戦闘妖精雪風はストライクウィッチーズ世界の空を飛ぶ   作:ブネーネ

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17話 終

何かに呼ばれるかのように俺は再び目を覚ました、やはり先程と変わらず窓のない白い部屋の中。

体調が幾らか戻ったのか先程よりもふらつく事はない、躊躇わずに立ち上がり扉を開けて廊下に出た。

やはり同じ様に薄暗い廊下を片方に進めば行き止まりだった、仕方なく戻って反対側へ向かうと廊下の右側にナースステーションが見える。

左に曲がって幾らか進むとそこには鉄の扉が見えるが非常口だろうか、俺には病人を隔離する為の扉にしか見えない。

俺が出歩いていることに気付いたのか例の如く看護婦が嫌な足音を立てて現れた。

「失礼ですか、御手洗ですか?」

「バーガディッシュ少尉は、ミーナ中佐は何処だ」

「申し訳ございません、少尉は残念ながら……」

「死んだのか、ならミーナ中佐の下に案内しろ」

拳銃を看護婦に向ける、拳銃から装弾済みを示すピンが出ているのは確認済み。

「困りますわ中尉、今の貴方はまだ万全はない、顔色も悪いままですわ」

「そんな事は関係ない、お前はただミーナ中佐の居る場所に案内すればいい」

「ミーナ中佐はフェアリィ症が重く今は眠っていらっしゃるのです、回復を妨げる行為は容認出来ません」

「これは脅しではない、医療器具が揃っているなら多少の傷でも塞げるだろう。もう一度だけ言う、ミーナ中佐の下へ案内しろ」

「……分かりましたわ中尉、しかし絶対に騒いだりしないで下さいね、それと顔を見たら部屋に戻って安静になさって下さい」

「いいだろう」

拳銃は看護婦に狙いをつけたまま、看護婦の後を追ってミーナ中佐の部屋へ向かう。

来た道を戻りナースステーションを越えて俺の部屋の前を通り過ぎたその先に、先ほどまで存在しなかった筈の部屋の扉があった。

見落としたのか、しかしそれはあり得ない筈だ、気怠い体を支える様に廊下の壁を触りながら歩いたはずだからだ。

扉の段差位なら触れば気付く、考えてみれば廊下の長さも違うのかもしれない、再びあの不快な虫の羽音の様な音が廊下に響くような錯覚を覚える。

「こちらになります」

「俺が一人で入る、お前はここから離れて絶対に近寄るな、何かあればすぐに呼ぶ」

「中尉、それは―――」

「交渉するつもりはない、怪我した方が物覚えが良くなるならそうしてもいい」

「……繰り返すようですが、決して騒がない様にお願いいたします」

看護婦が廊下の闇に消えていくまで見送ってから部屋の扉をノック、返事は無かったが扉を開けて入る事にした。

ミーナ中佐は眠っていたようだった。時折うなされる様に身じろぎし、汗をかいたのか額に髪が張り付いている。

少しだけ揺らして声をかけたが深く眠っているようで、この部屋から出たら二度とここへ戻って来れない予感がした俺は仕方なく壁にもたれる様に座って目覚めを待つことにした。

扉のL型のドアノブの上に方位磁石を乗せて誰かが扉を開けようとすれば音で分かるようにして、拳銃を持ったまま警戒しつつ目を閉じる。

友軍を見捨ててでも必ず帰還する事、それが俺に与えられた至上命令だ。

だからミーナ中佐を置いたまま脱出しても誰に責められることもない、ジャムを相手にしては犠牲をなくして勝つことすら危ういのだから。

俺はクルト・フラッハフェルトを知っている、ただし会話をしたわけでも顔を合わせた事はない。

ダイナモ作戦、世紀の大規模撤退作戦、その中でカレーの基地がジャムによって焼き払われた。

俺はそれをジャムのターゲットにならない事を祈りながら上空から眺めていた、ウィッチは上層部の指令によって基地に人間が残っている事を隠して脱出させられた。

基地に残された人間が何を思ったのかは知らない、しかし当時は名前も知らなかった男は一人格納庫から出て上空を飛ぶ俺達に向かって手を振っていた、何かを叫んでいるようだった。

