戦闘妖精雪風はストライクウィッチーズ世界の空を飛ぶ 作:ブネーネ
アンノウン機を捉えた雪風の警告音がコックピットに鳴り響く、雪風はディスプレイ上のアイコンを敵性だと示す、未確認型のジャム三機が低空からマッハ4で接近中。
「グノー大佐はフリップナイトと共に退避しろ、ジャムは俺達が引き付ける、足の遅い管制機じゃいい的だ」
「そうだろうな、すまないが一足お先に失礼させてもらうよ中尉、グッドラック」
「深井中尉!私達だって武装してないのよ!?」
「そうだ、しかし足がある」
そう、今回の任務では機関砲を含めて一切の武装をしていない、弾がなければ暴発もしないだろうと嫌味を言われたが空いている特殊戦の機体を借りてでも護衛をさせるべきだった。
ジャムが雪風を狙う事など簡単に考え付くだろうに、俺はスティックを操作し急旋回、針路を反転させ管制機からジャムを引き離すように距離を取った。
「ミーナ中佐はロマーニャ基地に報告、至急迎撃機を呼び出せ」
「でも何処を触れば通信出来るか」
「雪風がもう設定している、後は喋るだけだ!」
「わ、分かったわ!こちら特殊戦雪風―――」
最早ジャムの巣に関係なく突如として現れたジャムは高度10000で突如として速度を落とした、ブースターで加速するタイプか?ディスプレイに表示されたジャムの情報が<TYPE-2>、つまり高機動型ジャムに切り替わる。
最近ファーンⅡやシルフィードを多く撃墜するようになった目撃数の多い高性能なジャムだ、そしてジャムの新型高速ミサイルを標準で装備している。
『零!今ロマーニャ基地から迎撃機が離陸した、後十分、いや五分持ち応えてくれ!!』
ジャックの声に答える間もなくジャムからミサイルが放たれる、急遽アフターバーナーで加速するも稼いだ距離をどんどん奪われていく。
ブレイクする際の加速が失われる瞬間が致命的であるため、フェイントを入れてからの降下しながらサイドスリップを敢行し偏差によるタイミングをずらしてジャムの高速ミサイルを回避してから再度加速した。
「ミーナ中佐、シールドは使えるのか」
「ええ、使えると思うわ」
「シールドは飛行に影響を与えるのか」
「飛行そのものには影響はないわ、ただしシールドに衝撃が加われば機体が弾かれる」
「分かった、いざという時は頼む」
「でもいつシールドを張ればいいか分からないわ、周りが殆ど見えないのよ!?」
「レーダーを見ろ!!」
そう言い合っている間にもジャムは距離を縮めて来る、スロットルレバーを前へ押し込みながらレバーのスイッチを押し込む。
するとメイブの前進翼は基部から回転して後退翼に切り替わり、主翼の上反角も鋭く稼働し高速機動モードに移行した事をディスプレイに表示される。
〈MODE RAM-AIR〉
再びアフターバーナーを起動させマッハ2.6を突破した時点でメイブの機体上部に備えらた2基の吸気口を開きラムジェットを解放する、凄まじい急加速による衝撃波によって機体から空気が剥がれて安定を失い暴れ始めるが高速で学習した雪風が動翼を操作して機体を安定させる。
ジャムと命を賭けてドグファイトをするつもりはないが自分と雪風、そしてミーナ中佐を含めて無事にロマーニャ基地まで帰投しなければならない。
先に基地に帰還しようとしているグノー大佐をターゲットにさせない為に俺達は基地に向かって飛ぶことが出来ない、しかしいつまでも逃げ続けるわけにはいかない。
何より燃料がもたない、それでも猟犬に追われる獲物の如く逃げ続けるしかない。しかしその時思いもよらない異常事態が発生する、スロットルは全開のままだったが突如として
警告音と共にディスプレイ上で
しかし思考を放棄してはいけない、原因の調査とリカバリーは既に雪風が開始している、その上で俺が出来る事をしなければすぐに死を迎える事になる。
<AICS MANUAL CONTROL>
「ミーナ中佐!ジェットストライカーを全力で稼働させろ!!」
