戦闘妖精雪風はストライクウィッチーズ世界の空を飛ぶ   作:ブネーネ

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30話

「フェアリィ星の空から見る地上は良いなぁ、故郷とはまた違った異邦の景色、まるで遊覧飛行だ。ジャムさえいなければもっと楽しめたんですけどね」

「確かにここが地球ではないという事を忘れそうになる。だがここは戦場だ、浮かれて居られる場所じゃない」

「そうでした、貴方達はこの空でずっと戦っているんですね」

「それが任務だからな、別にフェアリィ星と地球を守りたいなんて高尚な考えなんてない」

「そりゃあ僕だって地球が自分達の物だから守りたいなんて気持ちがあるかなんて言われればノーです、僕は僕なりにやりたい事があって故郷を飛び出してここまで来たんですから」

「あんた、トマホークと呼んでくれって言っていたな」

「ええ、僕はインディアンの血を引いてます、カナダの居住区で産まれてそこで過ごしていました」

「ジャムと黒曜石の矢で戦う、なんてことしないよな」

「さすがにそれはありませんが、故郷でもそういうのはあくまで一部に過ぎません、文化の保存って奴ですよ。それでも心意気というのかな、そういうのはずっと受け継がれているんです」

「インディアンは気前がいいとは聞くが、どうなんだ?」

「そういうのは余り意識していませんでした。でも祖父は常々言っていました、自分の腹に入ったものだけが自分の物、それ以外のものは誰のものでもない、食事は皆で食べるもので一人だけお腹いっぱいになる奴は仲間じゃないってね」

「そう言われれば地球は誰の物でもないな、俺の腹には地球は大きすぎる」

FAFロマーニャ基地を出発してから数十分、ここで一度空中給油を行ってからバンシーⅣに向かう。

キャノピーの向こうでミルキー1から伸びた給油用のホースが揺れながら雪風のタンクを燃料で満たしていく、ディスプレイに映る給油中の表示を眺めながらふと呟いた。

「あんたの爺さんは、いい事を言った。俺のいたところでは人の腹に手を突っ込むような奴らばかりだった」

「そうなんですか?深井大尉は確か日本の産まれでしたよね?」

「そうだ」

「僕も日本に行こうとした事があるんですよ、入国はさせて貰えませんでしたが…」

「何故だ、確かに閉鎖的な国だがそこまで厳しいわけでもあるまいし、何かやらかしたのか?」

「僕の心臓は人工心臓なんです、僕はある意味サイボーグなんですよ。僕の心臓は原子力で動いていて―――とは言っても被曝はしませんよ?ごく少量のものです、動力源として核の熱を利用しているだけのものですから」

「成程な、馬鹿げた話だ、自分達だって核を持っているくせに」

「それでも核は核なんですよ、彼等にとっては。いい心臓なんですよ、少なくとも生活の中で気にする事もない。だけど……時々僕は自分が機械になったように感じるんです、自分が人間じゃないから入国させられないと言われた気がして」

「そんな奴らは、放っておけばいい。一々そんな事を気にするな、アンタはアンタだろう、それで十分じゃないか」

そう言うと後ろから失笑の声が聞こえた、そんなつもりは無いが何か笑われる様な事を言っただろうか。

「何が可笑しい」

「……深井大尉って、意外と優しい人ですね。特殊戦の人間は氷のハートを持った非情な人間の集まりだと聞いていましたから」

「その通りだ、そうでなければ特殊戦の任務は務まらない。俺は雪風以外の物を護るつもりはない、それが例え地球だろうとも」

俺の脳裏にかつての恋人を思い出す。とは言ってもどんな女だったかは今となっては去っていく後ろ姿しか思い出せない。

「あなたは勇敢でもある、僕の祖父と父も勇敢な戦士でした。だから僕にも戦士の血を流れているんだってよく父は言い聞かせてくれたけど僕は駄目だったなぁ、小さい頃から弱虫で他人と争うのはどうしても好きになれなかった。でもトマホークって呼ばれるのは気に入っているんです、何だか自分が勇敢なったような気がして」

「あんたが本当にただの弱虫なら今ここで俺とアンタは雪風に乗っては居なかっただろう。自分の故郷を飛び出す勇気とアビオニクスの優秀な腕と頭脳がある。アンタが手掛けた雪風があるから俺はまだ生きている、尊敬するよ」

「そんな事初めて言われました、僕はただ自分が機械みたいだと思う内に機械に共感と興味を覚えただけですよ。それに故郷を出たのはアビオニクスの仕事がなかったからです、仕方なくなんですよ」

「あんたは立派だよ、自分のやりたい事をやれる人間はそうそう居ない」

雪風から給油完了の電子音が鳴り、給油していたホースがミルキー1に引き込まれていく。

サンクスとコールを送り再び雪風を加速させる、バンシーⅣまで間もなくだ、俺はマスターアーム・スイッチをオンにする。

「ここから気を抜くなよ大尉、ここから先は本当の戦場だ」

「了解しました」

「アーマメントコントロールは入れてあるな、このままバンシーⅣに接近して着陸する」

そして互いに無言のまま進む事数分後、フェアリィ星の外気圏に浮かぶ戦術航法支援衛星からの緊急通信が入る。

<PAN,PAN,PAN.DE FTNS.CODE U,U,U.AR.>

「貴殿は危険に接近している、バンシーⅣはまだ敵と認識されていないのか」

「バンシーⅣに敵なんていませんよ」

「それは、今に分かる」

更に接近すると雲海の上を漂うように浮かぶバンシーⅣの姿を大きく捉えた、バンシーⅣの上方には特殊戦機のスーパーシルフが張り付いて偵察任務を実行している最中だった。

『B-6よりB-1、現在バンシーⅣは通信不能なれどそれ以外については異常は見られない』

「こちらB-1よりB-6、サンクス、ミンクス。これより作戦フェイズを第二段階に切り替える」

『了解した、FUEL BINGO』

バンシーⅣの上を旋回しながら自分の眼でも異常が無いかを確認する、IFFにも異常なし、バンシーⅣの制御コンピューターに向けて識別コードを送信すれば着艦許可がおりる。