雪風のカメラは彼の姿を鮮明に捉えていたが、彼の発言は雪風の集音マイクを以てしても全く聞こえなかった。

彼は基地と共に焼かれて消えた、俺はただそれをずっと眺めていた。

 

 

 

「深井中尉?何故あなたがここに?」

もしかしたら寝ていた事にも気付かったかもしれない程の静寂の中にミーナ中佐の声が聞こえた事で目を開く、ミーナ中佐の声は掠れていたが体を起こせる程度には余裕が残っているようだった。

拳銃を持っていると警戒されるだろうと思いセーフティをかけてサイドテーブルに置いた。

「落ち着いて答えてくれ、自分の名前と階級と所属、生年月日を言えるか」

「……ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ、カールスラント空軍中佐、第501統合航空戦闘団指令、1926年3月11日生まれ」

「ミーナ中佐、現状を何処まで理解しているか?」

「……ネウロイに襲われてから今まで気絶していて、さっき目が覚めたところよ、ここは何処なの?」

「一応は病室だ、体調はどうだ、動けるか?」

「ええ、気怠さは感じるけど動けると思うわ」

「ミーナ中佐、固有魔法は使えるか」

「ええ、今やってみるわ」

ミーナ中佐の固有魔法は『三次元空間把握能力』、一定の範囲に存在する人間やジャムの位置を把握できる能力である。

「……おかしいわね、魔法が使えないわ」

「何?ウィッチにそんな事が起きるものなのか」

「滅多に無いわ、例えばの話ですがこの空間にエーテルが存在しなかったら魔法は使えなくなる可能性はあるわ」

「ミーナ中佐、一緒に俺の部屋に来てくれ」

「何かあるの?」

「雪風にコンタクトを取る……落ち着いて聞いてくれ、ここはフェアリイ星じゃない可能性がある」

「……まさか地球へ連れていかれたの?」

「それは無い筈だ、地球に向かう為にはFAFの厳重な審査を突破しなければならない」

二人一緒に部屋を出て俺の部屋に戻る、ミーナ中佐をベッドに座らせて俺はサイドテーブルに置かれた小型のコンピューターを手に取る、画面に映る雪風にはキャノピが取り付けられていた。

「それは?」

「これで雪風にコンタクトを取るが気を付けろ、恐らくジャムが来る、しかも人型のジャムだ」

「人型のジャム?」

「確証はないが人間そっくりに化けたジャムだ、ここから脱出する際に躊躇うようなら置いていく、準備はいいか?」

「待って、もう少し詳しい情報が欲しい」

「恐らく俺達はジャムに攫われた、ここはエーテルが存在しない謎の空間、奴らの目的は雪風か雪風の持つ情報だ」

「分かったわ、それで雪風とコンタクトしてどうするの」

「ジャムを探させる、それで答えが全て分かる」

「……分かったわ、お願い」

小型のコンピューターを操作し雪風とコンタクトに成功したシステム音を確認するとメッセージを作成して発信。

『ジャムを探せ』

《JAM IS NEARBY / DANGER》

小型のコンピューターから発せられるのは、雪風が発した敵が近い事を知らせる警戒音。

小型コンピューターの電源を落とし念のために破壊した、間違いないここはジャムの基地だ、俺達を攫ってここまで連れて来た。

「ねぇ、何で壊してしまうの?」

「雪風の情報を守る為―――」

 

 

 

―――雪風にコンタクトを取るが気を付けろ、恐らくジャムが来る、しかも人型のジャムだ

 

 

 

俺は思わず飛んでその場から離れた、俺は拳銃を()()()()()に向けるが、彼女はまるで気にしていないかのように無表情でこちらを見ている。

俺と違いずっと眠っていた中佐、考えられるのはずっと投薬され眠らせていたのか、それとも()()()()()()()()()()