「了解!」
幸いにも魔導ジェットエンジンは生きていた、メイヴが息を吹き返すかのように速度を取り戻す。しかし安定飛行を保っているとはいえジャムを相手に出来る程の推力までは確保できなかった。
何とかジャムの射線上に留まらないように旋回して回避を試みるが最短距離で動くジャムに距離を詰められる、再びミサイル警報。
「シールドを展開しろ!」
俺が言い切る前に半透明のシールドがミサイルとの間に展開され、俺はいずれ訪れる衝撃に対して備える、ジャムの高速ミサイルがシールドに衝突する余波を受けて機体が弾き飛ばされ錐もみ回転しながらストールする。
雪風が自動的にオートパイロットを作動させ何とか水平飛行を取り戻すも速度を大分失ってしまった、雪風のドップラーレーダーが上を取ったジャムを捉える。
幾度目かのミサイル警報、命中すれば再びストールして失速した上に高度が足りない今度こそ墜落する可能性がある、しかしシールドがなければ一瞬で火の玉になるだけだ。
時間が緩やかに流れていく、あの時と同じだ、グレイシルフに放ったミサイルが直近で爆発したあの瞬間と。
<DE TX-1 AMATSUKAZE / COVERING B-3 YUKIKAE & FUKAI.Lt>
上空でジャムから放たれたミサイルが爆発、見上げれば先程摸擬戦で競いあったフリップナイトが飛んでいた、そして何かしらの方法でミサイルを迎撃したらしい。
俺達は見た、フリップナイトのコックピットキャノピーが突如として吹き飛びそこから現れた一人の影を。
FO席に座るミーナ中佐と同じくGスーツを着込み足にストライカーユニットを装着したフリップナイトウィッチ、大きく違うのは頭の殆どを覆う様な無機質なヘルメットと頭からつま先まで黒で統一されたその姿だろうか。
一瞬止まっていたような時間が音と共に元に戻ってくる、フリップナイトウィッチはその両腕で構えた重機関銃によってジャムを牽制しターゲットを引き受けた。
「ミーナ中佐、あのウィッチがジャムの気を引いている間に今から雪風の異常を直す。ジェットストライカーの出力はそのまま、シールドもスタンバイ」
「了解!」
あのウィッチは迎撃機よりも早く俺達を迎えに来た、つまり俺達が逃げ切れない限りあのウィッチは命の危険に晒され続ける。
雪風はAICSによって異常が発生したと原因を突き止めたが何故か自己解決を行わなかった、エアインテークを操作するプログラムは速度や高度に比例して自動でインテークのブレードの位置を調整するシステムだ。
つまりAICSは雪風のメインコンピューターが直接管轄していない数少ないシステムである事を思い出す、コックピットのインテリアからキーボードを取り出しAICSのテストプログラムを呼び出す、AICSを高速モードで固定。
雪風からの警告、飛行中にテストプログラムを起動させるなというメッセージ。
それならばとランディングギアを下ろす、空気抵抗の増えたメイヴは減速し俺は雪風とメインコンピューターに飛行を継続する意思がない事を操作で伝える。
再度キーボードに手を置きAICSのテストプログラムのコードを直接入力してマニュアルで作動させる、AICSを高速モードで固定。
―――怖がるな、雪風。
<AICS INTAKE.POS SS>
スロットルを全開で固定、燻っていたフィーニクスエンジンが蘇り一気に息を吹き返す。
フリップナイトがこっちに来たという事はグノー大佐は無事基地に辿り着いている筈だ、ロマーニャ基地からの迎撃機も来る、戦闘を継続する必要はない。
「B-3よりTX-1、B-3は安定飛行を取り戻した。迎撃機が次第に到着する、貴官は退避しろ」
「ネガティブ、時間稼ぎは終わり、ジャムは全て撃墜する」
何だと?俺は十分ジャムから十分離れた位置から戦闘空域を確認する。
