戦闘妖精雪風はストライクウィッチーズ世界の空を飛ぶ   作:ブネーネ

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14話

「これが雪風のラストフライトだ」

いつもと同じ様に時は過ぎ、遂にこの日が訪れた。

特殊戦五番隊、三番機パイロット深井零中尉、同じく三番機フライトオフィサのリチャード・バーガディシュ少尉。

二人のブーメラン戦士は平時と同じく無表情でブリーフィングルームでブッカー少佐のフライトプランの最終確認を受ける。

「今回の任務は先日伝えた通り自動戦術情報収集ポッド、TAISポッドを指定のポイントに投下する事。終わり次第帰投せよ」

「質問がある、今更だが何故こんなミッションを有人飛行で雪風にやらせる、俺を乗せる必要が何処にある」

それは冷たい声色だったが長い付き合いのブッカー少佐は零の、人間が持つ複雑な感情を混ぜた思いを聞き取った。

どれだけ手を尽くしても、問題を先延ばしにしても―――これが最後だ、雪風が人を乗せて飛べるのは。

「今回飛行するベネツィアの海岸線付近はジャムの警戒空域に近い場所だからだ、何かが起きた時には人間の勘が必要だ」

ワザとらしいと分かる誤魔化しにもブーメラン戦士達の表情は変わらない、いつもと同じだ、今日も彼等を死地に送り出す。

ハンガーにて発進前の最終チェック、それが終われば二人は雪風に乗り込み飛び立つだけになった。

「零、必ず帰って来いよ、これは命令だ」

「いつもと同じ、ジャムが来たら只管逃げて帰るさ」

「帰ってきてまだ空を飛ぶつもりがあるならお前に新しい機体を任せてもいい、今の雪風よりも高性能な奴を」

「FRX-00とやらか、ジャック、俺は雪風以外に―――」

「雪風はもう十分に成長したんだ。雪風はお前の恋人やペットじゃない、FAFの戦闘機なんだ」

「あんたが何も言わずに、今日という日が来なければと思ったよ」

「そうか、だがケジメは必要だ。少なくともお前は今日雪風から卒業する、八つ当たりでもなんでも付き合ってやるさ」

ラダーを昇りブーメラン戦士がコックピットに収まる、雪風の最終有人飛行が始まる。

 

 

 

雪風はタキシングして滑走路の発進位置へ向かう、この段階に至っても俺の心の中で雪風と別れるという事に実感はわかなかった。

考えた事も無かった、最後まで一緒だと信じていたのに生き別れになるとは、―――まるで裏切られた気分だった。

裏切られる、そう、俺が雪風を必要としている様に雪風も俺が必要なのだと信じていた。

スーパーシルフがその腹にTAISポッドを六個抱えてリフトオフ、その少し先に先導して無人の特殊戦機二機が護衛機として飛ぶ。

雪風は自動操縦で任務を遂行する、IFFは味方機を示し、雪風は無人の戦闘機と話し合うかの様に編隊飛行用データリンク。

四十分程飛行してもコックピットの二人は無言だった、今更談笑する仲でもないし緊急時でもないのだから話す必要もない。

雪風は自動で空中給油機とデータ交換を続ける、それを俺はよりにもよって雪風に除け者にされた様に嫉妬を覚えてワザとコントロールスティックを僅か動揺させた。

「いい機体だな、乱気流の中でも安定している」

後席のバーガディッシュ少尉が感心したように呟く、この凪いだ空で乱気流だと?

それは違う、雪風は俺の操作を乱気流の影響による動揺として処理したのだ、俺の操作を無視する為に。

ジャックが度々言っていた事を思い出す、雪風は雪風なりに意識をもっているのだ。

ままならない思いを抱えてずっと生きて来た、俺という存在に必要な物を求めて生き続けている、『世界』に裏切られた時からずっとずっと。

俺が生まれ育った今の地球には本当の意味でのパーソナルなマシンは存在しない、どの家庭にもあるコンピューターは常にネットワークに接続されている。

マシンの中には最低限の記憶領域のみ搭載され、クラウドサーバー内に構築された一定の領域を国民に分け与えられる。

そして誰かが例え下らない雑事であろうともコンピューターに指示すると国の管理する全てのコンピューターに処理が分配される事で演算される、オフラインにして一個のコンピューターを私用するという事は、国の財産を不当に使用するという事で処罰される。

俺にはコンピューターしかないのに、俺の真に望むソフトとハードを合わせたパーソナルコンピューターはいつの間にかくそったれな民主全体主義国家に駆逐されていた。

―――そう言えば俺が作ったマシン、名前はなんだったか。

俺が裁判にかけられフェアリイ星に送られる事を良しとしたのは文化が進んでいない分、原初的だとしても本当のコンピューターが存在するのではと思っての事だった。

しかし俺が思っていた以上に前時代的でコンピューターが生まれるのはもっと後の事だろうと思い落胆している時に雪風に出会って全ては変わった。

雪風は機械知性体という『個』だった、優秀なソフトとスーパーシルフという優れたハードの融合体。

他に何もいらないと心から思えるくらいに夢中になった、そしてそれを最大限に発揮できる戦場を俺は好んだ、俺が戦う理由はそれだけだ、ジャックやミーナ中佐の様な理由なんてない。

