戦闘妖精雪風はストライクウィッチーズ世界の空を飛ぶ   作:ブネーネ

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13話

ブッカー少佐とミーナ中佐を連れて、ハンガーに案内していると三番機の位置に雪風の整備を行う深井中尉の姿を見つけブッカー少佐は声をかけた。

「零、丁度いい、少し付き合えよ」

「ジャック―――いえブッカー少佐、ヴィルケ中佐殿をお連れして何か御用でしょうか」

「何、先日届いたFRX-99をお見せしようと思ってな、丁度いいからお前も来い」

「了解しました」

FAFロマーニャ基地第三格納庫、整備場を兼ねたこの場所に新型戦闘機が収められている、対応する入庫証をスライドリーダーに通し格納庫の大きなスライドドアが大きな音を立てて開いていく。

優美な白色の戦闘機が一機佇んでいる、戦隊マークやペイントは施されておらずそれは雪風より僅かに小さい。

「FRX-99、スーパーシルフよりも二十パーセント軽い、エンジンの軽量化に成功したおかげだ。双発のマークⅪを搭載する、どんな急激な機動をしても吸気に支障がない」

「バックは出来るのか」

「そんな事は考えられていない、雪風だってエンジンが停止した」

「質問よろしいでしょうか、ブッカー少佐」

「はい、ミーナ中佐」

「この新型戦闘機は一機だけなのですか?」

「ええ、現状では。コイツは試験機で後々現在使用されているスーパーシルフと入れ替えで特殊戦に配属されます、特殊戦は解体ではなくその形を変える事になる」

「雪風はどうなるんだ、ジャック」

「無人の新戦隊に異動になる、これは出世だぜ、とはいえどんな任務に就くことになるかは俺にも分からん」

「いつから特殊戦は無人戦隊となるのですか?」

「明日がラストフライトです、この深井中尉がTAISポッドを指定のポイントに投下したらそれで」

「そうですか…」

勝手な話ではあるがミーナ中佐は目の前が暗くなる様な思いであった、一縷の望みをかけて来たもののそれが不可能であるとされれば猶更。

組織の長であり中佐の階級を得ても彼女はまだ19才、ブッカー少佐達からすれば未成年の子供だ、それをただ追い返すのは気が引けた。

「ミーナ中佐、お時間はありますか?」

「え、はい、ブッカー少佐」

「もしよろしければこちらで昼食は如何でしょう、私達はお互いの事を知らなすぎる」

「あ……はい、ありがとうございます」

「零も来い、雪風の整備は後でも出来る」

「了解しました、少佐」

 

 

 

 

