戦闘妖精雪風はストライクウィッチーズ世界の空を飛ぶ 作:ブネーネ
頭を抱えたくなるような問題が未だ山積みのまま今日もデスクの前で固まっていた。
深く悩むたびにFRX-00に乗った時に痛めた頸部が痛む、神経ブロックも考えたが特殊戦の主治医は酒が入った最初の五分間しかまともに働けない。
深井中尉は車椅子に乗ってブッカー少佐のデスクの傍にいた、こうして毎日一時間程は連れ出すようにしていた。
病院に居れば病人だが零は戦士だ、特殊戦のエリアに居ればこそ戦士にふさわしいだろうと俺は考えていた、少しでも多くの刺激を与えて零の目覚めを祈る為に。
気分を変える為にカップを二つ取り出しココアを注いでデスクに戻る、飲むか?と零に聞いた。
零は応えなかった、僅かに目を開けてはいるが身じろぎすらしない。
「特殊戦はFAFの陰の参謀と言われているのにココアを入れるのも洗うのもセルフサービスだ、気の利いた美人の秘書が欲しいものだ、お前もそうは思わないか?」
俺には関係ない、それはあんたの問題だろう、お前ならきっとそう言うだろう。
この二か月の間に零の様子には殆ど変化は見られない、それでも雪風の名前には反応しているような時もあり目を閉じたままでも微かに動く時もあるのだ。
これまでに二度だけ目を開いた事があった、外界との何に零が反応するか知りたかった俺は零の頭に脳波をリアルタイムでモニターし、ロマーニャ基地の何処にいても戦術コンピューターが受信できるように設定した装置を取り付けた。
「零、信じられるか?お前は今特殊戦が誇る戦術コンピューターがモニターしている、それだけお前は注目されているんだ」
俺の声に対してやはり無言、未だに零が外界の刺激に反応しているというデータは取れていない。
しかし自分が話した内容や外で何かが起きた時に脳波と相関を見つけ出す事が出来れば、俺はそれを会話かコミュニケーションだと言えるだろう。
FAFの技術力があっても思考を読み取り言語化する装置は開発されていない、現時点で似たような装置としてはパイロットの視線をメインディスプレイの上に内蔵されたカメラが認識して命令を入力する前に自動で実行する装置はあるが、あれはあくまで蓄積された情報からそれらしい行動を取るだけの簡単なプログラムでしかない。
しかしいずれ開発され思考だけで緊急脱出レバーを引かずとも脱出したり、戦闘機を操作する事も可能になるだろう。
「零、涙ぐましい努力と言われても俺はお前とのデブリーフィングを終えるまでは続けるからな、お前の口から聴きたい事が色々あるんだ」
今日は宮藤軍曹の治療を受ける日だ、それが終われば筋力が低下しないよう他動的にトレーニングを受けさせる。
「なあそろそろ目を覚ませよ、あの時お前は何を見たんだ、空白の数時間の中で。答えろよ、親友だろう、お前は何もおかしくなってないんだ、後はお前が目を覚ませばそれだけいいんだ、頼むよ……なあ……零」
ノック音、俺はとりあえず「入れ」と言ってココアを飲み干した、入って来たのは意外な人物だった
「クーリィ准将」
特殊戦のボス、我らが戦士達の長、特殊戦の実質的なトップであるクーリィ准将だ。
俺はすぐさま敬礼し先ほどまで座っていたデスクの椅子を勧めた、簡易的なソファはミーナ中佐が帰った後に片づけてしまい後はパイプ椅子位しかないこの部屋には気の利いた来客用の椅子はない。
「邪魔したかしら」
「はい、いいえ准将。ただ本日お越しになるとは聞いていなかったもので」
「そうでしょうね、言ってなかったから」
准将は近視用の眼鏡に手をやりながらそう言ってのけた後、デスクの傍に座る零の姿を見た。
「零は邪魔でしょうか、そろそろ宮藤軍曹の治癒魔法をお願いしようと思っていたのですが」
「構わないわ、深井中尉はそのままでいい」
「であれば、零に何か用事でしょうか」
「情報軍が深井中尉をいつまでこのままにするのかと言ってきているのよ」
システム軍団のウィッチの件といい、501JFWの件といい、この人はいつも面倒な事ばかり持ってくる。
「まだ諦めていないのですか、零は特殊戦に必要な人間だ、情報軍には渡せませんよ」
「彼はパイロット、飛ばない人間を置いておけないと突っかかってくるのよ」
「飛びますよ、飛ばせて見せます」
クーリィ准将はデスクの席に座り、俺にコーヒーを淹れるように手の動きで指示をする、熱いブラックコーヒー。
「少佐、貴方が努力しているのは私もよく知っているわ、私も優秀なパイロットを失いたくない」