「少尉、作戦区域に入るぞ、針路を確認しろ」

「自動のままでいい、あと500キロメートル進んだら高度を下げる。その先はジャムの緩衝警戒空域だ、偵察情報も数回分しかない、イレギュラーに注意」

雪風は給油機から離れて加速を開始、目標地点に近づくと上空に無人の特殊戦機を残したまま超高速低空侵攻を開始。

「少尉、爆撃システムの再チェック」

「了解」

遠くのアドリア海上には暗雲に包まれたジャムの巣が見える、ジャムの前進基地とも言われているが本拠地も資材の搬入経路も詳細不明、出現位置不明のジャムもいる事から全てがジャムの巣から出撃するわけでもないらしい。

よってベネツィアのジャムの巣から半径150キロメートルは警戒空域として特殊戦機だったとしても偵察は認められていない、今回飛行するエリアはそこから更に50キロメートル離れた緩衝警戒空域だ。

雪風は自動でTAISポッド射出地点へ超音速で突入、対地爆撃モードを全自動モードから手動モードに素早く切り替える。

「中尉、何をする気だ?」

「最後なんだ、俺にやらせろよ」

雪風は警報を発する事なくHUDに表示された第一目標に近づくと俺はレリーズスイッチを押してTAISポッドの一機目を射出する。

二機、三機と続けて射出し五機目まで射出、残り一機となったところで後部座席から警戒せよの声。

「TAISポッドの四機目が警戒信号を発信している、しかし雪風の受動レーダーには反応なし」

「早く調べろ」

「これは……中尉!下だ!緊急回避!」

衝撃が雪風まで伝わったかの様な轟音、砂浜を地中から突き破るかの様に急激に表れたジャム戦闘機三機が高速で急上昇して襲い掛かる。

謎を解き明かす暇はない、俺は最後のTAISポッドを投棄すると共にオートマニューバイスイッチとVmaxスイッチをオン、ユーコピー。

雪風に全ての操縦と武装の使用権を譲渡すると急旋回を開始、対ジャム戦闘を開始、アイコピー。

突如地下から現れたジャムは以前の高速ミサイル並の速度でこちらに迫り来る、移り変わる景色が速すぎて目視は出来ないが雪風のドップラーレーダーはジャムを捕捉している。

雪風は短距離AAMを発射するもジャムはすぐさまビームでミサイルを撃ち落とす、お返しとばかりに放たれた高速ミサイルを雪風は急激な機動で回避、パイロット達は一瞬ブラックアウト。

「任務を中止して高速離脱しろ中尉」

「止まらない、雪風は―――戦うつもりだ」

言われるまでに何度か試したがオートマニューバイスイッチが解除されない、雪風はジャムを見逃すつもりは無いらしい。

このまま俺はオドンネル大尉の様に雪風に殺されるのだろうか、次の瞬間ディスプレイに火災発生の警告、緊急脱出せよのサイン、間もなくキャノピーが自動で射出される。

間違いない、雪風は俺と言う存在を邪魔と認識して排除するつもりだ、続いて俺とバーガディッシュ少尉は射出された。

コックピットに内蔵されたパラシュートが開き地上に緩やかに落下する、そこは運よくジャムが飛び出て来たあの砂浜の上だった。

座席から拳銃を取り出し相方の行方を捜す、視界に白い膨らみを捉えると風に流されたのか離れた場所に落ちた様だ。

上空では自分達という枷を外した雪風が獰猛な獣の様に高速のジャムを相手にドグファイトを仕掛けている。

もしかしたら、

しかし何故雪風は自分達を逃がしたのだろうか、確かに俺はあのままでは勝てないと思って脱出するつもりだった、どうせ最後のフライトだから躊躇う事もしなかった筈だ。

もしかしたら雪風はその意を汲んで俺達を逃がしたのかもしれない、あるいは自爆を選ぶ可能性を恐れてすぐさま排除に動いたのかもしれない。

しかし今更どうでもいい事だ、勝敗の行方がどうなろうとも俺達にはもうどうしようもない。

随分と流された相方を追いかける内に上空にウィッチ達が現れた、TAISポッドの受信機はベネツィア基地にも置かれていた筈だからそれで気が付いたのかもしれない。

せめてFAFロマーニャ基地で帰りを待つジャックに連絡を入れる為に無線を貸してくれないかと上空のウィッチに向けて手を振る、上空で偵察している特殊戦機が既に報告をしているかもしれないが義務は果たすべきだろう。

ウィッチが一人降りて来る、ヴィルケ中佐だ、武装した彼女を見ても本当にこれでジャムと戦えるのかと不安にも思う。

「深井中尉、大丈夫ですか」

「体に問題はない、雪風が戦っている、無線機を貸してくれないか、FAFロマーニャ基地と連絡を取りたい」

「私達の使うインカムは魔道具です、私の中継があってもよろしければ」

「それで構わない」

ウィッチ達が用いるインカムを始めとする様々なアイテムは魔力を利用する為に一般人には利用できないらしい、曰く魔力を電源として、更には『電波と同じ様に振舞う』様に調整した魔力を使うかららしい。

