発進済みです」

敵を示す赤い駒が地図に乗る、それに向かい合う様に配置された青の駒を五つ。

「哨戒機がネウロイを確認…レーダーで確認された通り数は四機」

ネウロイは量産されるタイプを除いて基本的に同じ形状はあまり見られない、それはつまり実際に戦ってみなければ敵の性能は分からないと言う事だ。

哨戒機は先行して敵影と状況を確認した後に即反転、情報を後続のウィッチに引き継ぎ即座に帰還する。

「哨戒機が全機応答不能、敵ネウロイの攻撃を受けた模様」

彼等の青い駒は地図から取り除かれ駒置きに戻される、彼等は海に漂うのだろう、当然救助隊は出すが全員の生還は当然望めない。

人類連合軍にとってのエースはウィッチだけではない、歴戦の兵という軍人も確かに存在した。

ウィッチの援護を初めから望めない哨戒飛行隊には人類連合軍の中でも特にエースを集めていた、緊急時には情報が何よりも必要になるのだから当然だった。

当然対ネウロイ戦の経験も積んだエース達が敵ネウロイとの視認距離に入っただけで撃墜された、それも全機。

特殊戦は既に自分達で触れることすら出来ない高度から眺めているだろう、その暴力的なまでの力を大事に抱えたまま。

「ウィッチがネウロイを発見、エンゲージ」

「敵ネウロイが高速で飛来する武装を使用、FAFの資料にあったミサイルらしき物の発射を確認した模様」

「エイラ中尉より報告、クレスピ曹長、マッツェイ少尉が墜落、敵ネウロイの装甲が厚く撃破困難、至急増援を送られたし」

「私とサーニャさんがこれから向かいます、ウルスラ中尉、あなたは飛べるの?」

「ジェットストライカーさえ使わせていただければ飛べます、協力させてもらいますねミーナ中佐」

『いいや、ジェットストライカーは私が使う』

無線を通して聞こえた声は紛れもなく謹慎を命じたはずのバルクホルン大尉だった。

「滑走路にバルクホルン大尉がいます!バルクホルン大尉が離陸!」

「バルクホルン大尉!あなたは謹慎中でしょう!?」

『すまんなミーナ、無線は聞かせてもらった。今更二人が参加しても焼け石に水だ、私なら新兵器も十分に扱える、飛ばせてくれ』

「―――五分だけ認めます、それまでに帰って来なさい!!」

『それだけあれば十分だ!!』

 

 

 

 

 

 

 

「この野郎!!!」

こちらの命を奪わんとするジャムの照準に捉えられぬ様に固有魔法を間欠的に用いながら立ち回るイェーガー大尉、しかしアウトレンジから飛来する高速かつ追尾するミサイルを無視する事は出来ない。

504JFWから来たクレスピ曹長、マッツェイ少尉はこれまでのヴェネツィアネウロイとの経験不足か序盤でリタイア。

現状ルッキーニ少尉とイェーガー大尉が歴戦のコンビネーションでヘイトを集め、未来予測の固有魔法を持つユーティライネン少尉がミサイルを撃ち落とすに留まっていた。

戦闘が開始して早五分経つ頃には常に全開の魔法力を要求されつつも回避運動を続ける三名の集中力に限界が近づいていた。

しかしそれに値するだけの価値はあった、突如として爆散するネウロイ、ジェットストライカーを履いたバルクホルン大尉が増援として参戦する。

「待たせたな!リベリアン!!」

「イカしてるぜバルクホルン!よっしゃあ!反撃だぁ!!!」

「「了解!!」」

歳若くとも激戦を超えたウィッチ達、そしてこれまで育んで来たチームの結束がここで輝いた。

逃走を始めるネウロイをそれぞれが足止にかかる。撃墜は考えなくていい、三人はそれぞれの持ち味を活かしてネウロイの退路を封鎖する。

再びバルクホルン大尉の持つ長砲身50mmカノン砲、BK-5が放つ一撃がロングレンジからネウロイを貫通して粉砕し二機同時撃破。

一機はバルクホルン大尉の狙撃を免れるがカノン砲の追撃を避け速度を落としたネウロイを他三人が集中攻撃をかけ撃墜、敵ネウロイ残り一機。

バルクホルン大尉は弾切れになったBK-5の砲身を掴む、バルクホルン大尉は固有魔法『筋力強化』を全力で発動しBK-5の剛性を高めながら大きく振りかぶる、ジェットストライカーの最大加速。

「私の仲間を…失わせるかーーーー!!!!」

バルクホルン大尉はBK-5をフルスイング、中型ネウロイは強烈な打撃を受けると中程から折れ曲がり、その装甲の歪みとひび割れはネウロイコアまで達してそれが砕け散ると共に最後の一機は爆散し撃墜された。

「すっごーい!バルクホルン!!」

「やったなバルクホルン!……バルクホルン?」

しかし幸運の女神がほほ笑んだのはここまでだった、全力かつ短時間における魔力を消費した結果は魔力枯渇によるブラックアウト、不幸にも安全装置が作動せず加速は止まらない。

このままジェットストライカーに魔力が吸い尽くされれば魔力の補助すらも失い安全装置が作動しない今、現在の速度で海面に墜落すればコンクリートの上に落ちるのと同じ結果を辿る事になる。

この状況に気付いたイェーガー大尉が全速力で追跡を開始するも速度の絶対差を覆す事が出来ずに距離を離される。

一秒、また一秒と近付くタイムリミット、しかし一歩及ばない、不幸にも安全装置が働かない状態はリミッターすら作動していなかった。

イェーガー大尉の胸中に渦巻く嘆き、そして溢れそうな程の悲哀――――!!!

 

 

「誰か……誰か!バルクホルンを助けてくれ!」

 

 

 

――――その時、フェアリィ星に一陣の風が吹いた。

特殊戦五番隊、B-3雪風がイェーガー大尉のすぐ隣でTARポッドを展開したまま慣性飛行を行う。

突如として現れた雪風にイェーガー大尉は一瞬警戒するも、戦闘機の持つその凄まじい程の能力を501JFWの中で誰よりも理解しているのはイェーガー大尉だった。

「お前…連れて行ってくれるのか?」

雪風は当然無言、イェーガー大尉はTARポッドにしがみ付くと雪風は加速を開始、絶対に手放さないように全力で力を込める。

イェーガー大尉が願ってやまなかった音速の世界、その光景を記憶する間もなく目下にバルクホルン大尉の姿を捉えた。

大尉は再び置き去りにされぬよう、慎重にバルクホルン大尉の体を抱きしめ捉えた、ジェットストライカーの緊急停止用のレバーを大きく引く。

魔力供給の断たれたジェットストライカーはバルクホルン大尉をイジェクト、推進力を失った呪われしジェットストライカーは重力に引かれて海へ落ちていく。

イェーガー大尉は減速しホバリング、バルクホルン大尉の生命反応を確認すると胸元に掻き抱いた。

再び強い風が吹く、雪風はその場に留まることなく引き返していく、数秒もする内に飛行機雲を空に遺して、もうその姿を捉える事は出来なくなった。

イェーガー大尉は妖精の肢体に触れた己の手を見るが何も残っていなかった。風の妖精、その名を冠する戦闘機は戯れの様に表れ、気紛れにその姿を消してしまった。

 




もう一話だけ続きます。

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