戦闘妖精雪風はストライクウィッチーズ世界の空を飛ぶ 作:ブネーネ
34話
501JFW基地に軟禁されてから数日、決まった時間に食事を出されるだけで人類連合軍は私達に手を出す様な事はなかった。
この部屋にはベッドしかなく、新聞やラジオといった外部への、或いは外部からの情報はシャットアウトされていた。
私の誓いを汚され、誇りを踏みにじられ、結局のところ人類連合軍とネウロイに己を辱しめられただけだった。
退屈な時間だった、これまでの激動の時間がまるで嘘だったかの様に虚無の心には流れゆくだけの時間が煩わしかった。
そんなちっぽけな私に最後に残ったのは歌だった、幼い頃から歌い続け、クルトと共に音楽の道を志した日々。
語り合った夢の分だけ 脈を打つ痛みになる
傷跡 何度も爪を立てて
癒えてゆくこと 拒んだ
時よ流れないで 少しだけ
貴方を思い出に 閉じ込めたくない
ああ 失われたあの日々は
まだこの胸に 鈍い光揺らめかせてる
一人の観客もいない部屋で、たった一人で歌い続ける。何も見ず、何も聞かず、何も考えずに口から漏れる音が歌詞をなぞるだけの歌。
「ミーナ大佐。面会です」
「……まるで犯罪者の様な扱いね」
「私からはなんとも言えません、如何致しますか」
「面会を希望しているのは誰?」
「特殊戦五番隊のブッカー大佐とフカイ大尉であります」
「……特殊戦?」
最近関わる事が多くなって忘れていたが本来特殊戦は他人と関わる事を嫌う、あるいはコミュニケーションに難がある傾向にある人間を集めた組織だ。
よってプロジェクトマリッジが欺瞞であり501JFWが事実上の無期限活動停止にある以上関わる事はないと思っていた。
「ここでの会話は全て録音されますのでよろしくお願いいたします」
人類連合軍の士官に案内された――とは言っても自分の基地であり私は司令なのだが――部屋の扉を開けると
「どうもミーナ大佐」
「……」
いつもの態度と変わらないブッカー大佐と帽子を被ったまま俯く様にして椅子に深く座る深井大尉がいた。
「お久しぶり……という程でもないですね」
「バンシーⅣ事件からまだ数日だからな、本当はすぐにでも来たかったんが特殊戦でもごたごたしていて遅れてしまった」
「成程、本日はどの様なご用件でしょうか」
「デブリーフィングだよ、俺達はまだ仲間のつもりだ」
一瞬声が詰まった、この会話を聞かれれば彼等も人類連合軍やFAFに不当な扱いを受けるのではないかと危惧した。
「……大佐、しかし私はもう戦えません。人類連合軍が許しはしないでしょう」
「だとしても事件の結末位は知っていても損はないだろう」
「そうですね、自分の関わった事がどういった結末を迎えたのか本音で言えば気になります」
「結論から言えば大変危険な状態にある。バンシーⅣはネウロイの巣と激突したが巣は無傷だった、むしろバンシーⅣの衝突によって発生した津波の方が辺り一帯に齎した被害が大きい位だ。しかし解せない部分が幾つか見つかった」
「どういう事でしょうか」
「一つは空海地のいずれからも核放射性物質や放射線が検出されなかった事、もう一つは砕け散った筈のバンシーⅣの破片が想像以上に少なかった事だ」
「……ネウロイの巣がバンシーⅣを吸収した?」
「ネウロイの巣は雲で覆われているからな、特殊戦と言えども流石に近寄れずカメラ映像だけでの解析には限界がある」
「最低でも核物質は奪われたという事ですね」
ネウロイの放出する有毒物質である瘴気と核放射性物質の齎す被害を考えれば悲惨な状況が簡単に想定できる、確かにこれは最悪の状況だ。
「ブッカー大佐、FAFは最悪の状況をどの様に想定していますか」
「FAFにとっての最悪は地球に被害が及ぶ事だ、それ以外は許容される」
「大佐自身の考えとしては如何ですか?」
「俺か?流石に規模が大きすぎて想像もつかん、ウルスラ中尉を捕まえて吐かせない限りはな」
ウルスラ中尉、人類連合軍の尖兵、数々の陰謀や策略を熟し続けた謎の多いウィッチ。
「元々何処にいるか分からない人間だ、特殊戦ではウルスラ中尉の捜索のためにスーパーシルフを動かす案もある」
「録音されてますよ」
「聞かれて問題がある内容でもない、表立って歩いて偵察機に見つかる様な人間でもあるまい」
「他に何かありますか?」
「オペレーションニフの詳細が発表されたが……まあこれも欺瞞だろうな」
オペレーションニフ、ネウロイの巣攻略の為の一大反攻作戦。
かつてネウロイの巣が破壊された時、ガリアでは重秘匿名称ウォーロックによるネウロイのコアの共鳴作用を用いてネウロイを同士討ちさせて殲滅した。
そして東部方面司令軍と502JFWがネウロイの巣――分類的には超大型ネウロイ――であるグレゴーリ攻略戦の際には列車砲を用いてこれを撃破せんとした。
