戦闘妖精雪風はストライクウィッチーズ世界の空を飛ぶ 作:ブネーネ
FAFロマーニャ基地、地下に存在する特殊戦司令センターに向けて俺は零の車いすを押しながら向かっていた。
エレベーターから降りて司令センターに到着すると出入りする人間の邪魔にならない様に零を入口の脇に寄せた。
特殊戦機とFAFの得た情報の全てが集まるこの部屋では情報の波が押し寄せる、それらを処理しながらイレギュラーに対応出来るスペシャリストがこの一室に集まっている、彼等は特殊戦のスタッフではあるが「社会不適合とされる特殊な性格」を持つパイロットとは違い純粋にその能力と資質のある者だけで構成されている。
「アフリカ方面に設置したAICSがジャムを捕捉、信号を発信した後間もなく信号途絶」
「早期警戒機のレーダーにてジャム捕捉、機数は15、高度10000から警戒エリアに侵入。早期警戒機は安全空域まで退避」
「505th迎撃部隊がFAFロマーニャ基地からスクランブル発進、ファーンⅡ17機が出撃、コールサインはグリフォン」
「B-3雪風、高度17000から戦闘情報収集行動開始」
オペレーター達が次々にアナウンスする中で司令センターの中央には数人の高官が立ちながら話をしていた、クーリィ准将、ロンバート大佐、そしてシステム軍団の制服を着た男。
「話の途中失礼いたします、B-3雪風の離陸が完了しました。深井中尉にミッションの見学の許可を頂きたく」
「許可します」
「君がFRX-99改造の責任者かね?」
「失礼ですが、貴方は」
「システム軍団のカール・グノー大佐だ、君にとっては協同技術開発センター所属と言ったほうが分かりやすいかね?」
「ああ、なるほど。確かに私が責任者です、特殊戦五番隊戦隊指揮官のジェイムズ・ブッカー少佐です」
「君の名前等どうでもいいが、君には納得のいく説明をしてもらいたいと思っていたんだ」
「何の、お話ですか」
「ではハッキリ聞こう、何故態々無人機を有人機に改造するような真似を?無人化は参謀本部やセントラルコンピューターの決定事項だ、君がパイロットの事を想うのであれば協力してくれる筈だがね」
そう言ってグノー大佐は零の下まで歩み寄ると屈んで顔を覗き込むようにして様子を伺っているようだった、深井中尉に取り付けられた脳波計の波は微細なまま、その悲痛な顔は純粋に零の事を慮っているようだった。
「ブッカー少佐、彼を見たまえ。彼はかつて人間は死ぬために飛んでいるようだと言っていた、これ以上悲惨な犠牲を出さない為に必要な事だと思わないかね」
「無人化を全て否定するつもりはありません、しかし少なくとも雪風にはパイロットが必要だ」
「例え何であれこの戦い自体、人間が戦う必要は無いんだ」
「そんなことは無い、いつだって戦っているのは人間の筈だ!」
「その犠牲を無くすのが無人化なのだと言っている!!いい加減現実を見たらどうだ!!」
その一瞬の怒りの間だけ自分の立場を忘れた、全てを機械に押し付けて自分の眼で見ようとしないお前に現実の何が分かるのかと。
「エイヴァ・エメリー中尉、貴方は知っていますか?ヒュー・オドンネル大尉とは好い仲だったそうですが」
「それが、一体どうしたと言うんだ」
「彼女はオドンネル大尉が
「それは…不幸な事故だった、今後はそのような事が無いように研究は進んでいる」
「俺だって犠牲を少なくしたいという思いには共感する、とある一面においてコンピューターが優秀な事も認める。しかしあくまで機械は人間の道具に過ぎない、俺達が負うべき責任までも無人機に押し付けるのは違うだろう」
「私にそんなつもりは―――」
「グノー大佐、私は無人機はいいとしてもセントラルコンピューターに全てを任せられない、人間に機械は不要かもしれないが未だ幼い機械には人間が必要だ」
「…ブッカー少佐、君は私に何を期待しているのかね」
「別に、何も。ただ貴方には全てを見届けその責任を負う義務がある、そこから逃げるのは許されない」
俺とグノー大佐の間に差し出されたクーリィ准将の腕とコーヒーの入ったカップ、まさに水を差されたように気持ちが沈められていく。
「ブッカー少佐、熱いコーヒーでも飲んで落ち着いたらどうかしら」
「……失礼しました、准将」
「グノー大佐、FRX-00も参謀本部とセントラルコンピューターの決定事項よ、今更この場所で蒸し返す話ではありませんわ」
「はい、了解しました准将」
一度グノー大佐と離れて呼吸を整える事にする、冷静な会話をする為には後数分を要するだろう。
「B-3雪風、ミッションエリアにて情報偵察中。少佐、申し訳ございませんこちらに」
「何だ、どうした」
