戦闘妖精雪風はストライクウィッチーズ世界の空を飛ぶ 作:ブネーネ
かつてこの星では大昔からウィッチの存在はとても大きかった、ウィッチはとても貴重でウィッチを多く抱える事は権威の表れであり、権力者は天下を取れると言われる程の吉兆の存在であった。
『彼女達』は元々戦災孤児であった、そして大人に引き取られて孤児院から出ていった―――それが地獄の日々が始まりとも知らずに。
秘密結社の派閥の一つである『狂信者達』はネウロイに対抗する為に一つのアプローチを試してみる事にした。
一言で言えば『ウィッチの構造を解き明かし、神への道を開く為の研究』である、そして偶然でしか見つけ出せないウィッチを何とかして量産化出来れば戦局を変えられると信じていた。
人類の歴史において人体実験とは珍しくはない、むしろエビデンス*1を向上させる為に人体実験は当然のように行われる。
エビデンスレベルが高ければ信頼性の向上や安定した結果を出しやすくなるのだが例えば無知な専門家の意見や動物実験はエビデンスで言えばほぼ信用に足らない信頼度だ、信頼度を高めて結果を出しやすくする為には人を使った実験が現状では必然である。
人体実験に嫌悪感を持つのはそれが被験者を省みない残忍で加虐的な内容であったり、安全性を確認せずに雑多な実験で後遺症を遺す事になったりと非人道的な実験の前例があるからだ。
そして狂信者達はそれを行った、何人もの少女達を使って消耗品の様に実験を繰り返した。
狂信者達の実験は幾つかのケースに分けて行われたがその根底にある研究目的は一つである、それはつまりウィッチの力の根源は何処にあるかの探求。
まず普遍的な少女達を攫い拷問に等しい外的影響を与える事でウィッチへの覚醒を促す実験が始まった、魔法力はウィッチの感情の大きさに比例するという前例があったからだった。
脳波などのバイタルを記録しながら単純に痛めつけたり、発狂前提の拷問をしてみたり、子供同士の関係性を悪化させて互いに罵り争うように仕向けたり、家族を人質にとってみたり。
結果から言えば被験者の中からウィッチは現れた、そしてそのウィッチは収穫されて残った普通の少女たちは拷問を続けられた、そのウィッチが天性のものか偶発的によるものかを確かめる為に。
そして現れたウィッチもまた実験と称した虐待を受けていた、魔力を扱える少女の秘密を暴く為に、最終的には臓器や体液に至るまで解体して保管されたこも居た。
そうして出来上がった一つのレポートである『神の根源に至る魔女の証明』が書き上げられた、これは狂信者達が焼き払われるまでに行われた実験の纏めでありその神秘を解き明かすものではなかったが今でもその一部はウィッチ研究の貴重な資料として利用されている。
このレポートのエビデンスは例外を除いて比較的低い、何故なら再現性があいまいで推察にも根拠のない考察が大分含まれているからだ。
では例外とはなんだったのか、それは酷くおぞましいレポートの最終章に記されている。
この実験における理想とは通常の人間を例外なくウィッチへと進化させる事である。
それは性別、年齢、人種、体質、既往歴を問わず、ウィッチに進化させる為の極端な制限を受けないものを理想とする。
十数年に渡る実験において完全なる理想例も成功例も現れなかった、これは後述する神への根源に挑む我々の当時における限界であり、その証明を困難にさせるものであった。
数々の実験においてウィッチが魔法を使用できるかどうかを確認できた状態は次の通りである。
1.被験者となる少女達に極限までのストレスを与えた場合にウィッチへの覚醒を確認出来たが法則性や共通点は不明である。
2.ウィッチの胸腹部の臓器を摘出したり四肢を失っても魔法の使用は可能であった。
3.頸部骨折や中枢神経の断絶によって全身不随になった場合、魔法の使用は不可能であった。
4.そして脳の一部を切除した場合に魔法の使用に成功する場合と失敗する場合があった、一方で切除した事により魔法の使用に失敗する同部位を二人のウィッチへ互いに移植しあう事で使用に成功する例もあった。
結果、我々はウィッチが使う魔法は中枢神経、末梢神経を含めた神経系を介する事で使用できる能力と判断した。
しかし前述した理想も成功も言ってしまえば全て失敗と言えるだろう。我々は数多の少女達を甚振り切り刻んできたが、その結果は芳しいものでは無かったのだ。
結局のところウィッチが持つであろう魔力の発生源は特定できなかった、例えば脳の辺縁系の一部と太陽神経叢が魔法を使用する際に必要だとは分かってもウィッチではない人間に移植しても魔法は使えない。そもそもウィッチもある年齢を超えると魔力が減衰していくメカニズムも不明のままである。
そして最終的な結論として、魔力の根源は別の何処かにあってウィッチとは神経系をアンテナにしてそれを引き出し魔力に変換する能力を持つ者であるという可能性に辿り着く。
例えば貴方がラジオに対して知識のない状態でラジオを聞いているとする、この時流れている音楽はラジオのアンテナを以て情報を受信して音楽を外部へ出力する事が出来る。
その上で音が出る箱を不思議に思ったあなたはラジオを解体する、アンテナを壊したり、スピーカーを壊したり、電源を落としてしまえば起きる現象は同じである。
『これで音が出なくなるという事は、やはり音楽はこの箱が流していた』と思うだろう。しかし実際には音楽は放送局が発信源である。ラジオをどれだけ解体しようともラジオ自体に音楽は保存されていないのだ。
つまりウィッチとは魔力を受信し、変換してそれを魔法として外部に出力できる人間の事だ。
それは人間の脳自体にいても同じことを言えるかもしれない、人間の自意識とされる部分は別の場所に格納されていて人間の体はあくまでセンサーの集合体であり命令を受け取るロボットという事である。
魂や心と似たような考えかもしれない。その形のないモノは何処にあるのか、そして何処にあろうとも身体というマシンが無くなってしまえば自意識が別の場所に保存されていたとしても傍から見れば誰にも違いは分からないだろう。
彼女達に魔力を保存する容器は存在しない、神経系を損傷させる事で魔法が使えなくなるがこれはアンテナとしての機能を失ったことによる魔力の受信不良と考えられる。
逆に言えばアンテナとしての能力とそれを操作する能力があれば魔法は誰でも使える筈なのだ、残念なのは現状ではそのメカニズムが不明のままであった事だ。
しかし神経系も言ってしまえば電気系統である、いずれ人類の技術によって魔力の源泉の扉を開け放つことが出来る事を祈るばかりである。
この研究成果を秘密裏に回収して読み進めた我々は恐るべき想像をした。
―――人型のジャムとは、造られた器に隔離された自意識のリンクを結びなおした者。
―――つまり本当の意味で死者の蘇生を行ったのではないのかと。
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