戦闘妖精雪風はストライクウィッチーズ世界の空を飛ぶ   作:ブネーネ

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五章 バンシーの哭き声【再編集済み】
25話


ベネツェア戦線は本日も激戦なり、なれどベネツィア戦線異状なし。

ベネツィアの南方に位置する501JFWベネツィア基地ではとある問題が発生しようとしていた。バルクホルン少佐は暫定的に本国から少佐へ昇進の辞令を受けているが、実は正式な手続きを踏んでいないのでカールスラントの司令本部に正式に処理を済ませる為に一度基地を離れなければならなかった。

正直バルクホルン少佐は凄まじく渋っていた、一度戻れば数日はプロパガンダに利用されて拘束される事が眼に見えていた事と数日間基地を空ける事にかなりの不安を覚えていた。

ミーナ中佐は未だFAFからの取り調べ中、坂本少佐は実質異動済み、501JFW隊長代理として504JFWの竹井醇子中佐*1は基地に残っている筈だったがここで更に問題が発生する。

ミーナ中佐が意識を取り戻した事で竹井中佐も近いうちに501JFW司令代理の任を解かれる、よって一度人類連合軍及び西部方面統合軍に引継ぎの処理と501JFW内情の報告する為に出頭するよう指令があったのだ。

かくして保護者不在の問題児を多く残して哀れなバルクホルン少佐はそれはもう酷い顔をして出発していった、ちなみに一刻も早く帰還できるようにジェットストライカーの積み込みを竹井中佐に願い出たがファーンST-W型は501JFWにしか配備されていない上に機密が多く盛り込まれていた為に許可が下りなかった。

トラヤヌス作戦の時の様なネウロイの大規模侵攻が久しく起きていないが、それでも501JFWがかつて解放したガリア、ヘルウェティア、オストマルク、ロマーニャの何れにおいても一進一退の膠着状態が続いている。

その中で501JFWは対処の難しい飛行型ネウロイを狩るスペシャル達だ、ここベネツェア戦線では週に二から三回程ネウロイが襲来する。

ネウロイ撃墜の為にスクランブル発進した日を一日目として当日と二日目の日の昼までは魔力回復にあてる為に休憩となる、そして二日目の午後と三日目までは訓練や補給任務、その他必要があれば出張や遠征等に割り当てられる。

そして隊長不在、戦闘隊長不在、残った最高尉官は勝手気ままなイェーガー大尉、何も起こらない筈もなく。

「買い出しじゃんけんだー!!!Are you ready!?」

「「year!!」」

こうなった、あえて言うのあれば501統合航空戦闘団に所属するウィッチは501JFW司令部直属である機械化航空歩兵軍団*2という一部隊でしかない。

司令の許可の下に基地全体の備品や食料を輸入する分にはウィッチ隊が自ら動くことは無いが個人的な物や娯楽の品については自分で出向いて購入する必要がある、501JFW及びその周辺では物資が中々届けられない状態にあるので酒舗を設ける事も出来ていないのだ。

しかしこれは重要な業務である、戦場において娯楽は必要ではないがその重要性は誰もが知っている。

人は過酷な戦場においては数日の内には狂うが訓練すれば二、三週間は戦い続けられる、しかし軍においては兵が前線で戦い続ける事が出来る期限が設けられている。

それは特別休暇であったり、配置転換であったり、あるいは兵役の期限であったり、もしも兵がそれまで生き残っているのであれば何かしらの期限を以て一度兵は安息の時間が設けられる。

人間は娯楽があれば意気揚々と動ける、娯楽が無くとも食事があればある程度は戦える、食事が無くともプライドや信念があればなんとか動く事が出来る。

しかしそれでも、例え満たされていても人間は極度のストレス下に置かれると正気を失い正常でなくなってしまう。正常でない兵士は例え数か月、またその先の数か月でも戦い続ける事が出来る。

