戦闘妖精雪風はストライクウィッチーズ世界の空を飛ぶ 作:ブネーネ
「ミッションの再確認だ。今回のエンジンテストはスーパーフィーニクスエンジンと魔導ジェットエンジン、そして魔導ラムジェットブースターの性能テストだ」
「一応聞くが、これは武力示威行為にならないか?」
「だからどうした、これは正当な任務であり、一機分の燃料と装備で戦闘機が出来る事なんてたかが知れているさ。FAFが架空の軍隊として扱われているのに批判されるのはむしろ都合がいい、寝惚けた頭を蹴飛ばしてやれ」
「捻くれているな、俺には分からん」
燃料の問題が解消したところでオーストラリアのFAF基地から飛行許可エリアのデータが転送され雪風がそれを受諾する。
「まずは魔導ジェットエンジンからだな、こいつが動かなければ他のテストも出来ない」
「了解、系統切り替え、コンフォーマル・エーテル・タンクの回路を開く」
雪風の胴体下部のアタッチメントに固定された特殊なユニットであるコンフォーマル・エーテル・タンク、これは特殊な鉱石――水晶の一種――に魔力を充填しウィッチやエーテルの存在しない環境でも魔法を使う事が出来るように開発されたものだ。
ただしメイヴには簡易的なストライカーユニットのみ搭載している為に、魔法は使えず純粋な推力としか扱えない。
「テストを開始する、加速するぞ」
「徐々にな、急に吹かすなよ」
「俺よりも雪風が上手くやるさ」
系統を切り替え魔導ジェットエンジンに日が入り、空気抵抗による一瞬の揺れの後に加速を開始。フィーニクスエンジンとは毛色が違うがそれでもジェット音がコックピットに響くのが面白かった。
「最高速度でマッハ0.8、補助の出力としては高性能だな」
「TCS上でも計器は正常に作動している、一度落としてジェットエンジンに戻せ」
「了解」
ジェットストライカーが正常に作動した事を確認すると再びの系統切り替え、スーパーフィーニクスエンジンのテストに移る。
「巡航速度、1.6、最高速度はマッハ3.3、確かに速度は向上しているが大きく変わった点は感じられない」
「信頼性はそのまま、メイヴの機動に耐えうる剛性を重視しているからな」
ファーンⅡに載せるには勿体ないエンジンだ、素直で追従性の高いお利口なエンジン。
「何にせよこれで二つ終わりだ、次に移る前に一度給油したいな。今更だが燃料が持たないぞ、空中空輸機は出てるんだろうな」
「安心しろ、丁度今日本海軍の空母が超空間通路の監視任務に就いている、燃料だってたんまりと載せているさ」
「日本海軍の空母に協力を要請するのか?」
「国際条約があるんだ、無理とは言わせないよ」
「レコンウィッチ隊は総攻撃前に敵情視察に出て貰います。任務が終わり次第最高速度でここまで戻ってくるだけ」
FAFロマーニャ基地にクーリィ准将自ら訪れるのも慣れたものだ、毎度彼女を乗せて飛ばす特殊戦のパイロットには一縷とは言え同情の気持ちが無いわけでもない。
「敵情視察ですか?ネウロイの巣に?」
「いえ、貴女が向かうのは501JFW基地。STCはそこにジャムが潜んでいると判断した」
「501基地に…?まさか」
「ストライクウィッチーズを救出する。内部構造は元より人類連合軍の士官の配置等はこの前ブッカー少佐が501基地に訪問した際に確認してもらったから」
「ジャムはいますか」
「いるでしょうね、だからこそ我々が動く事が出来る」
彼女は潔癖な人間ではなかった、使える物は何でも使う。それが例えジャムであっても、私であっても。
ウルスラ中尉が天津風少尉として特殊戦に居られるのは彼女の監視下にあっての事、人類連合軍と情報軍団のスパイであろうとも関係なしだ。
「今作戦の現場指揮はあなたに任せます、BAX-4も使用を許可し速やかに内部を制圧すること」
「了解しました、准将」
「本当にいいんですかね」
「任務に従うのが軍人でしょう?イトウ少尉」
C-31S『スレイプニル』とフリップナイト三機は現在FAFロマーニャ基地に向けて飛行中、目的は制圧の為基地レーダーを気にする事無く進んでいく。
「それより本当に基地を制圧するんですか?この少数で?」
「この星で特殊戦に勝てる軍隊など存在しませんよ、偵察部隊のオペレーターとしては実感は薄いでしょうが」
天津風少尉改めウルスラ中尉は既にコンテナから取り出したBAX-4を装着済み、バックパックからは重厚な物理シールドをワイヤーで懸架し、右手にはスラッグ弾の代わりにゴム弾を装填した、回転式弾倉を装着済みの20ゲージ鎮圧用ショットガンが握られている。
「それではミッションの再確認を、まずは地球防衛国際条約に則った降伏勧告を行い、次いで私が単騎で即時突入を行います。抵抗が見られた場合はフリップナイト及びスレイプニルの全兵装を以て制圧、ストライクウィッチーズを救出します」
「一人で突入して本当に大丈夫なんですか?」
「ウィッチに勝てる人間がいるとでも?」