「そうでしょうとも、情報軍に今の零を渡せば本格的に植物人間にされて情報を引き出す為に非人道的に弄られる事になるでしょう」
「情報軍は苛立っているのよ、中尉がこの様な状態になってからどれくらい経つか分かるかしら?」
「二か月です、准将」
「深井中尉のFAF軍人として扱いはもうじき解消される」
「……退役が迫っているというわけですね、軍役期間が切れる、しかし零は延長を申し出るでしょう」
「本人の意思がなければそれは通らないわ、ただ軍役期間が過ぎた時点で深井中尉は一般人となる、特殊戦に留めておけなくなるわ」
「しかしそれなら零は一般人として日本に戻る筈だ、情報軍ならそれが出来るとでも」
「FAFに協力する一般人としてとか、機密情報の保護の為の処置とかやり様はいくらでもあるわ。勘違いしてはいけない、そもそも軍隊と軍人は正義や秩序の守り手という事ではない。やろうと思えば情報軍は何とでもするでしょう、ただ特殊戦にとっては彼を引き留めておく名目がない。私は特殊戦の司令だが特殊戦の直属の長は戦術戦闘航空団の司令よ、私は特殊戦の副司令でしかない」
「特殊戦は独立した司令部と、各基地における独自の権力を持っているというのに」
「特殊戦が下に見られているのではない、ただFAFはまだ若い、特殊戦が出来るまでFAFの戦争がどれだけ粗末だったか貴方も知っているでしょう。どんどんと膨れ上がっていく己の力に振り回されて内部組織の編成が追い付かないでいる。そして結論から言えば一か月後までに深井中尉を手ばさなければならない」
「その前に深井中尉にサインをさせよ、という事ですか」
「出来るか」
「肉体上は問題ありません、504JFWのウィッチに発見されたのが良かった。早期の応急処置によって一命をとりとめた、実際零は殆ど死体同然だったそうですから」
「貴方には期待している、深井中尉はFAFの銃弾によって負傷していた。バーガディッシュ少尉に撃たれたのか、彼は何処へ消えたのか、中尉が何を見たのか、それが知りたい。特殊戦が出来る事ならなんでもする、結果を出しなさい、質問は」
「ありません准将」
「よろしい」
言い切って初めてコーヒーに口を付ける准将、頷いても立ち上がる様子は見られない。
「それで、本題の方は」
「幾つかあるのだけど、ベネツィア戦線の戦況分析の方はどうなっているのかしら、特にフェアリイ星全体でシルフィードの損傷がここでは特に多くなっている」
「それは後ほどの戦術作戦ブリーフィングでその時にでも」
「貴方の意見を、それも私見を聞いておきたいのよ。その為に態々内緒でここに来たのだから」
ある意味では特殊戦とFAFの危機だった、いつもの余裕と自信に溢れた准将がここまで弱気になるのは特殊戦のスーパーシルフが初めてジャムによって撃墜されたからだろう。
シルフィードの改造機に含まれるが、ほぼ新設計で製造されたフェアリイ星最強の戦闘機であるスーパーシルフ、これが撃墜される事はつまりFAFの戦力そのものがジャムに後れを取っている可能性が出て来たわけだからだ。
確かにこれはマズイ事だ、特殊戦はジャムの情報を偵察し確実に持ち帰る戦隊でなければならない。
「……准将は他の戦線にも目を通されていると思いますがベネツィア戦線は酷いものですよ、他の戦線は一週間に一度ほどの襲撃なのにベネツィア戦線は当然の様に一週間の内に二回以上、しかも数機で編隊を組むような周到さ。高機動型、電子戦型、ステルス型、超高速ミサイル及びミサイルキャリア―型、核武装型、対地爆撃型等と種類も豊富で対応が遅れたという事もありますが問題はそこではありません、それだけならなんとでもなる」
FAFの強みは武装の性能と速度を活かした
一方でストライクウィッチーズやウィッチの強みは魔力を活かした戦闘スタイルだ、魔力が込められた弾薬は威力が増強された上でジャムの回復を阻害し、敵の攻撃はシールドで防げる。その上でストライカーユニットの
つまりは対ジャム戦においてこれまで負けなかったのは単純に言えばアウトレンジではFAFが強く、ドグファイトではウィッチが有利
それがいつの間にか多種多様で現代的なジャムの出現によって人類の、正確にはベネツィア戦線の優勢は崩れた。