「ミーナ中佐、一つだけ頼みがある」

「何かしら」

「インカムを渡してくれないか、アンタのインカムなら外とも連絡できるかもしれない」

「……いいわ、こっちに取りに来て―――」

拳銃を発砲、ミーナ中佐の肩に命中して制服に穴を開ける、銃創からは血も流れず黒い穴がこちらを覗くだけだった。

「何をするの!」

「黙れ!ジャムめ!!!」

再度二発発砲、頭部に受けた一発を最後にミーナ中佐の様なものは動かなくなった。

しかし彼女の体に穴が開いたはずなのに彼女からは一滴たりとも赤い液体が流れる事は無かった。

看護婦の言葉がよみがえる、α-アミノ酸D型、確かにあの女はそう言った。

通常の人間はα-アミノ酸L型だ、α-アミノ酸D型は分子レベルで鏡面反転した光学異性体、目の前の中佐はD型ポリペプチドで出来た人間ではない化物なのだ。

扉を開け放ち廊下の奥にある鉄扉を開いて階段を駆け上がっていった、途中でよぎった考えが頭から離れない。

俺が飲まされた流動食は恐らくα-アミノ酸D型で出来た消化できない物質だったのだろう、では消化できるチキンブロスはどこから来たのか。

……恐らくはバーガディッシュ少尉だ、ミーナ中佐だったのかもしれない。

階段の先に四角く光が差し込む出口が見える、そこまでなんとか駆け上がり、そして外へ出た。

異様な光景だった、ベネツィアの前進基地と聞いていたが周りには森林があれど向こうは見渡せず、上にはセピア色の空と分厚い灰色の雲があるだけ、遠くの景色は霞んで消えたかのように何もなかった。

雪風は滑走路の上、地下の出口から四百メートル程の場所に雪風の姿を発見した―――その傍には一人の男が居た。

滑走を全力で走りながら男を呼び止めると振り返る男の姿、その男は深井零だった、深井中尉。

「ジャム!!」

ジャムの深井中尉から撃たれた脇腹に衝撃と激痛を感じるがすぐに応射した、深井零の形をしたジャム人間は崩れる様に倒れて動かなくなった。

脇腹の出血がひどい、なんとか失血を抑えるべく手で強圧したまま雪風に近づきラダーを昇った。

コックピットは無事のようだった、ふと違和感を感じてフライトオフィサ席を見た時誰かが座っていることに気付いた。

「誰だ!」

咄嗟に拳銃を向けるとそこには目を閉じて動かないミーナ中佐が居た、彼女はこちらの声にも反応せずまるで気絶しているかのようだった。

またジャム人間かと発砲しようかと思ったが気付いた、ミーナ中佐の左耳にインカムが装着されていた。

サバイバルキットの中からナイフを取り出しミーナ中佐の指の腹を軽く切ると赤い血液が流れた、少なくとも先ほどのジャム人間ではない。

俺はミーナ中佐のシートのハーネスが正しく取り付けられている事を確認すると雪風のコックピットに収まりエンジンをスタート、ECMを起動、雪風のエンジンが唸りをあげる。

「帰るぞ、雪風」

出血の止まらない俺の身体からどんどんと熱が奪われていくのが分かった、オードマニューバ、マスターアーム・スイッチをオン。

雪風は加速してリフトオフ、後ろを振り返るとまるで世界が崩壊するかの様に空と大地の全てが名状し難い何かに侵食されて消えていく、滑走路に一人だけを残したまま、あの金色の髪、あの姿。

「―――クルト・フラッハフェルト」

急速上昇、Gに押されて身体は更に悲鳴を上げる。突如として差し込む強烈な白い光、そして世界が開いていく。

気付けば俺は雪風と共にベネツィアの空を飛んでいた、どうやらフェアリイ星に帰って来れたらしい。

雪風が全身のセンサーと各種レーダーを駆使しつつ各所と通信を開始してデータの再設定を開始、速度や高度等の情報が環境に合わせた正しいものに調整される。

しかし脅威は去っていなかった、雪風のレーダーが後ろの敵機を捉えていた。IFF応答なし、ジャム製のスーパーシルフ(グレイシルフ)

警告なしのガン攻撃で右垂直尾翼と右エンジンが吹き飛ばされた、最早コントロール不能と感じて制御を手動に切り替えるも操作に反応する能力を雪風は既に持っていなかった、続けて左主翼も中程から破壊された。