タイプ2のジャム三機相手にたった一人で戦えるのか?しかしそれはあっけない結末を迎える、フリップナイトウィッチはジェットストライカーのランチャーからロケット弾を一斉射した。
それがロケット弾にしてはあっけない爆発をすると先程まで精密な連携をとっていたジャムが突然隊形を乱した、そして連携を失って失速したジャムを鴨撃ちの様に一機ずつ撃墜していったのだ。
<LAYER BY LAYER / SOUND BOMB>
俺は雪風のメッセージでウィッチが発射したロケット弾から放たれたEMPに似た電子妨害兵器の余波を雪風が受けていたことを知る、ただし電子戦においても最高峰であるメイブの対電磁防御を突破する事は無かったようだが。
いずれにせよ状況はクリア、B-3 護衛機と共にRTB、任務達成率100%。
特殊戦のブリーフィングルーム、ジャックの執務室と化しているこの部屋に戻ってくるのは大分久しぶりに感じた、ずっと眠っていたのならほんの一瞬の様に感じるだろうに。
ミーナ中佐は帰還後に一度別室に案内されFAFからの協力要請という事で事情聴取を受けている、しかしクーリィ准将が付き添っている様だから面倒な事にはならないだろう。
「なあジャック。あんた、あまつかぜって知ってるか?」
「ああ、あのフリップナイトのパーソナルネームか。雪風の元になった駆逐艦の姉妹艦だ、雪風の妹だよ」
「そうなのか」
「しかしいい名前を貰ったかもしれないな、天津風も激戦を潜り抜けてなんとか故郷に帰って来た艦だ。天津風 雲の通ひ路 吹き閉ぢよ をとめの姿しばしとどめむ」
「何だそれは」
「おいおい百人一首で聞いたことないか?現代風に言えば『天を吹く風よ、天上界と地上を結ぶ雲の中の通り道をしばらく吹き閉ざして塞いでおいてくれ。あの美しい娘達が舞っている姿があまりに美しく、しばらくそのまま見ていたいのだ』となる」
「……まるでウィッチだな」
「詩的だな、だが乙女なら雪風だってそうだろう、あんまり無碍にするとまたフラれるぜ」
「うるさいな……ところで雪風にもそういうのあるのか?」
「あるにはあるがそうだな…百人一首ではないが雪風の名前が出る本にはこうある、『もろ声に 鳴くべきものを 鶯は 正月ともまだ知らずやあるらむ』」
「それだけじゃ分からないよジャック」
「フムン、だがこの和歌よりも前の部分が大事でな。詳細は省くが未だ雪と風の吹くような寒い季節、ふと静かな夜に美しい月を見て八月からもう会えなくなった浮気性な旦那を思い出すんだ。奥さんはずっと涙を堪えていたが耐えられなくなったんだな、結局彼女は鶯の居ない暗く寂しい夜に一人泣き続ける事になった」
「寂しい歌だな」
「ちなみにこの和歌が出て来るのが蜻蛉日記というんだが百人一首に選ばれた和歌は『歎きつつひとり寝る夜の明くる間は いかに久しきものとかは知る』。嘆きながら一人で孤独に寝ている夜が明けるまでの時間がどれだけ長いか知っていますか?貴方は知らないのでしょうね、という意味だ」
「あんたはその知識を何処から仕入れて来るんだ」
「前に別れた嫁が日本に詳しくてな、まあそこから色々とな」
「成程な、日本人より日本に詳しいかもしれない」
「たまたまだよ」
人に歴史ありとは言うがジャックについて俺も知らない事が多くあるのだろう。それはその筈だ、今まで他人に興味を持つ事なんて無かったのだから。
雪風のコックピットの中で覚醒してからなんというか、目覚めすぎると言わんばかりに景色が違って見えた気もする。
ブリーフィングルームに響くノックの音、ジャックが来客を招き入れると一人の少女が現れた。
「失礼します、本日より特殊戦に配属となりましたフリップナイトウィッチ、
こうして特殊戦は新たなスタートを切る事になる、世界で一番過酷な戦場に新たな風が吹く、
四章終了です、一度ここで一区切りとして外伝とか色々進めていきたいと思います。
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