初めて入る特殊戦のブリーフィングルーム兼ブッカー少佐の執務室、そこには雑多に荷物が置かれていた。

窓に面する壁にはブーメランが飾られ、他の壁際にはチェス等のボードゲーム、手芸用の糸とカギ棒、この星の物ではない綺麗な装丁の本等が雑多に置かれている。

「ミーナ中佐、散らかっていて申し訳ないのですがこちらに」

「この荷物は?」

「ああ、この部屋は隊員が暇つぶしで屯する事が多くてその荷物が置きっぱなしになっているんです」

「ですが隊員にも私室があるのでは?」

「ええ、しかしスクランブルの可能性がある隊員は私室では待機出来ませんからね、そういう奴らが暇を潰す為にここに来るんです」

「少佐の執務室で?」

「私が勝手に執務室にしてるんです、それに特殊戦の人間は騒ぐことはしませんからね、静かなものです」

そう言って少佐が私をソファに案内するとFAFの人間が食事を運んできた、スープがまだ湯気を立てている。

プレートには補給が未だ豊富ではないミーナ達にとって豪華な食事が載っていた。

「とても美味しいです、少佐達はいつもこの様な食事を?」

「いえ特別に作らせました、それに豪華と言ってもそれを楽しめる人間でなくてはね、例えば―――」

「ジャック」

「深井中尉は以前豆とピーチを混ぜて食べてたんです、あれ見た時は絶対に俺の部隊に来てほしくないと思いましたね」

「豆とピーチを……?」

「コイツがロマーニャ基地に来たばかりの話です、色々な基地を渡って最後がここだった」

「昔の話だろう、いい加減に忘れろ、何回話すつもりだ」

「深井中尉、豆とピーチは混ぜて食べると美味しいのですか?」

正直想像できない味だ、異世界人の舌と味覚は私達と違うのだろうか?そう考えるもまさに今、口にした食事は自分達からしても十分な味がした。

「……味は覚えていないし今では食べたいとも思わない。ジャムの攻勢が今よりも過激だったころの話だ、俺も雪風も特殊戦に入ったばかりでまだ未熟だった。スオムス、カールスラント、ガリアと戦線を点々として、補給の間に食事と仮眠をとってまた戦場に向かう、何も考えられない、味なんて分かるものか」

「深井中尉は、四年前のダイナモ作戦にも参加していたのですね、私も参加して撤退の護衛に当たっていました」

「ダイナモ作戦は特に酷かった、どのジャムも当たり前の様にビームを撃つようになったからな。例え高高度でも狙ってくるから生き残るだけで精一杯だった」

「特殊戦はいつでも余裕だと思っていました、それこそ私達を高みの見物で笑っているものかと」

ネウロイは理不尽だ、ネウロイの出現初期は機関銃の様な攻撃が主だったが、欧州の大規模侵攻の際には陸戦型や空戦型がビームを放つようになった。

ビームに耐えられる装備や建造物は未だ存在しない、その速度は一般の兵士からして狙われた時点で終わり、ネウロイに追われれば逃げる事は叶わない。

そう、『彼』は逃げる事は叶わなかった。

「俺の命よりも情報を持ち帰る事が優先される、そもそも高速離脱の為の機体と自衛目的の武装しかないんだ、他に気を回す余裕なんてない」

「でも特殊戦はウィッチを何度か助けてくれました、あれは何故?」

「俺の意思じゃない、雪風がやったことだ」

「その雪風が決めたのなら、私達を助けてくれるのですか?」

「そうするだろう、ただ何故ウィッチを率先的に守ろうとするのかは俺にも分からない」

「深井中尉は、死ぬのは怖いですか?」

「死ぬのが怖いというのは良く分からないが少なくとも死ぬつもりで戦ってはない、雪風が居て、その雪風が敵がいると言うなら俺は戦う」

私は特殊戦を誤解していた、彼等とて遠くとも戦場に立っている、FAFの損耗の多さは私も聞いているのだ。

そして誤解という誤魔化しは、私は私の心が折れない様に負の感情の捌け口として憎んでいただけだった。

ネウロイは憎い、そして心の底から憎いからこそこれ以上憎めない、だからこそ他の何かを憎まなければならなかった、―――誰も助けてくれないから。

これは懺悔だ、誠意を示すと共に私の後ろ暗い感情を断罪してもらう為の、そして哀れな自分を晒して情けを貰おうとする醜い行為だ。

「私がストライクウィッチーズの結成を決めたのはダイナモ作戦、いえパ・ド・カレーで整備兵として参加していた彼を失ったことが切っ掛けでした」

「彼、といいますと」

「クルト・フラッハフェルト、私の恋人でした」

胸元から唯一残った一枚の写真を取り出す、共に音楽の道を進むと信じていた穏やかな日々、彼さえ生きていてくれれば他に何もいらないと思っていたのに、

「彼は撤退戦の際に放棄された基地に取り残されて死んだと聞いています、私に残されたのは彼からのプレゼントだけ、故郷と仲間の多くを失いましたがそれがトドメになりました」

「中佐、私はジ・インベーダーを読みました、ストライクウィッチーズが当初各国から否定されていたことも」

「その通りです少佐、先程貴方は世界の人間はジ・インベーダーを読むべきといいましたが、こちらではジ・インベーダーが発売されていない事を知っていますか?」

「そうなのですか?こちらの世界の人間にも伝わる様に書かれた本だからこっちでも販売しているものかと」

「私の不満が詰まった本ですから発売どころか存在すら知られていません、そもそもFAFがこちらで販売する本はその大半が人類連合軍によって流通を今でも禁止していますよ」

