戦闘妖精雪風はストライクウィッチーズ世界の空を飛ぶ 作:ブネーネ
11話
私はある時、史上初の統合軍総司令部直属の多国籍組織、統合戦闘航空団第501部隊「ストライクウィッチーズ」へ取材の為に手紙でやり取りしたことがある。
ネウロイ撃墜数世界一位のレコードホルダー「エーリカ・ハルトマン中尉」やスオムスのトップエースの「エイラ・イルマタル・ユーティライネン少尉」も配属されるエース部隊だ。
私は501JFW設立を提言したミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐の他に事実上のNo.2である坂本美緒戦闘隊長にも取材の問い合わせをしたのだが、スカウトと物資の補給任務の為基地を離れているとの返答があり直接返答を貰って取材する事は叶わなかった。
しかしそれは現状の戦力では不足であり、態々スカウトしてまで人員を集めているという事で、それほどまでにスペシャルな戦力を揃えねばならない程切迫しているという事ではないのか。
(中略)
私は手紙の中でヴィルケ中佐にとある一つの質問をした「第501JFWを立ち上げるに至った経緯と問題」である。
中佐は「国が進んで一つになろうとしなかった。ウィッチは国の戦力であり、象徴であり、資産でもあった」と語った。
フェアリィ星では憎きジャムに国を追い出され、蹂躙され、汚染され、人の命が焼かれ、年若いウィッチが戦場を舞うこの時においても国は、人種は、人民は一つになれなかった。
これは人類の油断なのだろうか、もしもそうなら我々はこう言っているに等しい「ジャムは取るに足らぬ、人類に劣る害虫のごとき存在である」と。
(中略)
今世界には二つの惑星があるが、その星を支配した人類は未だ表れていない。同じように、その星を代表する人類もまた居ないのだ。
だからこそ戦わなければならないのではないだろうか。支配は出来ずとも所有する事が出来る、勝ち続ければここは我々の星だと宣言することが出来る。
私たちは逃げることは出来ない、逃げる場所なんて既に何処にもないのだから。
『ジ・インベーダー 著:リン・ジャクスン 第3版より抜粋』
「態々すまないな、ミーナ」
「大丈夫よ、フラウ達も帰って来て501も落ち着いたから」
「……すまないな、私はそちらにすぐに帰る訳にはいかなそうだ」
「むしろ安静にしていて頂戴、いつも頑張っていたんだから少しぐらい問題ないわ」
FAFロマーニャ基地、その特別病棟の一室、そこに坂本美緒少佐は未だ入院していた。
放射線の被曝による病状は即時的に表れる物ではないが、確実に坂本少佐の臓腑を犯すに至った。
その進行は魔法力によって奇跡的に抑えられているが軽度の慢性的な神経障害を患い、魔法力の使用や減少と共に命を緩やかな速度で蝕んで行く死病となった。
結果的に坂本美緒少佐の復帰は見込めず、カールスラントから昇格の辞令が出ていたバルクホルン大尉が少佐に昇格し戦闘隊長を引き継ぐこととなる。
「ミーナ、私はしばらくFAFに交渉へ行く、私に用がある時は特殊戦のブッカー少佐を通してくれ」
「美緒?何で貴女がFAFに?しかも特殊戦って……」
「FAFは私に貸しがあってな、無碍に出来んだろう。安心しろ、私はちゃんと501の味方だ」
「私には言えない事なの」
「すまない、ちゃんと手土産を持って帰るつもりだ、これでも刀を振るだけの女ではないつもりだぞ?」
そしてベッドの上で呵々と気持ちよく笑った、しかしそれも変わって真剣な顔になりミーナ中佐の手を取り囁く様に告げた。
「もし何か困った事があれば特殊戦を頼れ、人類連合軍やFAFも、ネウロイの本当の恐ろしさを理解出来ていない。FAFでも特殊戦は別だ、権力や思惑に縛られない最強の戦闘能力を持つ特殊部隊、お前達をきっと助けてくれる」
特に特殊戦との禍根があるミーナ中佐であってもここでは口を出さなかった、ただ取られた手を握り返す事で坂本少佐の安堵を誘うことはして見せた。
「そこに美緒、あなたは居るの?」
「ああ、私はずっとお前達と一緒だ」
そこからはただ他愛のない話が続いた、思い出話にも話が咲き、ミーナ中佐の時間が許す限り二人の時間は続いた。
「ねえ美緒、約束よ、必ず戻って来て」
「ああ、何があっても戻ってくる。約束だ」
後ろ髪を引かれる思いでミーナ中佐は退室し戦場へ戻る、死と隣り合わせの世界へ。
ネウロイ戦争は人類に被害を与え続けているが、特に被害が重大な戦地がこのベネツィア戦線である。