戦場において正常でないリミッターが壊れた兵士は戦い続ける、しかしそれがいつの日にか重大なミスを誘発する。

だから人間には、優れた兵士には信念が、食事が、そして娯楽が必要になるのだ。

「つまり買い出しとは、人間に与えられた権利であり!義務であり!これを妨げる事は許されない行為である!!!」

「シャーリー!!カッコイー!!!」

「ヒューヒュー!!」

「ありがとう!!ありがとう!!皆!!!」

椅子の上に立ちあがり渾身の思いを込めた演説をやり遂げたシャーリー、基地に残ったウィッチ全員のスタンディングオベーション、溢れる拍手と感心の眼差し。

先達のウィッチによる迫真の演説、他人の心を揺さぶる言葉遣いと身振り手振りが齎す臨場感、文句なしのスピーチであった。

 

 

「でもシャーリーさんは買い出しには行かせませんよ?」

「え?」

 

 

一瞬で冷めていく空気、昂る感情と共に流したシャーリーの涙*3が一瞬で引いていく。

「ナンデ?」

「いや今はシャーリーさんが最高責任者ですよ?上官の命令は聞かないと」

「私も人の事言えないけど宮藤には言われたくないなぁ!?」

これまで可愛がってきた部下からの突然の裏切り、流石は扶桑人、自分の都合以外では上司の命令は絶対だ。

「バレなきゃ大丈夫だから!きっと!多分!メイビー!パーハップス!プロバブリィ!!!」

「ちなみにシャーリーさんが仕事を放棄したらハルトマンさんに仕事が振られますよ?」

「何で私だけ!?……まさか!?」

何でという事はない、残ったウィッチでサーニャ中尉は夜間哨戒に備えて仮眠中、リネット曹長はともかくペリーヌ中尉は空いた時間はガリア復興の為に割くと501JFW再結成時に決められている。

そういった理由でそもそも空いている人間はエーリカ中尉しか居ないのだ。ただしエーリカ中尉が特別暇人という訳ではない、彼女には彼女の仕事がある、彼女は二度寝とお菓子だけの天使ではないのだ。

「だったら最高責任者権限で一日仕事はお休みだ!!」

「友よ!それはまずい!!」

「なーに安心しろハルトマン、あの堅物カールスラント軍人が居ない今の内にしか出来ない事が―――」

『いつからお前はそんな命令が出せる程偉くなったんだ?享楽的なリベリアン』

「と、少佐殿も仰っています」

「宮藤ぃ!!それは無しだろぉ!!!」

口で言っても分からないリベリアン、それを分かっていたバルクホルン少佐はあらかじめ何かがあった時はインカム*4で連絡するように宮藤に指示を出していた。

事実バルクホルン少佐が飛行機にのって数十分しか経っていないのにこの始末である、決して広くはない飛行機の中でバルクホルン少佐の怒声が響き渡る、宮藤軍曹は上官の命令を遂行したに過ぎなかった。

結果的に買い出しはハルトマン中尉、エイラ中尉、ペリーヌ中尉の計三人に決定した、買い出し先はロマーニャFAF基地である。

そしてイェーガー大尉は拘束、各種書類整理を執行する事となった。

 

 

 

 

 

 

「シャーリーさーん、休憩ですよー」

「待ちくたびれたよ宮藤―!早く縄を解いてくれー!!」

文字通り拘束されたイェーガー大尉は司令室にて書類の処理を続けていた、今回は余程重い罰則が予告されていたからか真面目に勤務していたようだった。

「久々に書類なんて弄っていると肩が凝ってしょうがないよ」

「私が揉みましょうか?」

「それじゃあお願いしようかな!……宮藤?一応言っておくが肩だぞ?」

「分かってますよー」

少々の時間をおいてからブレイクタイムが始まった、リネット曹長と一緒に作ったクッキーとコーヒーだ、ちなみにコーヒー豆はミーナ中佐の物を使用しているのでバレると罰則を受ける。

