戦闘妖精雪風はストライクウィッチーズ世界の空を飛ぶ   作:ブネーネ

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28話

「バンシーⅣの飛行戦隊の全滅が確認された、お前が直近で偵察に行った任務の飛行隊だ」

「俺が見た時はジャムの戦隊が全滅したと思ったんだが、雪風だって見ている」

「お前と雪風は正しいよ。バンシーⅣの飛行戦隊がジャムを撃墜して帰還する際にそれは起きた、バンシーⅣは戻って来た子機を全て攻撃したんだ」

ブッカー大佐は照明を落としてブリーフィングルームに備え付けられているプロジェクターを起動した。

バンシーⅣ、正式名称はバンシー級原子力空中空母四番艦、全長687m、全幅1400m、自重は9650t、搭載機40機を擁する()()()()だ。

技術試験の為のバンシーⅠと着陸訓練用のバンシーⅡは空中空母としては運用されず、バンシーⅢは建造中に電子機器等の変更を受けた為にバンシーⅣが実際に運用される就役としては一番となる。

現在フェアリィ星ではバンシーⅢとバンシーⅣが運用されており、主にFAF基地周辺の迎撃と偵察でしか戦闘機を運用できないフェアリィ星の各基地の為にバンシー級は各基地の間の死角を埋める防空網外環部の要として非常に重要な立ち位置を占めている。

つまりFAFの戦闘機が基地の周囲しか動けないのであれば基地が動けばいいという発想で運用されていて、これを失う事は暗闇の中に懐中電灯一つだけで放り出される事と同じになってしまう。

「バンシーⅣに子機が戻る前にバンシーⅣの原子炉に異常有りとの警報が出て搭乗員は全て退避している、子機に攻撃する時にはバンシーⅣには誰も乗っていなかった。バンシーⅣは今も無人で飛びながら近寄る機体には迎撃を行っている」

「それで?その事が俺に何の関係がある、俺に過失でもあったか?」

「FAF本部としてはバンシーⅣに何が起きているのかを知っておきたい、FAF情報軍は乗員の誰かがバンシーⅣのプログラムを書き換えたのではないかと疑っている」

「フェアリィ星の敵はジャムだけじゃない、フェアリィ星か地球の工作員が自分の利益の為にFAFに忍び込んでいるというわけだ」

「馬鹿な事を言うな、俺達の敵はジャムだ」

「だったらバンシーⅣはジャムに占拠されたんだ、撃ち落とせよ、それで終わりだ」

「お前、本気で言っているのか?」

「工作員と言えば違う、ジャムと言えば信じられないと言う。少し前のあんたならまずは考える位はするだろう、何を怯えているんだ、戦場から離れすぎて耄碌したのか?」

「俺は怯えてなどいない」

「どうでもいいよ、バンシーⅣの事も俺には関係ない。大体飛行戦隊の奴らだってマヌケなんだ、バンシーⅣが攻撃して来た時点で攻撃すればいい、俺だったらそうする。俺と雪風を害するモノを俺は許さない、あのグレイシルフと同じだ、攻撃してくる奴は全部俺達の敵だ」

ジャムとの戦争は人間を機械にする、特殊戦はどちらかと言えば人間として生まれてしまった機械の様な人間の集まりだがこの深井零という男もその一人だった。

しかし深井零は今俺達と言った、元々自分と雪風にしか興味を持たない男が心変わりを見せたのだ。

彼は何かに気付いてジャム戦争で生き残る為には自分の力だけでは不可能な事を確信した、だから自分と別の存在である何かが必要であると無意識に訴えているのだ。

「深井零大尉、貴官には出動命令が出ている。准将のサイン付きだ、現時点を以てバンシーⅣ事件の調査に向かう事」

「何故俺が行かなければならない、特殊戦の仕事ではないだろう」

「零、お前は軍人だ、軍人が動くのは命令があるからだ、それを誤解するな。一々下の人間の意見や要求など聞いていられる程FAFには余裕はない」

「つまりあんたにとっても青天の霹靂という訳だ、だから八つ当たりするんだな、俺は一体どうすればいいんだ」

「靴にでも当たれよ、おっと壁に穴を開けるなよ、始末書はお前に回してやる」

「地球からの八つ当たりには、ジャムを蹴飛ばせばいいわけだ」

「その通りだ。深井大尉およびレコンウィッチ隊『ミラージュ』は威力偵察が元々の任務の一つである、よって今回の任務はバンシーⅣに威力偵察を行い状況を確認し問題があればそれを解決する事だ」