「それにもしもストライクウィッチーズの人達が人質に取られでもしたら」
「ウィッチに勝てる人間がいるとでも?」
「……僕達必要でした?」
「大義名分が必要なんですよ、私にも、ストライクウィッチーズにも」
スレイプニルが基地の防衛圏内に侵入するとベネツィア基地から通信が入る、若い男の声だった。
『こちらはベネツィア基地、特殊戦のIFFを出しているFAF機に告ぐ。貴機は当基地の防空警戒エリアに接触している、速やかに針路を変更せよ』
「こ、こちらFAF特殊戦五番隊所属の特殊偵察ウィッチ隊ミラージュです。現在ベネツィア基地にジャムが潜伏しているとの情報が入り、こ、これより強制捜査を行います!!」
『な、何だと!?それは越権行為だ!FAFの偵察部隊にそんな権限が―――』
イトウ少尉の弱気ながらの宣戦布告に通信機から焦りと怒りの声が響く、向こうからすれば寝耳に水だろう、そして明らかにこれは基地に残った人間に処理できる責任問題ではなかった。
「地球防衛国際条約第十二条、FAFは対ネウロイ戦における偵察及び観察、戦闘行動において特権を持つものとする。よって我々は条約に則りこれより突入を開始します」
『ふざけるな!それは人類連合軍の認可があってこそのものだ!こんな暴挙が許される筈がない!貴様らは軍法会議で裁かれるのだぞ!!』
「それまでに人類連合軍が残っていればいいですがね」
『な、何だと!?』
「ネウロイに与する組織がネウロイでなくて何だと言うのですか。先日のバンシーⅣ事件を切っ掛けに各国の首脳部と統合方面軍は協議の結果、人類連合軍を敵性勢力とみなして解体を決定しました」
『知らん!私達は聞いていないぞ!!』
「貴方達は生贄です、人類連合軍が悪であったと示す為のね。しかしここで無駄に抵抗を起こして本当に罪を犯すなら全員鎮圧した後に実刑が下されるでしょう」
『そんな話が、まかり通る筈が……』
「武装解除し、全員投降しなさい。そうすれば悪いようにはしません、事情聴取の後に開放されるでしょう」
そして数分の無言の後に人類連合軍の士官は投降を選択する旨を告げる、通信機の向こうで言い合う声が聞こえるがここからが私の仕事だ。
「どうせ抵抗するので、鎮圧しつつ救出に向かいます」
「え、ああ。その…ご武運を」
何故かイトウ少尉の顔が引き攣っていたように見えたが、ともかく早急に任務を果たさねばならない。
スレイプニルのサイドハッチが解放される、少なくとも機銃掃射の洗礼を受ける事は無いようだが用心に越したことは無い。
バンシーⅣの突入の際にも使用したアンダーバンカーロケットに乗り込み基地の居住ブロック辺りに着弾、突入に成功する。
突然の騒音に驚き、事情を未だ知らされていない人類連合軍の士官がこちらに即時発砲を行うが拳銃では物理シールドを突破する事は出来ない。
こちらもショットガンを急所を外して応射する、ゴム弾と言えど命中すれば容易く骨折する威力を誇る一撃を受けて士官達は蹲る様にして倒れ込んだ。
「貴方達の上官は降伏を選択しました、無駄な抵抗は止めて下さい」
そう言い残してウィッチ達が押し込められているだろう部屋に向かう。外来の出入りの管理が容易であった為に基地内部の警戒は緩く、人員も装備も脆弱であった為に突破は非常に簡単だった。
基地内部の動きを掴むために優先して救助に向かったのはミーナ大佐の部屋だった、扉を蹴破り侵入するとそこには部屋の角で構える大佐が居た。
「侵入者は貴女だったのね、ウルスラ中尉」
「どうも、助けに来ました」
「あれだけの事をしてよくもまあいけしゃあしゃあと言えたものね、今度は何を企んでいるのかしら」
「信用されていないのは当然の事です、しかしそろそろ外の空気を吸うのも悪くはありませんよ」
「……そうね。それで?今度は何処に連れていかれるのかしら?」
「特殊戦です、FAFロマーニャ基地」
「―――は?」
憎々し気な顔つきが一瞬で変わる、そして優秀な彼女の思考が先日訪れたブッカー少佐と深井大尉の訪問が今日の為の任務の一貫であったと結びついただろう。
そう言えばウルスラ中尉が天津風少尉として特殊戦に所属していると言うのはミーナ大佐達は知らないのだった、正確には多重スパイなので所属しているからと言って味方とは言えないのだが黙って置く事にした。
「私の事は信用せずとも、特殊戦は信用できませんか?」
「……いいわ、ついて行きましょう」
「了解しました、全員を救出後に脱出しましょう」
そして部屋を続け様に蹴破りウィッチ達を救出、途中バルクホルン大尉との掴み合いも発生したが無事トラックを奪って脱出に成功した。
入れ替わる様に504JFWが基地に残された士官達を拘束して連れ出し、後日非公開の軍事裁判に掛けられる事となったが後に無事解放されたかについて記録は残っていない。
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