戦闘妖精雪風はストライクウィッチーズ世界の空を飛ぶ 作:ブネーネ
ミーナ中佐と特殊戦の二人、そして雪風の消息が途絶えてからすでに二時間が経過していた。
何かしらの事態が起きた際、己の処理できる事態の範疇にない無い場合は可能性だけでも報告しなければならない、501JFW司令が行方不明になったという事態はすぐさま人類連合軍に報告された。
しかし帰って来たのは『501JFWは総員基地にて待機、捜索及び救護は504JFWが引き継ぐ』という指令であった。
501JFWの至上命令は『ロマーニャ防衛』及び『ネウロイの撃破』である、よって501JFWウィッチをそれ以外で動かすには上層部の命令が必要だった。
それに中佐達が行方不明になった場所も悪かった、ネウロイの巣の緩衝空域の付近であった為に501JFWのレシプロ戦闘機を飛ばす事はかなり危険だ、発見出来ても突如として現れるネウロイから逃げきれない可能性もある。
そしてトラヤヌス作戦で負った傷は想像以上に深い、もしも不意にもう一度同じ悪夢が繰り繰り返されればベネツィアどころかロマーニャ壊滅は必至、故にその再来を皆恐れて余計な刺激を控えているのだった。
更にはミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐の死を望む高官の思惑が在るともガランド中将から言われているが裏付けは無い、しかし統合航空戦闘団構想が恨みを買うのは一部の人間にとっては当たり前の話と言えるかもしれない。
例えばトランプで大富豪をしようとして、J以上のカードは勝手に奪われると考えればどうだろうか、せっかく集めた貴重なコレクションを持って行かれたら、ボードゲームで駒を使えなくされたなら何を考えるだろうか。
しかも奪われて勝手に使われ、成果を出せば全て奪った人間の手柄になる、各国としてもウィッチを戦時費用の為に国債を集める為のプロバガンダや出資者の機嫌取り等に使うのが精々になってしまう。
結局の話そうなってしまうと国の信頼よりもウィッチ個人の信頼と発言権が増すばかりとなる、そしていずれ幾らかの年若い娘達が自分達の手間暇かけたキャリアと席を奪いに来るという事になる。
人類全体を救う為のストライクウィッチーズに、未だ若いミーナ中佐に足りなかったのはその配慮と工作の時間だ、せめて利益のすり合わせとストライクウィッチーズというカードの切り方さえ適切に行う事が出来ればこうはならなかっただろう、当然ネウロイ戦争中にそんな余裕は無かったのだが。
全員が悪人や無能であるわけではないのは確かである、でなければ今頃各国の連携は失われて分断しネウロイに擦りつぶされていただろう。
しかし成ってしまった事は仕方ない、後は自分に出来る事をするだけなのだがここに来てまで味方に足を引っ張られるとは思いもしなかった、普段の穏やかに笑うミーナ中佐も陰では自分の想像以上に手ごわい敵と一人で戦い続けてきたのだ。
戦友、あるいは親友失格だなと考えるもミーナさえ戻ればまだ取り返しがつく、その為には絶対にネウロイからミーナを取り戻さなければならない。
話は戻るが懸命の捜索の後、人類連合軍から指令を受けた501JFW所属のウィッチは指令通り待機させた、そして自分達よりも高度な偵察能力を持つ特殊戦の戦隊指揮官の協力を得る為に自分が単身FAFロマーニャ基地に乗り込んだというわけだった。
さすがに命令違反にあたるのだろうが緊急事態という事で自分を納得させた、宮藤軍曹の影響を本格的に受けた様だと皆にからかわれながら送り出されたが変わるという事は悪くない。
「やはり捜索機は、出せませんか」
「ご足労頂き申し訳ないが、事情はこちらも同じだった」
ブッカー少佐との面会はすんなりと通った、自分が着いた頃は大分荒れていたが一息付かせると力ない様子で背もたれに体を預けていた。
曰くFAFの航空戦闘団は部署が違う為に動かせない、特殊戦機は偵察任務以外で動かせない、これを勝手に動かそうとすれば即刻謹慎処分か銃殺刑まであると彼の上司に脅されたそうだ。
それならばと無人で飛ばしていた特殊戦機の映像を解析しても『状況不明、手掛かりも無し』という結果のみ。
FAFが誇る人工魔眼フローズン・アイにも希望的な情報は残されておらず、まるで神隠しだよ、そうブッカー少佐は嘆いていた。
既に三人はMIA判定を受けている、追加の捜索で発見されなければ捜索は打ち切りになるだろう。
「必ず帰って来いと言ったはずだがな、零」
「彼等が帰ってくると、少佐はまだ信じられますか」
「勿論です、だからこそ探しに行きたいのに幾らなんでもこれでは。いっそ空いてる機ならいくらでもあるというのに」
「いざとなれば私も私の権限で哨戒機を動かします」
「こんな状態にもならなければ協力も出来ないとは」
「ミーナ中佐一人に全て任せ過ぎました、少しでも気にかけていればこんな……」
「外様の人間が口を出すようですが、そうかもしれませんね。しかしそれでいいとミーナ中佐自身が考えていたのもあるかもしれません、良くも悪くもね、彼女には背中を預ける仲間もそうだが肩を寄せる味方が必要にも思えた」
「ああ……ミーナ中佐の思い人が亡くなった時に声をかけられなかった私にも責任がある。そうか、ミーナは真っすぐにしか進めなかったんだな……」
「互いにツケが溜まり過ぎましたようですね、バルクホルン少佐」
「ブッカー少佐も苦労をされているようで」
話し合う事もなくなり本格的に無断で発進するする準備でもしておこうかと思った矢先、テーブルに備え付けられていた電話が鳴る。
「はい、ブッカーですが」
