戦闘妖精雪風はストライクウィッチーズ世界の空を飛ぶ 作:ブネーネ
かつての謹慎の時と同様にデスクワークを熟しながらジャックの補佐を務めていた俺にそれは何気なく訪れた。
「俺が地球に?俺の任務は威力偵察だろ、地球に宣戦布告でもするつもりか?」
「そんな訳あるか、クーリィ准将からの直々の指令だ。スーパーフィーニクスMk.XI、新しく雪風に搭載される新造のエンジンのテストだよ」
正しくはFNX-5011-D(VC)、スーパーフィーニクスMk.XI、軽量かつ大推力のエンジンが売りのフィーニクスエンジンは優秀だったが雪風を始めとした機械知性体がシステム軍団のコンピューターシミュレーションで予想もしていない動きをする為に急遽アップグレードされた。
「優秀なエンジンだったがそれを扱う機体がじゃじゃ馬すぎた。確かにメイヴは丈夫で如何なる姿勢でも制御を失わない良い機体だがエンジンを納めるケーシング周りや支持部分の負担が大きすぎたんだ」
「そんなに雪風は損耗してたのか」
「お前なぁ…メイヴの高機動高出力でサイドスリップしたり急旋回を何度も繰り返せばガタの一つくらい来る、場合によっては機体そもそもに罅が入ることだってあり得た」
「それなのに推力を更に向上させるのか、これを思いついた奴は戦闘機は真っすぐ飛ぶモノだと思い込んでるんだな。戦闘機はロケット花火じゃないぜ」
「勿論それに見合った補強はされている、それにコイツを作ったのはコンピューターだ」
「じゃあコンピューターがバカになってる、ジャムに何枚かCPUを抜かれたんだ。今度は本部の地下に潜入するか、俺は御免だがあんたならやったもんな、もう一度位どうだ?」
「馬鹿げた話だがセントラルコンピューターがおかしいのは俺も同感だ、人の命をなんとも思っていない」
正しくは各分野の技術者が要求するスペックをコンピューターに入力し、コンピューターはそれに対して結果を返す、それを現実的な内容に手直しするのが技術者の仕事だった。
しかしメイヴの性能は人間が耐えうる環境を最早超えていると言っていい、メイヴに載せられるのだからレイフやフリップナイトにも載せられる。
この結果を返したシステム軍団のコンピューターは恐らく戦闘機の無人化を諦めていない、未だ人間を排除する思想から抜けていないのだ。
「それで?何故クーリィ准将がサインした、何故このエンジンテストが特殊戦に持ち込まれたんだ」
「お前はFAFどころかフェアリィ星まで騒がせ過ぎたんだ。味方のスーパーシルフを撃墜し、ジャムの基地へ誘拐され、処罰は免れたとは言え味方の基地に発砲、無人の雪風を操りテストパイロットの殺人容疑、今度はバンシーⅣの墜落の容疑者と来た。システム軍団はこれらに対して雪風に出頭を命じて、それを准将が断ると実力行使一歩手前まで行くところだった」
「言いがかりだふざけやがって、やっぱり貧乏くじだったじゃないか。どうせロンバート大佐の差し金だろう、くそ不味いコーヒーばかり飲まされて頭がハイになってるんだ」
「濡れ衣だという事は分かっている、だから一度雪風を避難させようという事になったんだ、ついでに俺とお前を乗せてな」
「ジャックも行くのか?ここを放り出して?」
「シフトは既に組んである、黙ってても奴らは飛ぶさ。逆にお前、向こうの人間と話せるか?」
「無理だな。しかしFAFが国連から独立していると言ってもよく国連が認可したもんだ、武装は無しとか言わないよな?」
「フルパッケージ、名目は自衛の為だ。至極真っ当なクルージング、ドンと構えて行けばいい」
とは言え久しぶりの地球だ、お互いに思う所が無いわけでは無い。
しかし任務は既に組まれており上から降りてきている、後は臨機応変にというのは特殊戦では鉄板だった。
「なおこの任務は対外的には秘匿任務となっている、余り口外はするな。出発は明日の1000時、遅れるなよ」
「了解」
ロマーニャの空、しばし慣れ親しんだ空、こうして離れるのはFAFロマーニャ基地に配属されて以来初めての事だった。
この空にはエーテルと呼ばれる物質が含まれるそうだが呼吸する分には分からない、少なくとも肺がやられたり腕が増えたり、目が見えなくなることは無かった。
今回のミッションで雪風が装備した兵装一覧の中に、コンフォーマル・エーテル・タンクという一文を見た時にふと思い出したのだ。
「ジャック、人はいつか自分の力だけで飛べるようになると思うか」
「それはウィッチがストライカーを使わずにという事か?それとも鳥のように翼を生やしてか?」
「どっちでもいい、どうなんだ」
「いずれ自力で飛ぶ人間も現れるだろう、その可能性はある。だが永遠に表れないのであれば結果論だが答えはノーだ」
「可能性と言うのはなんだ」
「勿論ウィッチの存在だ、今俺達が空を飛ぶには全幅14.52mの翼が必要だが彼女達は箒一本あればいい。お前ダーウィンの種の起原を知っているか」