スクリーンの表示が切り替わる、現在のバンシーⅣの状態とその外観の映像が流れている。

「バンシーⅣは以前と変わらずに無人で、いや誰かが潜んでいるかもしれんが飛行中だ。この映像はB-6ミンクスからSSL*1の暗号通信を経由してリアルタイムでバンシーⅣをモニターしている。この任務にはFAFの情報軍団が動いている、これがもしジャムの仕業ならそれでいい、機械のエラーなら直せばいい、しかし原因がもし人間であれば事は重大となってくる。フェアリィ星人ならともかく、地球人であれば最早FAFだけの問題ではなくなる」

「フェアリィ星人ならいいのか」

「もしもフェアリィ星人やFAFの関係者であればFAFに楯突いた犯罪者として簡単に処罰できる、しかしこれが地球人となれば問題だ。FAFはFAF軍人以外の地球人に対してはそう簡単に処理出来ない、確実に何処かの国や勢力と衝突しFAF対地球の様相を呈する事になる」

「FAFはジャムよりも地球の方が怖いんだな、いつも以上に形振り構わずというわけか」

「地球では今でもFAFを解体すべきだという人間も居る、FAFこそジャムではないのかとか言い出す始末だ。地球はいい気なもんだ、こっちが命を削って戦っている間に出た本に何て書いてあるか分かるか?ジャムは実在する、そんな事を態々初めから書かなければいけないんだ、呆れて声も出なかった」

「成程な、地球にとってはFAFもフェアリィ星人もジャムも変わらないというわけだ、少なくともフェアリィ星の飯を食った俺達もフェアリィ星人だと思っているに違いない」

「フムン、黄泉戸喫(よもつへぐい)か?伊邪那岐(いざなぎ)伊邪那美(いざなみ)の?」

もしもフェアリィ星が伊邪那美であれば、伊邪那美自身と産道である超空間通路を焼き尽くしながら火之迦具土神(ひのかぐつちのかみ)であるジャムが産まれ伊邪那岐である地球に殺されるだろう。

しかし伊邪那岐と伊邪那美の御子神である火之迦具土神はその血と死骸から新たな神を生み出したとされる、それを元に考えればジャムを倒しても新たな火種がばら撒かれるかもしれない、嫌な想像をしてしまった。

「地球からみたら俺達は手の付けられない怪物に見えるという事だ、ジャムも俺達もフェアリィ星人も区別するに値しない。だからジャムと同じ様に退治する、そう考えれば難しい話じゃない、俺達だってジャムを殺した後の事なんて考えていないからな」

「いずれにせよそうならないようにFAF情報軍は動いている。どうしたんだ零、最近随分と喋る様になったじゃないか」

「ジャムは強敵だというのが実感できたというだけだ、任務内容の続き、頼むよ」

「まったく……ともかくミラージュ隊はバンシーⅣに接近して雪風だけが乗り込む、バンシーⅣは武装を使い切った事を確認されているから迎撃の心配はない。無事バンシーⅣ内に侵入出来たらそのまま異常の原因を探る事、アビオニクスの相棒を一人付けるから電子機器についてはそいつに任せてもし工作員を発見した場合は無効化して捕縛しろ、鎮圧用のテーザーガンを追加で用意する、それでも駄目ならせめてバンシーⅣに閉じ込めておけ」

「俺はそんな訓練は受けていない、誰かが射殺を許可する前に殺されるつもりはない」

「分かってるよ。特殊戦は必ず帰ってくる、その為なら好きにしろ、銃殺刑にならない程度には庇ってやる」

「貧乏くじを引かされた気分だ。それで?どうやってバンシーⅣに侵入すればいい、飛行中のフライトデッキに着陸してコックピットから降りた瞬間に吹き飛ばされたじゃ話にならない」

「安心しろ、それもちゃんと考えてある。ちょっとついてこい、今回のお前の相棒を紹介しよう」

二人はブッカー大佐の執務室を出て特殊戦の地下格納庫に移動した、格納庫の駐機エリアに偵察に出掛けた何機分かの空白が出来ていたがそれ以外の機は整備を受けていたり、或いはコードを通して機械知性体が情報の分析を行っているのだろう。