極端な話、ネウロイは通常兵器でも倒す事は可能だ、コアを撃ち抜くかコアごとネウロイ本体を撃破してしまえばいい、訓練された兵士の命と消費する弾薬に目をつぶれば難しい話ではない。
しかし陸戦型ネウロイと違い航空型ネウロイを撃破するのは陸上からでは難しい、射程範囲外から即死の光線をばら撒く兵器はなんにせよ恐ろしい。
ストライクウィッチーズの任務は例え仲間や友軍が犠牲になろうともこの航空型ネウロイを確実に撃破する事である、特殊戦の在り方とは何とも真逆なのだ。
そんな特殊戦が私達を助ける?ありえないだろう。
しかし例外もあった、話を聞く限り何人かのウィッチが
――――国を守るのが軍人だ、民を守るのが軍人だ、その為に戦うのが軍人だ。
感謝しよう、仲間の命を救ってくれた事を、しかし真に救うべき国と人間を守ってくれやしないのだ。
様々な国の滅びと民の死を高みから見物するエイリアン共、そう特殊戦だけではない、FAFこそ忌むべき敵だ。
そんな所に美緒を送り出せない、考えなおして貰わなければならない、ミーナ中佐は急いで踵を返して走った、走って走って戻った。
ミーナ中佐が病室を出てから時間にして10分足らず、坂本美緒が寝ていたベッドはもぬけの殻、以降坂本美緒は行方不明となった。
FAFロマーニャ基地、ブリーフィングルームを兼ねたブッカー少佐の執務室にて少佐は新しい意見書をFAF本部に提出した帰りの疲れを癒していた。
特殊戦は偵察と観察が任務であるからして、中立でこそないがこの戦争を俯瞰的に見る事もまた彼の仕事だった。
FAF各基地は各種電波や通信衛星を用いて情報のやり取りが可能だ、非常用のレーザー通信もある、特にブッカー少佐が何を言わずとも特殊戦の情報は各基地の戦術コンピューターによって常に共有される。
情報は膨大であるが、すべて高度な機械知性体によって処理されている、今回抜き出した情報はつまり対ジャム戦において人類はどれ程の戦果と損耗を上げているのかについてだ。
FAFは観察と地球防衛の任務に特化しているが自己防衛の為の戦力も持っている、実はFAFの損耗は人類連合軍よりマシというだけで決して軽くない。
むしろ食料や娯楽物資の提供、技術提供、現地の統合軍と上手くやっているFAF基地は協力して早期に警報を出したり出撃できる範囲でジャムと戦う等とフェアリイ星の統合軍を補助している立場にある。
とは言え国際地球防衛条約に則り積極的な攻勢には参加しない点では嫌われているが、FAF基地周辺の街等は必然的に守られているから現地住民からの反発は余り無い。
そしてFAFの軍人はその大半が前科持ちであるから銃殺の許可と正当防衛は比較的簡単に通る、現地で蛮行を働けば情状酌量の余地はない、先月も一人基地内で銃殺されたが容疑者は正当防衛を主張し不起訴となった、FAFの女は強かだった。
フェアリイ星で特に損耗の大きい戦地がベネツェア戦線だ、先日あったようにファーン二十四機とそのパイロットを一発のミサイルで補給拠点の基地ごと消滅するなど他の戦線と比べて極めて異常だ。
FAF本部としても頭が痛くなる様な数字を見てファーンⅡを優先的に配備する事を決定し、それまでの間は試験的に量産されたファーンが先日十八機納入された。
一部ではFAFを自分勝手な悪の象徴と考える人間も居るがそれは違う、そもそも誰もがジャム戦争がここまで大きくなるとは思っていなかったというのが本音なのだ。
FAFが戦争の一部に介入を始めた際はまだよかった、しかし想像以上の速度で増え侵攻するジャムの勢いを止める事は出来ずに結局今の様に不和を抱えたまま戦争を継続するに至る。
不幸はいくつもあった、我々も悪かったし、相手も悪かった。FAFが攻勢に参加できるように融和政策を講じなかった点、人類連合軍が国際地球防衛条約を改めず、改めを提唱する人間が居なかった点等々。
そして最たる不幸は人類連合軍と言えども、FAFとの話が出来るフェアリイ星人の代表者が居なかった事に尽きるのではないかと地球の国際ジャーナリスト、リン・ジャクスン女史も訴えていた。
そういった意味では各国のエースを纏めた人類連合軍直属の統合航空戦闘団、それを提唱し実現したミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐は歴史に残る偉人と言えるだろう。
