戦闘妖精雪風はストライクウィッチーズ世界の空を飛ぶ   作:ブネーネ

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32話

特殊戦、地下司令センターではハチの巣をつついたような大騒ぎの状態にあった。

「バンシーⅣ加速中!針路が変わります!」

「バンシーⅣが加速した事により軌道を外れて降下を開始しました。上昇は不可能です、落下コースを算出中」

「何だと!?一体どういう事だ!」

バンシーⅣは特殊な方法で空を飛び続けている、第一宇宙速度まで加速させることで地球の重力と重力から脱出しようとする遠心力とが釣り合い地球周回軌道を回り続けている。

つまり人工衛星と同じ様に()()()()()()()()()()()()のだ、よって規定のコースから外れたりすれば重力に引かれて降下してしまう。バンシーⅣは揚力を得て飛行しているわけでは無いので上昇する力はない。

あれは落としてはいけないものだ、その大質量が齎す破壊と核による汚染はもしもロマーニャに落ちれば国は亡ぶ、近隣に残った住人達を含めて大虐殺が起こる。

「コース算出、FAFロマーニャ基地防衛権に侵入確立50%!ガリア、ベネツィアに落下の可能性もあります!!」

「FAFロマーニャ基地コンピューターがデフコン2発令、STCはFAF本部のミサイル軍団にICBNの発射を要請中!」

「ふざけるな!まだ二人が捜査中なんだぞ!!FAF本部に回線を繋げ!」

FAF本部のオペレーターに怒鳴り込みながらもミサイル軍団の責任者を呼び出す、しかし回答は既にミサイルの発射体制に入っておりセントラルコンピュータの許可を撤回できない限りミサイルは発射されると返って来た。

「ふざけるな!もういい!」

FAFのセントラルコンピュータが自分の意志を曲げない事は散々理解している、目的を達成する為なら絶対に判断を取り下げる事はしない。

「深井大尉に通信を繋げ!大至急だ!!」

「申し訳ございません!バンシーⅣが雷雲に入ってしまったようでスレイプニルとも通信が途絶してしまいました!」

「何でもいいからさっさと繋げ!」

「す、すいません!SSWの指向性を上げてみます!!」

「零!聞こえるか!零!!」

『――――ジャック…』

「零!無事か!?今すぐそこから離れろ、ICBMが発射される」

『ジャック、ジャムが、バンシーⅣが、いや』

「大至急離脱だ!トム・ジョン大尉を連れて―――何だって?零!?」

 

 

 

 

それは現実離れした光景だった、粘性を持った物体が蠢きながら溢れ出て辺り一面を覆いつくそうとしている。

時折怨嗟の声が聞こえるようで、マーブルの模様が眼窩と口腔を形作るようで、しかしそれは現実と共に近づいてきた。

「ジャムは人間の――――複製を作っている」

『零!おい零!』

自分でも分かる程の震えた声だった、同じく震える手でアサルトライフルを構えるも無駄だと悟る。

「深井大尉、早く逃げて下さい」

音もなく上から降って来た人影、全身をジャムセンスジャマーで覆ったパワードスーツに身を包んだ天津少尉だった。

「隊長、もうじきここはミサイルで破壊されます。プランCは失敗です、私が殿を務めます―――耳を塞いで!」

BAX-4のランチャーから射出されたグレネードが爆発し甲高い音が区画内に響き渡る、特殊な音波で電磁パルスと似た効果を齎すLBL音響爆弾。

ジャムの泥の様な物体の表面が粟立つがそれでも波自体は止まらない、しかし明らかに先程よりも動きが鈍っている、そのままもう一発LBLグレネードを放ち俺達は離脱する。

『零!ICBMが発射された!それと聞け!STCから回答があった、ジャムの破壊工作についてだ』

「それがどうした」

緊急用に設けられた長い長い階段を駆け上がる、日頃からパイロットとして体は鍛えているが戦闘機に乗っている自分と肉の身体を動かす自分の意識の乖離が激しい。

ここで死ぬわけにはいかない、もっと速く、息が段々と上がってくる。目の前を行く天津少尉は飛ぶように階段を駆け上がっているというのに。

『ジャムが人間を使って工作を行う場合の条件だ。かつて任務において被撃墜歴を持ち、或いは一定期間消息を絶った者』

それは俺の事か?そんな今更な情報が一体何だと言うんだ、俺の事をFAFが罠にでも嵌めようとでも言うのか。

 

 

 

―――僕は唯の技術屋ですよ、この怪我だってこの前テストフライトに出かけてこの様です。

 

 

―――警戒パターンだな。

 

 

―――それではこの辺で異常はないのですね?