『ブッカー少佐、ノイエカールスラント協同技術センターのハルトマン中尉がお見えになっております。如何いたしましょうか』
「協同技術センター……?分かった、俺の執務室まで通してくれ」
『了解しました』
「バルクホルン少佐、申し訳ないが一人来るので対応させていただきます」
「分かりました、私の事は気にせず」
「助かります」
数分後、執務室の扉を開いて現れたのは私のもう一人の戦友の妹ウルスラ中尉だった。
「失礼いたします、ノイエカールスラント協同技術センター所属、ウルスラ・ハルトマン中尉です……あれ?バルクホルン少佐」
「ハルトマン中尉?何故あなたがここへ?」
「今の私は人類連合軍とFAFの協同技術開発センター所属ですから、上から頼まれたものを届けに参りました。ブッカー少佐、確認と受領のサインをお願いいたします」
「これは……FRX-00、協同技術開発センターで作られていたのですか」
「詳細はレポートに記されていますがブッカー少佐の案を受けてFAF本部で製造されたFRX-99を協同技術開発センターにて改造したものがFRX-00になります。それと特殊戦副指令クーリィ准将から言付けを頼まれております」
「伝言?」
「はい、FRX-00が届き次第テストフライトを行う事、そしてテストフライトの飛行ルートは全てブッカー少佐に任せるとのことです」
深井中尉が目覚めた時にまず目にしたのは白い天井だった、最初はFAFロマーニャ基地の病室かと思ったが現代的と言えない窓のない簡素な部屋はそれを否定する印象を持った。
自分はフライトスーツとブーツをそのままにベッドに寝かされていた、パイロットスーツのあちこちに備え付けられたポケットは膨らんでおり地図や携帯食料、簡易的なサバイバルキットや拳銃がそのまま残されている。
部屋を見回してみるが簡易的なパイプベッドとサイドテーブルがあるだけ、窓が無い為に自分の居場所は分からない、痛む頭と思い倦怠感をそのままに情報を得る為に立ち上がって部屋をでようかと思った時に扉が開いた。
青白い肌をした女だ、白い服を着ているが看護師だろうか。
「目が覚めましたか」
「……一応な、雪風はどうなっている」
「雪風?ああ、あの機体は整備中ですよ」
「バーガディッシュ少尉は、それとミーナ中佐はどうなっている」
「中佐殿は軽傷ですが少尉は重傷です、残念ですが」
「ここは何処だ」
「病室ですよ、いまヤザワ少佐をお呼びいたします、体調も万全でないのですからベッドに横になっていて下さい」
看護師と思わしき女が出ていき、入れ替わりでFAFの制服を着た東洋人が入って来た。
しかし少佐着ているFAF戦術空軍の制服は色と形の細部が違うような違和感を覚える、それを伝えると少佐は笑った。
「目が覚めた様だが、頭を打ったようだな中尉」
「かもしれないな、衝撃は感じた。それでここは何処だ」
「TAB-14」
「TAB-14だと?トラヤヌス作戦でジャムに潰された筈だ、信じられない」
「地下空間は無事だったのだよ。しかし破壊されている筈という情報も重要でね、ここで周りには内緒で潜伏しながら支援しているわけだ、君達も私達が居たから助けられたのだよ」
「成程な、雪風は」
「燃料が切れてここに降りたよ、すまないがここには燃料が無くてな、そのままになっている」
「FAFロマーニャ基地に連絡を取らせてくれ」
「既に連絡しておいたよ、不時着したが無事だとな、君をよろしく頼むと言われたよ」
「それだけか?」
「それだけだとも。ところで中尉、雪風を整備したいんだが巧妙な保護装置で守られていて困っている、下手に弄れば自爆するだろう」
フライトスーツの胸ポケットの一つに入っている拳銃を意識した、この少佐は何を考えているんだ。
特殊戦の機体は厳重なプロテクトがかけられていて、正しい手順を踏まないと機密保持の為に自爆するのも確かだ、しかしコックピットのボタンを弄ったり機体の整備する位では問題がない筈だ。
「すまないが俺は特殊戦第五飛行戦隊の所属だ、あんたの命令は受けない」
「私は少佐だ、上官の命令は聞き給え」
「直属の上官ではない、おれはブッカー少佐から必ず帰還しろと命令を受けている、ブッカー少佐が自ら命令を解かない限りそれは有効だ、軍規ぐらい知っているだろう」
「知っているが、帰れなくなるぞ?中尉、雪風の電子システムの保護装置の解除方法を教えろ」
「雪風には触れるな、あれは俺の機だ」
「ではここにいつまでもいればいい」
「脅迫するのか?」
「雪風の整備が終わらなければ君は少佐の命令も果たせないぞ?まあいい、まずは体力を取り戻す為に休みたまえ。ここは前進基地故大した物はだせないが、美味い飯を用意させるよ」
そう言い残してヤザワ少佐は部屋を出ていった、やはり雪風が気になって探そうと立ちあがるがまるで雲の中を歩くような非現実感が襲い掛かる、ふらついて膝を付いてしまう。
扉が開いて看護師が戻って来た、俺を支えてベッドに連れ戻した。
「俺は早く戻らなければならない、雪風の下へ連れていけ」
「もちろん、ロマーニャ基地に戻れるようにします、中尉は少し休んだ方がいいわ」
許可の確認や説明もなく腕に注射器が突き立てられる、ゾッとする思いで振り払う前に注射器は抜かれていた。
看護師は無表情に俺を見下ろしていた、おやすみなさいと静かに言ったのは聞こえていた。
瞼が重くなる、俺は帰らなければならないのに、しかし抵抗する事も出来ずに俺の意識は深く沈んでいった。
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