「メインスクリーンをご覧ください、雪風からリアルタイムで情報が送信されています」
「雪風からだと?」
司令センターのメインスクリーンに映し出されるFAF基地周辺の戦闘は主に基地レーダー、警戒機や管制機からの情報を基に表示されて数秒ごとに更新される。
他には精々ミッションの各種フェイズの大まかな攻撃行動予定図が表示されるくらいで司令センターでは基地の戦闘航空団から得られる情報を基に戦況を整理し、イレギュラーに対応し、メインスクリーンに大きな変化がない事を祈るのが仕事だった。
それが今メインスクリーンにはリアルタイムで505迎撃部隊とジャムの戦闘が表示されている。しかしこれは異常だ、何故なら雪風は情報を持ちかえるのが仕事だからだ。
つまり雪風は現時点において緊急を要する異常事態が発生していると訴えかけているのだ、メインスクリーンをよく見れば505迎撃部隊は『敵味方不明』である黄色で表示されている。
かつての零が言ったように味方でなければ敵の可能性が高いが505迎撃部隊を後方から追撃しているであろうジャムは敵機を示す赤色だ。
つまり雪風は505迎撃部隊を敵ではないが純粋な味方ではないと訴えかけている、しかし505迎撃部隊は徐々にジャムに撃墜されている、雪風は一体何を考え何を俺達に伝えようとしているんだ。
「グリフォン3!ロックオンされているぞ!ブレイクしろ!スターボード!スターボード!」
「分かっている――――がっ!!」
グリフォン3が操るファーンⅡはジャムからの攻撃を回避する為に急加速旋回を行おうとした際に突然エンジン出力が低下した。
「何だ!何が起こった!!」
原因は不明だがそれでも何とか急旋回で振り切ろうとするもやはり出力不足により敵の攻撃範囲から逃れられない。
もう終わりかと頭で考えていてもコントロールスティックから手が離れない、当然脱出レバーを引く事も出来ずに本能に従い強く瞼を閉じた。
横から伝わる衝撃、しかし数秒が過ぎても己の意識が続いていることを感じてゆっくりと瞼を開いた。
「―――生きてる」
「グリフォンリーダーよりグリフォン3、ジャムが援護機によって撃墜された」
「……ファーンⅡは援護も優秀だな」
「違う、特殊戦だ」
「特殊戦!?あいつら高みの見物しかしないんじゃなかったのか」
「何であれジャムは全て片付いた、状況クリア、速やかに帰投せよ」
特殊戦のB-3は見慣れない機体だったがやはりファーンⅡよりも高性能な機体なのだろう、いつもこうであればいらぬ被害を減らせるだろうが逆に助けられてしまうと何かしらの思惑が在ると勘繰ってしまう。
「グリフォン3よりタワー、エンジントラブルにより緊急着陸を要請する」
「了解したグリフォン3、いやちょっと待て、B-3が先にアプローチに入っている、報告は受けていないが…」
B-3が降下していく、しかし雪風は滑走路に真っすぐ進入するコースを取っていなかった。
「何をする気だ…?」
ファーンⅡ十七機はジャムの強襲を受けてからものの数分で二機だけになっていた、それも雪風がエンゲージしてジャムを撃墜しなければ全滅していた筈だ。
しかしメインスクリーンには未だ雪風がリアルタイムで送信する情報の表示を続け、ジャムが居なくなっても『交戦中』の表示のまま攻撃モードを解除しない。
そして雪風は加速して移動を開始、FAFロマーニャ基地に向けて何かしらのアプローチを開始する。
『FAFロマーニャベースコントロールよりB-3、クリアランスは与えていない、反転せよB-3』
「B-3、対地、攻撃モード」
「何だと!?」
「ロマーニャ基地に照準しています!」
「攻撃中止を!任務を解除して反転させなさい少佐!」
「出来ません准将、雪風は完全自立制御です。外部からの命令は、受け付けない……」
そんな方法をもしジャム等に悪用されれば無人の戦闘機は戦えなくなってしまう、これは雪風に限らず全ての無人機に言える事だった。
「馬鹿な……」
グノー大佐の呟く声が静かな部屋で大きく聞こえた、彼にはこの現実が見えているのだろうか。
そしてメインモニターに基地を全て包む赤い円とロマーニャ基地を埋め尽くさんとばかりの数え切れないほどの光点がリアルタイムで動きながら表示される。
「ジャムだ」
微かな声だった。俺は錆びついたようにゆっくりと振り返るが、そこには車いすに座って頭に脳波センサーとトランスミッターを付けた零しかいない。
「よく見ろ…ジャムがいるぞ、見るんだ」
零は目を開いていた、もしかしたら雪風が情報を送って来た時からメインスクリーンを見ていたのかもしれない。
メインスクリーンに表示されていた攻撃目標が絞られる、雪風の攻撃管制システムが目標を捕捉した。