「その前に一体どういう状況なのですか?」

「前もって提出した作戦プラン通りにTAISポッドの射出任務中にジャムが現れた、雪風は俺達を排除して戦闘を開始」

「貴方たちはネウロイの警戒空域に侵入しましたか?」

「緩衝空域のみだ、フライトプラン通りに飛んだ、ジャムは突然地下から現れた、どこかに痕跡がある筈だ」

「了解しました、今連絡を―――」

「ミーナ!!危ない!!」

突如として空から響く少女の声、気づけば超低空飛行で飛んだジャムの衝撃波でミーナ中佐は俺諸共弾き飛ばされていた。

咄嗟の判断でパイロットスーツの肩に仕込まれた緊急救難ビーコンを作動させる、砂に塗れながら上下感覚の狂う中で俺が見たのはジャムを追いかけ音速で飛ぶ雪風の姿。

目の前で雪風が発火、対空ミサイルを発射した噴射炎だろう、遠くで起きた爆発の衝撃波で再び弾き飛ばされる、後頭部に衝撃を受けて俺は気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スクランブルを受けて発進したミーナ中佐、バルクホルン少佐を始めとしたウィッチ五人はネウロイと交戦する特殊戦機を発見した。

援護しようと速度を上げるがネウロイと特殊戦機の動きが激しすぎて誤射の可能性がある為に動けずにいた、以前の様な核兵器と呼ばれる兵器を装備している可能性があればなおさら。

しかし隙がない、せめてこちらに注目を集めようとしても私達の威嚇射撃は無視されている。

かつてない速度で特殊戦機とネウロイが飛ぶ、舞うように攻撃を躱しながらビームと曳光弾の光が明るい空を更に照らす。

あそこに飛び込めるのか?こんな戦いをいつも彼等は潜り抜けて来たのか?

「ミーナ、これでは迂闊に近づけないぞ」

「そうね、様子を見ましょう、総員流れ弾に注意して」

「これあの戦闘機がやられたら私達が相手するの?ヤダヤダー!特殊戦頑張れー!!」

「ハルトマン!!」

しかしここでこのネウロイを逃せば追跡は不可能だ、まず引き離されるだろう、一応の備えとして504JFWにも連絡を入れる準備をしておいた方がいい。

ふと視線を下に向けると手を振る人間がいる、近くにはパラシュートと思われる物体も見えることからFAFの人間だろう。

「あれは、FAFのパイロットスーツに見えますわ」

「え!?じゃあ特殊戦じゃん!あの戦闘機誰が動かしてるんだよ!」

「特殊戦の戦闘機は無人で動かせるのよ」

「無人で動かすのは例の件で禁止になったんじゃないのか」

「それは人類連合軍が決めた事、FAFは関係ないわ。私が確認に行きます、あそこにいる人間を多分私は知っているわ」

ミーナが特殊戦の下に向かった後、二人が幾つかの話を続ける中で状況が動く、ネウロイが突如急降下して猛然と二人に襲い掛かったのだ。

「ミーナ!危ない!!」

「お前達はネウロイを撃墜しろ!ミーナの所へ私が行く!」

「了解!」

煙が晴れた後には誰も居なかった、いくら何でも地上で吹き飛ばされたとして見通しのいいこの場所で見失うとは考えづらい。

シールドが使えるミーナも居たし、何かしらの痕跡すら残らないとは考えられない、もしその上で考えられるとすれば―――。

二人はネウロイにさらわれた?そんな馬鹿な、それこそ御伽噺の魔女じゃあるまいしあり得ないだろう、それでは二人は何処へ消えたのだ。

「トゥルーデ!ネウロイが逃げるよ!!」

「何だと!?」

「少佐!特殊戦機が追撃してるゾ!」

これまで激しく戦っていたネウロイが急に方針を変えるとなれば目的を果たしたという事ではないか、それはつまり初めから人間をさらう事が目的……?

ネウロイの巣に向かって高速離脱するネウロイ、それを特殊戦機は執拗に追いかけ自衛用の武装を全て射出する。

発射されたミサイル四本の噴煙を引いて内二発は三機中の一機を撃墜、残りは再びビームで撃ち落とされ残ったネウロイ二機は反転し特殊戦機に襲い掛かる。

ネウロイと特殊戦機がヘッドオン、それらが機銃とビームを放ちながら交差する瞬間であった。

別方向からのミサイル計八本がネウロイを特殊戦機ごと強襲し、そして全てが爆発した。

上空で待機する特殊戦機のミサイルだった、しかし煙が晴れるとネウロイの姿は影もなく消えた、あの特殊戦機と共に。

「皆いなくなっちゃたよトゥルーデ!」

「全周囲警戒!ネウロイがまだ隠れている可能性がある!ミーナ達を捜索しつつネウロイを排除しろ!」

以降三十分の懸命な捜索を実行するも手掛かりは掴めず後ろ髪を引かれながら一度補給の為に帰投を決定、その後の発進の許可は下りず捜索は一度打ち切られる事になる。

 




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