「どこにも異常はなさそうですね」

「油断するな、バンシーⅣの子機は正式な着艦要請を行ったにも関わらずに撃墜されている」

「一時的なコンピューターのバグでは?」

「何にせよ調べなくてみないと分からん。アンタの仕事だぜ」

雪風からバンシーⅣに着艦を求める信号を送信すると150ノットで進むバンシーⅣのハッチ表面に存在するエアブレーキの様な装置が動き、空気抵抗を受けてベクトルをそれぞれ左右に変えた力がドーム自体のモーターと合わせて巨大な格納庫のゲートを開いていく。

オートパイロットをオフにして着陸態勢に入る、相対速度は20ノット、ランディングギアを下ろし着陸に備える。

バンシーⅣの滑走路から伸びる拘束装置のアームがランディングギアの前輪を捉えてそのまま着陸しブレーキを掛けながら滑走路上に雪風を降ろす、タッチダウン。

雪風をバンシーⅣのエレベーターまで誘導し、ロウデッキに存在するバンシーⅣの格納庫まで降りると天井がスライド式の隔壁で閉まっていくのが見えた。

雪風をワイヤーアンカーでエレベーターに固定することに成功すると座席の下からアサルトライフルを取り出して格納庫に降り立った。

格納庫に降りた雪風はその機能を停止していなかった、新たなエンジンの換装と共に搭載された二次パワー電源ならエンジンが停止していても一時間は稼働したままにしておける、雪風は到着と同時に独自に原因を調査する為にバンシーⅣのコンピューターにアクセスしているようだった。

俺は格納庫にスポッティングドリーを見つけると射撃、アサルトライフルを一弾倉分打ち切り破壊した。

警告無しで射撃した事に驚いて耳を塞ぐトマホーク大尉を後目に弾倉を交換、テーザーガンを何時でも撃てる様に安全装置を外しておく。

「いきなりどうしたんですか深井大尉、ただのスポッティングドリーじゃないですか」

「雪風を動かす必要はない、余計な事はさせない」

「だからと言っても壊す必要はないじゃないですか」

「さっきも言ったがここは戦場だ、武装くらいしておけ」

そう言って予備の拳銃をトム・ジョン大尉に投げて渡す、危なっかしい手つきで受け取ると渋々とパイロットスーツのポケットに収める。

「こんなもの、必要ありませんよ」

「どうだかな、まずはハイデッキのブリッジに向かうぞ」

汎用システムアナライザーを確認しながらエレベーターは使わずに足を使ってブリッジを目指す、バンシーⅣは確かに飛行しているのだが一切の物音が感じられない、換気システムすら停止しているように思えた。

バンシーⅣのブリッジは無人だった、乗員は全員退艦しているので当然ではあるのだがこの巨大な空中空母は全て自動でバランスの調整や航路のコントロールを行っている、きっとこのまま人間が居なくても飛び続けるのだろう。

「嫌に静かだ、静かすぎる。ターボエンジンの音すら聞こえない」

「バンシーのエンジンは古いけどいいエンジンですよ、僕と心臓と同じだ」

トム・ジョン大尉は自分の人工心臓とバンシーのエンジンを同じように感じている、そして先程は機械に親しみを覚えていると言っていた。

「あんたは機械が好きなのか」

「そうですね、様々なメカニズムやシステムに幼い頃から興味がありました、どんな機械にも作った人間の思いが込められていると思うんです」

「だったら、雪風はどうなんだ」

「雪風は、最早人間の手に負えるものではなくなってしまった。STCと貴方の経験が作り出した世界に二つと無いスペシャルモデル。実際久しぶりに雪風のシステムを触れてみたら中身が複雑怪奇に絡み合っていて理解の範疇を超えていました、でもそれでいいと思うんです」

「いいって、何がだ」

「雪風は確かに何を考えているのか人間には分からないかもしれません。それでもジャムを倒す為に善かれと思ってやっている筈です、それが最善であれば雪風は自爆だってする。でも実際は機械に善意も悪意もありませんよ。機械は込められた思いに対して自分なりに行動しているだけ」

「………」

「貴方は一度雪風と腹を割って話し合う必要がある、問いただすでもシミュレーション飛行でもいいんです、雪風がもしも何か間違いを起こそうとしたり、イレギュラーな事が起きて対応出来なくなった時に貴方が見守りながらそっと導けばいい。それが雪風を飛ばす貴方の役割でしょう」

「……あんたと、もっと早く出会えていれば」

 

 

―――やめて、もっていかないで。ぼくの、マシン。

 

 

何かが変わっていただろうか、もしもを考えるのは馬鹿らしいとは分かっているがそれでもと考えてしまう自分がいるのだ。

「今からだって遅くはありませんよ。僕たち、友達になれると思うんです」

「ならさっさと仕事を終わらせて基地でビールでも飲もう、あんたとはもう少し話してみたい」

「いいですね、それは素敵だ」

 

 




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