戦闘妖精雪風はストライクウィッチーズ世界の空を飛ぶ 作:ブネーネ
いつか見たその果ての無い白い空間、その中には鉄格子が嵌められた檻があり俺と翅の生えた女は鉄格子ごしに俺の背中にもたれ掛かっていた。
檻の中に囚われた彼女の表情は見えない、薄い一枚の頃も以外は纏っていなかったがその女性的ななだらかなフォルムと透明感のあるその羽は正に妖精と形容するにふさわしい姿をしていた。
そして俺の手には鉄格子を開く為の鍵があった。それを無くさない様に握り込み胸元に寄せた、もう大切な物を何も失わないように。
彼女は何も言わない、何かを伝えようともせずただそこに居た、まるでそれが当然だと言わんばかりに。
彼女は何者なのか、何を望んでいるのか。それは自分自身に対しても同様の事が言えた。
俺はここに居る、彼女もまた同じ様に。
「僕と深井大尉って実は前にも会っていたって知ってましたか?」
「何?それは知らなかった」
「あはは…そうですよね、基地の中で会う人間の事を一々覚えて居たらキリがない」
バンシーⅣの中、アサルトライフルを構えながら警戒してブリッジに向かう途中、ふと思い出した様にトマホークは語った。
「ロマーニャ基地の格納庫で厄介な奴に絡まれまして、それをブッカー大佐に仲裁して貰ったんです」
「そういえば、そんな事があったような気もする」
「本当は僕がケリを付ければ良かったんでしょうけど、僕はもう人を傷つけないって決めたんです」
「あんたは志願してこっちに来たんじゃないのか?地球で何かやったのか」
「僕がインディアンだったからだ。何かをしたつもりは無かった、それでも向かうが僕に絡んでくるんだ、人工心臓になったのはその時のいざこざでね」
「心臓の病気じゃなかったのか」
「喧嘩になって相手のナイフが心臓を一刺し、心臓は取り換えで人工心臓の為に僕の家族は家や家財を売り払った。情けなかったよ、母は泣いてたし父は僕の事は戦士とは呼ばなかった。僕がアビオニクスを学んだのはお金が欲しかったというのもある、故郷じゃ大した金は稼げないし家にも居づらかったんだ、僕は強くはなかった」
「そうだったのか」
「とある国のとある民族の末裔、僕にとってこの肌の向こうは全て敵だった。僕は一度日本への入国を却下された話はしましたよね、その時とある人権団体の人間が僕に話しかけて来たよ、『不当な扱いは赦せない』とか『泣き寝入りするべきじゃない』とか好き勝手言っていた。あいつらは何も判ってない。僕は日本に入国できなくて傷ついたんじゃない、僕は世界に否定されたんだ、クソッたれで身勝手な人間の作った社会が僕という人間を異物として扱うんだ」
「分かるよ、分かるんだ、トマホーク」
ここがバンシーⅣの中で、任務中でなければよりわかり合えたのかもしれない。
「ありがとう大尉、僕は貴方と話していると楽しい。貴方は人を区別しない、等しく興味を持たない、それが僕にとって何よりも居心地がいい」
「そうか、そう言われたのは初めてだ」
「そうですか」
――――零、僕は……人間ですよね?
俺は自室のベッドで目を覚ました、寝汗をかいたのか体に布が張り付く感覚が気持ち悪く感じた。
自室にはシャワールームは無いので着替えを持って移動する、大きめに作られた共用のシャワールームの中では何人かが使用していたが特殊戦の人間に話しかける者は皆無だった。
頭からシャワーを浴び続け、汗が洗い流されても先程の悪夢の後味は消えなかった。バンシーⅣから生還して早数日、あの寂しげで無理やり作った様な顔がリフレインして離れない。
トマホーク、お前は確かに人間だった。この世界の誰よりも、お前は優しくて尊敬できる人間だった。
じゃあ俺はどうだ?例え誰に後ろ指を指されようとどうでもいいと思っていた、他人からの評価なんて俺には関係なかった。
俺にとって関心があるのは雪風だけだった、俺にとって雪風が全てなのだから、雪風にとっても俺が全てなのだと信じて疑わなかった。
―――貴方は会話をしていても言葉を解読する事しかせず、それが普通だから相手の事を考えた発言をしない。
つまり俺の半生とは独りよがりの連続だったという事だ、それを雪風は感じ取って一度は俺を拒絶した。
今でも手が震える事がある、俺にとっては人生最大のショックだった。コンピューターは俺を否定しないからこそ俺はマシンにのめり込んだんだ。
俺と世界を結び付けていたのは雪風だった、だから雪風に拒絶された俺は世界との繋がりを断った――――目覚めよという声を聞くまでは。
そしてフリップナイトとの摸擬戦でのエンジン不調の際には俺にマニュアルで異常を取り除けとメッセージを示した、それはそれは俺という存在を知覚し俺に助けを求めている様に感じたのだ。
―――貴方は一度雪風と腹を割って話し合う必要がある。
俺にとって雪風はあくまで高性能のマシンを搭載した戦闘機に過ぎなかった、しかし既に雪風は人間の手に収まるマシンではなくなってしまっていた。
俺は今一度、雪風を真に知らねばならなかった。
あれから雪風は常に格納庫に居た、俺達ミラージュ隊は501JFWの支援部隊として動くがその501JFWが機能不全を起こした為だ。