 

 

 

『トム・ジョン大尉は、ジャムが作った人間のコピーの可能性がある!!』

 

 

 

 

俺達は雪風の待つ格納庫まで走り抜けた、先程まで静かだったバンシーⅣの腹の中はまるで血液が流れる音の様に機体が震動する音が響いていた。

トム・ジョン大尉―――トマホークは格納庫に辿り着いていた、ぼうっとした力ない姿で何も無い筈の向こうを見ていた。

視線の先を辿ると、そこにはスーパーシルフが居た。何故こんなに目立つ物を俺達は見逃していた、恐らく今もこいつを見なければ気付かずに素通りしていたのかもしれなかった。

グレイシルフが妖しく光を放つ、トマホークは光に導かれるように寄っていく。グレイシルフのエンジン音が響く、聞きなれたフェニックスエンジンの音じゃない。

「ジャムだ!撃て!」

「了解!!」

「そこから離れろ!トム、そいつはジャムだ!分からないのか!!!」

「!?」

曳光弾の光を伴って俺達のアサルトライフルから銃弾が斉射される、グレイシルフのエンジン音は止まらず徐々に甲高い音を響かせる。

出口のないバンシーⅣの格納庫の中でグレイシルフがふわりと上に浮かんだのを見ると、グレイシルフはまるで幻だったかの様に消えてしまった。

格納庫の中は元の明るさと静けさに戻っていた、俺を呼ぶトマホークの慌てふためいた声が俺の耳朶を刺激する。

「大尉、今のは…僕は何故ここに…僕はアイツと何をしていたんですか!?答えて下さい!大尉!今のジャムと僕は一体どういう関係で―――!」

「戻ろう、トマホーク」

「大尉…どうして」

「全員生きて帰るのが俺に与えられた任務だ、それだけだ」

「あなたは……」

「急ぐぞ、まもなくバンシーⅣはミサイルで撃沈する、脱出しよう」

何を言い含められているかは知らなかったが、ウィッチ達は静かに俺達の決定に従った。

全員で走って主格納庫の雪風の下まで辿り着きエレベーターコントロールを動かすも動作しない、サブコントロールを操作するには外部電源が必要だ。

俺は雪風に乗り込んで右エンジンから始動させる、無事に両のエンジンの始動を確認したトマホークはサブコントロールに予備電源のケーブルを繋ぎエレベーターを稼働させた。

俺達が格納庫に入る為に通った通路を封鎖していた重厚な隔壁がひしゃげて、中から先程の人間擬きのヘドロが溢れ出て来るのを見た、あれに捕まれればお終いだという恐怖もまた感じられた。

「よし!さっさと脱出するぞ、はやく雪風に乗れ!……トマホーク?」

「大尉、貴方はいい人ですね」

「何を言っている!早く乗るんだ!」

<crew protection system ON>

雪風のシートに内蔵されたモーターが俺のハーネスを引き絞り俺をシートに引きずり込む。強い力だった、人間の力では解除出来ない。当たり前だ、雪風の機動にも耐えられなければ意味がない。

「リフトを止めろ!早く乗るんだ!」

「特殊戦の人ってもっと冷たい人だと思っていました。でも貴方は人間だ、いつまでも氷のハートじゃいられない」

「だったら友達を見捨てるなんて事を俺にさせるな!!早く来い!トマホーク!!!」

「さようなら、大尉。バイバイ、零」

「トマホーク!!!!」

 

 

「零、僕は――――」

 

 

リフトは上がり切りトマホークの姿は見えなくなった、雪風は操作を受け付けない、アイハブコントロール。

「お前はトム・ジョン大尉の救出に行け!」

「はい、いいえその命令には従えません。与えられた任務にはトム・ジョン大尉の生死は含まれていません」

「ふざけるな!」

そうも言い合っている内に雪風はバンシーⅣのコンピューターにアクセスして甲板ゲートを開いてワイヤアンカーを切り離す、そのまま風圧を機体で受けてふわりと浮かび上がらせ最大加速で離脱する。

最大推力で雪風がバンシーⅣから離れていく、雪風のディスプレイにバンシーⅣに向けて発射されたICBMの予想到達時刻が表示される、命中まで残り15分。




今年最後の投稿です、今後は仕事が忙しくなるので投稿が遅れる場合があります。

私のVmaxスイッチがオンになるので感想と評価を心よりお待ちしております。
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