「それにしてもシャーリーさんは凝りませんねぇ、いえ肩は凝ってましたけど」

「さすがに真面目に仕事したら疲れるさ。だがな宮藤、一ついい事を教えてやろう、一度や二度位の命令違反とか素行不良ぐらいじゃウィッチはクビにはならない!!」

「私命令違反で不名誉除隊受けたんですけど」

「むしろそれは温情さ、じゃなきゃストライクウィッチーズに戻って来れるもんか。あれは戦う理由を全うした宮藤が日常に戻る為の方便さ、あの時はどの道501は解散だったし」

「うーん…そうなんでしょうか」

「何とかなるもんだよ意外とな。私なんて少尉任官後に原隊でストライカーユニットを無断改造して遊んでたら処罰としてストライクウィッチーズに捻じ込まれて、今では廃品同然のトラックやソードフィッシュ*5を適当な名目でレストアして私用したりバイクやらユニットを改造して遊んでネウロイ落としているだけで大尉だぜ?」

「やりたい放題が過ぎますよ!?」

「アッハッハ!冗談だよ!本当にそれだけだったら私はここに居ないさ、私には私の役割があって、それを熟しただけさ」

実際高く積まれていた資料の大半の処理が終わっていた、これなら夕方には全ての処理は終わるだろう。

「一応偉くなれば好き勝手出来ると思ってたけど上手くいかないもんだ、やっぱり必要なのは理解のある上司と部下だな」

「シャーリーさんが真面目に働けば皆も理解してくれると思いますよ?」

「止めて!そんな穀潰しみたいな扱いしないで!!」

「というより何でウィッチになろうと思ったんですか?」

「ん?前に言わなかったっけ?」

「いえ確かに聞いたんですけど、正直シャーリーさんだったらウィッチにならなくても勝手にストライカーユニットを組み上げて飛んでそうだなーって」

「宮藤ー?軍属の人間以外がストライカーユニットを使ったら即刻逮捕だぞー?」

正確に言えばストライカーユニットの無断使用及び無断改造は軍属であっても処罰の対象になる、しかしウィッチは貴重である為そうそう厳罰を受ける事がないのは先述したようにイェーガー大尉が言う通りである。

ちなみにFAFであれば所属する人間は大抵前科持ちで、FAFで勤務する事自体が刑の執行のようなものなので即軍法会議からの処刑が速やか行われる厳しさが存在する。

一方で同僚に突如として射殺されても正当性さえあれば*6死んだのは犯罪者だし仕方ないよねという別方面の緩さも存在する、よってFAFにおいて私怨を持ち込まれる事は大変危険であり、階級に関係なく気楽にやろうという風潮は自己防衛の意味もあるのかもしれない。

それはともかくストライカーユニットと銃火器があれば簡単にテロ行為を起こせるので余程の事がない限り厳重に管理されている、故に形が残っている状態でストライカーユニットが民間人の手に届くところに廃棄される事はない筈である。

「まあFAFの方からちょっとばかしチョロまかした事はあるけどな」

「何してるんですか!?銀蠅は犯罪ですよ!?」

「バッカお前人聞きの悪い事言うなよ!ちょっくらFAFでポーカーしてたら負けた分を払えない奴が居てそいつがくれるって言うから貰っただけだ!」

「絶対マズイ奴じゃないですか!何も誤解してないですよね私!?」

「だから違うんだって!FAF軍人にとってはこの星の機械は最新のモデルでも大体がレトロ扱いなんだよ!だから懐古趣味の奴が買い込んで改造して遊んでるなんて良くあるんだよ!」

「成程、つまりはこの星のマシンを譲って貰っただけだと」

「そうだよ、後ろ暗い事なんて無いんだ」

「でも最新モデルを改造してるならFAFのパーツとか使われてませんか?それを貰ったら一緒なんじゃ……」

「………~~♪」

「密輸と同じ手口じゃないですか!!」

「違うんだ!私は悪くない!勝手に紛れ込んでいたんだ!!」

「それは窃盗犯の言い分ですよね!?」

「アッハッハ!!」

「笑っても誤魔化せないですからね!?」

 

 

 

 

 

 