とは言えども実際に会った時にはいたく嫌われていた、ブッカー少佐もそれを否定したり取り繕うつもりはなかった、彼もまたそれがどうしたと言える人間であるし、それが特殊戦だからだ。
しかしジャムは進化している、それもすさまじい速度で、俺達も変わらなければならない状況に追い込まれている。
昔はファーンだけでジャムと戦えたが今やFAF最強を誇る、そのコストから世界で三十機もないスーパーシルフでさえその存在を脅かされている状態だ。
しかもその内FAFロマーニャ基地にはスーパーシルフが十三機配備されている、これだけでもベネツェア戦線の恐ろしさも分かるだろう、しかもジャム機らしいスーパーシルフの姿を二度も捉えているのだからFAF本部の恐れは相当な物だと思われる。
今回ブッカー少佐が求められている意見書も本部が恐れを解消する為、内容はFAFの次世代型戦闘機とその運用についてだ。
現在FAFでは特殊戦のスーパーシルフを含むFAFの殆どの戦闘機を無人化するプランが主流として進行している。
先日のファーンⅡのフライトテストは実際にジャムを撃墜した事をFAFの中では評価され、戦闘機の無人化は有効であると判断されてしまった。
しかしブッカー少佐は否定的だった、今回提出した意見書には無人機雲耀の危険性と何故特殊戦とウィッチが生還できているのかを纏められている。
特殊戦のスーパーシルフはそれぞれ機械知性体と呼ばれるAIを搭載しているが、実はパイロットの影響を受けて成長する為に同じ物は二つとして存在しない。
ジャムは進化して学習しているのはこれまでの結果から一目瞭然だ、学習しているのだから同じ動きをする機体などすぐに学習され対応し撃墜されてしまう。
ストライクウィッチーズがこれまでの激戦をくぐり抜けて来れたのは各国の開発したストライカーの特性、個人それぞれの固有魔法、経験豊富なエース達の集まりだからこそ、多様的な運用を行う事が出来る為にこれまで生存して来たのだ。
つまり人間の持つ勘や多様性を機械知性体から奪う事は運用としての柔軟性や生存能力を失う事に他ならないという事だ。
よってブッカー少佐は二つ目のスーパーシルフを超える戦闘機の開発について、新鋭機には一定期間、つまりは機械知性体の訓練期間として特殊戦のパイロットを使用して教育させる意見書を提出した。
FAF本部の中央制御コンピューターはこれについて否定的であり、その人間的な多様性こそ機械知性体の処理能力で賄える事が出来ると主張した。
ブッカー少佐はそこで改めて確信した、この学習する機械知性体は人間という予想の出来ない動きをするイレギュラーが面白くないのだ。
それがジャムに対して有効なのだとそれでもブッカー少佐は引き下がらなかった、激戦地であるベネツェア戦線において帰還率百パーセントを誇る人間の反応やジャムにも予想できない動きこそ今の無人機に求められているものだと。
それに無人化を否定しているわけでは無い、この一定期間が重要なのだと重ねて意見した。
これを受けてFAF本部の中央制御コンピューターは部分的に採用、無人機と有人機の新鋭機を制作しこれを最も激戦地であるFAFロマーニャ基地に配備する事を決定する。
完全無人型のシリアルナンバーはFRX-99、識別名はまだ無い、そしてスーパーシルフを超える処理能力と生まれたてのクリーンな機械知性体を搭載する。
これが実際に配備され戦果を上げればパイロットが空を飛ぶことは少なくなりいずれ特殊戦は無人の部隊となる、雪風もまた無人でフェアリィ星の空を飛ぶだろう。
寂し気で儚げな表情を浮かべる深井中尉の顔を思い出すが、頭を振って追い出した。
彼にもまだ仕事はある、有人型の新鋭機FRX-00、未だその詳細は知らされていないがFRX-99を素体とした特殊モデルらしい、そしてFAFが開発した百番目の機体となる。
それに伴いFAFロマーニャ基地に特殊戦の新隊員がシステム軍団から派遣されるらしいが詳細は不明だ、しかしブッカー少佐も深井中尉も今と同じ特殊戦として働けるどうかは分からないのだ、分かった時に考えればいい。
深井中尉のラストフライトは近い、ブッカー少佐は今の内から友にかける言葉を、何か出来る事はないかを考え始めていた。
ついに第三章に入る事が出来ました、皆様のご感想と評価のおかげです!ありがとうございます!!
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