雪風は奇跡的に森の木々をクッションにする様にして不時着した、衝撃で一瞬意識が飛んだが奇跡的に命を取り留めた。

ジャムからの攻撃は止んでいた、しかし去っていくのではなく上空でジャムが旋回を続けていた。

「雪風を解析する……つもりか」

俺は今更緊急脱出用レバーを引くつもりは無かった、雪風の自爆スイッチをオンにするが作動しない、自爆スイッチはフライトオフィサ席のスイッチもオンにしなければならない。

フライトオフィサ席にミーナ中佐が座っていることを思い出した、彼女まで巻き込む事はないだろうと考えミーナ中佐の座席を射出した、ここには俺と雪風が居ればいい。

雪風の後部から激しい炎が上がっている、このまま放っておいても燃料タンクに引火して俺ごと木っ端微塵に吹き飛ばすはずだ。

俺はゆっくりと目を閉じた、想像していた通りの、雪風と共に一緒に最期を迎える俺が望んだ終わり方だ。

ディスプレイから警告音、雪風が俺に別れを告げようとしているように思えて、俺は目を開いて霞む視界でディスプレイを捉えた。

味方機接近の表示、高速でこちらへ一機で飛んでくる戦術空軍機のシンボル。

「FRXとやらか……遅かった、遅かったよ」

もう何もかもがどうでもよかった、雪風と死ねるのだ、雪風は俺を裏切らなかった―――。

 

 

 

《LINK-FRX-00・05003 TRANS-CCIF》

 

 

 

「……何?」

雪風はこう言っていた、『特殊戦第五飛行戦隊機であるFRX00に、わたしの中枢機能を転送する』。

「雪風……」

止めろという声は全身の痛みに遮られた、雪風はこの機体を捨てるつもりだ、この俺という存在を捨てて。

ディスプレイに高速で1と0の羅列が流れていく、雪風の中枢情報がFRX-00に転送されていく、俺はそれを止める事が出来なかった。

転送終了の文字は見えなかった、雪風は転送を終えると機密保持の為に、自爆する際に不必要な俺という存在を外に射出したからだ。

射出された座席に付いていたパラシュートが俺を絡めとり、木々に引っかかって俺を縛り付けていた。

止めてくれ、まだあそこには雪風が居るんだ、俺をあそこで死なせてくれ……サバイバルキットのナイフは手元にない、仕舞う暇が無かったから捨ててしまった。

FRX-00がグレイシルフを撃墜した、雪風が放った空中波を受信した可能性があるから念入りに破壊する必要があったのだろう。

FRX-00は急旋回、対地攻撃用の軌道、FRX-00のガンがスーパーシルフに向けて短く火を噴いた。

スーパーシルフは胴体を粉砕されてそのまま燃料に引火して爆発、雪風であったスーパーシルフの金属片がベネツィアの空に舞う。

最早俺の意識は何も捉えて居なかった、存在意義を失われた俺は思考を放棄して意識を手放した。

FRX-00は完全自律飛行で深井零が放っていた救難信号をとらえて504JFW基地に送信した。

そのまま基地へ針路を変更する、FAFロマーニャ基地にFRX-00が帰還、TAISポッド六機の射出に成功、任務達成率百パーセント。

FAFロマーニャ基地の戦術コンピューターはFRX-00を雪風と認める、それはたぶんジャムも同じだった。

気絶したパイロット二人を乗せたまま雪風は自力で格納庫に戻っていく、明日の戦いに備える為に。

ベネツィアの森林地帯にて二名の要救助者を発見、うち一名は重傷の為に応急処置を施した後501JFW基地に運び込まれた。

しかし依然として二人の意識は戻らない。偶に目を開けて、そして閉じるだけ、植物人間や脳死状態ではないが意識レベルがあまりにも低過ぎた。

最先端の医療技術を持つFAFロマーニャ基地に移送されるも回復の兆しが見られず、長期の療養が必要と診断が下りる。

501JFWは一時的に504JFW戦闘隊長、竹井醇子大尉が指揮を取る事となる。

 

任務完了―――ブーメラン戦隊の帰還率、百パーセント。

 




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