つまり攻略作戦とは用いる事が出来る最大火力で殴り、失敗したら高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応するという杜撰にも程がある大攻勢の事である。
成功した時のリターンが大きいそれは、それだけ人類がネウロイに対して余裕がない事の表れだった。
人類連合軍がもう少しでも協力してくれればそれぞれの局面でも結果が変わってくるのだろうがウォーロックの件にも一枚噛んでいるだろうから信用はできない。
「作戦は通例通り、決戦兵器を用いての総攻撃だ。504、506JFWが決戦兵器を護衛しFAFも人類連合軍からの要請で特例として攻勢に参加する」
「人類連合軍がバンシーⅣを巣に落としておいて、恥も知らずにFAFへの協力要請?しかもFAFが認めたのですか」
「バンシーⅣ事件は事故扱いだ、それに前例があればFAFの制限が一つ外れる事になる、FAFとしては歓迎だろう。制限があったからこそ仕方なくバンシーⅣを飛ばしたという建前が今後必要なくなるのだからな」
「誰も彼も自分勝手だわ、結局どっちもどっちなのね」
「それはそれ、これはこれだ。軍隊に正義はなく、正義であってはいけない」
「私がした事もいけない事?」
「矜持はあって然るべきとは思うがね」
そう言うとおもむろに机の上に置いてあったレコーダーを掴むとおおきく振りかぶって壁に叩きつけ、念入りにレコーダーを踏んで破壊した。
「ブッカー大佐!何をしておられるのですか!!」
「すまない、虫が居たんだ。ジャムかもしれない」
「そんなもの、ここには居ませんよ!」
「ジャムは居るさ、どこにでも。すまないな士官殿、さあ一緒に新しいレコーダーを取りに行こうじゃないか」
「予備なんてありませんよ」
「杜撰だな。今度FAFのレコーダーを貸してやる、話した覚えのない事まで録音できるいい奴をな」
そう言うとブッカー大佐は士官の首を脇で抱える様に絞めながら抵抗できない士官を引き摺って部屋の外へ出ていった、部屋には私と深井大尉だけが取り残された。
完全にこれは暴挙だ、しかしFAFの中でも高い権限を持つ特殊部隊の長の一人に文句を言える人間はここには存在しなかった。
「俺はどうでも良かったんだが、ジャックが気を利かせたみたいだ」
「気を利かせた?深井大尉が私に話をしたい事でも?」
「ああ……そうだな、何から話せばいいのか」
そう言うと深井大尉は口ごもってしまった、彼も特殊戦の例に漏れず人との会話は苦手らしい。
彼との接点は少ないがその分濃度で言えば濃い方だろう、それこそフェアリィ星で特大のイレギュラーを共に体験した仲だ、それ程長い時間ではなかったがある程度の時間をおいて深井大尉は口を開いた。
そんな彼が私に話したことがあると言ってきた事に私は多少なりとも興味を持った、どうせ何処にも行けずやる事もない身だ、時間は有り余っている。
「ミーナ大佐、トマホークが
「トマホーク?特殊戦の人?」
「違う、システム軍団のトム・ジョン大尉。この前のバンシーⅣの調査で同行した」
成程、それならばきっと何か問題があって救出が出来なかったのであろう。その上バンシーⅣはネウロイに乗っ取られてしまっていた、普通の人間であれば生還は絶望的だ。
「トマホークは死んだ、俺はもう何人も軍人や民間人を見殺しにしてきた、アンタの恋人もだ。それでも何も感じなかった、それなのにトマホークが死んだ時俺は泣いたんだ」
「長い付き合いだったのかしら、だとすれば変ではないと思うのだけど」
「いや、会って数日も経っていない。それでもトマホークは良い奴だった」
人の付き合い、そしてその友好は時間と共に比例するものではない。おそらく彼は正に一生の友を得たのだろう、それを失えば悲しむのは分かるがそれが本題とは思えない。
「大切な人が死ぬのは悲しい事よ、何もおかしい事はない」
「違う、そうじゃないんだ。元々俺は他人なんてどうでもいいと思ってる、性能が低い奴らなんかは特に。でもトマホークは友達だ、俺と雪風の関係を認めてくれた人間だった。そう、アイツは人間だったんだ」
「それで?」
「俺にはこの感覚が分からない、俺自身が一体どうしてここまで動揺しているのか分からないんだ」
「その、トマホーク大尉を失って悲しいとは思うのね?」
「その通りだ」
「なら話は簡単、貴方は『恐れ』を知ったのよ」
「恐れ?俺が、一体何を恐れると言うんだ」
「貴方は雪風に執着していて、性能の悪い人間は嫌いだと言う。それは何故?」
「俺は人と話したり動物の相手をすると嫌われるんだ、それが何故かは分からない。俺の相手を出来るのはコンピューターだけだった、それだけだ」