宮藤と談笑しながら思い出す過去の事、欧州に発生したネウロイは海を挟んだ合衆国にとっては正に対岸の火事そのものだった。

私の故郷は本当に何もないド田舎だけど()()()()()()()場所だった、私の家は貧乏って程でもないが家の仕事をただ手伝うのもなんとなく違うんだよなって、何も変わらない故郷でずっと考えていた。

しかしある時何もない田舎にも特別目立つ施設が出来上がった、それがFAFの施設だった。

ただしFAFと言っても前線にあるような基地じゃなくて、教育軍団とかシステム軍団が管理する新人の研修センターや、武器と航空機を開発したりテストフライトするような後方の施設だった。

家の手伝いをしながら、或いはスクールの帰りに空を見上げて空の向こうに飛び去っていく飛行機を何度も見た。

太陽の光を遮る為に目元に当てた手の指の間から見えるその機体が、空の彼方に消えていくまでずっと。

 

 

―――ああ、なんか遠いなってなんとなく思った。

 

 

それでも退屈な日々、熱中する何かもない自分にとって興味を惹かれるものがあそこには在った。

私は両親に頼み込んで何日かはFAFで働きたいって頼み込んだ、FAFだって一般区画の売店とかの仕事は募集していたからな。

そこで働きながらちょこちょこっと基地の入れるところを廻っていたんだ、勿論FAF専用の区画には入れなかったけど滑走路に面したフェンスぐらいなら近寄れた。

あれは確かファーンだったな、なんて貰ったFAFのパンフレットを見ながらずっと眺めてた。

あれ、いいなぁって思ったよ。農薬を散布する為に飛行機に乗ったことはあるけどさ、どう考えてもこの世界にはないデザインとその性能に震えたよ。

人と武器を積んだ全長約16.5メートル弱の戦闘機が高度58000フィートまで飛んで行くんだ!あの戦闘機の速度ならほんの数十分で私の故郷から飛び去って行けるんだ、もっともっと先の世界まで!!

それからさ、戦闘機という凄まじいパワーとスピードに惹かれたのは、そして絶対にあれに追いついてやるって思ったんだ。

当時のファーンの速度はマッハ0.8、少なくとも亜音速を越えられる様にならなきゃいけない。

アルバイトの金だけじゃ足りないからFAFの軍人から賭博で金を巻き上げながら独学で勉強したよ、飛行機に関する参考書だって取り寄せた、これってこの世界からしたら未来の技術だから本当に良かったのか疑問だったけど。

数年後に自分で組み上げたバイクで走ったボンネビル・ソルトフラッツでの当時の世界記録を超えて時速178.24マイル*7を樹立したがファーンまだ遠く及ばない。

そもそも1000ccのバイクじゃあ限界がある、だったら次の目標を達成しに行くしかないだろう?

大丈夫、もう準備だって出来てる。FAFのお節介なオッサン達から教わった技術と知識があれば募集要綱が緩んだ軍の採用試験くらい簡単に滑り込める。

私は、私が組み上げたストライカーユニットで戦闘機を追い越してやる、それが叶ったらまた次の夢さ。

 

そして今では当時憧れていたファーンを履いている、これまで使っていたP-51とそのマーリンエンジンも気に入っていたけど今のストライカーユニットもお気に入りさ。

ちょっと改造するのは惜しいというか勿体ない気もするけど私の憧れに手が届いたんだ、これって最高だね。

それでもこっそりP-51の改造は続けてるんだ、いつしかレシプロストライカーでファーンを超える為に。

それが出来たら、次はファーンでシルフィードに勝とうかな。

 

 

もしもそれが出来たら、また次は―――。

 

 

*1
本来は大尉であるが501JFW司令代行中は中佐として扱う

*2
広義のストライクウィッチーズ、或いはウィッチ隊

*3
目薬によるものである

*4
魔導インカム、魔力で動作する

*5
フェアリイ社製の三座複葉の雷撃機

*6
正当性の有無は最終的にFAFの検事が判断する事なので結局は言い分がどうであれ都合の良いように処理されるのだが

*7
時速286.9キロ




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