「被害が増えている原因としてはまずジャムの機体強度が向上している点が見られます、これまではミサイルやガトリングの特殊弾頭によって無理やり粉砕していましたが一撃で致命傷を与えるのが難しくなっています。そしてジャムの機動力の向上、これらによってこちらのアウトレンジ戦法を掻い潜りドグファイトに引きずり込まれる事も多くなりました、FAF機は正面以外からも放たれるビームは非常に脅威ですからね」
「シルフィードの撃墜が増えている件についてはどうなっているのかしら、雪風が関係しているのでは?」
「雪風はジャムに自分の情報を取られるようなヘマはしません、雪風の情報を読み取るには雪風と同じ機械知性体の構造と受信したデータをリアルタイムで解析する装置が必要になる、そして雪風の情報を盗み取ろうとしたジャムは雪風によって即撃墜されている。単純にジャムが他のシルフィードから対策を会得したと考えた方が納得できる」
「それではシルフィードがジャムによる被害を受ける原因とは何かしら」
「シルフィードはファーンⅡ等の新鋭機の繋ぎとして量産され、ここ最近何度か合理的な改修を受けている、合理的という事は簡易的になる事で機体強度や他の部分を犠牲にしている、そこから生まれた欠陥を突かれたのではないでしょうか」
「旧式のシルフィードも撃墜されている、これについては」
「機体の問題でなければパイロットの問題でしょう、人的資源の教育と選別は何より時間が必要になる、高性能機を操るパイロットとなれば特に」
「現時点での対策はあるのかしら?」
「言ってしまえばシルフの情報が洩れたとしてもさほど問題ではありません、どの道古いデータでしかありませんから。特殊戦はFRX-101を、出来るならFRX-00を量産しこれを導入すべきだ」
「FRX-101はFRX-00の魔導ユニットを外したFRX-99の有人機型、それはいいけどFRX-00を量産してもウィッチが居ないでしょう」
「ナイトウィッチ、ロンバート大佐から話は聞いていますよ」
「成程、少佐ならストライクウィッチーズか人類連合軍のウィッチを乗せると言うかと思ったが、貴方はそれでいいのね?」
「……ええ、今のところは」
「特殊戦五番隊、戦隊指揮官の貴方は無人部隊ではなく有人機を今後も使っていく、それで構わないか」
「人間は必要ですよ、情報を得る手段は多いに限る。それに人間の直観は精密ではないが正確ですよ、めったに故障しない」
そう言って車椅子に座ったままの零を見る、俺や准将がここまで弱気になっているのはお前がそんなだからだぞ。
「そろそろミーティングね、特殊戦五番隊は今後どうするつもりかしら」
「雪風を飛ばせます、FRX-00を」
「パイロットは」
「無人で、です」
「先程言った事と矛盾している様だけど」
「雪風は他の無人化された機体やFRX-99とは違います。あれは零の血と魂を取り込んだ『雪風』ですよ、雪風だってシルフの損耗が増えているのが自分のせいにされるのは我慢ならない筈だ、ジャムと戦いたくて今頃うずうずしているでしょう」
「了解した、少佐。ジャムに勝つためなら特殊戦は何でもやる、私が許すかぎりなんでもやり給え」
「ありがとうございます、准将」
「それと、ストライクウィッチーズの件だけども調べてみたかしら」
ここでその話が出るとは思わなかったがやはり難しい問題だという事を教える為だったのだろう、実際難しい問題だ。
「もし深井中尉とミーナ中佐が目覚めたなら、そして貴方に覚悟があるなら私がなんとかしてみせましょう」
「出来るのですか?」
「さっきも言った通り貴方に覚悟があるのならね、本当の人類連合軍と関わるというのはそう言う事よ」
「准将は人類連合軍の内情を知っているのですか」
「何も聞かずに覚悟は決まったのかしら?」
「はい、いいえ准将、失礼いたしました」
「冗談よ、人類連合軍も雪風と深井中尉にとても興味を抱いている、それを利用して話を通せば問題ないわ」
やはりフェアリイ星の正体不明の組織、人類連合軍は戦闘力、技術力等あらゆる点でフェアリイ星の勢力を上回るFAFであっても与する事は出来ない組織のようだ。
話を終えた准将はこちらの声を聞く間もなく退室していった、どうやら特殊戦の女王様は調子が戻ったらしい。
准将から言質は取った、明日には深井中尉を雪風に乗せて飛ばせよう、医者からは危険だと言われるかもしれないがそれでもかまわない。
まずは雪風を戦闘偵察任務に復帰させる事から始める。見てろよ零、雪風が戦闘任務に復帰する姿を見せてやるからな。
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