「おお、なんて愚かな事を、人類連合軍とは名ばかりでしかないのか」

「その通りです、例えばノーブルウィッチーズなんてまさに各国の権力者による思惑の坩堝と聞いています」

「……やはりストライクウィッチーズの結成は奇跡だ、尊敬しますよ」

「全てはネウロイに勝つためです、目先の勝利ではではない、自分達だけの勝利ではない、その為にネウロイに勝つための組織が必要だった」

「分かりました、ご協力しましょう。貴女は一度私達の長、特殊戦副指令のクーリィ准将と話すべきだ」

「特殊戦の副司令と……ですか?」

「私達に出来る事は限られていますがクーリィ准将なら何とか出来るかもしれない、何しろ特殊戦を自ら立ち上げた女傑だ、中佐にも利益を齎してくれるかもしれない」

「ありがとう、ございます……」

「なに、説得してみせますよ、どうせ私もしばらくは暇になる」

 

 

 

 

「随分と優しいじゃないか、ジャック」

「うるさい、元々本部のコンピューターには嫌がらせの一つでもしてやりたい気分だったんだ」

「それが本音か」

ミーナ中佐を送り出し、執務室に戻ってそれらしい文章を唸りながら作成するブッカー少佐を茶化しながら深井中尉は量を多く作るだけを考えられた不味いコーヒーを飲んでいた。

「俺の考えをどうしても認めようとはしない、元々胡散臭い奴だ、除雪隊の隊員が英雄にしか授与されない武功章、マース勲章を授与された件とかな」

「スオムス方面の基地だったか、あれは結局どうなったんだ」

「大々的に授与されたとも、正式にだ、しかしそれが正当であるという理由は誰にも分からなかった」

「そもそも勲章は何処かしらの人間が決めるんじゃないのか、それが何故本部のコンピューターの胡散臭さになるんだ」

「勲章の授与を決定するのは最高参謀の叙勲委員会なんだが、実は人間が決めているんじゃないだ」

「そうなのか?」

「推薦を受けると本部のコンピューターがプロフィールを読み取り、その成果や戦績を元に実績に見合う勲章を決定するんだ」

「知らなかった、勲章には興味はないからな」

確かにこの男なら名誉ある勲章でも文鎮にするか、ベッドの下にでも転がっているだろうとブッカー少佐はふと考えた。

「ともかく不信感を覚えた俺は本部の人間を言いくるめたら、本部の地下コンピューターまで案内されたのさ」

「年甲斐もなくはしゃぐと怪我するぜ、それで?」

常に周囲に興味を持たない様に思われているこの男も、こういう所ではいい性格をしている。

いつものやる気のない顔に若干の興味を乗せた零に促され、自分の手を一度止めて先程手渡された不味いコーヒーに口を付けて続きを語った。

「前に俺が言った事、覚えているか?」

「含意が大きすぎる」

「機械の方が人間を必要ではないと思っているっていう話だ。コンピューターはまるでお遊びの様に勲章を授け、その除雪隊員は勲章に殺された、除雪作業を無人化して機械が操作できるように生贄にされたんだ」

元々ブッカー少佐は機械が嫌いと言って憚らない人物だ、その発言における根本は分からずとも彼は、真に疑うべきはコンピューターであると訴えた。

「それで、結局何が言いたいんだ」

「機械を信じすぎるなという事だ。零、お前は明日のラストフライトが終わったら地球に帰れ」

「俺には帰る場所なんてない」

「他の奴なら喜ぶところ……とは言い切れないが、少なくとも機械に殺されるよりはマシだろう」

「俺は……」

「ああ、それか俺と一緒に管理部でもいいぞ、お前のこれまでの功績を挙げれば大尉位にはなれるだろう。しかし覚えておけよ零、フェアリイ星でも地球でもジャムとの闘いは続いていく」

「―――今は何も答えられない」

「そうか、俺も飛ばない気楽さを選んだつもりだった、それでも気苦労は絶えないがな。お前は雪風から卒業するんだ、この先の事は自分で決めろ」

「ジャック、雪風の整備に戻る」

「許可する、ラストフライトは明日の0900時だ、遅れるなよ」

「了解」

 

 




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