「それは知らないが進化論なら聞いた事がある、環境に適応して生物は変化するって奴なら」
「間違ってはいないが重要な要素が抜けている、『環境に適応して変化した生物だけが生き残る』という点だ。変化は確かに起こり得るがそれを次世代に受け継がれていかなければ絶滅する」
フェアリィ星では正気の保証は無く、狂ってしまえば後は死ぬだけ。成程、俺が今生きているのはフェアリィ戦争、そして特殊戦に適応しているからという訳だ。
「ウィッチは絶滅危惧種か、いや人類そのものがそうなんだな」
「人類が人類の夢を見る為には今を勝ち続けるしかない、そうすればお前自身が自力で飛ぶ可能性も残るだろう。飛びたいのか、雪風と」
「パラシュートが要らなくなるからな」
「初めから雪風に負ける事を考えるな、傷付く事を恐れるな。お前は幾度と窮地に立たされても雪風に乗っている、その意味を考えろ」
意味なんてあるものか、あればどれだけ気が楽だった事か。
『B-1、こちらプーマー。給油完了したぞ、ドローブを分離する』
「こちらB-1、了解した、プローブを格納する」
『給油完了、グッドラック、ブーメラン』
「サンクス、ミルキー1、グッドラック」
雪風の腹を満たした所で俺達は任務に戻る、給油機から離れた雪風を超空間通路に向けて前進させる。
「ジャック、FAF本部に戦術航法支援衛星経由でミッションコード送信」
「了解、コード送信完了、承認コード受信」
「了解、これより超空間通路へ突入する」
地球とフェアリィ星の南極を繋ぐ超空間通路へ行くためには、一度アウストラリス連邦*1に設置されたFAF基地本部から離陸した空中給油機から給油を行う。
そしてその間にFAFの本部では前もって提出されたミッションデータと送られて来たミッションコードを照合し、セントラルコンピューターの承認を以て最終的な許可が下りる。
このプロセスを通さないと南極周辺に浮かぶFAF南極防衛洋上基地から警告無しで対空攻撃が行われる、もしもFAFの中でも最も分厚い対空砲火に挑みたい奴がいればここをオススメする。
「Q.N.H is decreasing quickly.Check.after 60 seconds over IP.―――On cource, now」
柱の様に地表から昇る超空間通路には竜巻の様な上昇気流が螺旋を描いて渦巻いている、これを突破して侵入するには渦巻く雲とその気流の中を潜り抜ける他ないがその辺りは雪風が適切なルートを指示する為それに従う。
「Fuel《燃料確認》」
「19.0」
「Warning light.check《警告灯確認》」
「Check normal《正常》」
「Oxygen《酸素残量確認》」
「Oxygen check.OK《正常》」
「Oil pressure《油圧確認》」
「Normal《正常》」
「Exhaust temperature《排気温度》」
「800…normal《800度、正常》」
「OK.20 seconds befor inrush.《突入20秒前》」
「indicated air speed 500knots《速度は500ノット》」
「Check electrification voltage《帯電電流確認》」
「now,300mV and increasing《現在300mV、増加中》」
「gate insight,inrush.《超空間通路に突入する》」
俺達は雪風ごと超空間通路に突っ込んだ、そして絶えず変化する環境に合わせて雪風の計測計の表示が定まらずに変わっていく。
そう言えばこうして超空間通路を潜るのは二回目になる筈だが、初めての頃はどの様に感じていたのだろうか。
犯罪者を送り込むのだから外の見えない輸送機に詰め込まれていたのは覚えているし、そもそも外の環境などどうでも良かった、世界の何処に居ようとも何も変わらないと思っていた。
それはこうして世界を移動する体験を得ていなかった、今までの現実感の無さはこういった事情も関わっているのだろう、つまりフェアリィ星はあくまで地球の延長線上としか考えていなかった。
これから俺は本当の意味で世界を越える、本当の現実がこの通路の先にある。しかしそれが本物だという事も、この先に世界が存在する事も誰も保証出来ない。
突如として視界が晴れる、雪風が地球の環境に合わせて計器を調節開始。
「……無事に、着いたようだな。どうだ零、久しぶりの地球は」
「ただいま、なんて気分じゃないよジャック」
久しぶりの投稿です。
またこの話を投稿する前にこれまでの話をかなり誤字脱字や表現、内容を変更したり追加したりしました。
一度読み返す事をオススメします。
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