雪風はその場所に追加で情報を送信し、それを受け取った特殊戦の戦術コンピューターが翻訳してディスプレイに追加で表示される。
<敵味方識別-不明> そして <ジャムのニュータイプの可能性:大>
「動くものは、全て攻撃する」
零の右手が持ち上がる、コックピットのコントロールスティックがある位置だ、武装は雪風が既に選択している。
零の人差し指がゆっくりと力が込められていく、レディ・ガン、そして虚空をクリック。
雪風はFAFロマーニャ基地の地上格納庫に対地攻撃を敢行しロマーニャ基地上空を通過するまでガトリングを斉射し続けた。
―――地下司令センターは酷く静まり返り、その現実を受け入れられずに居た。
「そこに、ジャムが、居る」
先程まで身じろぎ一つしなかった零がまるで人形が糸に吊られるかの様に立ち上がる、その際に頭に取り付けられていた脳波センサーが外れて地面に落ちた。
司令センターの全てのメインモニターが表示を切り替える。
『YOU HAVE CONTROL FUKAI.LT』
静まり返った司令センターに戦術コンピューターが発した警戒音が響き渡る。
「そこだ――――見えないのか!!!!」
再びメインスクリーンが切り替わり今度は特殊戦の戦術コンピューターからのメッセージが表示される。
『深井零中尉のコミュニケーションシステムに異常が発生、早急に復帰させ再度攻撃目標を指示せよ』
コミニュケーションシステムだと?つまり戦術コンピューターが勝手に脳波モニターから得た情報を基にシステムを組み上げて零から雪風に攻撃を指示させたというのか。
戦術コンピューターと雪風は、つまり機械知性体は零の頭の中にある情報が必要だった、彼等が言うところのジャムのニュータイプを破壊する為に零に助けを求めた。
その為に彼等は零に目覚めよ、と呼びかけて零はそれに応えた、自分達では何も出来なかったのに。
オペレーター席に備え付けられたマイクを手に取り特殊戦の戦術コンピューターに対して呼びかける。
「目標とはなんだ、何を攻撃しようとしている」
『未知のジャムである、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐が基地に存在する何かしらに対して広域スキャンを行ったが対象は不明であった』
ミーナ中佐も同時期に目覚めていた、基地を包むように表示された円と無数の点はミーナ中佐の固有魔法だったのか。
『そして深井零中尉はB-3にロマーニャ基地へ攻撃するように指示を出した。形態や性能、目的不明のジャムの脅威をFAFロマーニャ基地から感じ取ったと推察される』
「ロマーニャ基地への攻撃は雪風ではなく深井中尉の指示だと言うのか」
『その通りである、B-3は505迎撃部隊の異常はジャムによるものだと判断し緊急回線接続を以て二人に判断を仰いだ。結果二人はロマーニャ基地に存在するジャムが原因であると判断したものと思われる』
「結局原因は分かったのか」
『我々には直接感知できない、深井中尉の判断が必要である。コミニュケーションシステムを早期に復帰させよ』
「深井中尉はブラックアウトした、雪風にそう伝えろ」
『了解した、B-3は505迎撃部隊の異常な急減速の原因の調査を続行する』
いやに素直に戦術コンピューターは手を引いたが零の状態を知る術がない為にそうせざるをえなかったのだろう。
そうでなければ喰い下がってでも零に再び攻撃目標を指示させる事に拘ったかもしれない、しかし零が司令センターに居ながらロマーニャ基地のジャムを発見出来るとも思えず脳波モニターを戻す事はしなかった。
「クーリィ准将、ロマーニャ基地の司令には『誤射』と伝えておくよ」
「……感謝します、ロンバート大佐」
ロンバート大佐はそう言い残して去っていった、クーリィ准将は苦々しい顔をしていたが借りを作るのが嫌だったのだろう。
特殊戦の戦術コンピューターもFAFロマーニャ基地のコンピューターに『誤射である』と伝え数秒後に了解したと返答があり、ロマーニャ基地司令からの音声通信回線は遮断されていた。
そして立ったまま何をする訳でもない様子の零はすぐさま緊急での精密検査を受ける事になった、同様に覚醒していたミーナ中佐の検査も行われる。
雪風はこれ以上の攻撃は無意味であると判断しRTBを基地コンピューターに告げて特殊戦の地下格納庫に帰還した、そして三時間後に緊急の会議が開かれる事となった。
もう少ししたらウィッチが一杯でるようになるので許して下さい!
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