「トマホーク大尉と会話して、どう感じたの?」
「不快ではなかった。何より俺に理解を示してくれた、俺にとっては最高の理解者だった」
「他の人、ブッカー大佐以外の人間と話す時はどう?」
「正直に言えば面倒だ、一々相手が何を考えているのか理解しようと考えるのは辟易する」
「それが恐れよ」
「……何だと?」
やはり思った通りだ、深井大尉は機械ではない、ベクトルが偏っているが感じる心を持っている。
「コミュニケーションとはそういうものよ、相手が何を考えていているかを想像してそれに共感する能力。深井大尉はその能力があまり得意ではない、自分の関心を持った事にしか貴方はイメージを構築しない」
「それがどうした」
「それよ、貴方が元々そうなのか事情があってそうなったのかは知らない。貴方は非情で自己中心的な人間だった、そのままの意味で貴方は自分のことしか考えていない。しかしそれは貴方なりの処世術だった、生きていくうえでその生き方が無難だと思っている」
「そんな事は考えた事もないが、それで?」
「さっきも言った通り、人には相手に共感する能力がある。コミュニケーションをとって相手を理解しようとする働きよ、でも貴方は相手の思っていることや考えている事を想像出来ない。貴方は会話をしていても言葉を解読する事しかせず、それが普通だから相手の事を考えた発言をしない。だから相手側にしてみれば共感を得られない人は面白くないし、貴方は相手の事を理解できないから嫌悪という形で相手を恐れているのよ」
「つまりどういう事だ」
「分からないかしら?そうね……乱暴な言い方だけど、貴方にとって人間はジャムだったという事かしら」
「……――――」
「何を考えているか分からない、貴方にとっては突然怒り出したり不快感を露わにする生物。だから貴方は人間を見殺しに出来る、だって知らない人間は貴方にとってジャムだから。貴方とブッカー大佐が上手くやれるのはブッカー大佐の共感力が貴方に対して優れているから、チャンネルがあっていると言ってもいいかもしれない。貴方にとってブッカー大佐やトマホーク大尉はジャムじゃない、ジャムじゃない人間は怖くないわ」
「……」
「深井大尉、貴方は理解出来ない存在を本能では怖がっている。そして何より自分を理解してくれる存在を本心では求めてる、貴方が高性能の機械を求めるのはその一部の表れだと私は思っている」
「……」
「深井大尉、私が貴方とこうして話していられるのは私が相手が何を考えているかを二手三手先を読むように考える人間だからよ。そういう意味では裏で面倒事を考えている反吐が出る様な高官共と比べて裏のない貴方は話していてとても気楽よ。でも相手の考えを理解するのが不得意な貴方にしてみれば他人とのコミュニケーションは恐ろしいもの、貴方は大切な人間の死を以て自分に恐れる心を持っている事を自覚してしまった、ただそれだけの事よ」
「だが俺は他人と話す事に恐れは覚えていない」
「貴方は死ぬことが怖いかしら?」
「そんな事は考えない、死ぬときは死ぬ、そういうものだろう」
「なら貴方が恐れを抱く相手がすぐ近くにいる、そしてそれに関わらなければいけない事にストレスを感じているのね」
深井大尉は再び無言、深井大尉は恐らく彼は雪風を恐れているのだ、それを伝えたところで今の状態では否定されるだけだろうが。
「参考になった、あんたは優秀な人間だ、上司が皆あんたのような人間だったら良かったんだがな」
「あら、ブッカー大佐はいいのかしら」
「ジャックは別だよ、分かって言ってるだろ?」
「さっきよりは、人の事を考えるようになったみたいね」
「練習だよ、あっていたか」
「貴方にはまだまだ補習が必要よ」
「ありがとうミーナ大佐。そろそろ俺は行く、ジャックの帰りが遅い、今頃司令室で暴れているかもしれない」
「それは怖いわね。早く行ってらっしゃい、相手を怖がらずに真摯に向き合えばいい、それだけでいいのよ」
「了解、大佐殿」
形ばかりの崩れた敬礼、深井大尉は退室し私は元の割り当てられた部屋に戻された。
そうして静かな部屋に溜息を吐くが憂鬱な気分はいつの間にか、少しばかり晴れていた。
今なら明るい歌も歌えるだろう、頭の中で幾つかのタイトルを思い浮かべながら今後の未来が明るくなるように祈りを込めてそれにふさわしい曲を歌い始めた。
いつの間にか30000PV達成!皆さまありがとうございます!!
最近はジャムと深井零の研究ばかりしている気がする。
私のVmaxスイッチがオンになるので感想と評価を心よりお待ちしております。
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