B-1の駐機エリアに収まっている雪風にも整備員が追加で装備を取り付けているのが見えた、前もって指示しておいたものだが作戦には十分間に合うだろう。

「雪風には一応ワイヤーアンカー射出装置を取り付けた、少なくともこれで雪風が滑り落ちる事はない、それに加えて―――おい、零」

雪風のFO席には一人の男が手元のPDAを弄りながらインテリアを操作していた、それを見た零は一足飛びで移動式のステップを駆け上がり男に声をかける。

「お前、何をしている」

「あ、あの……」

「降りろ!!」

「はい!すいません、転送中のミッションデータの確認をしたくて……」

「零、階級が同じとはいえ先任だぞ。紹介しよう、今回一緒にバンシーⅣに行ってもらうシステム軍団のトム・ジョン大尉だ。こっちはこの雪風のパイロット、深井零大尉」

「よろしく、深井大尉、僕の事はトマホークとでも呼んでください」

そう言って握手の形に手を伸ばしたトマホーク大尉に目もくれず零はメイヴに異常が無いかを調べる様に近づいて行った、トマホーク大尉は苦笑いを浮かべるだけで特殊戦なら仕方ないと言わんばかりで浮かせた手を気まずげに下ろした。

「トム・ジョン大尉、怪我の調子はどうだ?」

「もう大丈夫です、バンシーのシステム周りの事じゃ他人に任せられませんから」

「零、大尉はアビオニクスの天才だ、雪風のプログラムもトム・ジョン大尉が手掛けたんだ」

「あんたが?」

「手掛けたなんてとんでもない!それに手掛けたと言っても一部でしかありません。僕は唯の技術屋ですよ、この怪我だってこの前テストフライトに出かけてこの様です」

零は珍しい程に瞼を開いて大尉の顔を見つめていた、そして驚いた事に零は大尉の下に近寄ると無言のまま手を伸ばした。

「あ……ありがとう深井大尉、先ほどは誤解させて申し訳ありません」

「こいつは驚いた、トム・ジョン大尉、こいつは雪風としか握手した事のない男だ、高性能の機械しか信頼していない」

「そうですか……それじゃあ僕も機械だと思われたのかな」

そう言ってトム・ジョン大尉は寂しそうに笑った。

 

<LINK SCS / TRANS COPL>

 

突如として雪風の肌をなぞる様に赤い縞模様の光が流れていく、それを見て興奮したようにトム・ジョン大尉が機体を見下ろすようにして叫んだ。

「ジャム・センスジャマー!すごい!搭載した機体を見たのは初めてです!!」

「警戒パターンだな。……ん?どうした?」

「向こうがシルフで、こっちがジャムに、か」

「違いない……鼬ごっこだな」

 

<CHECK ON DANGER .LT>

 

「ブッカー大佐、少しこちらへ」

突如として格納庫に響く少女の声、レコンウィッチ隊に所属する天津風(あまつふう)少尉だろう、B-14天津風(あまつかぜ)の整備をしていた筈だが何か問題があったのだろうか。

そう思って下を見て見ればフリップナイトウィッチ用の黒色の戦闘スーツを着込んだ天津少尉がまさにそのまま、全身が赤く光っていた。

「突然天津風とスーツ一式が光だしたのですが少佐は何かご存知ですか?」

「それはジャム・センスジャマーだ、FNウィッチのスーツに採用されていたのは俺も知らなかったが」

「はい、私も知りませんでした。それではこの辺で異常はないのですね?」

「異常はない、おそらくは天津風も動作試験の為に作動させただけだろう、今回の任務にも同行するからな」

「……了解しました、お騒がせして申し訳ございませんでした。それでは失礼いたします」

随分と慌てて近寄ってきた割にはあっさりと去っていく天津少尉を見送ってから二人に向き合った。

「よし、それじゃあ零にはバンシーⅣについての資料を渡しておくから読み込んでおくように。作戦開始時刻はFAFロマーニャ基地にバンシーⅣが近づいてくる明日の1400時だ、ブリーフィングルームに集合しろ、質問が無ければ解散して良し」

 

*1
特殊戦スーパーリンカ




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