ジャックとしてもせっかく造り上げた協力関係を崩すのは憚れるようで、それ以来俺には出撃命令は与えれていない。飛べと言われればいつでも飛ぶつもりではあるが今はそのような時ではないとも感じていた。
雪風は特殊戦の格納庫の中でSTC(特殊戦戦術コンピュータ)とのアクセスを行っていた、特殊戦機は電源の供給を常に受けているので四六時中己の能力を万全に発揮する事が出来た。
何時もの様に点検を終わらせるとPDAを持ちコックピットに乗り込んだ、雪風のインテリアを操作すると雪風のバックグランドで動いているコマンドの羅列が滝のように流れていった。
読める範囲で読み取ってみれば雪風がSTCにデータの要求を行っているのだと分かったがその内容は分からなかった。
なのでPDAからSTCにアクセスし、雪風が今何をしているのかを問いかけてみた。STCからは『雪風は現在戦術シミュレーションを実行中』と帰って来た、しかし何を考えているのかはSTCにも不明の様だった。
雪風は元々対ジャム戦の遂行という至高命令を根幹とするマシンだ、そういう意味では雪風の行動は分からない物でもない、むしろ当然の働きなのだ。
グレイシルフとの初遭遇時、雪風は自ら不明機を敵とみなして戦闘行動を行う事を認めた。
ファーンⅡのテストフライトの際には雪風は自己の生存とジャムを撃墜する為にオドンネル大尉を犠牲にした。あるいはオドンネル大尉が乗っている事を気にしていないのかもしれない、雪風にとってはああするのが最善でありそこにパイロットが乗っていようと関係なかったのだ。
そしてあの日、雪風はオートマニューバ・スイッチがオンになった状態で俺とバーガディッシュ少尉を強制的に排除した。
あれは何故だったのだろうか、常に強くなっていくジャムとの戦闘で俺が付いていけないと思ったのだろうか。
そうだとしてもオドンネル大尉の無視する事が出来ただろうし、事実雪風は俺の操作を受け付けなかった。
その上で俺や少尉がコントロールを奪い返そうとするのを雪風が嫌ったと言えばそれまでだし、実際あの時のジャムとの戦闘では恐ろしい程の性能を発揮した。
俺には雪風が何を考えているのか分からない、だがそれは分かろうとしなかったという事でもあるのだ。
―――雪風は確かに何を考えているのか人間には分からないかもしれません。それでもジャムを倒す為に善かれと思ってやっている筈です。
そうだ、雪風は何も変わっていない、自分に与えられた役目を全うする為に全力なのだ。
今だって待機中の筈なのにジャムに負けない為にシミュレーションの中で全力で戦っている、自分の判断は正しかったのか、或いはジャムとは一体何かを探る為に。
雪風はただの機械じゃない、雪風は戦う為に生まれて来た、そして俺と共に戦いを続け今に至る雪風という存在を作り上げたのだ。
もしかしたら雪風は独り立ちしたかったのかもしれない、ある程度の経験を積みセントラルコンピュータは無人化に切り替えようとしていたからそれに乗ったのかもしれない。
無人機として活動してもパイロットの操作以上に戦闘機をコントロールできる事を経験した、そしてパイロットの存在意義を疑った。
俺はそれが分かっていなかったし、自分ではない他の存在を分かろうとはしなかった。恐らく雪風はそれを脅威と認めた、そしてあの日俺を邪魔な存在として排除したのだ。
俺がもしも、もっと雪風の事を知ろうとしていればそうはならなかったのだろうか。
―――相手を怖がらずに真摯に向き合えばいい、それだけでいいのよ
「俺は、雪風が怖いんだ」
言ってしまえば簡単な事だ、俺が雪風を理解しようとしなかったから、雪風も俺を理解しようとしなかったのだ。
ああ、そうだ。俺にはそうする義務があったんだ。雪風には雪風なりの考えがあって雪風の世界観を持っている、俺はそれを認めてやれば良かったんだ。
俺は相手の事を分かろうとはしなかったし、したことも無かった。真に相手に向き合うという事をしたことが無かった。
敵であろうと、味方であろうと、分かろうとしなければ始まらないのに俺は相手を認めるという事をしたことがなかった。
―――貴方が見守りながらそっと導けばいい。それが雪風を飛ばす貴方の役割でしょう
「ああ、分かってるよトマホーク……本当は気付いていたんだ」
失ってしまった友を思い出して俺は静かに涙を流して泣いた、こんな時、お前なら慰めてくれるのか?
俺は思い返せる中で泣いたのはこれが初めてだった、もしかしたら俺は今初めて生まれたのかもしれない。
雪風、俺はもう何かを失いたくない、お前もだ、その為にお前が必要なんだ。
雪風、お前はジャムを倒す為に造られた、確かにそこに人間を護れと言う命令はない。
しかし俺は敵じゃない、俺がまだお前にとって有用であるのなら俺に心を開いてくれ、―――お前の声を聞かせてくれ。
深井大尉が泣いていた、その事実は雪風のインテリアに内蔵されていたカメラだけが捉えていた。
特殊戦のデータベースには、記録されていなかった。
気付いたらランキングに入っていたのですが…なぜランキングに入っていたが不明です。(困惑)
私のVmaxスイッチがオンになるので感想と評価を心よりお待ちしております。
その他疑問などがあれば感想やメッセージにて受け付けております。